ネフローゼ症候群と診断され、食事、特にタンパク質制限について不安を感じていませんか?「何をどれくらい食べたらいいの?」「栄養不足にならないか心配…」といった疑問や悩みは尽きないものです。ネフローゼ症候群の治療において、食事療法は薬物療法と同じくらい大切な役割を担っています。しかし、その内容は複雑で、日々の食事にどう取り入れたら良いのか迷ってしまう方も少なくありません。
本記事では、ネフローゼ症候群におけるタンパク質制限の必要性から、具体的な食事の進め方、献立のコツ、さらには他の栄養素の管理まで、あなたの疑問を解決するための情報を分かりやすく解説します。食事の不安を和らげ、病気と上手に付き合いながら、心身ともに健康な生活を送るための助けとなれば幸いです。
ネフローゼ症候群とは?タンパク質制限が必要な理由

ネフローゼ症候群は、腎臓のフィルター機能に異常が生じ、体にとって重要なタンパク質が尿中に大量に漏れ出てしまう病気です。この状態が続くと、血液中のタンパク質が減少し、全身のむくみや高コレステロール血症などの症状が現れます。
ネフローゼ症候群の基本的な知識
ネフローゼ症候群は、高度のタンパク尿、低タンパク血症(血清アルブミン値3.0g/dL以下、または血清総タンパク量6.0g/dL以下)、むくみ、脂質異常症(高LDLコレステロール血症)を主な診断基準とする腎臓の病気です。 腎臓の糸球体という部分が障害を受けることで、通常はろ過されないはずのタンパク質が尿中に漏れ出てしまうのです。
この病気には、腎臓そのものに原因がある「一次性ネフローゼ症候群」と、糖尿病や膠原病など他の病気が原因で起こる「二次性ネフローゼ症候群」があります。
むくみは、血液中のタンパク質、特にアルブミンが減少することで、血管の中に水分を引き込む力が弱まり、水分が血管の外に漏れ出すために生じます。 足や顔、特にまぶたの周りに現れることが多く、ひどくなるとお腹や肺の周りにも水がたまることがあります。
なぜタンパク質制限が重要なのか
ネフローゼ症候群においてタンパク質制限が重要とされる理由は、主に腎臓への負担を軽減し、病気の進行を抑えるためです。 食事から摂取したタンパク質は、体内で代謝される過程で老廃物(尿素窒素など)を生成します。これらの老廃物は腎臓でろ過され、尿として体外に排泄されます。
しかし、腎臓の機能が低下している状態で過剰なタンパク質を摂取すると、老廃物の量が増え、腎臓の糸球体にかかる負担がさらに大きくなってしまいます。 これが腎臓病の進行を早める一因となるため、適切なタンパク質制限は腎臓を保護し、尿毒症のリスクを減らす上で大切な食事療法と考えられています。 以前は高タンパク食が推奨されることもありましたが、現在ではタンパク質制限食が主流となっています。
ネフローゼ症候群におけるタンパク質制限の具体的な進め方

ネフローゼ症候群のタンパク質制限は、個々の病状や腎機能の状態によって異なります。医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合った進め方を見つけることが大切です。
一日のタンパク質摂取量の目安
ネフローゼ症候群におけるタンパク質摂取量の目安は、一般的に体重1kgあたり0.8~1.0g/日程度が推奨されています。 ただし、これはあくまで目安であり、病気のステージや治療中の状態(再発期・寛解期など)によって調整が必要です。 例えば、再発期や発症初期には0.8〜1.0g/kg/日程度に抑えることが推奨され、寛解期には筋力低下や低栄養を防ぐ目的で1.0〜1.2g/kg/日程度の摂取が推奨されることもあります。
また、慢性腎不全の場合、体重1kgあたり0.6~0.8gが理想とされていますが、尿タンパク排泄量やクレアチニン値によっても変わります。
タンパク質を制限する際は、エネルギー不足にならないように、炭水化物や脂質から十分なカロリーを摂取することが重要です。 エネルギーが不足すると、体内のタンパク質が分解されてエネルギーとして使われてしまい、かえって腎臓に負担をかけることにもなりかねません。
高タンパク質食品と低タンパク質食品の選び方
タンパク質制限食では、食品に含まれるタンパク質の量を意識して選ぶことが大切です。タンパク質は、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などに多く含まれています。
- 高タンパク質食品(摂取を控える、または量を調整する)
- 肉類:牛肉、豚肉、鶏肉(特に赤身や加工肉)
- 魚介類:まぐろ赤身など
- 卵:卵黄、卵白
- 大豆製品:豆腐、納豆、味噌など
- 乳製品:牛乳、ヨーグルト、チーズなど
- 加工食品:ハム、ソーセージ、ちくわ、かまぼこなど(塩分も高い傾向があります)
- 低タンパク質食品(比較的自由に摂取できる、または工夫して取り入れる)
- 野菜:ほとんどの野菜は低タンパク質です。
- 果物:ほとんどの果物は低タンパク質です。
- 穀類:米、パン、シリアル(ただし、低タンパク質米やパンなどの治療用食品を上手に活用すると良いでしょう)
- でんぷん製品:片栗粉、コーンスターチなど
- 油脂類:バター、マーガリン、植物油など
特に、動物性タンパク質は植物性タンパク質に比べて体タンパク質を作りやすい「良質なタンパク質」とされていますが、摂取量には注意が必要です。 全てのタンパク質摂取量のうち、動物性タンパク質は50〜60%に抑えるよう調整することが推奨されます。
食事のバランスと栄養不足を防ぐコツ
タンパク質を制限すると、エネルギー不足や他の栄養素の不足が懸念されます。これを防ぐためには、以下のコツを意識して食事のバランスを整えることが大切です。
- 十分なエネルギー摂取:タンパク質を減らした分、炭水化物(ご飯、パン、麺類など)や脂質(油、バターなど)でエネルギーを補いましょう。 低タンパク質米やでんぷん製品、粉あめなどの特殊食品を上手に活用するのも良い方法です。
- 良質なタンパク質の確保:限られたタンパク質摂取量の中で、体に必要な必須アミノ酸をバランス良く摂ることが重要です。 豆腐や卵、鶏むね肉、白身魚などは消化も良く、おすすめです。
- ビタミン・ミネラルの補給:タンパク質制限によって不足しがちなカルシウムやビタミンD、その他のビタミン・ミネラルは、野菜、果物、乳製品、小魚などから意識的に摂取しましょう。 ただし、カリウムやリンの制限が必要な場合もあるため、医師や管理栄養士の指示に従うことが重要です。
- 食事回数の工夫:一度に多くの量を食べられない場合は、食事を何回かに分けて少量ずつ摂ることで、必要なエネルギーや栄養素を確保しやすくなります。
自己流の食事療法は、カロリー不足やタンパク質の過剰制限につながり、かえって危険な場合があります。 必ず医師や管理栄養士の指導のもとで進めるようにしましょう。
タンパク質制限食の実践!献立のアイデアと調理のコツ

ネフローゼ症候群のタンパク質制限食は、工夫次第で美味しく、楽しく続けることができます。日々の献立に役立つアイデアや調理のコツをご紹介します。
朝食・昼食・夕食の献立例
タンパク質制限食では、主食のでんぷん製品や低タンパク質食品を上手に取り入れながら、副菜で野菜をたっぷり摂ることが基本です。以下に献立のアイデアを挙げます。
- 朝食
- 低タンパク質パンとジャム、バター
- 野菜たっぷり減塩スープ
- 果物(リンゴ、バナナなど)
- 昼食
- 低タンパク質麺を使ったナポリタン
- 野菜サラダ(ノンオイルドレッシングで)
- 低タンパク質米のおにぎり(具材は梅干しなど)
- 夕食
- 低タンパク質米のご飯
- 鶏むね肉と秋野菜の甘酢あん(鶏むね肉は少量に抑える)
- お麩の肉じゃが風
- 小松菜と木耳の和え物
これらの献立はあくまで一例です。個人の好みや病状に合わせて、医師や管理栄養士と相談しながら調整してください。低タンパク質レシピは、インターネット上にも多数公開されていますので、参考にしてみるのも良いでしょう。
外食や市販品を選ぶ際の注意点
外食や市販品は、タンパク質や塩分が多く含まれていることが多いため、選ぶ際には注意が必要です。
- 栄養成分表示を確認する:食品のパッケージに記載されている栄養成分表示を必ず確認し、タンパク質や塩分の量をチェックしましょう。
- 加工食品を控える:加工肉や練り物、インスタント食品などは、タンパク質だけでなく塩分も高い傾向にあります。
- 野菜中心のメニューを選ぶ:定食を選ぶ際は、主菜の量を控えめにし、野菜が豊富な副菜を積極的に選びましょう。
- 味付けに注意する:外食では味付けが濃いことが多いため、薄味を心がけたり、調味料を控えめに使ったりする工夫が大切です。
- 低タンパク質弁当の活用:手間を減らしたい場合は、市販の低タンパク質弁当や宅配食サービスを利用するのも一つの方法です。
特に、むくみや高血圧の症状がある場合は、塩分制限も同時に行う必要があるため、加工食品や外食はできるだけ控えるのが賢明です。
美味しく続けるための調理方法
タンパク質制限食を長く続けるためには、美味しく食べられる工夫が欠かせません。以下の調理のコツを試してみてください。
- だしや香辛料を活用する:塩分を控える分、昆布やかつお節でとっただしをしっかり効かせたり、ハーブやスパイス、酢、レモン汁などで風味を加えたりすると、薄味でも満足感が得られます。
- 油を上手に使う:エネルギーを補うために、炒め物や揚げ物などで油を適度に使うと、風味も増し、カロリーも確保できます。
- 低タンパク質食材を工夫する:低タンパク質米や麺、パンなどの治療用食品は、通常の食材と比べてタンパク質が抑えられています。これらを上手に活用することで、食事のバリエーションが広がります。
- 調理法を工夫する:煮物や蒸し物、和え物など、素材の味を活かした調理法を取り入れると、余分な塩分や油を抑えつつ、美味しく食べられます。
- 見た目を華やかにする:彩りの良い野菜を取り入れたり、盛り付けを工夫したりすることで、食欲をそそり、食事の満足度を高めることができます。
これらのコツを参考に、自分に合った美味しいタンパク質制限食を見つけて、日々の食事を楽しんでください。
タンパク質制限以外の食事の注意点

ネフローゼ症候群の食事療法では、タンパク質制限だけでなく、他の栄養素の管理も非常に重要です。特に塩分、脂質、カリウム、リンの摂取には注意が必要です。
塩分制限の重要性
ネフローゼ症候群では、むくみや高血圧の症状が現れることが多いため、塩分(ナトリウム)の制限が非常に重要です。 塩分を摂りすぎると、体内に水分がたまりやすくなり、むくみが悪化したり、血圧が上昇したりする原因となります。
一般的に、1日の塩分摂取量は6g未満が推奨されますが、病状によっては4g以下に制限されることもあります。 味付けは薄めを心がけ、加工食品や外食は控えめにしましょう。 だしを効かせたり、香辛料やハーブ、柑橘類などで風味を加えたりする工夫が、減塩食を美味しく続けるコツです。
脂質・コレステロールの管理
ネフローゼ症候群では、血液中のコレステロールや中性脂肪が上昇しやすい傾向があります。 そのため、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を控え、良質な油脂(不飽和脂肪酸)を適度に摂ることが大切です。
- 控えるべき食品:肉の脂身、バター、生クリーム、卵黄、内臓類、加工食品など。
- 積極的に摂りたい食品:青魚(DHAやEPAが豊富)、植物油(オリーブオイル、菜種油など)、ナッツ類(適量)など。
調理の際は、揚げるよりも焼く、蒸す、煮るなどの方法を選び、油の使用量を控えめにすると良いでしょう。 血液中の脂質濃度が高い場合は、スタチン系薬剤が処方されることもあります。
カリウム・リンの摂取について
腎機能が低下すると、カリウムやリンといったミネラルの排泄が難しくなり、体内に蓄積してしまうことがあります。 高カリウム血症は不整脈を引き起こす可能性があり、リンの蓄積は骨を脆くする原因となるため、注意が必要です。
- カリウム制限:腎機能が低下している場合、カリウム制限が必要になることがあります。 カリウムは野菜や果物に多く含まれるため、調理の際に「湯でこぼし」をする、小さく切るなどの工夫で減らすことができます。 ただし、ネフローゼ症候群の治療ではタンパク質とカリウムは通常の摂取量で維持する一方、飽和脂肪酸、コレステロール、ナトリウムの摂取量を制限する食事療法もあるため、医師の指示に従うことが重要です。
- リン制限:リンは乳製品、レバー、ナッツ、加工食品などに多く含まれています。 腎機能が低下している場合は、これらの食品の摂取を控えるようにしましょう。
これらの制限は、個々の病状や血液検査の結果に基づいて医師や管理栄養士から指示されます。自己判断で過度な制限を行うと、栄養不足に陥る危険性があるため、必ず専門家の指導に従ってください。
よくある質問

- ネフローゼ症候群の食事で食べてはいけないものはありますか?
- ネフローゼ症候群でタンパク質を摂りすぎるとどうなりますか?
- ネフローゼ症候群の食事はいつまで続ければいいですか?
- ネフローゼ症候群の食事で気を付けるべき飲み物はありますか?
- ネフローゼ症候群の食事で、むくみを和らげる方法はありますか?
ネフローゼ症候群の食事で食べてはいけないものはありますか?
ネフローゼ症候群の食事で「絶対に食べてはいけない」というものはありませんが、病状や腎機能の状態によって、摂取を控えるべき食品や量を調整すべき食品があります。特に、塩分を多く含む加工食品、高タンパク質食品、飽和脂肪酸やコレステロールが多い食品は注意が必要です。カリウムやリンの制限が必要な場合もありますので、医師や管理栄養士の指示に従いましょう。
ネフローゼ症候群でタンパク質を摂りすぎるとどうなりますか?
ネフローゼ症候群でタンパク質を摂りすぎると、腎臓にかかる負担が増加し、病気の進行を早める可能性があります。 タンパク質が体内で代謝される際に生じる老廃物が増え、腎臓のろ過機能に過度な負荷がかかるためです。 また、尿毒症のリスクを高めることにもつながります。
ネフローゼ症候群の食事はいつまで続ければいいですか?
ネフローゼ症候群の食事療法をいつまで続けるかは、病状や治療の反応によって異なります。尿蛋白が減少し、むくみが改善した寛解期には、特別な制限が不要となる場合もあります。 しかし、再発予防のためや、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群のように長期的な管理が必要な場合もあります。 必ず主治医や管理栄養士と相談し、指示に従って食事療法を進めてください。
ネフローゼ症候群の食事で気を付けるべき飲み物はありますか?
ネフローゼ症候群の食事では、飲み物にも注意が必要です。むくみが強い時期には、水分制限が必要になることがあります。 また、カリウム制限が必要な場合は、カリウムを多く含む野菜ジュースや果汁100%ジュース、牛乳などの摂取量に注意しましょう。アルコール飲料は適量であればエネルギー源になりますが、過剰な摂取は腎臓に負担をかける可能性があるため控えるのが賢明です。
ネフローゼ症候群の食事で、むくみを和らげる方法はありますか?
ネフローゼ症候群によるむくみを和らげるためには、食事において塩分制限が最も重要です。 塩分を控えることで、体内の余分な水分が排泄されやすくなります。 また、むくみが強い場合には、医師の指示のもとで水分制限を行うこともあります。 利尿作用のある食品(小豆、すいか、とうがんなど)を適度に取り入れるのも良いですが、カリウム制限が必要な場合は注意が必要です。
まとめ
- ネフローゼ症候群は腎臓のフィルター機能異常により、尿中に大量のタンパク質が漏れ出る病気です。
- タンパク質制限は腎臓への負担を軽減し、病気の進行を抑えるために重要です。
- 一日のタンパク質摂取量は体重1kgあたり0.8~1.0g程度が目安ですが、病状により調整が必要です。
- 高タンパク質食品の摂取を控え、低タンパク質食品や治療用食品を上手に活用しましょう。
- エネルギー不足を防ぐため、炭水化物や脂質から十分なカロリーを摂取することが大切です。
- 塩分制限はむくみや高血圧の管理に不可欠で、1日6g未満が推奨されます。
- 脂質・コレステロールの管理も重要で、飽和脂肪酸を控え、良質な油脂を選びましょう。
- 腎機能低下時はカリウムやリンの制限が必要な場合があり、調理法を工夫します。
- だしや香辛料、ハーブなどを活用し、薄味でも美味しく食べられる工夫が継続のコツです。
- 外食や市販品は栄養成分表示を確認し、加工食品は控えめに選びましょう。
- 低タンパク質弁当や宅配食サービスも、食事の負担を減らす助けになります。
- 自己判断での食事療法は危険なため、必ず医師や管理栄養士の指導に従いましょう。
- 食事療法は薬物療法と同様に、ネフローゼ症候群の治療において大切な役割を担います。
- むくみが強い場合は水分制限が必要になることもあります。
- ビタミンやミネラルが不足しないよう、バランスの取れた食事を心がけましょう。
- 食事回数を分けて少量ずつ摂ることで、栄養素の確保がしやすくなります。
