春の訪れを告げる美しい桜。しかし、その桜が今、恐ろしい害虫の脅威にさらされています。その名はカミキリムシ。特に近年、特定外来生物である「クビアカツヤカミキリ」の被害が全国で拡大し、大切な桜並木が枯死する事例も報告されています。この記事では、桜を枯らすカミキリムシの生態から、被害の見つけ方、そして具体的な駆除・予防方法まで、あなたの桜を守るための全てを詳しく解説します。手遅れになる前に、正しい知識で対策を始めましょう。
桜を枯らす恐怖の害虫!カミキリムシの正体とは?

大切に育てている桜の木が、ある日突然元気がなくなってしまったら…。その原因は、目に見えない木の内部に潜む害虫かもしれません。特にカミキリムシは、桜にとって致命的な被害をもたらす恐ろしい存在です。ここでは、カミキリムシが桜にどのような影響を与えるのか、そして特に警戒すべき外来種「クビアカツヤカミキリ」について詳しく見ていきましょう。
本章では、以下の点について解説します。
- カミキリムシが桜に与える致命的な被害
- 【要注意】特定外来生物クビアカツヤカミキリとは?
- 在来種のカミキリムシとの違い
カミキリムシが桜に与える致命的な被害
カミキリムシの成虫が桜の葉や若い枝を食べることもありますが、本当に恐ろしいのはその幼虫です。「テッポウムシ」とも呼ばれる幼虫は、桜の幹の内部に侵入し、木の養分や水分が通る重要な部分(形成層)を食い荒らします。 この食害が進むと、桜は栄養や水分を木全体に行き渡らせることができなくなり、徐々に弱っていきます。
被害が進行すると、枝が枯れ始め、葉の色が悪くなり、最終的には木全体が枯死してしまうことも少なくありません。 特に、一本の木に複数の幼虫が寄生すると、被害の進行は非常に速く、数年で枯れてしまうこともあります。 見た目には小さな虫ですが、桜にとってはまさに「静かなる暗殺者」と言えるでしょう。
【要注意】特定外来生物クビアカツヤカミキリとは?
近年、日本全国で桜への被害を拡大させているのが、特定外来生物の「クビアカツヤカミキリ」です。 このカミキリムシは中国や朝鮮半島などが原産で、貨物などに紛れて日本に侵入したと考えられています。 体長は2.5cmから4cmほどで、全体的に光沢のある黒色ですが、首(前胸部)だけが赤いのが大きな特徴です。
クビアカツヤカミキリの最も恐ろしい点は、その驚異的な繁殖力にあります。メスは1匹で生涯に数百個、多いときには1000個以上の卵を産むことも報告されています。 産み付けられた卵からかえった幼虫は、一斉に木の内部を食い荒らし、甚大な被害をもたらします。このため、クビアカツヤカミキリは外来生物法により「特定外来生物」に指定されており、生きたままの運搬や飼育が原則として禁止されています。
在来種のカミキリムシとの違い
日本には元々、ゴマダラカミキリやルリカミキリなど、多くの在来種のカミキリムシが生息しています。 これらの在来種も桜などの樹木を加害することがありますが、クビアカツヤカミキリほど爆発的に繁殖して大規模な被害を引き起こすケースは稀です。
見分けるポイントは、やはりクビアカツヤカミキリ特有の「赤い首」です。 また、被害のサインとして後述する「フラス」の量も異なります。クビアカツヤカミキリの被害木では、根元に大量のフラスが堆積するのが特徴です。 もしご自身の桜の木や近所の桜並木で、首の赤いカミキリムシや大量の木くずを見かけたら、すぐに行動を起こす必要があります。
【被害のサインを見逃すな!】桜のカミキリムシ被害の見つけ方

カミキリムシの被害は、早期発見・早期対応が何よりも重要です。しかし、幼虫は木の内部にいるため、被害に気づきにくいのが厄介な点。大切な桜を守るためには、日頃から木の様子をよく観察し、被害のサインを見逃さないことが大切です。ここでは、カミキリムシ被害の具体的なチェックポイントを解説します。
本章で確認するべきサインは以下の通りです。
- 根元に落ちている「フラス」は危険信号
- 幹や枝にある不自然な穴
- 成虫の脱出孔
- 樹勢の衰え(葉の変色、枯れ枝など)
根元に落ちている「フラス」は危険信号
カミキリムシの幼虫が内部を食い荒らす際に出す、フンと木くずが混ざったものを「フラス」と呼びます。 これが、カミキリムシの被害を発見するための最も重要な手がかりです。幼虫の活動が活発になる春から秋にかけて、桜の木の根元や幹の周りを見てみましょう。
もし、カリントウ状やひき肉状の木くずが落ちていたら、それは幼虫が内部にいる確実な証拠です。 特にクビアカツヤカミキリの場合、非常に大量のフラスを排出するため、根元にこんもりと積もっていることもあります。 フラスを見つけたら、被害はすでに進行していると考え、すぐに対策を検討する必要があります。
幹や枝にある不自然な穴
フラスは、幼虫が内部から開けた小さな穴(排出孔)から外に出されます。フラスが落ちている場所の周辺の幹や太い枝をよく観察し、木くずが詰まったような小さな穴がないか探してみてください。 この穴が、後で殺虫剤を注入する際の入り口になります。
また、成虫が産卵する際に樹皮を傷つけることもあります。幹の表面に不自然な傷や、ヤニが出ている場所がないかも注意深くチェックしましょう。これらのサインは、被害の初期段階で見つけられる可能性があります。
成虫の脱出孔
木の内部で2〜3年かけて成長した幼虫は、蛹を経て成虫になると、木に穴を開けて外に出てきます。 この時にできる穴を「脱出孔」と呼びます。脱出孔は、直径2〜3cm程度の楕円形をしているのが特徴です。
脱出孔があるということは、すでにカミキリムシがその木で繁殖し、成虫が飛び立っていったことを意味します。つまり、周辺の他の桜にも被害が広がっている可能性が非常に高い危険なサインです。脱出孔を複数見つけた場合は、被害がかなり深刻であると考えられます。
樹勢の衰え(葉の変色、枯れ枝など)
カミキリムシの被害が進行すると、木全体の元気がなくなってきます。以下のような症状が見られたら注意が必要です。
- 葉のつきが悪くなる、葉が小さい
- 葉が夏なのに黄色や茶色に変色する
- 特定の枝だけが枯れている
- 花の咲き方が悪い、花数が少ない
これらの症状は、カミキリムシによる内部の食害で、水や養分が末端の枝葉まで届かなくなっていることが原因です。 もちろん、他の病気や水不足の可能性もありますが、フラスや穴などのサインと合わせて確認することで、カミキリムシ被害の可能性を判断することができます。
【今すぐできる!】桜のカミキリムシ駆除方法の全て

桜の木にカミキリムシの被害サインを見つけてしまったら、一刻も早く駆除に取り掛かる必要があります。放置すれば被害はどんどん広がり、最悪の場合、大切な桜が枯れてしまいます。ここでは、成虫と幼虫、それぞれの段階に応じた具体的な駆除方法を解説します。ご自身でできる方法から、専門的な対処法まで紹介しますので、状況に合わせて最適な方法を選んでください。
本章で解説する駆除方法は以下の通りです。
- 成虫を見つけたら:捕殺が基本
- 幼虫(テッポウムシ)の駆除方法
- 被害が深刻な場合:伐採も選択肢に
成虫を見つけたら:捕殺が基本
カミキリムシの成虫は、主に6月から8月頃にかけて活動します。 この時期に桜の幹や枝にカミキリムシの成虫を見つけたら、その場で捕まえて踏みつぶすなどして殺処分してください。 特にクビアカツヤカミキリは特定外来生物であり、生きたまま移動させることは法律で禁止されています。 1匹でも多く捕殺することが、産卵を防ぎ、被害の拡大を食い止めるための最も直接的で効果的な方法です。
市販の殺虫スプレーを直接噴射して駆除することも可能です。 ただし、薬剤によっては植物に影響を与える可能性もあるため、使用する際は注意書きをよく確認しましょう。
幼虫(テッポウムシ)の駆除方法
木の内部にいる幼虫の駆除は、成虫よりも手間がかかりますが、被害の根源を断つためには不可欠です。主な方法は2つあります。
針金を使った物理的な駆除
フラスが出ている穴(排出孔)を見つけたら、針金や千枚通しのような細くて硬いものを穴に差し込み、中の幼虫を刺し殺す方法です。 穴の中のフラスを丁寧にかき出し、針金を奥まで差し込んで探ります。手応えがあれば幼虫を駆除できた可能性が高いです。原始的な方法ですが、薬剤を使いたくない場合には有効な手段です。
殺虫剤の注入
より確実な方法は、カミキリムシ(テッポウムシ)専用の殺虫剤を穴から注入することです。 園芸店やホームセンターで、ノズル付きのスプレータイプの殺虫剤が販売されています。フラスが出ている穴にノズルを差し込み、薬剤を注入します。薬剤が内部に行き渡り、幼虫を駆除します。 使用後は、しばらく様子を見て、フラスの排出が止まれば駆除成功です。 もしフラスの排出が続くようであれば、再度薬剤を注入する必要があります。
被害が深刻な場合:伐採も選択肢に
残念ながら、木全体に多数の脱出孔が見られたり、幹の大部分が枯れてしまったりしているなど、被害が非常に深刻な場合は、回復が見込めず、伐採せざるを得ないこともあります。 枯れた木は倒木のリスクもあり危険です。また、被害木を放置すると、そこが発生源となり、さらに周囲の健康な木へと被害を広げてしまう恐れがあります。
伐採を決定した場合は、必ず専門の業者に依頼してください。そして最も重要なのは、伐採した木を適切に処理することです。伐採した木の中にはまだ幼虫が生きている可能性があるため、チップ化(粉砕)するか、焼却処分する必要があります。 そのまま放置すると、そこから成虫が羽化してしまい、何の意味もなくなってしまいます。
【未来の桜を守る】カミキリムシの被害を未然に防ぐ予防策

カミキリムシの被害を受けてからの駆除は大変な労力がかかります。大切なのは、そもそもカミキリムシを寄せ付けない、産卵させないための「予防」です。日頃からのちょっとした心がけと対策で、被害のリスクを大きく減らすことができます。ここでは、未来の美しい桜を守るための、効果的な予防策を3つご紹介します。
本章で紹介する予防策はこちらです。
- 産卵を防ぐ!防虫ネットの設置
- 薬剤散布による予防
- 桜の木を健康に保つ(剪定・施肥)
産卵を防ぐ!防虫ネットの設置
カミキリムシの成虫が幹に卵を産み付けるのを物理的に防ぐ、最も効果的な方法の一つが防虫ネットの設置です。 成虫が活動する前の5月下旬頃までに、桜の幹の地面から枝分かれするあたりまで、目の細かいネット(0.4mm目合いなど)を巻き付けます。
ネットを巻く際は、幹とネットの間に隙間ができないようにしっかりと固定することが重要です。隙間があると、そこから侵入して産卵されてしまう可能性があります。 ネットはホームセンターや園芸用品店、オンラインショップなどで購入できます。 景観を損ねにくい黒色のネットなどもありますので、環境に合わせて選びましょう。 すでに被害を受けている木にネットを巻くことで、中から成虫が脱出して拡散するのを防ぐ効果もあります。
薬剤散布による予防
成虫の活動期である6月から8月にかけて、定期的に登録のある殺虫剤を木の幹や太い枝に散布することで、成虫が寄り付くのを防いだり、産卵のためにやってきた成虫を駆除したりする効果が期待できます。
薬剤には様々な種類があり、効果の持続期間も異なります。使用する際は、必ず製品の指示に従い、適切な時期に適切な回数散布することが大切です。特に、雨が降ると効果が薄れることがあるため、天候も見ながら計画的に行いましょう。ただし、薬剤の散布は周囲の環境や他の生物への影響も考慮する必要があります。使用する際は、風向きなどに注意し、必要最低限の使用に留めるように心がけてください。
桜の木を健康に保つ(剪定・施肥)
カミキリムシは、弱っている木や傷のある木を好んで産卵する傾向があります。 そのため、日頃から桜の木を健康な状態に保つことが、根本的な予防策となります。
具体的には、以下のような手入れが重要です。
- 適切な剪定:枯れた枝や混み合った枝を剪定し、風通しと日当たりを良くします。これにより、病害虫が発生しにくい環境を作ります。 ただし、太い枝を無闇に切ると、切り口から菌が入ったり、カミキリムシの産卵場所になったりすることもあるため、剪定は適切な時期に行い、切り口には保護剤を塗るなどの処置をしましょう。
- 適度な施肥:木の成長に必要な栄養を与え、樹勢を維持します。元気な木は、たとえカミキリムシに産卵されても、樹液(ヤニ)を出して幼虫の成長を阻害することがあります。
人間と同じで、健康な体は病気にかかりにくいもの。愛情を持って桜の木を手入れすることが、最強の予防策と言えるかもしれません。
よくある質問

カミキリムシの天敵はいますか?
はい、カミキリムシにも天敵は存在します。 例えば、キツツキなどの鳥類は、木の幹にいる幼虫を見つけて食べてくれます。 また、カミキリヤドリバチのような寄生蜂は、カミキリムシの幼虫に卵を産み付け、内部から食べてしまいます。昆虫の世界では、ヨコヅナサシガメなどが成虫を捕食することもあります。 しかし、これらの天敵だけで被害の拡大を抑えるのは難しく、特に外来種であるクビアカツヤカミキリに対しては、天敵による防除効果は限定的と考えられています。
桜に付くカミキリムシ以外の害虫にはどんなものがいますか?
桜にはカミキリムシ以外にも様々な害虫が発生します。 代表的なものとしては、春に葉を食害する毛虫類(モンクロシャチホコ、アメリカシロヒトリなど)、新芽や葉から汁を吸うアブラムシ類、幹に穴を開けるコスカシバの幼虫などが挙げられます。 それぞれの害虫によって被害の症状や対策が異なるため、何が原因かを見極めることが重要です。
駆除したカミキリムシの死骸はどうすればいいですか?
捕殺したカミキリムシの成虫の死骸は、そのまま燃えるゴミとして処分して問題ありません。特定外来生物であるクビアカツヤカミキリも、死んでいれば移動させても法律上の問題はありません。重要なのは「生きたまま」移動させないことです。
被害を見つけたらどこに連絡すればいいですか?
もしご自宅の庭ではなく、公園や街路樹などでクビアカツヤカミキリの成虫や被害(大量のフラスなど)を見つけた場合は、その場所を管理している市町村役場の公園緑地課や環境課などの担当部署に連絡してください。 被害の拡大を防ぐためには、行政と地域住民が連携して情報を共有し、対策を講じることが非常に重要です。
駆除や予防に使う薬剤はどこで買えますか?おすすめはありますか?
カミキリムシ(テッポウムシ)用の殺虫剤や、予防散布用の薬剤は、ホームセンターの園芸コーナーや、農薬を扱う専門店、オンラインショップなどで購入できます。 「カミキリムシ用」「テッポウムシ用」と明記された製品を選ぶのが確実です。「園芸用キンチョールE」や「家庭園芸用スミチオン乳剤」などが代表的な商品として挙げられます。 使用する際は、対象となる害虫や植物(桜に使用可能か)を確認し、必ず使用方法や注意事項をよく読んでから正しく使用してください。
まとめ

- カミキリムシの幼虫は桜の木の内部を食害し枯らす。
- 特に外来種クビアカツヤカミキリは繁殖力が強く危険。
- 首が赤いのがクビアカツヤカミキリの大きな特徴。
- 根元の「フラス(木くず)」は被害の重要なサイン。
- 幹に開いた穴や樹勢の衰えもチェックポイント。
- 成虫を見つけたらその場で捕殺するのが基本。
- 幼虫は針金や専用殺虫剤で駆除する。
- 被害が深刻な場合は伐採し、木を適切に処分する。
- 予防には幹への防虫ネット設置が効果的。
- 成虫の活動期に薬剤を散布して産卵を防ぐ。
- 剪定や施肥で桜の木を健康に保つことが大切。
- 天敵はいるが、それだけで被害を防ぐのは難しい。
- 公共の場所で被害を見つけたら市町村へ連絡する。
- 薬剤は用法用量を守って正しく使用する。
- 早期発見と迅速な対応が桜を守る鍵となる。