ペースメーカーは、心臓の脈が遅くなる徐脈性不整脈などの治療に使われる医療機器です。植え込み後は、日常生活においていくつかの注意点があります。しかし、過度に心配する必要はなく、正しい知識を持って生活することが大切です。本記事では、ペースメーカー使用者が日常生活で気をつけるべきこと、電磁波の影響、定期検診の重要性などを詳しく解説します。
ペースメーカー使用者が日常生活で気をつけること
ペースメーカーを植え込んだ後も、基本的には以前と変わらない生活を送ることができます。しかし、いくつかの点に注意することで、より安心して過ごすことができます。ここでは、日常生活の様々な場面で気をつけるべきことを具体的に見ていきましょう。
日常生活で気をつけることは主に以下の通りです。
- 運動時の注意点
- 入浴時の注意点
- 旅行時の注意点
- 食事に関する注意点
- 運転時の注意点
- 定期検診の重要性
- ペースメーカー手帳の携帯
- 皮膚トラブルの予防
運動時の注意点
手術後1~3ヶ月が経過し、体調が安定すれば、同年代の人が行っているほとんどのスポーツを楽しむことができます。 ウォーキングやジョギング、ゴルフ、テニスなどは問題ありません。 ただし、ペースメーカー本体やリードに衝撃が加わる可能性のある激しいスポーツ(ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツ)や、植え込み部分の筋肉を長時間激しく動かす運動は避けるようにしましょう。 これらの運動は、ペースメーカー本体の破損やリードのずれ、損傷を引き起こす可能性があります。 どの程度の運動なら問題ないか、避けるべき運動は何かについては、必ず医師に相談し、指示に従ってください。
また、重たい物を持つのも、植え込み部分に負担をかける可能性があるため、避けた方が良いでしょう。 運動中に息切れやめまいなどの症状が出た場合は、すぐに運動を中止し、医師に相談することが大切です。
入浴時の注意点
シャワーはもちろん、湯船に浸かることも可能です。 入浴が直接ペースメーカーに影響を与えることはありません。 しかし、長時間の入浴や熱いお湯への入浴は、脈拍を上昇させ心臓に負担をかける可能性があるため、入浴時間は10~20分程度に留め、ぬるめのお湯にしましょう。 同様に、サウナも長時間の利用は心臓への負担を考慮し、避けるようにしてください。
特に注意が必要なのは、銭湯などにある電気風呂です。電気風呂は低周波電流が流れており、ペースメーカーの動作に影響を与える可能性があるため、絶対に利用しないでください。
旅行時の注意点
ペースメーカーを使用していても、旅行は自由に楽しむことができます。 自動車、電車、飛行機、客船など、乗り物に制限はありません。 ただし、飛行機に搭乗する際には、空港の保安検査で金属探知機にペースメーカーが反応することがあります。 事前に係員にペースメーカー手帳や証明書を提示し、ペースメーカーを使用していることを伝えましょう。 金属探知機以外の方法(ボディスキャナーや接触検査など)で検査を受けることができます。 海外旅行の場合でも、ペースメーカー手帳は有効です。 旅行会社のツアーに参加する場合は、事前に旅行会社に確認しておくと安心です。
また、海外旅行保険に加入する際は、ペースメーカーを使用していることを申告し、持病(既往症)補償が付いているか確認しましょう。 保険会社によっては、特約を付けることでカバーできる場合があります。
食事に関する注意点
基本的に食事や飲酒に制限はありません。 ただし、心臓病や腎臓病、肝臓病などの持病がある場合は、その治療のために食事制限が必要になることがあります。 バランスの取れた食事を心がけ、健康的な食生活を送りましょう。
運転時の注意点
ペースメーカー(両心室ペーシング(CRT-P)を含む)を植え込んでいる場合、植え込み後の意識消失やペーシングの不具合がなければ、基本的に運転は許可されます。 診断書の提出も通常は必要ありません。 ただし、自動車を運転する際には、急ブレーキなどでシートベルトがペースメーカー本体に強い衝撃を与えないよう注意が必要です。 安全運転を心がけましょう。
一方、植込み型除細動器(ICD)や両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)を植え込んでいる場合は、運転に関して制限が設けられています。 不整脈に対するショック作動が運転中に起こると、正常な運転が困難になる可能性があるためです。 運転再開の可否や時期については、医師の診断と指示に従う必要があります。
定期検診の重要性
ペースメーカーを植え込んだ後は、定期的な検診が非常に重要です。 通常、半年に1回程度の頻度で、ペースメーカーの作動状況、電池の残量、リードの状態などを専門の機器(プログラマ)を使ってチェックします。 この検査は、体の外から行われるため、痛みを伴うことはありません。 定期検診を受けることで、ペースメーカーが常に最適な状態で機能していることを確認し、万が一の不具合を早期に発見することができます。 体調が良い場合でも、必ず医師の指示に従って定期検診を受けましょう。
ペースメーカー手帳の携帯
ペースメーカーを植え込むと、「ペースメーカー手帳」が交付されます。 この手帳には、使用しているペースメーカーの種類、設定内容、植え込み日、担当医師の連絡先などが記載されています。 旅行中や万が一の事故、急病の際に、医療関係者が迅速かつ適切な対応をとるために非常に重要な情報となります。 常に携帯するようにしましょう。
皮膚トラブルの予防
ペースメーカーの植え込み部分の皮膚はデリケートなため、清潔に保ち、刺激を与えないように注意が必要です。 入浴時には、植え込み部分を強くこすらず、優しく洗うようにしましょう。 かゆみや赤み、腫れなどの異常が見られた場合は、すぐに医師に相談してください。 特に認知症のある方は、無意識に植え込み部分を掻いてしまうことがあるため、周囲の方の注意が必要です。
ペースメーカーと電磁波:気をつけるべき機器と影響の少ない機器
ペースメーカーは精密な電子機器であるため、強い電磁波の影響を受けると、誤作動を起こす可能性があります。 日常生活で使用する様々な電気製品の中には、注意が必要なものと、比較的影響の少ないものがあります。正しく理解し、適切に対応することが大切です。
ここでは、特に注意すべき機器と、比較的安心して使用できる機器について解説します。
- 特に注意が必要な機器
- 使用に注意が必要な機器
- 比較的影響の少ない機器
特に注意が必要な機器
以下の機器は、ペースメーカーに影響を与える可能性が高いため、使用を避けたり、近づかないようにしたりするなどの注意が必要です。
- 電気風呂・低周波治療器・高周波治療器・EMS機器: これらの機器は、体内に電流を流すため、ペースメーカーの動作に影響を与える可能性があります。 絶対に使用しないでください。
- IH調理器・IH炊飯器: IH調理器やIH炊飯器は、作動中に強い電磁波を発生します。 使用中は、機器に体を密着させたり、抱え込んだりしないようにし、50cm以上離れるようにしましょう。
- 電気自動車の急速充電器: 急速充電器は高圧電流が流れるため、強い磁界が発生します。 ペースメーカーに影響を与える可能性があるため、使用を避け、設置場所にも近づかないようにしましょう。 自宅での普通充電器の使用は、充電スタンドやケーブルに密着しなければ問題ないとされています。
- 全自動麻雀卓: 内部の磁石や電気部品がペースメーカーに影響を与える可能性があります。 使用は避けましょう。
- 盗難防止ゲート(EAS): 店舗の出入り口などに設置されている盗難防止ゲートは、電磁波を利用しています。 ゲートの中央付近を速やかに通過するようにし、立ち止まらないようにしましょう。
- 空港の金属探知機: ペースメーカーが金属探知機に反応することがあります。 事前に係員にペースメーカー手帳を提示し、別の方法で検査を受けてください。
- MRI検査: 強力な磁場を使用するため、従来のペースメーカーでは禁忌とされていました。 しかし、近年ではMRI対応のペースメーカーも登場しています。 MRI検査が必要な場合は、必ず医師に相談し、MRI対応のペースメーカーであるか確認してください。 MRI対応であっても、検査前後に特別な設定変更が必要な場合があります。
上記以外にも、強力な磁石を使用している製品(マグネット治療器など)や、業務用・産業用の特殊な電気機器なども注意が必要です。 不明な点があれば、必ず医師に相談してください。
使用に注意が必要な機器
以下の機器は、通常の使用方法であれば問題ないとされていますが、念のため注意が必要です。
- 携帯電話・スマートフォン: 最近の携帯電話(4G、5G)は、ペースメーカーへの影響が少ないとされています。 通常の使用では問題ありませんが、念のため、ペースメーカー植え込み部位から15cm以上離して使用・携行するようにしましょう。 特に、胸ポケットに入れたり、首から下げたりするのは避けてください。
- 電気毛布・電気カーペット・電気こたつ: 古い製品の場合、漏電によってペースメーカーに影響を与える可能性があります。 比較的新しいものであれば心配ないとされていますが、使用中に気分が悪くなる場合は使用を中止し、医師に相談してください。
- 体脂肪計・体組成計(電流を流すタイプ): 微弱な電流を流すため、ペースメーカーに影響を与える可能性があります。 使用は避けるか、医師に相談してください。
- 車のスマートキーシステム・エンジン部: 車のエンジン部やスマートキーのアンテナ付近は、電磁波が比較的強い場所です。 長時間近づいたり、寄りかかったりしないようにしましょう。
比較的影響の少ない機器
以下の機器は、日常生活で通常通り使用しても、ペースメーカーへの影響はほとんどないと考えられています。
- テレビ、ラジオ、パソコン、コピー機、FAX
- 電子レンジ(扉を閉めた状態での使用)
- ドライヤー、電気シェーバー、電気カミソリ
- Wi-Fi、Bluetooth
- 空気清浄機、加湿器
- カーペット以外の暖房器具
- 飛行機、電車、新幹線、自動車(運転席・助手席)
ただし、これらの機器でも、万が一使用中に体調の変化を感じた場合は、すぐに使用を中止し、医師に相談するようにしてください。
ペースメーカー使用者が注意すべき症状と対処法
ペースメーカーを植え込んだ後、まれに何らかの症状が現れることがあります。 どのような症状に注意すべきかを知っておくことは、早期発見・早期対応につながり、安心して生活を送るために重要です。以下に挙げるような症状や、これまでにない体調の変化を感じた場合は、速やかに主治医に連絡・相談しましょう。
注意すべき症状と、その場合の対処法について解説します。
- 注意すべき主な症状
- 症状が現れた場合の対処法
注意すべき主な症状
以下のような症状が現れた場合は、ペースメーカーの不具合や、元の心臓の病状の変化などが考えられます。
- めまい、ふらつき、失神: ペースメーカーが適切に作動していない可能性があります。
- 息切れ、呼吸困難: 心不全の悪化や、ペースメーカー関連の合併症の可能性があります。
- 動悸、脈の乱れ: ペースメーカーの設定変更が必要な場合や、新たな不整脈が出現している可能性があります。
- 植え込み部分の異常(赤み、腫れ、痛み、熱感、膿が出るなど): 感染症の可能性があります。
- しゃっくりが続く: ペースメーカーのリードが横隔膜を刺激している可能性があります。
- 腕や肩の痛み、むくみ: リードに関連する問題や血栓などが考えられます。
- 原因不明の発熱が続く: 感染症などが疑われます。
- 以前あった症状の再発: ペースメーカー植え込み前の症状が再び現れた場合。
また、脈拍数が極端に少ない、または設定されたレートよりも遅い場合も注意が必要です。 日頃からご自身で脈拍を測る習慣をつけておくと、異常に気づきやすくなります。
症状が現れた場合の対処法
上記のような症状が現れたり、何か普段と違うと感じたりした場合は、自己判断せずに、速やかにかかりつけの医療機関に連絡し、医師の指示を仰ぎましょう。 夜間や休日の場合は、救急外来を受診することも検討してください。その際には、必ずペースメーカー手帳を持参し、医療スタッフに提示してください。
医師に連絡する際には、以下の情報を伝えられるようにしておくと、スムーズな対応につながります。
- いつからどのような症状があるか
- 症状の程度や頻度
- 症状が現れた時の状況(安静時、運動時など)
- 他に気になる症状はないか
- 服用している薬
不安なことや疑問点があれば、遠慮なく医師や看護師に相談しましょう。
ペースメーカーの交換時期と手続き
ペースメーカー本体には電池が内蔵されており、その電池には寿命があります。そのため、定期的な本体交換が必要になります。 ここでは、ペースメーカーの交換時期の目安や、交換手術について解説します。
交換時期と手続きのポイントは以下の通りです。
- 電池の寿命と交換時期の目安
- 交換手術について
電池の寿命と交換時期の目安
ペースメーカーの電池の寿命は、一般的に5年~10年程度と言われています。 ただし、これはあくまで目安であり、患者さんの状態(自己心拍の有無、ペースメーカーへの依存度など)や、ペースメーカーの設定内容によって大きく異なります。 例えば、自己心拍がほとんどなく、常にペースメーカーが100%作動しているような場合は、電池の消耗が早くなる傾向があります。
電池の残量は、定期検診の際に専門の機器で確認します。 医師は電池の消耗具合を把握し、交換が必要な時期が近づいてくると、患者さんにその旨を伝えます。電池が完全になくなる前に、計画的に交換手術が行われます。
交換手術について
ペースメーカーの電池交換は、通常、本体のみを新しいものに交換する手術を行います。 初回植え込み手術と同様に、局所麻酔で行われることが一般的です。 植え込み部位の皮膚を小さく切開し、古いペースメーカー本体を取り出し、新しい本体を接続してポケットに収めます。リード線に問題がなければ、リード線はそのまま使用します。そのため、初回の手術に比べて短時間で終わることが多いです。
手術後は、数日間の入院が必要となる場合がありますが、医療機関や患者さんの状態によって異なります。退院後は、定期的な検診を受け、ペースメーカーの作動状況などを確認していきます。
リードレスペースメーカーの場合は、電池交換の概念が異なり、新しいデバイスを追加で植え込むか、状況によっては古いデバイスを回収することもあります。詳細については医師にご確認ください。
よくある質問
ペースメーカーを入れたら、携帯電話は使えませんか?
最近の携帯電話(4G、5G)であれば、通常の使用でペースメーカーに影響を与えることはほとんどありません。 ただし、念のため、ペースメーカー本体から15cm以上離して使用・携行することが推奨されています。 特に、胸ポケットに入れたり、首から下げたりするのは避けましょう。
IH調理器は使っても大丈夫ですか?
IH調理器は作動中に強い電磁波を発生するため、注意が必要です。 使用する際は、IH調理器本体や鍋に体を密着させないようにし、50cm以上離れるようにしましょう。 抱え込むような使い方は避けてください。
空港の金属探知機は通れますか?
ペースメーカーが金属探知機に反応することがあります。 保安検査を受ける前に、係員にペースメーカー手帳を提示し、ペースメーカーを使用していることを伝えてください。 金属探知機以外の方法(ボディスキャナーや接触検査など)で検査を受けることができます。
MRI検査は受けられますか?
従来のペースメーカーはMRI検査が禁忌でしたが、近年ではMRI対応のペースメーカーが登場しています。 ご自身のペースメーカーがMRI対応かどうかは、医師やペースメーカー手帳で確認できます。MRI検査が必要な場合は、必ず事前に医師に相談し、指示に従ってください。 MRI対応であっても、検査前後に特別な設定変更が必要になる場合があります。
車の運転はできますか?
ペースメーカー(両心室ペーシング(CRT-P)を含む)を植え込んでいる場合、植え込み後の意識消失やペーシングの不具合がなければ、基本的に運転は許可されます。 診断書の提出も通常は必要ありません。 ただし、植込み型除細動器(ICD)や両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)の場合は、運転に関して制限がありますので、必ず医師の指示に従ってください。
スポーツはできますか?
手術後1~3ヶ月が経過し、体調が安定すれば、多くのスポーツを楽しむことができます。 ただし、ラグビーや柔道のような激しい接触を伴うスポーツや、植え込み部分を強く圧迫するような運動は避けるようにしましょう。 どの程度の運動が可能かについては、必ず医師に相談してください。
食事で気をつけることはありますか?
基本的に食事や飲酒に制限はありません。 ただし、心臓病やその他の持病がある場合は、その治療のための食事制限が必要になることがあります。 バランスの取れた食事を心がけましょう。
ペースメーカーの電池はどのくらい持ちますか?
ペースメーカーの電池寿命は、一般的に5年~10年程度ですが、患者さんの状態やペースメーカーの設定によって異なります。 定期検診で電池の残量を確認し、交換時期が近づいたら医師から説明があります。
ペースメーカー手帳とは何ですか?常に持っていた方がいいですか?
ペースメーカー手帳には、使用しているペースメーカーの情報や患者さんの情報、緊急連絡先などが記載されています。 万が一の事故や急病の際に非常に重要な情報となるため、常に携帯するようにしましょう。
ペースメーカーを入れた後、気をつけるべき症状はありますか?
めまい、ふらつき、失神、息切れ、動悸、植え込み部分の異常(赤み、腫れ、痛みなど)、しゃっくりが続く、原因不明の発熱などの症状が現れた場合は、速やかに医師に相談してください。
まとめ
- ペースメーカー装着後も基本的には普通の生活が可能。
- 激しい運動や植え込み部への衝撃は避ける。
- 入浴は可能だが、電気風呂は禁止。長湯も避ける。
- 旅行は可能。空港検査では手帳を提示。
- 食事制限は基本的にないが、持病による制限はあり。
- 運転は医師の許可があれば可能。ICD等は制限あり。
- 定期検診は電池残量や作動状況確認のため非常に重要。
- ペースメーカー手帳は常に携帯する。
- 植え込み部の皮膚トラブルに注意する。
- IH調理器や急速充電器など強い電磁波を出す機器に注意。
- 携帯電話は15cm以上離して使用する。
- MRI検査は対応機種か確認し、医師の指示に従う。
- めまい、息切れ、動悸などの症状は速やかに医師へ相談。
- 電池寿命は5~10年程度。定期交換が必要。
- 不明な点や不安なことは遠慮なく医師に相談する。