南九州の伝統的な和菓子「あくまき」は、独特の風味ともちもちとした食感が魅力です。この特別な食感を生み出すのが、木灰から作られる「灰汁(あく)」の存在です。本記事では、あくまき作りの要となる灰汁の作り方を、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
ご家庭で伝統の味を再現したい方、灰汁作りに挑戦してみたい方は、ぜひ最後までお読みください。安全に配慮しながら、上質な灰汁を作るためのコツを詳しくご紹介します。
あくまきとは?伝統の味を支える灰汁の役割

あくまきは、主に鹿児島県、宮崎県、熊本県南部といった南九州地域で、端午の節句に作られる季節の和菓子です。もち米を灰汁で炊き上げることで、他にはない独特の風味と食感が生まれます。その歴史は古く、一説には1600年の関ヶ原の戦いの際、薩摩藩の島津義弘公が日持ちする兵糧として持参したのが始まりとも言われています。
あくまきに灰汁が使われる理由はいくつかあります。まず、灰汁の強アルカリ性によってもち米のでんぷんが糊化し、もちもちとした独特の食感と、冷めても硬くなりにくい性質が生まれます。 また、メイラード反応が促進され、あくまき特有のべっ甲色に色づくのも灰汁の働きです。さらに、アルカリ環境は雑菌の繁殖を抑えるため、保存性を高める効果もあります。
あくまき用灰汁作りに必要な材料と道具

自家製灰汁を作るためには、いくつかの材料と道具を準備する必要があります。これらを事前に揃えておくことで、スムーズに作業を進められるでしょう。
灰汁作りの主な材料
- 木灰(もくばい):あくまき用の灰汁には、樫(かし)、椎(しい)、くぬぎ、椿(つばき)などの広葉樹の灰が上質とされています。 特に竹灰は、その高いカリウム含有量から、あくまき特有の食感や色合いに良い影響を与えるとされています。 化学処理されていない、純粋な木灰を選ぶことが大切です。
- 水:清潔な水を用意しましょう。
灰汁作りの主な道具
- 耐熱性の容器:灰を水に浸すための容器です。アルカリ性の液体を扱うため、プラスチック製の場合は耐アルカリ性のものを選び、できればステンレス製やホーロー製、陶器製などがおすすめです。
- 濾すための布:灰汁を濾過するために使います。さらし木綿、コーヒーフィルター、目の細かいザルと布の組み合わせなどが適しています。
- 計量カップ・計量スプーン:灰と水の分量を正確に測るために必要です。
- ゴム手袋・保護メガネ:灰汁は強アルカリ性のため、皮膚や目への刺激を防ぐために必ず着用してください。
- pH試験紙またはpHメーター(あれば):灰汁の濃度を確認するためにあると便利です。
これらの材料と道具を準備し、安全に配慮しながら灰汁作りに挑戦しましょう。
自家製灰汁の作り方ステップバイステップ

あくまきに欠かせない灰汁は、ご家庭でも作ることができます。ここでは、その進め方をステップごとに詳しく解説します。
ステップ1:良質な木灰を集める
灰汁作りの最初のステップは、質の良い木灰を集めることです。あくまきに適した灰は、樫、椎、くぬぎ、椿などの広葉樹を燃やしてできた灰です。 これらの木は、灰汁の主成分となる炭酸カリウムを多く含んでいます。化学処理された木材や、不純物が混じった灰は避けてください。薪ストーブや焚き火で出た灰を利用する場合は、完全に燃え尽きて白い灰になったものを選び、燃え残りの炭などは取り除いておきましょう。
ステップ2:灰を水に浸して灰汁を抽出する
集めた木灰を耐熱性の容器に入れ、水を加えます。一般的な目安としては、灰の量の2倍から3倍程度の水を加えることが多いです。 例えば、灰100gに対して水200ml〜300ml程度です。水と灰をよく混ぜ合わせたら、そのまま一晩(8時間以上)放置して灰を沈殿させます。 急ぐ場合は熱湯を注いで沸騰させ、冷ましてから使用することも可能ですが、じっくりと時間をかけて抽出する方が、より上質な灰汁が取れると言われています。
ステップ3:丁寧に濾して不純物を取り除く
一晩置いた後、灰が容器の底に沈殿し、上澄みが灰汁となります。この上澄み液を、用意した布や目の細かいザルで丁寧に濾し取ります。 灰汁には細かい灰の粒子が混じっていることがあるため、複数回濾過することで、より澄んだきれいな灰汁を得られます。濾過した灰汁は、別の清潔な容器に移しておきましょう。
この際、底に溜まった灰を混ぜてしまわないよう、静かに作業を進めるのがコツです。
ステップ4:灰汁の濃度を確認する
抽出した灰汁は、あくまきを作る上で適切な濃度であることが重要です。灰汁は強アルカリ性であり、pH値は11~12程度が目安とされています。 pH試験紙やpHメーターがあれば、簡単に濃度を確認できます。もし灰汁が濃すぎる場合は、水を加えて薄めて調整してください。逆に薄いと感じる場合は、同じ灰を再度水に浸して抽出するか、水溶液を煮詰めて水分を飛ばすことでアルカリ濃度を高めることも可能です。
適切な濃度に調整することで、あくまき特有の食感と色合いをより良く引き出せます。
灰汁作りのコツと安全に使うための注意点

自家製灰汁を作る際には、いくつかのコツを押さえ、安全対策をしっかり行うことが大切です。これらを意識することで、より良い灰汁を作り、安心して調理に活用できます。
灰の種類で味が変わる?最適な灰の選び方
灰汁の原料となる木灰の種類によって、あくまきの風味や色合いに違いが出ることがあります。 一般的には、樫、椎、くぬぎなどの広葉樹の灰が好まれますが、地域によっては竹灰やミカンの木の灰なども使われます。 特に竹灰は、あくまきをべっ甲色に仕上げ、独特のもちもち感を出すのに適していると言われています。 化学処理されていない、自然の木材から得られた灰を選ぶことが、安全でおいしいあくまきを作るための基本です。
灰汁の濃度調整が成功のコツ
灰汁の濃度は、あくまきの仕上がりに大きく影響します。濃すぎるとえぐみが強くなったり、もち米が硬くなりすぎたりする可能性があり、逆に薄すぎるともちもち感が不足し、色づきも不十分になることがあります。 pH試験紙などでpH値11~12を目安に調整するのがおすすめです。 灰と水の割合を調整したり、抽出時間を変えたりすることで、好みの濃度を見つけることができます。
初めて作る場合は、少量の灰汁で試しに作ってみて、最適な濃度を探るのも良い方法です。
取り扱いには細心の注意を!安全対策
灰汁は強アルカリ性の液体であり、皮膚に触れるとヌルヌルとした感触があり、刺激を感じることがあります。 目に入ると大変危険ですので、必ずゴム手袋や保護メガネを着用して作業を行いましょう。 また、換気の良い場所で作業し、誤って飲んでしまわないよう、食品と間違えやすい容器での保管は避けてください。
万が一、皮膚に付着した場合はすぐに大量の水で洗い流し、目に入った場合は直ちに医師の診察を受けてください。安全対策を怠らず、慎重に取り扱うことが重要です。
自作が難しい場合は?市販の灰汁や代用品の選択肢

自家製灰汁の作り方をご紹介しましたが、「灰を集めるのが難しい」「安全に作れるか不安」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合でも、あくまき作りを諦める必要はありません。市販の灰汁や、手軽に手に入る代用品を活用する方法もあります。
手軽に使える市販の灰汁
近年では、あくまき作りに特化した市販の灰汁水が販売されています。 鹿児島県内のスーパーマーケットや、インターネット通販などで手軽に購入できることが多いです。 市販の灰汁は、すでに適切な濃度に調整されているため、手間なく安全にあくまき作りを始められます。製品によっては、使用する木の灰の種類が明記されているものもあり、好みの風味に合わせて選ぶことも可能です。
自作が難しいと感じる方は、まず市販品から試してみるのも良いでしょう。
重曹や炭酸カリウムで代用できる?
伝統的な灰汁の代わりに、重曹(炭酸水素ナトリウム)や炭酸カリウムを代用品として使用するレシピも見られます。 これらのアルカリ性物質も、もち米のでんぷんを糊化させる効果があるため、あくまきのような食感を作り出すことが可能です。 しかし、木灰から抽出される灰汁には、重曹や炭酸カリウムだけでは得られない独特の風味やミネラル分が含まれており、伝統的なあくまきとは異なる仕上がりになる可能性があります。
代用する場合は、風味や食感の違いを理解した上で、少量から試してみることをおすすめします。
よくある質問

あくまき灰汁はどこで手に入りますか?
あくまき用の灰汁は、鹿児島県内のスーパーマーケットや土産物店で販売されていることがあります。 また、インターネット通販サイトでも「あくまき用灰汁」として購入可能です。
灰汁の代わりに重曹を使っても大丈夫ですか?
重曹(炭酸水素ナトリウム)を灰汁の代用品として使用することは可能ですが、伝統的な木灰の灰汁とは風味や食感が異なる場合があります。 木灰の灰汁に含まれるミネラル分が、あくまき独特の味や色合いに影響を与えるためです。
灰汁の保存方法を教えてください。
自家製灰汁は、清潔な密閉容器に入れて冷暗所で保存しましょう。アルカリ性のため腐敗しにくいですが、直射日光を避け、品質を保つことが大切です。 長期間保存する場合は、冷蔵庫に入れるとより安心です。
灰汁の濃度はどのくらいが適切ですか?
あくまき作りに適した灰汁のpH値は、一般的に11~12程度が目安とされています。 pH試験紙やpHメーターで確認し、必要に応じて水で薄めるか、灰を足して調整してください。
どんな木灰を使えば良いですか?
あくまき用の灰汁には、樫(かし)、椎(しい)、くぬぎ、椿(つばき)などの広葉樹の灰が上質とされています。 特に竹灰は、あくまき特有のべっ甲色やもちもち感を出すのに良いとされています。 化学処理されていない、純粋な木灰を選びましょう。
まとめ
- あくまきは南九州の伝統的な和菓子で、灰汁が独特の食感と風味を生み出す。
- 灰汁はもち米のでんぷんを糊化させ、保存性を高める役割がある。
- 自家製灰汁の材料は、化学処理されていない木灰と水が基本。
- 樫、椎、くぬぎ、椿などの広葉樹の灰が灰汁作りに適している。
- 灰と水を混ぜて一晩置き、上澄みを濾し取って灰汁を抽出する。
- 灰汁のpH値は11~12が目安で、濃度調整が重要。
- 灰汁は強アルカリ性のため、ゴム手袋や保護メガネを着用し、安全に配慮する。
- 市販の灰汁水も手軽な選択肢として利用できる。
- 重曹や炭酸カリウムで代用も可能だが、伝統的な風味とは異なる場合がある。
- 灰汁の濃度が薄い場合は、灰を足すか煮詰めて調整する。
- 灰汁の濃度が濃い場合は、水を加えて薄める。
- 濾過は複数回行い、不純物をしっかり取り除く。
- 灰汁は冷暗所で保存し、長期保存は冷蔵庫がおすすめ。
- あくまきは端午の節句に食べられることが多い。
- あくまきは戦陣食としても活用された歴史がある。
