梅雨の時期や秋の長雨のあと、家の壁や庭でうごめくヤスデの群れに、思わずゾッとした経験はありませんか?「気持ち悪い…」「どうにかしたい…」と感じている方も多いでしょう。そんな時、「ヤスデに天敵がいれば、食べてくれるのに」と考えるのは自然なことです。本記事では、ヤスデの天敵は存在するのかという疑問にお答えするとともに、なぜヤスデが大量発生するのか、そして天敵に頼らずともできる効果的な駆除・予防策まで、詳しく解説していきます。
ヤスデの天敵は存在する!でも…なぜ「無敵」と言われる?

お庭や家周りで大量発生するヤスデを前に、「こんなにたくさんいるのに、誰も食べてくれないの?」と疑問に思いますよね。実は、ヤスデにも天敵は存在します。しかし、その数は少なく、ヤスデの駆除を任せるにはあまり現実的ではありません。まずは、ヤスデの天敵となる生き物と、それでもヤスデが生き延びやすい理由について見ていきましょう。
この章では、以下の内容を解説します。
- ヤスデを捕食する意外な天敵たち
- ヤスデが「天敵に狙われにくい」驚きの理由
- 天敵を利用した駆除が現実的ではない背景
ヤスデを捕食する意外な天敵たち
数は少ないながらも、ヤスデを捕食する生き物は確かに存在します。彼らは、ヤスデが持つ防御能力をかいくぐって捕食することができる、自然界のハンターたちです。
具体的には、以下のような生き物がヤスデの天敵として知られています。
- 鳥類
ヒヨドリ、モズ、ムクドリ、カラスといった鳥は、昆虫を餌とするためヤスデも捕食対象になります。 地上を歩いているヤスデを見つけ、ついばむ姿が目撃されることがあります。
- 爬虫類・両生類
ニホントカゲやカナヘビ、そしてカエルなどもヤスデを食べることがあります。 特に、地面を活動範囲とするこれらの生き物にとって、動きの遅いヤスデは捕まえやすい餌の一つです。
- 昆虫類
肉食性の昆虫もヤスデの天敵です。例えば、カメムシの仲間であるビロードサシガメは、ヤスデを好んで捕食することが知られています。 また、幼虫の段階ではアリに捕食されることもあります。
- その他の動物
猫や、ネズミ・モグラなどの小型哺乳類もヤスデを食べることがあると言われています。 しかし、これらは積極的に狙うというよりは、偶然見つけた場合に捕食する程度と考えられます。
ヤスデが「天敵に狙われにくい」驚きの理由
天敵がいるにもかかわらず、なぜヤスデは大量発生できるのでしょうか。それは、ヤスデが持つ強力な防御能力に秘密があります。
最大の武器は、危険を察知した際に体から分泌する刺激臭のある液体です。 この液体には、種類によってシアン化合物やベンゾキノン類といった、他の生き物にとって有毒な成分が含まれています。 捕食しようとした天敵も、この強烈な臭いや味に驚いてヤスデを吐き出してしまうのです。一度まずい経験をした生き物は、次からヤスデを避けるようになります。
さらに、ヤスデは刺激を受けるとダンゴムシのように体を丸めて硬くなる習性があります。 これにより、捕食者の攻撃から柔らかい腹部を守ることができます。この「まずくて硬い」という二段構えの防御策が、ヤスデを天敵から守り、「無敵」とさえ言われる状況を作り出しているのです。
天敵を利用した駆除が現実的ではない背景
「庭に天敵の鳥やトカゲを増やせば、ヤスデが減るのでは?」と考えるかもしれません。しかし、残念ながら天敵を利用したヤスデ駆除は非常に難しいと言わざるを得ません。
その理由は、ヤスデの繁殖力にあります。ヤスデは一度に数百個もの卵を産むため、天敵が食べるスピードをはるかに上回るペースで増殖します。 また、天敵となる生き物を都合よく集めて、ヤスデだけを狙って食べさせるようにコントロールすることは不可能です。
結果として、ヤスデ問題を解決するためには、天敵に頼るのではなく、私たち自身が直接的な対策を講じる必要があるのです。次の章では、そのための最も効果的な方法である「予防策」について詳しく解説します。
天敵に頼るより効果的!ヤスデを寄せ付けないための予防策

ヤスデとの戦いにおいて最も重要なのは、発生してしまってから駆除することよりも、そもそもヤスデが住み着きにくい環境を作ることです。ヤスデが好む場所をなくし、家への侵入経路を断つことで、あの不快な光景を見なくて済むようになります。天敵に期待するよりも、確実で効果的な予防策を実践しましょう。
この章では、以下の具体的な予防策を紹介します。
- ヤスデが好む「ジメジメ環境」を改善する
- ヤスデの餌となるものを徹底的に除去する
- 家への侵入経路を物理的にシャットアウトする
ヤスデが好む「ジメジメ環境」を改善する
ヤスデは、暗く湿った場所を何よりも好みます。 庭や家の周りにある、そうした環境を改善することが、ヤスデ対策の第一歩です。
まずは、庭の水はけを良くしましょう。 雨が降った後に水たまりができやすい場所は、ヤスデの絶好の隠れ家になります。砂利を敷いたり、土壌改良を行ったりして、水が溜まらないように工夫することが大切です。
また、植木鉢やプランターの受け皿に水が溜まったままになっていませんか?これもヤスデを呼び寄せる原因になります。プランターは地面に直接置かず、ラックやスタンドの上に置くことで、風通しが良くなり、湿気がこもるのを防げます。 日当たりや風通しを良くすることは、ヤスデだけでなく他の害虫対策にも繋がります。
ヤスデの餌となるものを徹底的に除去する
ヤスデの主な餌は、腐った落ち葉や枯れ草、朽ち木などの腐植物質です。 つまり、庭の手入れを怠っていると、ヤスデに餌を与えているのと同じことになってしまいます。
特に梅雨前や秋の発生時期の前には、庭の落ち葉や雑草をこまめに掃除しましょう。 刈り取った草をそのまま放置しておくのも禁物です。これらを取り除くだけで、ヤスデの発生源を大幅に減らすことができます。
家庭菜園で使う腐葉土や堆肥もヤスデの好物です。 使用しないときは、蓋付きの容器に入れるなどして、ヤスデが寄り付かないように管理することが重要です。
家への侵入経路を物理的にシャットアウトする
ヤスデは非常に体が細く、ほんのわずかな隙間からでも家の中に侵入してきます。 庭で発生させない対策と同時に、家に入れないための対策も徹底しましょう。
以下の場所は、特にヤスデの侵入経路になりやすいので、重点的にチェックしてください。
- 窓やサッシの隙間: 隙間テープを貼って塞ぎましょう。
- 玄関ドアの下: ここにも隙間テープが有効です。
- 換気扇や通風孔: 防虫ネットやフィルターを取り付けます。
- エアコンのドレンホース: ホースの先端に防虫キャップを装着しましょう。
- 外壁のひび割れ: パテで埋めて、隙間をなくします。
これらの物理的な対策は、ヤスデだけでなく、ムカデや他の害虫の侵入を防ぐ上でも非常に効果的です。
大量発生してしまった!状況別のヤスデ駆除方法

予防策を講じていても、天候などの条件が重なるとヤスデが大量発生してしまうことがあります。壁一面にヤスデが…そんな絶望的な状況でも、慌てず適切に対処すれば大丈夫です。ここでは、屋外と屋内に分けて、効果的な駆除方法をご紹介します。
この章では、以下の駆除方法を詳しく解説します。
- 【屋外編】家の周りのヤスデを一掃する方法
- 【屋内編】家に入ってきたヤスデを安全に退治する方法
- やってはいけないNGな駆除方法とは?
【屋外編】家の周りのヤスデを一掃する方法
家の周りや外壁に大量のヤスデが発生している場合は、家への侵入を防ぐことを最優先に考えます。
最も効果的なのは、家の基礎周りに粉状の殺虫剤(粉剤)を帯状に撒くことです。 これは「防衛ライン」を築くイメージです。この薬剤の上を通ったヤスデを駆除し、家の中への侵入を阻止します。雨が降ると効果が薄れることがあるため、天気の良い日に散布し、必要に応じて撒き直しましょう。
また、消石灰を家の周りに撒くのも古くから知られる有効な方法です。 ヤスデは乾燥を嫌うため、アルカリ性で乾燥作用のある消石灰を避けます。ホームセンターなどで手軽に入手できますが、こちらも雨で流れてしまうため、定期的な散布が必要です。
壁を登っているヤスデには、ヤスデ・ムカデ用の殺虫スプレーを直接噴射するのが手っ取り早いでしょう。広範囲に発生している場合は、シャワー状に噴射できるタイプの製品が便利です。
【屋内編】家に入ってきたヤスデを安全に退治する方法
家の中でヤスデを見つけてしまったら、とにかく冷静に対処することが大切です。
一匹や二匹であれば、ティッシュで掴んでトイレに流すか、ビニール袋に入れて口を縛って捨てるのが最も簡単です。潰すと臭い液体を出す可能性があるので、力を入れすぎないように注意してください。
殺虫剤を使いたい場合は、冷却タイプの凍結スプレーがおすすめです。 殺虫成分を含まないため、お子様やペットがいるご家庭でも比較的安心して使えます。ヤスデの動きを瞬時に止めることができるので、後処理も楽になります。
もし、部屋のあちこちでヤスデを見かけるような状況であれば、燻煙剤(くんえんざい)を使用するのも一つの手です。 部屋の隅々にまで薬剤が行き渡り、隠れているヤスデもまとめて駆除できます。ただし、使用方法をよく読み、ペットや植物、火災報知器などへの配慮を忘れないようにしましょう。
やってはいけないNGな駆除方法とは?
ヤスデを駆除する際に、避けるべき方法があります。それは、掃除機で吸い込むことと、熱湯をかけることです。
掃除機で吸うと、中でヤスデが刺激を受けて悪臭を放つ液体を分泌し、排気口から強烈な臭いが部屋中に拡散してしまいます。一度ついた臭いはなかなか取れないため、絶対にやめましょう。
熱湯をかけるとヤスデは死にますが、この時も悪臭ガスを発生させることがあります。 特に大量のヤスデに熱湯をかけると、気分が悪くなるほどの臭いになる可能性があるため、推奨できません。
そもそもヤスデってどんな虫?生態と発生のメカニズム

敵を知ることは、対策を立てる上で非常に重要です。ヤスデがどんな生き物で、なぜ特定の時期に大量発生するのかを知ることで、より効果的に対策を打つことができます。実は、ヤスデはただの不快害虫ではなく、自然界では重要な役割を担っている一面もあるのです。
この章では、ヤスデの知られざる生態に迫ります。
- 益虫?害虫?ヤスデの本当の姿
- ヤスデが大量発生する驚きの理由
- もう間違えない!ヤスデ・ムカデ・ゲジゲジの見分け方
益虫?害虫?ヤスデの本当の姿
その見た目や大量発生する様子から、多くの人に嫌われているヤスデ。しかし、自然界において彼らは「分解者」という大切な役割を持つ益虫なのです。
ヤスデは、落ち葉や朽ち木などの有機物を食べて分解し、土壌を豊かにしてくれます。 その働きは、土の中にいるミミズとよく似ています。彼らがいるおかげで、森の土は栄養豊かになり、植物が元気に育つことができるのです。人を咬んだり刺したりすることもなく、毒性も非常に弱い(体液に触れるとかぶれる程度)ため、本来は人間に直接的な害を与える虫ではありません。
ただ、その不快な見た目、刺激を与えたときに出す臭い、そして家屋に侵入してくるという行動から、「不快害虫」として扱われてしまっているのが実情です。
ヤスデが大量発生する驚きの理由
なぜヤスデは、特定の時期に一斉に現れるのでしょうか。これには、ヤスデのライフサイクルと天候が大きく関係しています。
ヤスデの多くは、秋に産卵し、幼虫のまま土の中で冬を越します。 そして春から初夏にかけて成長し、梅雨の時期(6月~7月)に成虫となって地上に出てきます。 これが、梅雨時に大量発生が起こる一つの理由です。
もう一つの大きな原因は「大雨」です。 ヤスデは湿った場所を好みますが、水に溺れるのは嫌いです。そのため、大雨が降って土の中が水浸しになると、溺れるのを避けるために一斉に地上へ避難してくるのです。 これが、コンクリートの壁やブロック塀などにびっしりと集まっている、あの光景の正体です。彼らにとっては、生きるための必死の避難行動なのです。
もう間違えない!ヤスデ・ムカデ・ゲジゲジの見分け方
足がたくさんある虫を見ると、すぐに「ムカデだ!」とパニックになる方もいるかもしれませんが、ヤスデ、ムカデ、ゲジゲジは全く別の生き物です。特にムカデは毒を持っているため、見分けることは非常に重要です。
以下の表で、それぞれの特徴を比較してみましょう。
特徴 | ヤスデ | ムカデ | ゲジゲジ |
---|---|---|---|
見た目 | 細長く、筒状の体。ダンゴムシに似ている。 | 平たい体。頭に毒アゴがある。 | 非常に長い脚と触角が特徴。体は短い。 |
脚の生え方 | 1つの体節から2対(4本) | 1つの体節から1対(2本) | 1つの体節から1対(2本) |
動き | ゆっくり、ウネウネと動く。 | 非常に素早い。攻撃的。 | 驚くほど素早く、カサカサと走る。 |
危険性 | 咬まない。悪臭を放つ体液を出す。 | 毒アゴで咬む。激しい痛み。 | 咬まない。毒はほぼ無害。見た目が不快。 |
食性 | 腐った植物(益虫) | 昆虫など(肉食) | ゴキブリなど(益虫) |
最も重要な見分けポイントは脚の生え方です。体を横から見て、1つの節から脚が2対(4本)見えればヤスデ、1対(2本)ならムカデかゲジゲジです。動きが遅く、刺激すると丸まるのがヤスデと覚えておきましょう。
ヤスデの天敵に関するよくある質問(Q&A)

ここでは、ヤスデやその天敵に関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。
ヤスデを食べる鳥はいますか?
はい、います。ヒヨドリ、モズ、ムクドリ、カラスなどの鳥類がヤスデを捕食することがあります。 彼らは雑食性または昆虫食性であり、地上を歩いているヤスデを見つけて食べます。しかし、ヤスデの防御能力(悪臭)のため、好んで食べるわけではなく、またヤスデの大量発生を抑制できるほどの捕食量ではありません。
アリはヤスデの天敵になりますか?
はい、天敵になることがあります。特に、ヤスデがまだ小さく、外皮が柔らかい幼虫の時期には、アリに捕食されることがあります。 しかし、成虫になると硬い外皮と防御用の液体を持つため、アリが捕食するのは難しくなります。そのため、アリがヤスデの数をコントロールするほどの力はありません。
ヤスデに毒はありますか?触っても大丈夫?
ヤスデはムカデのように人を咬むための毒アゴは持っていません。 しかし、危険を感じると体側線から刺激性の体液を分泌します。 この液体にはシアン化合物などが含まれていることがあり、皮膚に直接触れると、ヒリヒリとした痛みやかぶれ、水ぶくれなどを引き起こす可能性があります。 素手で触ったり、潰したりするのは絶対に避けてください。もし触ってしまった場合は、すぐに石鹸でよく洗い流しましょう。
ヤスデは益虫なのに、なぜ駆除するのですか?
自然界において、ヤスデは落ち葉などを分解して土に還す「益虫」です。 しかし、ひとたび人間の生活圏、特に家の中に侵入してくると話は別です。そのグロテスクな見た目や、大量発生する様子、そして不快な臭いは、私たちに精神的な苦痛を与えます。このことから「不快害虫」と呼ばれ、駆除の対象となるのです。森の中にいるヤスデは放置しても問題ありませんが、家やその周りで大量発生した場合は、快適な生活を守るために駆除が必要になります。
ゲジゲジはヤスデを食べますか?
ゲジゲジ(ゲジ)は肉食性で、ゴキブリなどの小さな虫を捕食してくれる益虫です。 しかし、ゲジゲジがヤスデを主食にしているという報告はほとんどありません。ヤスデの防御能力を考えると、ゲジゲジも積極的にヤスデを捕食対象とはしていない可能性が高いです。そのため、ゲジゲジがヤスデの天敵として機能することは期待できないでしょう。
まとめ

- ヤスデの天敵は鳥、トカゲ、カエル、一部の昆虫など。
- 天敵は存在するが、駆除を任せるのは現実的ではない。
- ヤスデは悪臭を放つ液体と硬い体で身を守る。
- 天敵に頼るより、ヤスデが嫌う環境を作ることが重要。
- 予防の基本は「掃除」と「除湿」。
- 庭の落ち葉や雑草はヤスデの餌になるため除去する。
- 水はけを良くし、ジメジメした場所をなくすこと。
- 家の隙間をテープやパテで塞ぎ、侵入経路を断つ。
- 屋外の駆除には粉剤や殺虫スプレーが効果的。
- 屋内の駆除には凍結スプレーが安全でおすすめ。
- 掃除機で吸ったり熱湯をかけたりするのはNG。
- ヤスデは本来、土を豊かにする「益虫」である。
- 大雨が降ると、溺れるのを避けて地上に大量発生する。
- ヤスデは脚が1節に2対、ムカデは1対で見分ける。
- ヤスデの体液は皮膚炎の原因になるため素手で触らない。