大切に育てている梅の木に、なんだか元気がない。葉が縮れていたり、幹から樹液が出ていたり…。もしかしたら、それは害虫の仕業かもしれません。梅の木は美味しい実をつける一方で、残念ながら多くの虫がつきやすい樹木でもあります。虫を放置してしまうと、見た目が悪くなるだけでなく、最悪の場合、木が枯れてしまうことも。本記事では、梅の木に発生しやすい代表的な害虫の種類から、初心者でもできる駆除方法、そして大切な梅の木を虫から守るための予防策まで、写真付きで詳しく解説していきます。
大切な梅の木が危ない!こんな症状はありませんか?害虫被害のサイン

梅の木に虫がつくと、様々なサインが現れます。早期発見が、被害を最小限に食い止める鍵です。「いつもと違うな」と感じたら、以下の点をチェックしてみてください。放置すると、梅の木が弱り、実がならなくなったり、枯れてしまったりする可能性があります。
- 葉っぱの異常(穴あき、変色、縮れ)
- 幹や枝の異常(ヤニ、木くず、白い綿のようなもの)
- 新芽や実に群がる小さな虫
- 葉や枝が黒いすすで覆われている
これらの症状は、害虫が梅の木の樹液を吸ったり、葉や幹を食べたりしているサインです。特に、春から夏にかけては害虫の活動が活発になるため、注意深く観察することが重要です。これから、具体的にどのような害虫が原因でこれらの症状が起こるのかを見ていきましょう。
【写真で解説】梅の木につく代表的な害虫と被害症状

梅の木には様々な種類の害虫が発生します。ここでは特に被害が多く、注意が必要な代表的な害虫を、その特徴や被害の症状とともに写真付きで詳しく解説します。ご自身の梅の木の状態と見比べて、害虫の正体を突き止めましょう。
アブラムシ類(ウメクビレアブラムシ、スモモオマルアブラムシなど)

アブラムシは、梅の木で最もよく見られる害虫の一つです。体長2mm程度の小さな虫で、新芽や若い葉の裏にびっしりと群生します。 梅の木には、ウメクビレアブラムシやスモモオマルアブラムシなどが寄生します。
彼らは植物の汁を吸って加害し、その結果、葉が縮れたり、変形したりする「縮葉病」に似た症状を引き起こします。 大量に発生すると、枝の伸長が悪くなり、樹勢が衰える原因となります。 また、アブラムシの排泄物は「すす病」という、葉や枝が黒いすすで覆われる病気を誘発することもあります。
発生時期は主に春先の4月から5月頃です。 暖かくなると急速に増殖するため、見つけ次第、早めの対策が必要です。
カイガラムシ類(ウメシロカイガラムシ、タマカタカイガラムシ)

カイガラムシは、その名の通り貝殻のような硬い殻や、白い綿のようなもので体を覆っている害虫です。 梅の木では特にウメシロカイガラムシとタマカタカイガラムシが問題となります。
枝や幹にびっしりと固着し、樹液を吸って木を弱らせます。 大量に発生すると、枝全体が真っ白に見えるほどになり、放置すると枝が枯れたり、最悪の場合は木全体が枯死することもある恐ろしい害虫です。 ウメシロカイガラムシは年に3回(5月、7月、11月頃)、タマカタカイガラムシは年に1回(5月下旬から6月中旬)幼虫が発生します。
成虫になると硬い殻に覆われて薬剤が効きにくくなるため、幼虫が発生する時期を狙って駆除するのが最も効果的です。
ケムシ・ガの幼虫(イラガ、アメリカシロヒトリなど)

梅の木の葉を食い荒らすのが、ケムシ類、つまりガの幼虫です。代表的なものにイラガやアメリカシロヒトリがいます。
イラガの幼虫は鮮やかな黄緑色で、サボテンのようなトゲを持っているのが特徴です。 このトゲには毒があり、触れると電気が走ったような激しい痛みに襲われます。 7月頃によく発生し、葉を食害します。
アメリカシロヒトリは、春と秋の2回発生し、若い幼虫は糸を張って巣を作り、その中で集団で葉を食べます。成長すると分散して木全体の葉を食い尽くすこともあります。
どちらのケムシも食欲旺盛で、放置すると葉が丸裸にされてしまうこともあります。見つけ次第、特に毒のあるイラガには直接触れないよう注意しながら駆除する必要があります。
コスカシバ

コスカシバは、成虫はハチに似たガの一種ですが、問題となるのはその幼虫です。 幼虫は乳白色のイモムシ状で、梅の木の幹や枝の樹皮下に潜り込んで内部を食い荒らします。
被害を受けた部分からは、ヤニ(樹脂)と幼虫のフンが混ざったものが出てくるのが特徴的なサインです。 この食害によって木の生育が阻害されるだけでなく、傷口から病原菌が侵入し、「胴枯病」などの病気を引き起こして木を枯らしてしまうこともあります。
成虫は5月上旬ごろに現れ、幹の傷などに産卵します。 幼虫が樹皮の下にいるため、薬剤が届きにくく駆除が難しい害虫の一つです。
【状況別】梅の木の害虫駆除方法|自分でできる対策から農薬まで

害虫を発見したら、被害が広がる前に迅速に対処することが大切です。「でも、どうやって駆除すればいいの?」と不安に思う方もいるでしょう。ここでは、薬剤を使わない手軽な方法から、効果的な農薬の使い方まで、状況に合わせた駆除方法を具体的にご紹介します。
- 薬剤を使わない!手軽にできる駆除方法
- 農薬(殺虫剤)を使った駆除方法
- 被害にあった枝の剪定
ご自身の状況や、薬剤使用への考え方に合わせて、最適な方法を選んで実践してみてください。
薬剤を使わない!手軽にできる駆除方法
「小さな子供やペットがいるから、できれば農薬は使いたくない」と考える方も多いでしょう。ご安心ください。薬剤を使わなくても、害虫を駆除する方法はあります。発生初期や被害が少ない場合には、これらの方法で十分に対応可能です。
手で取る・歯ブラシでこする
最もシンプルで直接的な方法です。アブラムシやケムシなど、目に見える虫は、ガムテープに貼り付けたり、割り箸でつまんで取り除きます。 カイガラムシのように幹や枝に固着している場合は、使い古しの歯ブラシなどでこすり落とすのが効果的です。 木を傷つけないように、優しくこするのがコツです。ただし、イラガなどの毒を持つ毛虫には絶対に素手で触れないでください。
木酢液や牛乳スプレーを散布する
木酢液は、炭を焼くときに出る煙を冷やして液体にしたもので、独特の燻製のような匂いがします。 この匂いを害虫が嫌うため、忌避効果が期待できます。また、土壌改良の効果もあるとされています。 規定の倍率に水で薄めて、葉や幹に散布します。
牛乳を水で薄めてスプレーする方法も、アブラムシ対策として知られています。牛乳が乾くときに膜を作り、アブラムシを窒息させる効果があると言われています。ただし、使用後は水で洗い流さないと腐敗して臭いやカビの原因になることがあるので注意が必要です。
天敵を利用する(テントウムシなど)
自然の力を借りる方法もあります。アブラムシの天敵であるテントウムシは、強力な助っ人です。 庭でテントウムシを見かけたら、そっと梅の木に移してあげましょう。益虫を呼び込むために、殺虫剤の使用を控えることも大切です。最近では、インターネット通販で天敵昆虫を購入することも可能です。
農薬(殺虫剤)を使った駆除方法
害虫が大量に発生してしまった場合や、物理的な駆除では追いつかない場合は、農薬(殺虫剤)の使用が効果的です。適切な薬剤を正しい時期に使うことで、効率的に害虫を駆除できます。
薬剤の種類と選び方
梅の木に使える殺虫剤には様々な種類があります。代表的なものとしては、広範囲の害虫に効く「スミチオン乳剤」や、越冬するカイガラムシに効果的な「マシン油乳剤」などがあります。
どの害虫にどの薬剤が効くかは、製品のラベルに記載されています。購入する際は、対象の害虫と、梅の木に使用できることを必ず確認してください。 ホームセンターや園芸店で相談するのも良いでしょう。
カイガラムシの成虫のように殻に覆われている害虫には、浸透移行性(薬剤が植物に吸収され、樹液を吸った虫を駆除するタイプ)の殺虫剤がおすすめです。
散布の時期と注意点
薬剤散布で最も重要なのはタイミングです。多くの害虫は、幼虫の時期が最も薬剤が効きやすいです。例えば、カイガラムシは幼虫が発生する5月下旬~6月や7月が狙い目です。
散布する際は、風のない穏やかな日を選び、マスクや手袋、保護メガネを着用して、薬剤が体にかからないように注意してください。 葉の裏や枝の密集した部分など、害虫が隠れやすい場所にもムラなく散布するのがポイントです。 また、実を収穫する予定がある場合は、収穫前何日まで使用できるか(収穫前日数)を必ず確認しましょう。
被害にあった枝の剪定
害虫の被害がひどい枝や、アブラムシで葉がひどく縮れてしまった枝、カイガラムシがびっしりついた枝などは、思い切って剪定してしまうのも一つの手です。
被害部分を切り取ることで、害虫の密度を物理的に減らし、他の健康な部分へ被害が拡大するのを防ぎます。 切り取った枝は、ビニール袋などに入れて密封し、速やかに処分しましょう。そのまま庭に放置すると、そこから害虫が再び広がってしまう可能性があります。
ただし、切りすぎは木の負担になるため、全体のバランスを見ながら行うことが大切です。
虫を寄せ付けない!梅の木を守るための予防策

害虫駆除も大切ですが、それ以上に重要なのが「そもそも虫を寄せ付けない」ための予防です。日頃の管理を少し工夫するだけで、害虫の発生リスクをぐっと減らすことができます。ここでは、誰でもできる効果的な予防策をご紹介します。
- 剪定で風通しを良くする
- 適切な肥料管理
- 冬の間の薬剤散布(休眠期防除)
- 年間を通した管理スケジュール
これらの対策を組み合わせて、害虫に強い健康な梅の木を育てましょう。
剪定で風通しを良くする
枝や葉が混み合って風通しが悪くなると、湿気がこもり、病害虫にとって絶好の隠れ家となってしまいます。 定期的に剪定を行い、木の内部まで日光が当たり、風が通り抜けるようにしてあげましょう。
特に、内側に向かって伸びる枝や、他の枝と交差している枝、枯れ枝などを切り落とす「透かし剪定」が効果的です。風通しが良くなることで、害虫が住み着きにくくなるだけでなく、病気の予防にも繋がります。 剪定の適期は、葉が落ちた後の冬期(11月~2月)です。
適切な肥料管理
意外に思われるかもしれませんが、肥料の与えすぎは害虫の発生を助長することがあります。特に、窒素成分の多い肥料を与えすぎると、葉や枝が軟弱に育ち、アブラムシなどの害虫を呼び寄せやすくなります。
梅の木への施肥は、年に1回、収穫後のお礼肥(6月ごろ)と、冬の寒肥(12月~1月ごろ)の2回が基本です。 与える量も、木の大きさや樹勢に合わせて調整し、過剰にならないように注意しましょう。健康な木は、それ自体が害虫に対する抵抗力を持っています。
冬の間の薬剤散布(休眠期防除)
梅の木が葉を落として休眠している冬期(12月~2月)は、害虫予防の絶好のチャンスです。この時期に薬剤を散布することを「休眠期防除」と呼びます。
この時期には、越冬しているカイガラムシの成虫や、さまざまな病害虫の卵を駆除するために、「マシン油乳剤」や「石灰硫黄合剤」を散布します。 これらの薬剤は、葉がある時期に使うと薬害が出てしまうため、必ず休眠期に使用します。
木全体をコーティングするように、枝の先から幹の根元まで丁寧に散布することで、春先の害虫の発生を大幅に抑えることができます。
年間を通した管理スケジュール
梅の木の害虫対策は、年間を通して計画的に行うことが成功のコツです。いつ、何をすれば良いのか、大まかなスケジュールを把握しておきましょう。
| 時期 | 主な作業 | 対象となる主な害虫・病気 |
|---|---|---|
| 12月~2月(冬) | 剪定、寒肥、休眠期防除(マシン油乳剤、石灰硫黄合剤散布) | カイガラムシ類、ハダニ類の越冬卵、縮葉病菌 |
| 3月~4月(春) | 開花後の薬剤散布 | アブラムシ類、黒星病 |
| 5月~6月(初夏) | 幼虫対象の薬剤散布、収穫、お礼肥 | カイガラムシ幼虫、コスカシバ、ケムシ類 |
| 7月~8月(夏) | 第2世代の害虫対策、被害枝の剪定 | ウメシロカイガラムシ、イラガ |
| 9月~11月(秋) | 落葉の清掃 | 病害虫の越冬場所を減らす |
※お住まいの地域の気候によって、時期は多少前後します。
よくある質問

梅の木の葉が縮れる原因は何ですか?
梅の木の葉が縮れる主な原因は、アブラムシ類の寄生か、縮葉病(しゅくようびょう)という病気です。 アブラムシが新芽や若い葉の裏に群がって樹液を吸うと、葉が正常に育たず、不規則に縮れたり丸まったりします。 縮葉病はカビの一種が原因で、春先の低温で雨が多い時期に発生しやすく、葉が赤っぽく膨れ上がり、縮れたようになります。 どちらの場合も、早期の薬剤散布が有効です。
幹からヤニが出ているのは病気ですか?
幹から半透明のゼリー状のヤニ(樹脂)が出ている場合、コスカシバの幼虫が幹の内部を食害している可能性が高いです。 ヤニに褐色のフンが混じっていれば、ほぼ間違いありません。 幼虫を放置すると木が弱り、枯れる原因にもなるため、ナイフなどで幹の皮を少し削って幼虫を探し出して捕殺するか、専用の薬剤を注入して駆除する必要があります。
無農薬で害虫対策はできますか?
はい、可能です。害虫の発生が少ない初期段階であれば、木酢液の散布、牛乳スプレー、テントウムシなどの天敵の利用、手やブラシでの物理的な除去などで対応できます。 また、最も重要な無農薬対策は、剪定によって風通しと日当たりを良くし、適切な施肥で木を健康に保つことです。 これにより、害虫がつきにくい環境を作ることができます。
害虫駆除の消毒はいつやるのが効果的ですか?
害虫駆除の消毒は、目的によって効果的な時期が異なります。
- 休眠期(12月~2月): カイガラムシや病原菌を越冬させないための予防消毒。マシン油乳剤や石灰硫黄合剤を散布します。
- 春先(3月~5月): アブラムシやケムシ類が発生し始める時期。見つけ次第、対応する殺虫剤を散布します。
- 初夏(5月下旬~7月): カイガラムシの幼虫が発生する時期。このタイミングを狙って薬剤を散布するのが最も効果的です。
害虫の種類とライフサイクルに合わせて、適切な時期に消毒を行うことが重要です。
業者に依頼する場合の費用は?
害虫駆除を専門の業者に依頼する場合の費用は、木の大きさや本数、被害の状況、作業内容によって大きく異なります。一般的に、1本あたり数千円から数万円が目安となります。 高所作業が必要な場合や、被害が深刻で複数回の作業が必要な場合は、費用が高くなる傾向があります。正確な料金を知るためには、複数の業者から見積もりを取って比較検討することをおすすめします。
まとめ

- 梅の木の異常は害虫のサイン。葉の縮れや幹のヤニに注意。
- 代表的な害虫はアブラムシ、カイガラムシ、ケムシ、コスカシバ。
- アブラムシは葉を縮れさせ、すす病の原因にもなる。
- カイガラムシは幹や枝に固着し、木を弱らせる。
- イラガなどのケムシは葉を食害し、毒を持つ種類もいる。
- コスカシバは幹に潜り込み、ヤニを出す原因となる。
- 駆除は手で取る、ブラシでこするなどの物理的方法がある。
- 木酢液や天敵の利用など、薬剤を使わない方法も有効。
- 大量発生時は農薬が効果的。時期と用法を守ることが重要。
- カイガラムシは幼虫の時期(5月~7月)が駆除の狙い目。
- 予防の基本は剪定。風通しと日当たりを良くする。
- 肥料の与えすぎは、かえって害虫を呼ぶ原因になる。
- 冬の休眠期防除(マシン油乳剤など)は春の害虫発生を抑える。
- 年間スケジュールを立てて計画的に管理することが大切。
- 困ったときは専門業者に相談するのも一つの選択肢。
