会社を退職し、失業保険を受給している期間は、税金や社会保険の手続きについて不安を感じる方も多いのではないでしょうか。特に年末調整や確定申告は、普段会社任せにしていることが多いため、どのように対応すれば良いのか迷ってしまいます。本記事では、失業保険と年末調整の関係性や、具体的な書き方、そして確定申告が必要になるケースまで、分かりやすく解説します。
失業保険と年末調整の基本的な関係性

失業保険(雇用保険の基本手当)は、再就職を目指す方の生活を支援するための大切な制度です。しかし、この失業保険が税金とどのように関わるのか、年末調整の対象になるのかといった疑問は尽きません。まずは、失業保険と年末調整の基本的な関係性を理解しましょう。
失業保険は非課税所得だから年末調整は不要?
結論から言うと、失業保険(基本手当)は「非課税所得」に該当します。そのため、所得税や住民税といった税金は課税されません。失業中の生活を支援する目的で支給されるお金であり、「収入」とはみなされないため、基本的に確定申告の必要もありません。この点は、所得税法第9条に明記されています。
したがって、失業保険の受給額を年末調整の書類に記載する必要はありません。会社に年末調整をしてもらう場合も、失業保険の申告は不要です。
年末調整が必要になるケースとは?
失業保険自体は非課税のため年末調整の対象外ですが、年の途中で退職し、その年に別の会社に再就職した場合は、新しい会社で年末調整を受けることになります。この際、前職の給与所得と新しい会社の給与所得を合算して年末調整が行われます。
また、年内に再就職しなかった場合でも、退職前の給与から源泉徴収された所得税が払いすぎている可能性があるため、確定申告をすることで還付金を受け取れる場合があります。
年末調整は、原則として12月31日時点で会社に在籍している従業員が対象です。 そのため、年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合は、年末調整を受けることができません。
【ケース別】失業保険受給中の年末調整の書き方と対応方法

失業保険を受給している期間は、その年の働き方によって年末調整や確定申告の対応が変わってきます。ここでは、具体的なケースに分けて、年末調整の書き方と対応方法を詳しく見ていきましょう。
年途中で再就職し、新しい会社で年末調整を受ける場合
年の途中で退職し、その年のうちに新しい会社に再就職した場合、年末調整は新しい会社で行われます。この際、前職の給与と新しい会社の給与を合算して税額が計算されるため、いくつかの書類を提出する必要があります。
前職の源泉徴収票の提出
新しい会社で年末調整を受けるためには、前職の会社から発行される「源泉徴収票」を新しい会社に提出する必要があります。源泉徴収票には、前職で支払われた給与の金額や、源泉徴収された所得税額などが記載されています。
通常、退職後1ヶ月以内に発行されますが、年末調整の時期が迫っている場合は、早めに前職の担当者に連絡して発行してもらいましょう。
失業保険の記載は不要
失業保険は非課税所得であるため、年末調整の書類に記載する必要はありません。新しい会社に失業保険の受給を伝える義務もありません。
年末調整は給与所得に対する所得税の精算を行うものであり、失業保険は給与所得には含まれないため、記載することでかえって混乱を招く可能性もあります。
年途中で退職し、年内に再就職しなかった場合
年の途中で退職し、その年の12月31日時点で再就職していない場合は、年末調整の対象外となります。この場合、自分で確定申告を行うことで、払いすぎた税金が還付される可能性があります。
年末調整は不要、確定申告が必要なケース
年末調整は、原則として12月31日時点で会社に在籍している従業員が対象です。そのため、年内に再就職しなかった場合は、会社で年末調整を受けることができません。
しかし、退職前の給与から天引きされていた所得税は、1年間勤務することを前提に計算されているため、退職によって払いすぎになっていることがあります。この払いすぎた税金を取り戻すためには、自分で確定申告(還付申告)を行う必要があります。
確定申告で還付を受ける方法
確定申告で還付を受けるためには、以下の書類を準備し、税務署に提出します。
- 源泉徴収票(前職の会社から発行されたもの)
- 国民健康保険料や国民年金保険料の控除証明書(自分で支払っていた場合)
- 生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書など(該当する場合)
- 医療費控除の明細書(医療費控除を受ける場合)
- マイナンバーカードまたは通知カードと身元確認書類
これらの書類を基に確定申告書を作成し、税務署の窓口に持参するか、郵送、またはe-Taxを利用して提出します。
年末調整後に退職し、失業保険を受給した場合
年末調整が完了した後に会社を退職し、失業保険の受給を開始した場合は、基本的に追加で年末調整や確定申告を行う必要はありません。年末調整でその年の所得税は精算済みであり、失業保険は非課税所得だからです。
ただし、退職後にアルバイトなどで新たな所得を得た場合や、医療費控除などの適用を受けたい場合は、確定申告が必要になることがあります。この場合も、失業保険の受給額を申告する必要はありません。
失業保険以外にアルバイトなどの所得があった場合
失業保険の受給中に、生活費を補うためにアルバイトやパートなどで収入を得る方もいるでしょう。この場合、そのアルバイト収入が課税対象となり、年末調整や確定申告が必要になることがあります。
アルバイト先が1社で、そこで年末調整が行われた場合は、原則として確定申告は不要です。しかし、複数のアルバイト先から給与を得ていたり、年末調整を受けていない収入があったりする場合、または給与所得以外の所得(不動産所得や配当所得など)が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要になります。
失業保険は非課税ですが、アルバイト収入は課税対象となるため、正確な申告を心がけることが大切です。
確定申告が必要になるケースと進め方

失業保険を受給した年でも、特定の状況では確定申告が必要になります。確定申告は、年末調整では対応できない控除を受けたり、年間の所得税を正しく精算したりするために重要な手続きです。ここでは、確定申告が必要になる主なケースと、その進め方について解説します。
確定申告で還付申告をするメリット
確定申告を行うことで、払いすぎた所得税が還付される「還付申告」ができる場合があります。特に、年の途中で退職し、年末調整を受けていない方は、退職前の給与から天引きされていた所得税が過払いになっている可能性が高いです。
また、医療費控除や寄付金控除、雑損控除など、年末調整では申告できない所得控除を受けたい場合も、確定申告が必要です。これらの控除を適用することで、税負担を軽減し、還付金を受け取れるメリットがあります。
失業期間中に国民年金や国民健康保険の保険料を自分で支払っていた場合も、社会保険料控除として確定申告で申告することで、所得税の還付を受けられる可能性があります。
確定申告の具体的な進め方
確定申告は、通常、翌年の2月16日から3月15日の間に行います。還付申告の場合は、この期間に限らず、対象となる年の翌年1月1日から5年間提出が可能です。
確定申告の進め方は以下の通りです。
- 必要書類の準備: 前職の源泉徴収票、社会保険料控除証明書、生命保険料控除証明書、医療費の領収書や明細書など、申告内容に応じた書類を揃えます。
- 確定申告書の作成: 国税庁のウェブサイトで提供されている確定申告書作成コーナーを利用するか、税務署で用紙を入手して手書きで作成します。
- 提出: 作成した確定申告書を、所轄の税務署に持参、郵送、またはe-Tax(電子申告)で提出します。
e-Taxを利用すると、自宅からインターネットを通じて申告できるため、非常に便利です。不明な点があれば、税務署や税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。
年末調整・確定申告でよくある質問

失業保険を受給している期間の年末調整や確定申告に関して、多くの方が疑問に感じる点をまとめました。これらの情報を参考に、ご自身の状況に合わせた適切な対応を見つけてください。
- 失業保険の受給期間中に扶養に入ることはできますか?
- 失業保険と住民税の関係はどうなりますか?
- 年末調整の書類を紛失してしまったらどうすればいいですか?
- 退職金は年末調整の対象になりますか?
- 雇用保険の基本手当以外に課税される手当はありますか?
失業保険の受給期間中に扶養に入ることはできますか?
失業保険の受給期間中に扶養に入れるかどうかは、社会保険上の扶養と所得税上の扶養で基準が異なります。
所得税上の扶養(配偶者控除・扶養控除)は、「所得ベース」で判定されます。失業保険は非課税所得であり所得に含まれないため、他に所得がなければ配偶者控除や扶養控除を受けられる可能性があります。
一方、社会保険上の扶養は、「年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)」が基準となります。失業保険の基本手当は、社会保険上の収入とみなされるため、日額3,612円以上の失業給付を受け取っていると、扶養から外れる可能性が高くなります。
待期期間や給付制限期間中は扶養に入れることが多いですが、失業給付の受給が開始されると、基本手当日額によっては扶養から外れる手続きが必要になるため、注意が必要です。
失業保険と住民税の関係はどうなりますか?
失業保険(雇用保険の基本手当)は、所得税と同様に住民税も非課税所得とされています。
そのため、失業保険の受給額に対して住民税が課税されることはありません。しかし、住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、退職後も前年の所得に対する住民税の支払いが発生します。
失業によって収入が大幅に減少した場合、住民税の支払いが困難になることもあります。その場合は、自治体によっては住民税の減免制度が利用できることがありますので、お住まいの市区町村役場に相談してみましょう。
年末調整の書類を紛失してしまったらどうすればいいですか?
年末調整に必要な書類(源泉徴収票や各種控除証明書など)を紛失してしまった場合でも、再発行が可能です。
- 源泉徴収票: 前職の会社に依頼すれば再発行してもらえます。
- 生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書など: 加入している保険会社に連絡すれば再発行してもらえます。再発行には時間がかかる場合があるため、早めに手続きを行いましょう。
- 国民年金保険料控除証明書: 日本年金機構に再発行を依頼できます。
書類が揃わないと年末調整や確定申告ができないため、紛失に気づいたら速やかに再発行の手続きを進めることが重要です。
退職金は年末調整の対象になりますか?
退職金は、年末調整の対象にはなりません。 その理由は、退職金が「給与所得」ではなく「退職所得」という別の所得の種類に分類されるためです。
退職所得には、長年の勤務に対する功労や老後の生活保障という性質があるため、税負担が大幅に軽くなる「退職所得控除」という特別な優遇措置が設けられています。
退職金は、通常、会社が支払い時に税金を計算し、源泉徴収によって納税が完了するため、原則として確定申告も不要です。 ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない場合は、確定申告が必要になることがあります。
雇用保険の基本手当以外に課税される手当はありますか?
雇用保険から支給される手当の多くは非課税ですが、一部課税対象となるものもあります。失業保険(基本手当)の他に、再就職手当や就業促進定着手当、育児休業給付金なども非課税です。
しかし、雇用保険法に基づく給付金以外で、例えば会社から支給される退職金や、失業中に得たアルバイト収入などは課税対象となります。
また、傷病手当金も非課税ですが、健康保険から支給される傷病手当金と雇用保険から支給される傷病手当(失業中の病気やケガで求職活動ができない場合に受けるもの)は異なるため、注意が必要です。
まとめ
- 失業保険(基本手当)は非課税所得であり、所得税や住民税はかからない。
- 失業保険の受給額を年末調整の書類に記載する必要はない。
- 年途中で再就職した場合、新しい会社で前職の源泉徴収票を提出し年末調整を受ける。
- 年内に再就職しなかった場合、年末調整は不要だが確定申告で還付を受けられる可能性がある。
- 確定申告は、退職前の給与の過払い税金や各種控除を受けるために有効。
- 失業保険以外にアルバイトなどの所得があった場合、その所得は課税対象となる。
- 確定申告は翌年2月16日から3月15日、還付申告は5年間提出可能。
- 失業保険受給中の社会保険上の扶養は、基本手当日額によって外れる場合がある。
- 住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、失業中でも支払いが発生する。
- 年末調整や確定申告の書類を紛失しても再発行が可能。
- 退職金は年末調整の対象外であり、退職所得として別途課税される。
- 再就職手当や育児休業給付金も非課税所得である。
- 不明な点は税務署や専門家に相談するのがおすすめ。
- 確定申告で社会保険料控除を適用すると税金が軽減される。
- 住民税の減免制度も利用できる可能性がある。
