おでこや鼻にできた黄色っぽいポツポツ。「ニキビかと思ったら、ずっと治らない…」それはもしかしたら脂腺増殖症（しせんぞうしょくしょう）かもしれません。見た目が気になるこのできもの、塗り薬で手軽に治せたら嬉しいですよね。本記事では、脂腺増殖症に塗り薬は効果があるのか、市販薬は使えるのか、そして皮膚科ではどのような治療が行われるのかを詳しく解説します。あなたの長年の悩みを解決するヒントがきっと見つかるはずです。
最初に結論から。脂腺増殖症を塗り薬だけで治すのは難しいのが現実
鏡を見るたびに気になる、顔のポツポツとしたできもの。脂腺増殖症かもしれないと思いつつ、「塗り薬で治らないかな？」と期待している方も多いのではないでしょうか。最初に結論をお伝えすると、残念ながら塗り薬だけで脂腺増殖症を完全に治すことは難しいのが現状です。
脂腺増殖症は、皮膚の深い部分にある「脂腺」という皮脂を分泌する組織が増えすぎてしまうことで起こります。塗り薬の成分が、この増殖してしまった脂腺の根元まで到達し、組織そのものをなくすのは非常に困難なのです。そのため、塗り薬はあくまで症状を緩和したり、皮脂の分泌を抑えたりといった補助的な役割で使われることが多く、根本的な治療にはなりにくいことを理解しておく必要があります。
脂腺増殖症の治療で処方される可能性のある塗り薬
塗り薬だけでの完治は難しいとお伝えしましたが、皮膚科では症状の改善を目的としていくつかの塗り薬が処方されることがあります。ここでは、どのような薬が使われる可能性があるのかを見ていきましょう。
本章で解説する塗り薬は以下の通りです。
- 皮脂の分泌を抑える「レチノイド（トレチノイン）」
- ニキビ治療薬の「アダパレン（ディフェリンゲル）」
- 角質を柔らかくする「サリチル酸ワセリン」
皮脂の分泌を抑える「レチノイド（トレチノイン）」
レチノイドはビタミンA誘導体の一種で、肌のターンオーバーを促進し、皮脂腺の働きを抑制する効果が期待できます。これにより、皮脂の過剰な分泌が抑えられ、脂腺増殖症の盛り上がりが少し小さくなる可能性があります。有名なものに「トレチノイン」がありますが、日本では医薬品として承認されていないため、治療に用いる場合は自費診療となります。
使用開始時には、赤み、皮むけ、ヒリヒリ感といった「レチノイド反応」と呼ばれる副作用が出ることがあります。医師の指導のもと、少量から慎重に使用を開始することが重要です。効果には個人差が大きく、あくまで症状を軽減させる目的で使われることが多いです。
ニキビ治療薬の「アダパレン（ディフェリンゲル）」
「ディフェリンゲル」という商品名で知られるアダパレンは、主にニキビ治療に用いられる塗り薬です。レチノイドと似た作用を持ち、毛穴の詰まりを改善する効果があります。脂腺増殖症は皮脂腺の病気であるため、その働きを抑える目的で応用的に処方される可能性があります。
ただし、アダパレンは脂腺増殖症に対する保険適用はありません。そのため、処方されるかどうかは医師の診断と判断によります。こちらもトレチノインと同様に、使い始めに乾燥や皮むけなどの刺激症状が現れることがあります。
角質を柔らかくする「サリチル酸ワセリン」
サリチル酸には、硬くなった角質を柔らかくする「角質融解作用」があります。脂腺増殖症の表面の角質を少しずつ溶かすことで、盛り上がりをわずかに平坦にする効果が期待できます。しかし、これは表面的な処置に過ぎず、増殖した脂腺そのものを取り除くことはできません。
効果は非常に限定的であり、根本的な解決には至らないため、他の治療法と組み合わせて補助的に用いられるか、ごく軽度の場合に試されることがある程度です。効果を実感できるまでには時間がかかることが多いでしょう。
気になる市販薬の効果は？「イボコロリ」や「オロナイン」は使える？
皮膚科に行くのは少しハードルが高いと感じ、「市販薬でなんとかならないか」と考える方も少なくないでしょう。特にイボに効くとされる薬や、家庭の常備薬としておなじみの軟膏が頭に浮かぶかもしれません。しかし、自己判断での使用は注意が必要です。
この章では、多くの方が疑問に思う市販薬の効果について解説します。
- イボやニキビの薬は効果があるの？
- 自己判断で市販薬を使うことの危険性
イボやニキビの薬は効果があるの？
ドラッグストアで手軽に購入できる薬で治せたら、それに越したことはありませんよね。しかし、残念ながら脂腺増殖症に効果が期待できる市販薬は、現在のところ存在しないと言ってよいでしょう。
例えば、魚の目やタコ、イボの治療薬として知られる「イボコロリ」などの主成分はサリチル酸です。これは硬い角質を溶かす作用がありますが、脂腺増殖症はウイルス性のイボとは原因が全く異なります。 脂腺増殖症は皮膚の深い部分にある脂腺の増殖が原因なので、表面の角質を少し溶かしたところで、根本的な解決にはなりません。 むしろ、健康な皮膚まで傷つけてしまい、炎症や色素沈着といった肌トラブルを引き起こすリスクがあります。
また、「オロナイン」などの殺菌・消毒作用のある軟膏も、細菌感染が原因ではない脂腺増殖症には効果がありません。 ニキビ薬も同様で、アクネ菌の殺菌や炎症を抑えることを目的としているため、原因の異なる脂腺増殖症には効果は期待できないのです。
自己判断で市販薬を使うことの危険性
最も避けたいのは、自己判断で市販薬を使い、症状を悪化させてしまうことです。 脂腺増殖症だと思っていたものが、実は別の皮膚疾患だったという可能性もゼロではありません。似たような見た目のできものには、粉瘤（ふんりゅう）や稗粒腫（はいりゅうしゅ）、さらには稀ですが悪性の腫瘍の可能性も考えられます。
間違ったケアは、治療をより困難にしてしまう可能性があります。例えば、強い薬で皮膚にダメージを与えてしまうと、いざ専門的な治療を受ける際に、傷跡が残りやすくなるなどのデメリットが生じることもあります。気になるできものがあれば、まずは安易に市販薬に頼るのではなく、皮膚科の専門医に相談し、正確な診断を受けることが、美肌への一番の近道と言えるでしょう。
根本治療を目指すなら。皮膚科で行われる主な治療法
塗り薬での改善が難しい脂腺増殖症ですが、皮膚科や形成外科では、より効果的な治療法が用意されています。見た目の問題を根本的に解決したいと考えるなら、これらの治療法が主な選択肢となります。ここでは、代表的な治療法とその特徴、費用の目安について詳しく見ていきましょう。
本章で紹介する治療法は以下の通りです。
- 主流な治療法「炭酸ガスレーザー」
- 電気の力で焼き切る「電気メス（電気焼灼）」
- その他の治療法（液体窒素・外科的切除）
- 【一覧表】脂腺増殖症の治療法と費用を比較
主流な治療法「炭酸ガスレーザー」
現在、脂腺増殖症の治療で最も一般的に行われているのが炭酸ガス（CO2）レーザーによる治療です。 このレーザーは水分に反応する特性があり、皮膚に含まれる水分に吸収されることで熱エネルギーを発生させ、できものを瞬間的に蒸散（蒸発させて削り取る）させます。
メリットは、ピンポイントで病変部だけを狙って除去できるため、周囲の正常な皮膚へのダメージを最小限に抑えられる点です。 そのため、出血もほとんどなく、治療後の傷跡が比較的きれいに治りやすいとされています。 治療は局所麻酔をしてから行うため、施術中の痛みはほとんどありません。
デメリットとしては、基本的に美容目的とみなされるため、保険適用外の自費診療となることが挙げられます。 また、治療後は患部が少しへこんだ状態になり、新しい皮膚が再生するまで1〜2週間ほど保護テープなどを貼る必要があります。 その後、しばらく赤みが続きますが、数ヶ月かけて徐々に目立たなくなっていきます。
電気の力で焼き切る「電気メス（電気焼灼）」
電気メス（高周波メス）も、脂腺増殖症の治療によく用いられる方法です。 これは、高周波の電流を流せるメス状の器具で、できものを焼き切ったり、削り取ったりする治療法です。 レーザーと同様に、増殖した脂腺組織を熱で破壊して除去します。
メリットは、レーザーと同様に比較的短時間で治療が完了し、止血しながら処置ができる点です。クリニックによっては、レーザー治療よりも安価な場合があります。デメリットとしては、レーザーに比べて熱が周囲に広がりやすく、治療後の傷跡や色素沈着がやや目立ちやすくなる可能性があるとされています。 もちろん、医師の技術力によって仕上がりは大きく変わります。
こちらも局所麻酔下で行われ、基本的には自費診療となります。
その他の治療法（液体窒素・外科的切除）
上記2つの方法以外にも、いくつかの選択肢があります。
- 液体窒素療法
マイナス196℃の超低温の液体窒素でできものを凍結させて壊死させる方法です。 イボ治療でよく用いられますが、脂腺増殖症は皮膚の深い部分に原因があるため、この方法で完全に取り除くのは難しく、再発しやすいとされています。 治療を繰り返すと色素沈着や傷跡が残るリスクもあるため、積極的に選択されることは少なくなっています。 - 外科的切除
メスを使ってできものを切り取り、皮膚を縫い合わせる方法です。 この方法の最大のメリットは、増殖した脂腺組織を完全に取り除けるため、再発の可能性が最も低いことです。 しかし、他の方法に比べて傷跡が線状に残りやすく、ダウンタイムも長くなる傾向があります。 大きな脂腺増殖症や、悪性の疑いが捨てきれない場合に選択されることがあります。 - イソトレチノイン内服
重症のニキビ治療薬であるイソトレチノインの内服薬が、脂腺増殖症を縮小させる効果があるとの報告があります。 皮脂腺を強力に萎縮させる作用によるものですが、日本では未承認の薬剤であり、様々な副作用のリスクもあるため、治療の選択肢としては限定的です。
【一覧表】脂腺増殖症の治療法と費用を比較
ここまで紹介した治療法を、特徴と費用の目安で比較してみましょう。費用はあくまで一般的な相場であり、クリニックや個数、大きさによって変動します。
| 治療法 | 特徴 | 費用の目安（1個あたり） | 保険適用 |
|---|---|---|---|
| 炭酸ガスレーザー | 主流の治療法。傷跡が残りにくく、仕上がりがきれい。 | 5,000円～15,000円程度 | なし（自費） |
| 電気メス（電気焼灼） | レーザーと同様に一般的。比較的安価な場合がある。 | 5,000円～10,000円程度 | なし（自費） |
| 液体窒素療法 | 効果が不確実で再発しやすい。色素沈着のリスクも。 | 数千円程度 | あり（ただし推奨されないことが多い） |
| 外科的切除 | 再発は少ないが、線状の傷跡が残る。 | 8,000円～15,000円程度 | あり（機能的な問題がある場合など） |
※費用はあくまで目安です。正確な料金は各医療機関にお問い合わせください。
そもそも脂腺増殖症って何？原因と症状を正しく知ろう
ここまで治療法について詳しく見てきましたが、そもそも「脂腺増殖症」とはどのようなものなのでしょうか。正しい知識を持つことで、ご自身の症状への理解が深まり、適切な対処につながります。ここでは、脂腺増殖症の基本的な情報について解説します。
この章で解説する内容は以下の通りです。
- 脂腺増殖症の主な原因は加齢やホルモンバランス
- 見た目の特徴とできやすい場所
- これって脂腺増殖症？似ているできものとの違い
脂腺増殖症の主な原因は加齢やホルモンバランス
脂腺増殖症のはっきりとした原因はまだ完全には解明されていません。 しかし、いくつかの要因が関わっていると考えられています。
主な原因として挙げられるのは、加齢です。 年齢を重ねることで皮膚の機能が変化し、脂腺が過剰に増殖しやすくなると言われています。そのため「老人性脂腺増殖症」と呼ばれることもありますが、実際には20代や30代の若い世代でも発症することがあります。
また、男性ホルモンの影響も指摘されています。 皮脂の分泌は男性ホルモンによってコントロールされているため、ホルモンバランスの変化が脂腺の増殖を促す一因となるようです。その他、長年の紫外線ダメージの蓄積や、遺伝的な体質も関係していると考えられています。
見た目の特徴とできやすい場所
脂腺増殖症は、見た目にいくつかの特徴があります。典型的な症状は以下の通りです。
- 色と形: 少し黄色みがかった、あるいは肌色の、直径1mm～5mm程度のドーム状の盛り上がり。
- 中央のへこみ: よく見ると、できものの中央がへそのように少しへこんでいるのが特徴的です。
- 発生場所: 皮脂腺の多い、顔（特に額、こめかみ、鼻、頬などのTゾーン）によく発生します。 1つだけポツンとできることもあれば、複数個がまとまってできることもあります。
- 自覚症状: 基本的に痛みやかゆみといった自覚症状はありません。 良性のできものなので、放置しても健康上の問題はありませんが、見た目が気になるという美容的な観点から治療を希望される方がほとんどです。
ニキビのように炎症を起こしたり、自然に消えたりすることはなく、一度できるとそのまま残り、数年かけて少しずつ大きくなったり、数が増えたりすることがあります。
これって脂腺増殖症？似ているできものとの違い
顔にできるポツポツとしたできものは、脂腺増殖症以外にもいくつか考えられます。自己判断は禁物ですが、参考までに似ている疾患との違いを知っておきましょう。
- 稗粒腫（はいりゅうしゅ・ひりゅうしゅ）: 目の周りによくできる、白くて硬い1〜2mmの粒々。皮膚の浅い部分にできた角質の塊です。
- 粉瘤（ふんりゅう・アテローム）: 皮膚の下に袋状の構造物ができ、そこに垢や皮脂が溜まったもの。中央に黒い点（開口部）が見られることがあります。
- * 汗管腫（かんかんしゅ）: 目の下などに多発する、肌色〜やや黄みがかった平たい盛り上がり。汗を出す管が増殖したものです。
* ウイルス性のイボ（尋常性疣贅）: 表面がザラザラしていることが多く、ヒトパピローマウイルスへの感染が原因です。
これらの鑑別は、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を使えば、皮膚科医には比較的容易です。 正確な診断と適切な治療のために、まずは専門医に診てもらうことが大切です。
脂腺増殖症に関するよくある質問
ここでは、脂腺増殖症に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えしていきます。
脂腺増殖症は自分で潰しても大丈夫ですか？
絶対にやめてください。脂腺増殖症はニキビのように中に膿が溜まっているわけではなく、増殖した皮脂腺の塊です。無理に潰そうとしても中身は出てきませんし、皮膚を傷つけて細菌感染を起こしたり、炎症後の色素沈着や消えない傷跡を残したりする原因になります。自己判断での処置は百害あって一利なしです。
放置するとどうなりますか？自然に治ることはありますか？
脂腺増殖症は良性の腫瘍なので、放置しても健康上の問題はありません。 しかし、自然に消えることはなく、時間とともに少しずつ大きくなったり、数が増えたりすることがあります。 見た目が気になる場合は、治療を検討するのがよいでしょう。
治療に健康保険は適用されますか？
脂腺増殖症の治療は、多くの場合、美容目的と判断され、保険適用外の自費診療となります。 特に、炭酸ガスレーザーや電気メスによる治療は、ほとんどのクリニックで自費診療です。 ただし、できものが非常に大きい、悪性腫瘍との鑑別が必要で病理検査を行う場合など、医師の診断によっては外科的切除が保険適用になるケースもあります。 詳しくは受診する医療機関にご確認ください。
治療後に再発する可能性はありますか？
再発の可能性はあります。 特に、レーザーや電気メスで削る治療の場合、増殖した脂腺組織を完全に取り切れずに一部が残ってしまうと、そこから再び大きくなることがあります。 再発のリスクを最も低くできるのは外科的切除ですが、傷跡が残りやすいというデメリットがあります。 また、治療した場所以外に、新たに別の脂腺増殖症ができることもあります。
脂腺増殖症を予防したり、増やさないようにしたりする方法はありますか？
残念ながら、脂腺増殖症の発生を完全に予防する確実な方法はありません。しかし、原因の一つと考えられている紫外線ダメージを防ぐことは、新たな発生や悪化を遅らせる上で有効と考えられます。日頃から日焼け止めを塗る、帽子や日傘を活用するなど、紫外線対策を徹底しましょう。また、皮脂の過剰な分泌を抑えるために、バランスの取れた食事や十分な睡眠、ストレスを溜めない生活を心がけることも大切です。
治療を受けるなら何科の病院に行けばいいですか？
脂腺増殖症の診断・治療は、皮膚科または形成外科を受診してください。特に、炭酸ガスレーザーや電気メスなどの美容的な治療を希望する場合は、これらの治療機器を備えている美容皮膚科や形成外科を選ぶとよいでしょう。まずは相談しやすい近くの皮膚科で診断をつけてもらい、必要に応じて治療ができるクリニックを紹介してもらうという方法もあります。
レーザー治療に痛みはありますか？
レーザー治療を行う際は、事前に局所麻酔の注射をするため、施術中の痛みはほとんどありません。 麻酔の注射の際にチクッとした痛みを感じる程度です。痛みの感じ方には個人差がありますが、我慢できないほどの痛みを感じることは稀ですので、ご安心ください。不安な方は、事前に医師に相談しておくと良いでしょう。
まとめ
- 脂腺増殖症を塗り薬だけで完治させるのは困難です。
- 塗り薬は皮脂分泌を抑えるなど補助的な効果が主です。
- 市販のイボ治療薬やニキビ薬は効果がありません。
- 自己判断での市販薬使用は肌トラブルの原因になります。
- 根本治療には皮膚科でのレーザー治療が主流です。
- 炭酸ガスレーザーは傷跡が残りにくく、仕上がりが綺麗です。
- 電気メスも一般的な治療法で、比較的安価な場合があります。
- 治療は基本的に保険適用外の自費診療となります。
- 脂腺増殖症は加齢やホルモンが原因と考えられています。
- 見た目は黄色っぽく、中央がへこんでいるのが特徴です。
- 放置しても健康上の問題はありませんが、自然には消えません。
- 自分で潰すのは絶対にやめましょう。
- 再発の可能性はどの治療法でもゼロではありません。
- 予防には紫外線対策が重要です。
- 治療の相談は皮膚科または形成外科を受診してください。
