建設現場で安全に作業を進める上で、足場の存在は不可欠です。しかし、その足場が原因で、毎年多くの労働災害が発生しているという事実をご存知でしょうか。厚生労働省の統計によると、建設業における死亡災害の原因で最も多いのが「墜落・転落」であり、その多くが足場に関連するものです。 安全な作業環境を確保し、悲惨な事故を防ぐためには、法律で定められた適切な点検が極めて重要になります。
本記事では、足場の種類に応じた具体的な点検チェックリストを詳しく解説します。この記事を読めば、法改正にも対応した正確な点検方法を理解し、現場の安全性を飛躍的に高めることができます。 あなたと作業員の命を守るため、ぜひ最後までご覧ください。
なぜ足場の点検が重要なのか?事故防止と法的義務

建設現場における足場は、高所作業を安全かつ効率的に行うための重要な設備です。しかし、その一方で、足場の不備は墜落・転落といった重大な労働災害に直結する危険性をはらんでいます。なぜ、これほどまでに足場の点検が重要視されるのでしょうか。その理由は、悲惨な事故を未然に防ぐことはもちろん、法律によって厳しく義務付けられているからに他なりません。
この章では、足場点検の重要性について、以下の2つの側面から掘り下げていきます。
- 足場からの墜落・転落災害の実態
- 労働安全衛生規則に基づく点検義務
足場からの墜落・転落災害の実態
建設業における労働災害の中で、墜落・転落による死傷者数は常に上位を占めており、その多くが足場からの事故です。 例えば、手すりが適切に設置されていなかった、作業床に隙間があった、部材が劣化していたなど、点検をしっかり行っていれば防げたはずの事故が後を絶ちません。 これらの事故は、被災した作業員本人やその家族に計り知れない苦しみを与えるだけでなく、企業にとっても大きな損失となります。
安全は全てに優先するという意識を持ち、日々の点検を徹底することが、尊い命を守るための第一歩です。事故が起きてからでは遅いのです。過去の事故事例を教訓とし、同じ過ちを繰り返さないためにも、点検の重要性を再認識する必要があります。
労働安全衛生規則に基づく点検義務
足場の点検は、単なる推奨事項ではありません。労働安全衛生規則(安衛則)によって、事業者および注文者(元請業者)に明確に義務付けられています。 この法律は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的としており、足場の安全基準についても詳細に定められています。
具体的には、足場の組立・一部解体・変更後や、悪天候の後など、特定のタイミングでの点検が義務付けられています。 さらに、2023年10月からは、点検者の指名と氏名の記録・保存も義務化され、点検の責任の所在がより明確になりました。 これらの法的な義務を怠った場合、罰則が科される可能性もあります。しかし、それ以上に重要なのは、法律を守ることが作業員の安全確保に直結するという点です。法令遵守は、安全管理の基本中の基本と言えるでしょう。
【種類別】足場の点検チェックリスト

建設現場で使用される足場には、建物の形状や作業内容に応じて様々な種類が存在します。 それぞれ構造や部材が異なるため、点検すべきポイントも当然変わってきます。ここでは、代表的な足場の種類ごとに、具体的な点検チェックリストを紹介します。これらのリストを活用し、抜け漏れのない確実な点検を実施してください。
本章で解説する足場の種類は以下の通りです。
- 枠組足場の点検チェックリスト
- 単管足場の点検チェックリスト
- くさび緊結式足場の点検チェックリスト
- 吊り足場・張出し足場の点検チェックリスト
- その他の足場(移動式足場など)の点検チェックリスト
枠組足場の点検チェックリスト
枠組足場は、建枠、ジャッキベース、交さ筋かい、鋼製布板などの部材で構成される、最も一般的な足場の一つです。 組立・解体が比較的容易で、強度も高いため、多くの現場で採用されています。点検の際は、各部材の緊結状態や損傷の有無を重点的に確認することが重要です。
以下に、枠組足場の点検チェックリストの例を示します。
分類 | 点検項目 | 点検内容 |
---|---|---|
脚部 | 敷板・敷角 |
・沈下や滑動はないか。 ・損傷や割れはないか。 |
ジャッキベース |
・敷板に釘などで確実に固定されているか。 ・ハンドルの損傷や曲がりはないか。 ・高さの調整は適切か。 | |
根がらみ |
・所定の位置にクランプで確実に取り付けられているか。 ・損傷や変形はないか。 | |
建枠・緊結部 | 建枠 |
・変形や損傷はないか。 ・アームロックなどで確実に接続されているか。 |
交さ筋かい |
・全層・全スパンに設置されているか。 ・ピンで確実にロックされているか。 ・変形や損傷はないか。 | |
緊結金具 |
・クランプ等に損傷や腐食はないか。 ・ボルトやナットに緩みはないか。 | |
作業床 | 床材(鋼製布板) |
・変形や損傷、腐食はないか。 ・フック(つかみ金具)は確実にロックされているか。 ・床材間の隙間は3cm以下か。 ・床材と建地との隙間は12cm未満か。 |
積載荷重 | ・最大積載荷重の表示がされているか。 | |
墜落・落下防止設備 | 手すり・中さん・幅木 |
・所定の高さに確実に取り付けられているか。 ・取り外しや脱落はないか。 ・妻側にも設置されているか。 |
メッシュシート・防網 |
・全てのハトメで緊結されているか。 ・破れや損傷はないか。 | |
補強材 | 壁つなぎ・控え |
・所定の間隔で設置されているか。 ・躯体の堅固な部分に確実に取り付けられているか。 ・取り外しや緩みはないか。 |
昇降設備 | 階段・はしご |
・安全に昇降できる設備が設けられているか。 ・手すりは設置されているか。 ・損傷や変形はないか。 |
単管足場の点検チェックリスト
単管足場は、直径48.6mmの鋼管(単管パイプ)をクランプという金具で緊結して組み立てる足場です。 形状の自由度が高く、狭い場所や複雑な形状の建物にも対応できるのが特徴です。しかし、その分、緊結部の数が多くなるため、クランプの緩みが事故に直結しやすいという注意点があります。点検では、一つ一つのクランプを丁寧に確認することが求められます。
以下に、単管足場の点検チェックリストの例を示します。
分類 | 点検項目 | 点検内容 |
---|---|---|
脚部 | 敷板・ベース金具 |
・沈下や滑動はないか。 ・ベース金具は敷板に釘などで固定されているか。 |
根がらみ | ・地上第一の布は、地上から適切な高さに設置されているか。 | |
緊結部・接続部 | 建地・布・腕木 |
・単管に変形や損傷、腐食はないか。 ・建地の間隔、布の間隔は適切か。 |
クランプ |
・損傷や腐食はないか。 ・ボルトは確実に締め付けられているか(緩みはないか)。 | |
接続部(ジョイント) | ・建地の接続部に抜けや緩みはないか。 | |
作業床 | 床材(足場板) |
・変形や損傷、割れはないか。 ・2本以上の支持物(腕木)に確実に取り付けられているか。 ・床材間の隙間は3cm以下か。 ・床材と建地との隙間は12cm未満か。 |
積載荷重 | ・最大積載荷重の表示がされているか。 | |
墜落・落下防止設備 | 手すり・中さん・幅木 |
・所定の高さに確実に取り付けられているか。 ・取り外しや脱落はないか。 |
メッシュシート・防網 |
・破れやほつれはないか。 ・確実に取り付けられているか。 | |
補強材 | 筋かい・壁つなぎ |
・筋かいは適切な間隔で設置されているか。 ・壁つなぎは所定の間隔で、堅固な部分に確実に取り付けられているか。 |
昇降設備 | 昇降設備 | ・安全な昇降設備が設けられているか。 |
くさび緊結式足場の点検チェックリスト
くさび緊結式足場(ビケ足場)は、一定間隔に緊結部を備えた鋼管を支柱とし、手すりや筋かいなどをくさびで打ち込み、緊結するタイプの足場です。 ハンマー1本で組み立て・解体ができるため作業性に優れ、低中層の住宅工事などで広く使用されています。点検の鍵は、くさびが緊結部にしっかりと打ち込まれ、ロックされているかを確認することです。
以下に、くさび緊結式足場の点検チェックリストの例を示します。
分類 | 点検項目 | 点検内容 |
---|---|---|
基礎・脚部 | 敷板・ジャッキベース |
・地盤は安定しているか。 ・敷板、敷角を使用し、ジャッキベースは釘などで固定されているか。 ・ジャッキハンドルの高さは適切か。 |
根がらみ | ・根がらみは直角2方向に確実に取り付けられているか。 | |
緊結部・接続部 | 支柱・布材・ブラケット |
・支柱はジャッキベースに正しく差し込まれているか。 ・支柱の接続部はロックピンなどで確実にロックされているか。 ・くさびは緊結部に確実に打ち込まれ、緩みはないか。 |
部材の損傷 | ・支柱、布材、ブラケット等に変形や損傷、腐食はないか。 | |
作業床 | 床付き布わく(アンチ) |
・変形や損傷はないか。 ・外れ止め(ロック)は確実に機能しているか。 ・床材間の隙間は3cm以下か。 ・床材と建地との隙間は12cm未満か。 |
積載荷重 | ・最大積載荷重の表示がされているか。 | |
墜落・落下防止設備 | 先行手すり・手すり・中さん・幅木 |
・所定の位置に確実に取り付けられているか。 ・くさびは確実に打ち込まれているか。 ・取り外しや脱落はないか。 |
メッシュシート |
・全てのハトメで緊結されているか。 ・破れや損傷はないか。 | |
補強材 | 壁つなぎ |
・所定の垂直・水平間隔で設置されているか。 ・躯体側、足場側ともに堅固な位置に固定されているか。 |
昇降設備 | 階段・はしご |
・安全な昇降設備が設けられているか。 ・手すりや踊り場は適切に設置されているか。 |
吊り足場・張出し足場の点検チェックリスト
吊り足場や張出し足場は、橋梁工事やプラントメンテナンスなど、地面から足場を組むことが困難な場所で使用される特殊な足場です。吊りチェーンや吊り金具、突りょうなどで構造物を支持するため、これらの支持部分の安全性が極めて重要になります。点検は特に慎重に行う必要があります。
以下に、吊り足場・張出し足場の点検チェックリストの例を示します。
分類 | 点検項目 | 点検内容 |
---|---|---|
支持構造 | 吊り材(チェーン、ワイヤーロープ等) |
・損傷、摩耗、腐食、キンクはないか。 ・間隔は設計通りか。 |
緊結金具(吊り元、フック等) |
・亀裂、変形、腐食はないか。 ・支持構造物に確実に固定されているか。 ・緩みや外れはないか。 | |
突りょう・支持点 |
・変形、損傷、腐食はないか。 ・堅固な構造部材に確実に取り付けられているか。 | |
作業床 | 床材(足場板) |
・変形、損傷、割れはないか。 ・隙間なく敷き詰められているか。 ・番線などで確実に固定されているか。 |
根太・つり桁 |
・変形、損傷、腐食はないか。 ・緊結金具で確実に固定されているか。 | |
墜落・落下防止設備 | 手すり・中さん・幅木 |
・所定の高さに確実に取り付けられているか。 ・取り外しや脱落はないか。 |
防網 | ・作業床の下に隙間なく張られているか。 | |
補強材 | 筋かい・控え・振れ止め |
・確実に取り付けられているか。 ・取り外しや緩みはないか。 |
その他 | 最大積載荷重 | ・見やすい場所に表示されているか。 |
その他の足場(移動式足場など)の点検チェックリスト
上記以外にも、現場では様々な種類の足場が使用されます。代表的なものとして、キャスター付きで移動が可能な「移動式足場(ローリングタワー)」があります。移動式足場は、その手軽さから安易に使用されがちですが、転倒事故のリスクも高いため、特有の点検項目を理解しておくことが重要です。
以下に、移動式足場の点検チェックリストの例を示します。
分類 | 点検項目 | 点検内容 |
---|---|---|
脚部 | キャスター |
・ブレーキ(ロック装置)は確実に機能するか。 ・車輪に損傷や摩耗はないか。 ・脚柱への取り付けは確実か。 |
アウトリガー |
・必要な場合に設置されているか。 ・ジャッキで確実に固定されているか。 ・損傷や変形はないか。 | |
設置場所 | ・堅固で平坦な場所に設置されているか。 | |
構造部 | 建枠・筋かい等 |
・枠組足場や単管足場の点検項目に準じて確認する。 ・変形、損傷、緊結部の緩みはないか。 |
作業床 | 作業床 |
・手すり、中さん、幅木は設置されているか。 ・最大積載荷重は表示されているか。 |
使用方法 | 移動時の注意 | ・作業者を乗せたまま移動していないか。 |
足場の点検を行うタイミングと点検者

足場の安全性を確保するためには、「何を」点検するかだけでなく、「いつ」「誰が」点検するのかを正しく理解しておくことが不可欠です。労働安全衛生規則では、点検を実施すべきタイミングと、点検を行うべき者について明確に定められています。これらのルールを遵守することが、現場の安全管理の根幹をなします。
この章では、足場点検のタイミングと点検者について、以下の項目に分けて詳しく解説します。
- 組立・一部変更・一部解体後
- 作業開始前(毎日の点検)
- 悪天候(大雨、大雪、強風など)の後
- 点検者の資格要件
組立・一部変更・一部解体後
足場を新たに組み立てた後、または構造の一部を変更したり、一部を解体したりした後は、事業者および注文者(元請業者)が共同で点検を行うことが義務付けられています。 これは、足場の構造が変化した際に、その安全性を改めて確認するための重要な点検です。
このタイミングでの点検は、前章で紹介した種類別のチェックリストに基づき、全ての項目を網羅的に確認する必要があります。 点検の結果、異常が認められた場合は、直ちに補修しなければなりません。 また、この点検結果は、点検者の氏名とともに記録し、その足場を使用する作業が終了するまで保存する義務があります。
作業開始前(毎日の点検)
その日の作業を開始する前には、事業者(足場を使用する下請負業者など)が日常的な点検を行う必要があります。 この点検は、主に作業員が直接利用する箇所の安全性を確認するもので、特に墜落防止設備(手すり、中さん等)の取り外しや脱落がないかを重点的にチェックします。
毎日の点検は、作業員の安全意識を高める上でも非常に重要です。朝礼時などに、その日の作業範囲の足場状態を全員で確認するなどの取り組みも有効でしょう。もし異常を発見した場合は、すぐに責任者に報告し、補修が完了するまでその足場を使用しない、させないというルールを徹底することが大切です。
悪天候(大雨、大雪、強風など)の後
強風、大雨、大雪といった悪天候や、震度4以上の中程度の地震が発生した後も、事業者および注文者(元請業者)による点検が必要です。 悪天候や地震は、足場の緊結部を緩ませたり、部材を損傷させたり、基礎を不安定にさせたりする可能性があるため、作業を再開する前に必ず安全性を確認しなければなりません。
解釈例規では、点検が必要な悪天候の目安として以下のように示されています。
- 強風: 10分間の平均風速が10m/s以上
- 大雨: 1回の降雨量が50mm以上
- 大雪: 1回の降雪量が25cm以上
これらの基準に達しない場合でも、現場の状況に応じて危険が予想される場合は、自主的に点検を行うことが望ましいです。この点検結果も、組立後の点検と同様に記録・保存が義務付けられています。
点検者の資格要件
足場の点検は、誰でも行えるわけではありません。労働安全衛生規則では、点検者をあらかじめ指名することが義務付けられており、その点検者は「足場に関する十分な知識・経験を有する者」でなければならないとされています。
具体的には、以下のような者が該当すると考えられています。
- 足場の組立て等作業主任者(能力向上教育修了者であることが望ましい)
- 労働安全コンサルタント(試験区分が土木または建築)
- 建設業労働災害防止協会などが実施する「足場点検実務者研修」の修了者
特に、組立後や悪天候後の詳細な点検については、これらの資格を持つ者が行うことが強く推奨されます。 点検者の氏名を記録・保存することが義務化された背景には、点検の責任を明確にし、より確実な安全点検を実施させる狙いがあります。 会社として有資格者を育成し、適切な人物を点検者として指名することが重要です。
点検を確実に行うためのポイント

これまで足場の種類別チェックリストや点検のタイミングについて解説してきましたが、ルールを知っているだけでは安全は確保できません。大切なのは、それらのルールを現場でいかに確実に実行するかです。形骸化した点検では意味がありません。ここでは、点検をより実効性のあるものにするための具体的なポイントを解説します。
この章で取り上げるポイントは以下の通りです。
- 5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底
- 点検記録簿の適切な作成と保管
- 点検に役立つツールやアプリの紹介
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底
安全な作業環境の基礎となるのが「5S」です。これは製造業などでよく知られる考え方ですが、建設現場、特に足場の安全管理においても非常に重要です。
- 整理: 不要な物を捨てること。作業床の上に不要な資材や工具が放置されていると、つまずきや落下の原因になります。
- 整頓: 必要な物を使いやすい場所に置くこと。資材を決められた場所に整然と置くことで、作業効率が上がり、危険な置き方を防げます。
- 清掃: 常にきれいに掃除すること。作業床の泥やゴミを清掃することで、滑りによる転倒を防ぎます。また、清掃は部材の損傷や異常の早期発見にも繋がります。
- 清潔: 整理・整頓・清掃の状態を維持すること。きれいな状態を保つことで、危険箇所が目につきやすくなります。
- しつけ: 決められたルール・手順を正しく守る習慣をつけること。点検のルールを守る、保護帽を正しく着用するなど、基本的な規律を守る意識を全員で共有することが不可欠です。
5Sが徹底された現場は、見た目がきれいなだけでなく、危険の芽が摘み取られた安全な現場であると言えます。足場の点検を行う前に、まずは作業床の5Sから始めることを心がけましょう。
点検記録簿の適切な作成と保管
労働安全衛生規則により、組立後や悪天候後などの点検結果は記録し、保存することが義務付けられています。 この点検記録簿は、単に義務だから作成するのではなく、安全管理の重要なツールとして活用すべきです。
良い点検記録簿を作成するためのポイントは以下の通りです。
- 具体的な記述: 「良」「否」だけでなく、異常があった場合は「どの場所」の「何が」「どのように」悪いのかを具体的に記述します。写真などを添付するのも有効です。
- 是正内容の記録: 異常箇所をどのように補修したのか、その内容と完了日、確認者を明確に記録します。
- 点検者氏名の明記: 2023年10月の法改正で義務化された点検者の氏名を必ず記録します。 これにより、点検の責任感が向上します。
- フォーマットの統一: 会社や現場でチェックリストのフォーマットを統一することで、点検の標準化が図れ、誰が見ても分かりやすい記録になります。
作成された記録簿は、その足場を使用する作業が終了するまで大切に保管してください。 これらの記録は、万が一の事故の際に会社の安全管理体制を証明する重要な書類となるほか、将来の安全計画を立てる上での貴重な資料にもなります。
点検に役立つツールやアプリの紹介
近年、ICT技術の活用により、足場点検をより効率的かつ正確に行うためのツールやアプリが登場しています。これらを活用することで、点検業務の負担を軽減し、質の向上を図ることが可能です。
例えば、以下のようなものがあります。
- 点検用アプリ: スマートフォンやタブレット上でチェックリストに記入し、写真を撮影してそのまま報告書を作成できるアプリ。ペーパーレス化を実現し、情報の共有もスムーズになります。
- ドローン: 高所や危険で人が近づきにくい箇所の足場の状態を、安全な場所から映像で確認できます。特に大規模な足場の全体像を把握するのに有効です。
- センサー技術: 足場の揺れや部材の歪みを検知するセンサーを取り付け、異常があれば管理者に通知するシステム。24時間体制での監視が可能になります。
もちろん、これらのツールはあくまで補助的なものであり、最終的な判断は経験豊富な点検者の目視が基本となります。しかし、最新技術をうまく取り入れることで、ヒューマンエラーを減らし、より高度な安全管理を実現できる可能性があります。自社の状況に合わせて、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問

ここでは、足場の点検に関して現場の担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。日々の業務の参考にしてください。
足場の点検ハンマーは何のために使うのですか?
足場の点検ハンマーは、主に単管足場などで使用されるクランプのボルトやナットの緩みをチェックするために使います。ハンマーで軽く叩いた際の音や感触で、締付けが十分かどうかを判断します。締まっているボルトは「カンカン」という甲高い音がしますが、緩んでいると「ゴンゴン」という鈍い音がします。また、部材の腐食や亀裂などを打音で確認するためにも使用されます。ただし、強く叩きすぎると部材を傷つける可能性があるので注意が必要です。
足場の点検者に資格は必須ですか?
労働安全衛生規則では、点検者を「足場に関する十分な知識・経験を有する者」から指名することが定められていますが、特定の国家資格が必須とされているわけではありません。 しかし、厚生労働省は通達などで「足場の組立て等作業主任者」や「足場点検実務者研修の修了者」などを例示しており、これらの資格を持つ者が点検を行うことが強く推奨されています。 安全管理の責任を果たす上で、客観的に能力を証明できる有資格者を点検者とすることが望ましいでしょう。
点検チェックリストのテンプレートはどこで手に入りますか?
点検チェックリストのテンプレートは、様々な場所で入手可能です。例えば、厚生労働省や建設業労働災害防止協会のウェブサイトで、公式な様式例が公開されています。 また、足場メーカーやレンタル会社が、自社製品に対応したチェックリストを提供している場合もあります。 これらのテンプレートを参考に、自社の現場の実情に合わせてカスタマイズして使用するのが良いでしょう。Excel形式でダウンロードできるものも多く、便利です。
点検で不備が見つかった場合はどうすればよいですか?
点検で足場に不備や異常を発見した場合は、直ちに補修しなければなりません。 補修が完了するまでは、その足場での作業を中止し、関係者以外の立ち入りを禁止する措置を講じる必要があります。補修が完了したら、その内容(いつ、どこを、どのように補修したか)を点検記録簿に記録し、安全が確認された上で作業を再開します。 「少しぐらい大丈夫だろう」という安易な判断が重大事故に繋がることを肝に銘じ、不備の放置は絶対にあってはなりません。
毎日の作業開始前点検は誰が行うべきですか?
その日の作業を開始する前に行う日常点検は、労働安全衛生規則上、事業者(その足場を使用する会社の事業者)が行うこととされています。 具体的には、その日の作業を指揮する職長や、実際にその足場で作業を行う作業員が点検者として指名されることが一般的です。 自分たちが使う足場の安全は自分たちで確認するという意識を持つことが重要です。
悪天候の基準について具体的に教えてください。
労働安全衛生規則の解釈例規では、点検が必要となる悪天候の目安として、強風(10分間の平均風速10m/s以上)、大雨(1回の降雨量50mm以上)、大雪(1回の降雪量25cm以上)が示されています。 また、地震については震度4以上が目安となります。ただし、これはあくまで目安であり、この基準に達していなくても、現場の状況を見て危険だと判断した場合は、自主的に点検を行うことが求められます。
まとめ

- 足場からの墜落・転落は建設業の重大災害の主因です。
- 足場の点検は労働安全衛生規則で定められた法的義務です。
- 2023年10月から点検者の指名と氏名の記録が義務化されました。
- 足場には枠組、単管、くさび緊結式など様々な種類があります。
- 足場の種類ごとに構造が異なり、点検項目も変わります。
- 枠組足場では建枠や交さ筋かいの緊結状態が重要です。
- 単管足場ではクランプ一つ一つの緩みを入念に確認します。
- くさび緊結式足場はくさびの打ち込みとロックが鍵です。
- 吊り足場は吊り材や支持点の安全性が最重要項目です。
- 点検は組立後、作業開始前、悪天候後などに行います。
- 点検者は十分な知識と経験を持つ者から指名が必要です。
- 作業床の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)が安全の基本です。
- 点検記録簿は具体的に記述し、是正内容まで記録します。
- 点検アプリやドローンなどのICT活用も有効な手段です。
- 不備を発見した場合は、直ちに補修し記録することが鉄則です。