夜も眠れないほどの激しいかゆみ、体に広がる赤いブツブツ。「もしかしてこれって疥癬？」と不安になり、「とりあえず市販の塗り薬でなんとかしたい」と考えていませんか？一刻も早くこのつらい症状から解放されたいそのお気持ち、とてもよく分かります。しかし、焦って自己判断で薬を選ぶのは少し待ってください。
本記事では、疥癬に市販の塗り薬が使えるのか、なぜ皮膚科での治療が不可欠なのか、そして正しい治療法について、あなたの不安に寄り添いながら詳しく解説していきます。
【結論】疥癬を完治させる市販の塗り薬はありません
まず最も重要な結論からお伝えします。残念ながら、2025年現在、疥癬の原因であるヒゼンダニを完全に駆除し、病気を根本から治療できる市販の塗り薬は販売されていません。 「かゆみ止め」として一時的に症状を和らげる市販薬は存在しますが、それは対症療法に過ぎず、疥癬そのものを治すことはできないのです。
この章では、なぜ市販薬では疥癬が治せないのか、そして自己判断で市販薬を使うことの危険性について詳しく見ていきましょう。
なぜ？ヒゼンダニを殺す成分は処方箋が必要
疥癬は、ヒゼンダニという非常に小さなダニが皮膚の角質層に寄生することで発症する皮膚感染症です。 したがって、疥癬を完治させるためには、このヒゼンダニを殺す効果のある成分（殺虫成分）を含んだ薬が必要になります。
現在、日本で疥癬の治療薬として保険適用が認められている塗り薬の主な成分は「フェノトリン」や「イオウ」などです。 また、飲み薬として「イベルメクチン」という成分も用いられます。 これらの成分は、医師の診断と監督のもとで正しく使用する必要があるため、処方箋がなければ入手できません。
薬局やドラッグストアで誰でも簡単に購入できる市販薬に、これらの強力な殺虫成分を含めることは、副作用のリスクや誤った使用による健康被害を防ぐ観点から認められていないのです。疥癬の診断は、湿疹など他の皮膚疾患と見分けるのが難しい場合もあり、専門家である医師による正確な診断が治療の第一歩となります。
自己判断は危険！症状悪化や感染拡大のリスクも
「とりあえずかゆみだけでも抑えたい」という気持ちで市販薬に手を伸ばしたくなるかもしれませんが、それには大きなリスクが伴います。特に注意が必要なのが、ステロイド成分を含む塗り薬です。
ステロイドは炎症を抑える効果が高いため、かゆみや赤みを一時的に和らげることができます。しかし、疥癬に対して使用すると、皮膚の免疫力を低下させてしまい、ヒゼンダニの増殖を逆に手助けしてしまうことがあるのです。 その結果、症状がさらに悪化し、ダニの数が爆発的に増える「角化型疥癬（かくかがたかいせん）」という重症型に移行する危険性すらあります。 角化型疥Zenは感染力が非常に強く、周囲の人々へ感染を拡大させてしまう重大な原因にもなり得ます。
また、不適切な市販薬の使用は、本来の症状を分かりにくくしてしまい、医師による正確な診断を遅らせることにも繋がります。治療の開始が遅れれば、それだけ治癒までの期間が長引き、あなた自身だけでなく、大切な家族やパートナーにまで感染を広げてしまう可能性が高まってしまうのです。
市販薬でできること｜かゆみを一時的に和らげる薬
疥癬を治す市販薬はないと解説しましたが、「病院に行くまでの間、この猛烈なかゆみをどうにかしたい」と切実に思う方も多いでしょう。ここでは、治療を目的とするのではなく、あくまで一時的にかゆみを緩和するために使える市販薬について、注意点とともに解説します。
ただし、これから紹介する薬は根本的な解決にはならないことを、くれぐれも忘れないでください。
かゆみ止め成分「クロタミトン」配合の塗り薬（オイラックスソフトなど）
市販のかゆみ止め薬の中には、「クロタミトン」という成分が配合されているものがあります。このクロタミトンは、もともと疥癬の治療薬として開発された経緯があり、ヒゼンダニに対する弱い殺虫効果と、かゆみを抑える効果を持っています。 そのため、医療機関でもかゆみ止めの補助として処方されることがあります。
市販薬では、第一三共ヘルスケアの「オイラックスソフト」などがクロタミトンを配合しており、ステロイドは含まれていません。 しかし、製造販売元である第一三共ヘルスケアの公式サイトでも、オイラックスソフトを疥癬に使用しないよう明確に注意喚起しています。 これは、市販薬のクロタミトン濃度ではヒゼンダニを駆除するには不十分であり、あくまでかゆみを一時的に抑える対症療法にしかならないためです。
使用する場合は、病院を受診するまでのつなぎとして、限定的に使用するに留めましょう。
【注意】ステロイド配合の塗り薬は絶対NG！
繰り返しになりますが、ステロイドが配合された市販の塗り薬を、自己判断で疥癬に使うことは絶対にやめてください。
薬局でよく見かける「オイラックス」シリーズですが、実は様々な種類があります。「オイラックスA」や「オイラックスPZリペア軟膏・クリーム」、「オイラックスDX軟膏」など、名前にアルファベットが付いている製品の多くにはステロイドが配合されています。 これらを疥癬に塗ってしまうと、前述の通り症状を悪化させ、治療を困難にする恐れがあります。
市販薬を選ぶ際には、必ず成分表示を確認し、「ステロイド」「副腎皮質ホルモン」といった記載がないかチェックすることが重要です。しかし、最も安全で確実なのは、自己判断で薬を選ばず、速やかに皮膚科を受診することです。
その他の市販薬（イオウ軟膏など）の効果は？
一部の医療情報サイトでは、「イオウ・サリチル酸・チアントール軟膏」という市販薬が疥癬に有効であるとの記載が見られます。 確かに、イオウは医療用でも疥癬治療に用いられることがある成分です。 しかし、その効果は限定的で、皮膚への刺激が強い、独特のにおいがあるといった欠点もあります。
また、医療用のイオウ軟膏と市販薬では成分の濃度や配合が異なる可能性があり、市販薬で十分な効果が得られる保証はありません。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも、イオウ剤の推奨度はフェノトリンなどの主要な治療薬に比べて低いものとなっています。
これらの情報からも、やはり市販薬に頼るのではなく、医師の処方する効果と安全性が確立された薬で治療することが最善の道であると言えます。
疥癬の正しい治療法は皮膚科受診が基本
ここまで読んで、市販薬では疥癬を治せず、皮膚科を受診することがいかに重要か、ご理解いただけたかと思います。つらい症状を抱えて病院に行くのは億劫かもしれませんが、確実な治療への一番の近道です。この章では、皮膚科で行われる具体的な治療法や、治療期間、そして家族などへの感染を防ぐためのポイントを解説します。
病院ではどんな薬が処方される？（飲み薬・塗り薬）
皮膚科では、問診やダーモスコピー（特殊な拡大鏡）による視診、場合によっては皮膚の一部を採取して顕微鏡でヒゼンダニやその卵を確認する検査を行い、診断を確定します。 診断が確定すると、主に以下の飲み薬や塗り薬が処方されます。
飲み薬：イベルメクチン（商品名：ストロメクトール）
現在、日本で疥癬治療に保険適用がある唯一の飲み薬です。 体重に応じて服用量が決まり、通常は空腹時に1回服用します。1週間後にもう一度服用することで、最初に服用したときには卵だったダニが孵化したところを駆除し、治療効果を高めます。 塗り薬を全身に塗るのが難しい高齢者や、角化型疥癬の治療でよく用いられます。
塗り薬：フェノトリン（商品名：スミスリンローション5%）
塗り薬の中では第一選択薬として広く使われている薬です。 安全性が高く、殺虫効果も優れています。使い方は、首から下の全身に塗り、12時間以上経ってから洗い流します。これを1週間間隔で2回以上繰り返すのが一般的です。 1回の塗布で成虫や幼虫は駆除できますが、卵には効果がないため、卵が孵化するタイミングを狙って再度塗布する必要があります。
その他、症状や患者さんの状態に応じて、クロタミトン（商品名：オイラックス）やかゆみ止めの抗ヒスタミン薬などが併用されることもあります。
治療期間はどれくらい？
治療期間は、疥癬の種類や重症度によって異なりますが、通常疥癬の場合、適切な治療を行えば2週間から1ヶ月程度で症状は改善に向かいます。
飲み薬（ストロメクトール）の場合、通常は1〜2回の服用で治療が完了します。塗り薬（スミスリンローション）の場合は、週1回の塗布を数週間続けることが一般的です。
ただし、ここで注意していただきたいのは、薬でヒゼンダニが全て死滅した後も、かゆみがしばらく続くことがあるという点です。これは、皮膚に残ったダニの死骸やフンに対するアレルギー反応が原因で、「疥癬後掻痒（かいせんごそうよう）」と呼ばれます。 かゆみが続くからといって自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従うことが完治への鍵となります。
家族や周りの人への感染を防ぐために
疥癬は人から人へうつる感染症です。特に、長時間肌と肌が触れ合うことで感染しやすいため、同居している家族やパートナーがいる場合は注意が必要です。 感染拡大を防ぐために、以下の点に気をつけましょう。
- 患者と同時に治療する: 症状が出ていなくても、感染の可能性がある同居家族なども一緒に皮膚科を受診し、必要であれば同時に治療を開始することが非常に重要です。
- 寝具や衣類の共用を避ける: タオル、寝具、衣類などを介して感染する可能性があるため、患者さんが使ったものは共用しないようにしましょう。
- 洗濯や掃除を徹底する: 患者さんが使用したシーツや衣類は、毎日交換し、50℃以上のお湯に10分以上つけてから洗濯するか、乾燥機にかけるとダニを死滅させることができます。 部屋の掃除もこまめに行い、掃除機をかけることが推奨されます。
- 長時間の接触を避ける: 治療が完了するまでは、添い寝や雑魚寝など、肌が長時間触れ合うような状況は避けましょう。
特に、感染力の強い角化型疥癬の場合は、より厳重な感染対策が必要となるため、必ず医師や保健所の指示に従ってください。
そもそも疥癬とは？症状と原因を知ろう
ここまで疥癬の治療法について詳しく解説してきましたが、改めて「疥癬」という病気そのものについて理解を深めておくことも大切です。正しい知識は、不要な不安を取り除き、適切な行動につながります。ここでは、疥癬の主な症状や原因、感染経路について基本からおさらいしましょう。
疥癬の主な症状｜夜のかゆみと赤いブツブツ
疥癬の最も特徴的な症状は、特に夜間、布団に入って体が温まると強くなる、我慢できないほどの激しいかゆみです。 これは、ヒゼンダニが夜に活発に活動するためと考えられています。
皮膚には、以下のような症状が現れます。
- 赤いブツブツ（丘疹）: 虫刺されのような赤い小さな盛り上がりが、お腹、胸、脇の下、腕や太ももの内側など、皮膚の柔らかい部分に多発します。
- 疥癬トンネル: メスのヒゼンダニが卵を産み付けながら皮膚の角質層を掘り進んだ跡で、長さ数ミリほどの少し盛り上がった線状の皮疹です。手首や指の間などに見られることが多い、疥癬に特徴的な症状です。
- 結節（しこり）: 特に男性の陰部などには、赤褐色で硬いしこりができることがあります。
これらの症状は、ダニそのものだけでなく、ダニのフンや死骸に対するアレルギー反応によって引き起こされると言われています。
原因はヒゼンダニというダニの寄生
疥癬の原因は、「ヒゼンダニ（疥癬虫）」という、肉眼ではほとんど見えない非常に小さなダニです。 その大きさはメスで約0.4mm、オスはさらに小さく、人の皮膚の最も外側にある角質層に寄生して生活します。
メスのダニは、角質層内に「疥癬トンネル」を掘り、1日に1～2個の卵を産み付けながら移動します。 卵は3～4日で孵化し、幼虫、若虫を経て約2週間で成虫となり、さらに繁殖を繰り返していきます。このライフサイクルを断ち切ることが、疥癬治療のゴールとなります。
ちなみに、ヒゼンダニは人の皮膚から離れると長くは生きられず、通常の環境下では2～3時間ほどで死んでしまいます。 この特性が、感染対策を考える上で重要なポイントになります。
感染経路と潜伏期間
疥癬の主な感染経路は、感染している人の皮膚と、長時間にわたって直接触れることです。 例えば、介護、添い寝、性的接触などが挙げられます。短い時間、軽く触れた程度でうつることは稀です。
ただし、寝具や衣類、タオルなどを共有することで間接的に感染することもあります。 特に、数百万匹ものダニが寄生している重症の「角化型疥癬」の場合は、患者から剥がれ落ちた皮膚のかけら（鱗屑）に触れるだけでも感染する可能性があり、非常に感染力が強いのが特徴です。
感染してから症状が出るまでの潜伏期間は、通常疥癬で約1～2ヶ月と比較的長いです。 この期間は無症状ですが、体内ではダニが増殖しており、他の人にうつしてしまう可能性があります。そのため、家族など身近な人が疥癬と診断された場合は、症状がなくても検査を受けることが大切です。
よくある質問
ここでは、疥癬に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
疥癬は自然に治りますか？
いいえ、疥癬が自然に治ることは基本的にありません。 放置すると、ヒゼンダニは皮膚で繁殖を続け、かゆみや皮疹はどんどん悪化していきます。さらに、掻き壊した部分から細菌が感染して二次感染を起こしたり、重症の角化型疥癬に移行したりするリスクもあります。また、知らず知らずのうちに家族や周囲の人に感染を広げてしまうことにも繋がります。疑わしい症状があれば、放置せずに必ず皮膚科を受診してください。
疥癬の治療にオイラックスは使えますか？
医療機関で処方される「オイラックスクリーム（クロタミトン）」は、かゆみを抑える目的や、他の治療薬と併用する形で疥癬治療に用いられることがあります。 しかし、殺ダニ効果は主要な治療薬であるフェノトリンなどに比べて弱いため、オイラックス単独での完治は難しいとされています。 一方、市販のオイラックスシリーズは、たとえステロイド非配合のものであっても、メーカーが疥癬への使用を推奨していません。 自己判断での使用は避け、医師の指示に従ってください。
疥癬は何科を受診すればいいですか？
疥癬が疑われる場合は、皮膚科を受診してください。 皮膚科医は、疥癬に特徴的な皮疹を見分け、必要に応じて顕微鏡検査などで正確な診断を下すことができます。他の皮膚疾患との鑑別も重要ですので、必ず専門医に診てもらうようにしましょう。
薬局で相談すれば疥癬の薬は買えますか？
いいえ、薬局やドラッグストアの薬剤師に相談しても、疥癬を治療するための処方薬を購入することはできません。 薬剤師は、かゆみを一時的に和らげる市販薬を提案することはできますが、それは根本治療にはなりません。薬剤師も、疥癬が疑われる場合は医療機関の受診を勧めるはずです。まずは皮膚科を受診し、医師から処方箋をもらった上で、調剤薬局で薬を受け取るのが正しい手順です。
疥癬の薬の値段はいくらくらいですか？
疥癬の治療にかかる費用は、処方される薬の種類や量、保険の負担割合（1割～3割）によって異なります。あくまで目安ですが、飲み薬の「ストロメクトール」や塗り薬の「スミスリンローション」を使用した場合、3割負担の方で1回の治療あたり数千円程度になることが多いようです。正確な費用については、受診する医療機関や薬局でご確認ください。
飲み薬と塗り薬はどちらが効きますか？
飲み薬（イベルメクチン）と塗り薬（フェノトリン）は、どちらも日本皮膚科学会のガイドラインで推奨度が高く、有効な治療薬とされています。 どちらを選択するかは、患者さんの年齢、疥癬の種類（通常か角化型か）、全身状態、塗り薬をきちんと塗れるかといった状況を医師が総合的に判断して決定します。 例えば、ご自身で全身に薬を塗るのが難しい高齢者には飲み薬が、妊婦や授乳婦など飲み薬が使いにくい方には塗り薬が選択される傾向があります。どちらが優れているというわけではなく、患者さんにとって最適な薬が処方されます。
まとめ
- 疥癬を根本的に治す市販の塗り薬はありません。
- 原因のヒゼンダニを殺す成分は医師の処方が必要です。
- 自己判断での市販薬使用は症状悪化のリスクがあります。
- 特にステロイド配合の塗り薬は絶対に使用しないでください。
- 市販薬はかゆみを一時的に和らげる対症療法のみです。
- クロタミトン配合の市販薬も治療目的での使用は非推奨です。
- 疥癬の治療は皮膚科受診が必須です。
- 皮膚科では飲み薬や塗り薬が処方されます。
- 主な治療薬はイベルメクチン（飲み薬）とフェノトリン（塗り薬）です。
- 治療期間は通常1ヶ月前後が目安です。
- 治療後もかゆみが続くことがありますが、自己判断で中断しないこと。
- 家族など周囲の人への感染を防ぐ対策が重要です。
- 症状がなくても接触者は一緒に受診することが推奨されます。
- 寝具や衣類の共用を避け、洗濯や掃除を徹底しましょう。
- 疥癬は自然治癒しないため、放置は禁物です。
