大切に育てているキャベツやハクサイの元気がない…もしかして「根こぶ病」?と不安に思っていませんか。病気の対策を調べると「オルトラン」という薬の名前を見かけることがありますが、本当に効果があるのでしょうか。本記事では、根こぶ病に対するオルトランの効果について、その理由から正しい対策まで、家庭菜園を楽しむあなたの疑問に徹底的にお答えします。
【結論】オルトランは根こぶ病に効果なし!その理由とは

早速結論からお伝えすると、オルトランは根こぶ病には効果がありません。多くの方が期待してしまうこの組み合わせですが、残念ながら的が外れています。なぜなら、オルトランが対象とするものと、根こぶ病の原因は全く異なるからです。この章では、その明確な理由を分かりやすく解説します。
- オルトランは害虫に効く「殺虫剤」
- 根こぶ病はカビ(糸状菌)が原因の「病気」
オルトランは害虫に効く「殺虫剤」
オルトランは、アブラムシやアオムシ、ヨトウムシといった害虫を駆除するための「殺虫剤」です。 有効成分が根から吸収されて植物全体に行き渡り(浸透移行性)、その植物を食べた害虫を退治する仕組みになっています。 そのため、葉の裏に隠れた害虫にも効果を発揮し、効果の持続期間が長いのが特徴です。 つまり、オルトランはあくまで虫を殺すための薬であり、植物の病気を治すためのものではないのです。
根こぶ病はカビ(糸状菌)が原因の「病気」
一方、根こぶ病は「プラスモディオフォラ・ブラシカエ」というカビ(糸状菌)の一種が原因で発生する「病気」です。 この菌がアブラナ科植物の根に感染し、根に大小のこぶを形成します。 こぶができることで、植物は根から水分や養分を正常に吸収できなくなり、生育不良や枯死に至ることもある厄介な土壌伝染性の病害なのです。 殺虫剤であるオルトランでは、この病原菌を殺菌する効果は期待できません。
厄介な土壌病害「根こぶ病」の正体とは?

オルトランが効かないと分かったところで、次に私たちが向き合うべき相手「根こぶ病」について詳しく見ていきましょう。敵を知ることが、勝利への第一歩です。この病気の症状や原因、そしてどのような環境で発生しやすいのかを理解することで、効果的な対策が見えてきます。
- 根こぶ病の症状と被害
- 根こぶ病の原因は「プラスモディオフォラ」というカビ
- 発生しやすい条件(アブラナ科の連作、酸性土壌、多湿)
- 根こぶ病にかかりやすい野菜一覧
根こぶ病の症状と被害
根こぶ病の最も特徴的な症状は、その名の通り、根に大小さまざまなこぶができることです。 しかし、こぶは土の中にあるため、初期段階で気づくのは非常に困難です。 地上部では、晴れた日中に葉がしおれ、夕方になると回復するという症状が見られるようになります。 これは、根のこぶが水分や養分の吸収を妨げているサインです。病気が進行すると、株全体の生育が悪くなり、ハクサイやキャベツでは結球しなくなったり、最悪の場合は枯れてしまったりと、収穫に深刻な影響を及ぼします。
根こぶ病の原因は「プラスモディオフォラ」というカビ
根こぶ病を引き起こすのは、「プラスモディオフォラ・ブラシカエ」というカビ(糸状菌)の一種です。 この菌は、土壌中で「休眠胞子」という非常に耐久性の高い状態で何年も生き続けることができます。 そして、アブラナ科の植物が植えられると、それを感知して活動を開始し、根に感染します。感染した根の細胞の中で増殖し、こぶを形成させ、さらに多くの休眠胞子を作り出して土壌中に拡散していくのです。 このしぶとさが、根こぶ病が一度発生すると防除が難しい理由の一つです。
発生しやすい条件(アブラナ科の連作、酸性土壌、多湿)
根こぶ病の病原菌は、特定の環境を好みます。まず、アブラナ科野菜の連作は最も危険です。 同じ場所にアブラナ科の野菜を続けて栽培すると、土壌中の病原菌の密度がどんどん高まり、発病のリスクが急激に上昇します。 また、この菌は酸性の土壌(pH6.0以下)で活発に活動します。 さらに、病原菌の遊走子は水中を泳いで移動するため、水はけの悪い多湿な畑も発生の温床となります。 気温としては18℃~25℃が発生しやすい温度帯です。
根こぶ病にかかりやすい野菜一覧
根こぶ病は、アブラナ科の野菜に特有の病気です。 家庭菜園で人気の野菜も多く含まれるため、注意が必要です。特に被害を受けやすい代表的な野菜には、以下のようなものがあります。
- ハクサイ
- キャベツ
- ブロッコリー
- カリフラワー
- カブ
- コマツナ
- チンゲンサイ
- ミズナ
- ノザワナ
同じアブラナ科でも、ダイコンは比較的発生しにくいとされていますが、品種によっては感染することもあります。 これらの野菜を栽培する際は、根こぶ病への警戒を怠らないようにしましょう。
【重要】根こぶ病の正しい対策方法5選

根こぶ病にオルトランが効かないことはご理解いただけたと思います。では、この厄介な病気から大切な野菜を守るためには、どうすれば良いのでしょうか。ここでは、プロの農家も実践している効果的な対策を5つ厳選してご紹介します。一つの対策に頼るのではなく、これらを組み合わせる「総合的防除」が成功の鍵です。
- 対策①:農薬(殺菌剤)で防除する
- 対策②:土壌のpHを調整する(石灰など)
- 対策③:アブラナ科の連作を避ける(輪作)
- 対策④:抵抗性品種を利用する
- 対策⑤:おとり作物を活用する
対策①:農薬(殺菌剤)で防除する
根こぶ病は病気なので、対策には「殺菌剤」を使用します。植え付け前に土壌に混ぜ込むタイプの農薬が一般的です。代表的なものには、「ネビジン粉剤」や「石原フロンサイド粉剤」、「オラクル粉剤」などがあります。 これらの薬剤は、土壌中の根こぶ病菌の活動を抑えたり、殺菌したりすることで、感染を防ぎます。 それぞれ使用できる作物や使い方が異なるため、購入の際は必ずラベルを確認し、自分の栽培する野菜に登録があるか、使用方法を正しく守ることが重要です。
対策②:土壌のpHを調整する(石灰など)
根こぶ病菌は酸性の土壌を好むため、土壌のpHをアルカリ性に傾けることが有効な対策になります。 植え付けの2週間ほど前に、消石灰や苦土石灰などの石灰資材を畑にまいてよく耕し、土壌のpHを7.2以上に調整しましょう。 これにより、根こぶ病菌が活動しにくい環境を作ることができます。 石灰資材は土壌改良の効果もあるため、一石二鳥の対策と言えます。 ただし、過剰な施用は他の微量要素の吸収を妨げる可能性もあるため、適量を守ることが大切です。
対策③:アブラナ科の連作を避ける(輪作)
最も基本的で重要な対策が、アブラナ科野菜の連作を避けることです。 同じ場所でアブラナ科の野菜を作り続けると、土壌中の病原菌密度が高まり、被害が拡大します。 根こぶ病が発生した畑では、最低でも3〜4年、できればそれ以上、アブラナ科以外の作物(例えば、マメ科、ナス科、イネ科など)を栽培する「輪作」を行いましょう。 これにより、病原菌はエサとなる植物がなくなるため、自然に密度を下げることができます。
対策④:抵抗性品種を利用する
近年、種苗メーカーの努力により、根こぶ病に強い「抵抗性品種」が数多く開発されています。これらの品種は、タネの袋などに「CR」というマークが付いているのが目印です。 「CR」はClubroot Resistance(根こぶ病抵抗性)の略です。全く発病しないわけではありませんが、感染しにくかったり、感染しても症状が軽かったりするため、被害を大幅に軽減できます。連作などで根こぶ病の発生が心配される畑では、積極的に抵抗性品種を選ぶことをおすすめします。
対策⑤:おとり作物を活用する
「おとり作物」を利用するのも面白い対策です。これは、根こぶ病菌が好むけれども、感染してもこぶを形成させずに病原菌を減らす効果のある植物を栽培する方法です。 代表的なおとり作物には、エンバク(ヘイオーツ)や専用の葉ダイコンなどがあります。 アブラナ科野菜を栽培する前にこれらの作物を育ててすき込むことで、土の中の根こぶ病菌を「おびき寄せて」密度を減らす効果が期待できます。農薬と組み合わせることで、さらに高い防除効果を発揮することもあります。
オルトランの正しい使い方と効果

根こぶ病には効果がないオルトランですが、殺虫剤としては非常に優秀で、多くの家庭菜園で愛用されています。せっかくなので、オルトランの本来の力と正しい使い方についても理解しておきましょう。適材適所で正しく使うことが、農薬と上手に付き合うコツです。
- オルトランの特徴:浸透移行性殺虫剤
- オルトランが効果的な害虫一覧
- オルトラン粒剤の基本的な使い方
オルトランの特徴:浸透移行性殺虫剤
オルトランの最大の特徴は「浸透移行性」にあります。 土にまかれた粒剤の有効成分が根から吸収され、植物の隅々まで行き渡ります。 そのため、薬剤が直接かかりにくい葉の裏や、新しく展開した葉を食べる害虫にも効果があります。また、雨や水やりで成分が流れにくく、一度まくと2〜3週間効果が持続するのも大きなメリットです。 この性質により、害虫の発生を長期間抑えることが可能になります。
オルトランが効果的な害虫一覧
オルトランは、非常に幅広い種類の害虫に効果を発揮します。 野菜や花を育てる上で遭遇する多くの厄介な虫を、これ一つでカバーできるのが魅力です。具体的には、以下のような害虫に有効です。
- 吸汁性害虫:アブラムシ類、アザミウマ類、コナジラミなど
- 食害性害虫:アオムシ、コナガ、ヨトウムシ、ネキリムシなど
- その他:ハモグリバエ、コガネムシ類幼虫など
これらの害虫は、作物の生育を妨げるだけでなく、ウイルス病を媒介することもあるため、早期の防除が重要です。
オルトラン粒剤の基本的な使い方
オルトラン粒剤の使い方はとても簡単で、土にまくだけです。 主な使い方としては、以下の3つのタイミングがあります。
- 植え付け時:苗を植える植え穴の底にパラパラとまき、軽く土と混ぜてから苗を植え付けます。
- 生育途中:生育している株の根元に、円を描くようにパラパラとまきます。
- 種まき時:種をまく溝に、すじ状にまいてから種をまきます。
使用量は作物の種類によって異なるため、必ず製品のラベルを確認してください。 まいた後は、軽く水やりをすると成分が溶け出し、根から吸収されやすくなります。
根こぶ病とオルトランに関するよくある質問

ここまで、根こぶ病とオルトランについて詳しく解説してきましたが、まだ細かい疑問が残っているかもしれません。この章では、多くの方が抱きがちな質問とその答えをQ&A形式でまとめました。あなたの「あと少し知りたい」を解決します。
根こぶ病になってしまったらどうすればいいですか?
残念ながら、一度根こぶ病を発病してしまった株を治療する方法は現在のところありません。 発見したら、他の株への感染拡大を防ぐため、すぐに抜き取って畑の外で処分しましょう。 抜き取った株を畑にすき込んだり、放置したりすると、こぶが腐敗して土壌中に大量の病原菌をまき散らしてしまいます。 抜き取った後の土壌には、石灰をまいて消毒するなどの対策を講じることが望ましいです。
オルトランと根こぶ病の薬を一緒に使ってもいいですか?
はい、併用は可能です。オルトランは「殺虫剤」、根こぶ病の薬(ネビジンなど)は「殺菌剤」であり、作用する対象が異なります。そのため、害虫対策と根こぶ病対策を同時に行う目的で、植え付け時に両方の薬剤を土壌に混和することは問題ありません。ただし、農薬を使用する際は、必ずそれぞれの製品ラベルに記載されている使用方法、使用量、注意事項をよく読み、正しく使うことが大前提です。
根こぶ病の土は再利用できますか?
根こぶ病が発生した畑の土を、すぐに他のアブラナ科野菜の栽培に使うことは非常に危険です。病原菌は土壌中で長期間生存するため、連作は避けなければなりません。 どうしても同じ場所で栽培したい場合は、前述した輪作、土壌消毒、pH調整、抵抗性品種の利用、おとり作物の栽培といった総合的な対策を徹底的に行う必要があります。プランター栽培で発生した場合は、土を入れ替えるのが最も安全な方法です。
オルトランは安全ですか?
オルトランは、製品ラベルに記載された使用方法、使用量、収穫前日数などの基準を正しく守って使用すれば、安全性の高い農薬です。 オルトランの有効成分であるアセフェートは、昆虫の体内では強い毒性を持つ物質に変化しますが、人間などの哺乳類の体内では分解酵素の働きが弱いため、毒性が低く抑えられる「選択毒性」という性質を持っています。 とはいえ、農薬であることに変わりはないため、散布時にはマスクや手袋を着用し、使用後はしっかりと手を洗うなど、基本的な取り扱いには注意しましょう。
まとめ

- オルトランは害虫用の「殺虫剤」である。
- 根こぶ病はカビが原因の「病気」である。
- 結論として、オルトランは根こぶ病に効果はない。
- 根こぶ病はアブラナ科野菜に特有の土壌病害。
- 根にこぶができ、水分や養分の吸収を妨げる。
- 酸性土壌や多湿、連作で発生しやすくなる。
- 対策には「殺菌剤」の使用が有効である。
- ネビジンやフロンサイドなどが代表的な殺菌剤。
- 石灰をまいて土壌のpHを調整することも重要。
- アブラナ科の連作を避け、輪作を心掛ける。
- 「CR」マークの付いた抵抗性品種の利用も効果的。
- エンバクなどのおとり作物を栽培する方法もある。
- オルトランは浸透移行性で幅広い害虫に効く。
- 発病した株はすぐに抜き取り、畑の外で処分する。
- 複数の対策を組み合わせる総合的防除が鍵となる。