毎年年末に会社から配布される年末調整の書類を見て、「いつの期間の給与が対象になるのだろう?」と疑問に感じたことはありませんか? 年末調整は、毎月の給与から天引きされている所得税の過不足を精算する大切な手続きです。この手続きを正しく理解し、適切に行うことで、払いすぎた税金が還付されることもあります。
本記事では、年末調整の対象となる給与所得の期間や、対象となる人・ならない人の違い、さらには確定申告との関係、必要な書類や2025年(令和7年)の主な変更点まで、分かりやすく解説します。年末調整に関する疑問を解消し、スムーズな手続きを進めるための参考にしてください。
年末調整の給与所得対象期間は「1月1日から12月31日まで」

年末調整の対象となる給与所得の期間は、原則としてその年の1月1日から12月31日までの1年間に支払われた給与や賞与です。この期間に受け取った全ての給与が対象となります。
ただし、給与の支払い方法によっては、注意すべき点があります。例えば、12月分の給与が翌年の1月に支払われる場合、その12月分の給与は今年の年末調整の対象にはなりません。翌年の年末調整で精算されることになります。
給与所得の対象期間は支払われた日を基準にする
年末調整の対象となる給与所得は、実際に「支払われた日」を基準に判断されます。例えば、2025年12月に働いた分の給与が2026年1月に支払われた場合、その給与は2025年の所得ではなく、2026年の所得として扱われます。したがって、2026年の年末調整の対象となるのです。
この「支払日基準」は非常に重要です。特に年をまたぐ給与の支払いがある場合は、どの年の年末調整に含めるべきか迷うことがありますが、実際に給与が口座に振り込まれたり、手渡しされたりした日付で判断すると良いでしょう。
なぜこの期間が年末調整の対象となるのか
年末調整は、従業員が1年間に支払うべき所得税額を正確に計算し、毎月の給与から源泉徴収された所得税額との差額を精算する手続きです。
毎月の給与から天引きされる所得税は、あくまで年間の予定給与額に基づいて計算された概算の金額です。年の途中で給与の変動があったり、扶養家族の増減、生命保険料の支払いなどがあったりすると、実際に支払うべき所得税額との間にずれが生じます。このずれを年末にまとめて調整するために、1月1日から12月31日までの1年間を対象期間として、正確な税額を再計算するのです。
年末調整の対象となる給与所得とは?
年末調整の対象となる給与所得には、基本給だけでなく、様々な手当や賞与も含まれます。しかし、一部の収入は非課税所得として年末調整の対象外となります。
対象となる収入の種類
年末調整の対象となる給与所得には、以下のようなものが含まれます。
- 基本給
- 残業手当
- 役職手当
- 扶養手当
- 通勤手当(非課税限度額を超える部分)
- 賞与(ボーナス)
- その他、給与として支払われる全ての経済的利益
これらは全て、その年の1月1日から12月31日までに支払われたものが対象となります。
対象とならない収入の種類
一方で、以下のような収入は年末調整の対象とならない、または非課税所得として扱われます。
- 非課税の通勤手当(一定の限度額内)
- 旅費交通費(業務上必要なもの)
- 出張手当
- 宿直手当・日直手当(一定の限度額内)
- 慶弔見舞金(社会通念上相当なもの)
- 失業手当や育児休業給付金などの社会保険給付
これらの非課税所得は、所得税の計算対象とならないため、年末調整の手続きに含める必要はありません。
年末調整の対象者と対象外となるケース

年末調整は、原則として会社員やパート・アルバイトの方が対象となりますが、特定の条件に当てはまる場合は対象外となることもあります。
年末調整の対象となる人
年末調整の対象となるのは、主に以下の条件を満たす方です。
- 勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人
- その年の12月31日時点で会社に在籍している人(正社員、パート、アルバイトなど雇用形態は問わない)
- 年の途中で入社し、年末まで勤務している人
また、年の途中で退職した場合でも、以下のような特定のケースでは退職した会社で年末調整が行われます。
- 海外支店への転勤などにより非居住者となった人
- 死亡により退職した人
- 著しい心身の障害のために退職し、その年に再就職の見込みがない人
- 12月に支給される給与を受け取った後に退職した人
- パート・アルバイトなどで、その年に支払われる給与の総額が123万円以下で退職した人(退職後に他の勤務先から給与を受け取る見込みがない場合)
年末調整の対象とならない人
以下に該当する方は、年末調整の対象外となり、ご自身で確定申告を行う必要があります。
- 1年間に支払われる給与の総額が2,000万円を超える人
- 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税の徴収猶予や還付を受けた人
- 2ヶ所以上から給与を受け取っており、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない勤務先の給与がある人
- 年の途中で退職し、上記の「年末調整の対象となる人」の例外に該当しない人
これらのケースでは、会社が年末調整を行わないため、ご自身で確定申告をして税金を精算する必要があります。
年末調整と確定申告の違いを理解する

年末調整と確定申告は、どちらも所得税の過不足を精算する手続きですが、その主体や目的、対応できる控除の種類に違いがあります。
手続きを行う主体と目的の違い
年末調整は、主に会社員やパート・アルバイトなど、給与所得者が対象となる手続きです。勤務先が従業員に代わって、毎月の給与から源泉徴収された所得税の合計額と、年間の正確な所得税額との差額を計算し、精算します。これにより、従業員は原則として確定申告をする必要がなくなります。
一方、確定申告は、納税者本人が1年間の全ての所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)を計算し、税務署に申告して納税する手続きです。主に個人事業主やフリーランス、年収2,000万円を超える会社員などが対象となります。
確定申告が必要となる主なケース
年末調整を受けている会社員でも、以下のような場合は確定申告が必要になります。
- 副業による所得の合計が年間20万円を超える場合
- 年収が2,000万円を超える場合
- 2ヶ所以上から給与を受け取っており、主たる給与以外の給与所得がある場合
- 医療費控除、雑損控除、寄附金控除(ふるさと納税でワンストップ特例制度を利用しない場合や6団体以上に寄付した場合を含む)を受けたい場合
- 住宅ローン控除を初めて受ける年(2年目以降は年末調整で手続き可能)
- 年の途中で退職し、年末までに再就職しなかった場合
これらのケースに該当する場合は、年末調整とは別に、ご自身で確定申告を行うことで、払いすぎた税金の還付を受けたり、不足分の税金を納めたりすることができます。
年末調整に必要な書類と提出の進め方

年末調整をスムーズに進めるためには、必要な書類を理解し、適切な時期に提出することが大切です。ここでは、従業員が会社に提出する書類と、会社が税務署等に提出する書類、そして提出のスケジュールについて解説します。
従業員が会社に提出する主な書類
従業員が年末調整で会社に提出する主な書類は以下の通りです。これらの書類は、所得控除や税額控除を適用するために必要となります。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
扶養親族の有無や障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除などを申告するための書類です。扶養親族がいない場合でも、年末調整を受ける全ての給与所得者が提出する必要があります。 - 給与所得者の保険料控除申告書
生命保険料、地震保険料、社会保険料(国民年金保険料など)、小規模企業共済等掛金(iDeCoなど)の控除を申告するための書類です。それぞれの控除証明書を添付して提出します。 - 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
これらは通常、1枚の用紙にまとめられています。基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、特定親族特別控除、所得金額調整控除を申告する際に使用します。 - 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 兼 (特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書
住宅ローン控除を2年目以降に受ける場合に提出します。金融機関から送付される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を添付する必要があります。 - 前職の源泉徴収票
年の途中で転職した場合、転職先の会社で年末調整を受ける際に必要となります。
会社が税務署等に提出する書類
従業員から提出された書類に基づき、会社は以下の書類を作成し、税務署や市区町村に提出します。
- 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
税務署に提出する書類です。 - 源泉徴収票
従業員に交付するとともに、税務署にも提出します。 - 給与支払報告書
従業員が居住する市区町村に提出します。
書類提出のスケジュールと注意点
従業員が会社に年末調整の書類を提出する期限は、一般的に11月上旬から中旬頃に設定されることが多いです。
会社は、これらの書類を基に年末調整の計算を行い、翌年の1月31日までに税務署へ関係書類を提出しなければなりません。 期限に間に合わせるため、会社は従業員に早めの提出を促します。もし提出が遅れた場合、会社が年末調整を受け付けてくれないこともあります。その際は、ご自身で確定申告を行う必要があるため注意が必要です。
【2025年(令和7年)】年末調整の主な変更点

2025年(令和7年)の年末調整では、税制改正によりいくつかの重要な変更点があります。特に「年収の壁」対策として、所得控除制度が見直されました。
基礎控除額の見直し
これまで一律48万円だった所得税の基礎控除額が、2025年からは所得に応じて58万円から最大95万円に引き上げられます。
これは、物価上昇局面における税負担の調整と、就業調整対策を目的とした暫定的な措置です。給与収入が200万円以下の場合は95万円、それ以上の場合も段階的に控除額が増加します。
特定親族特別控除の新設
2025年からは、「特定親族特別控除」が新たに創設されます。
これは、従来の特定扶養控除の対象とならない19歳以上23歳未満の親族(大学生年代の子など)を持つ納税者を対象としたものです。特定扶養控除では、扶養親族の年収が103万円を超えると控除が受けられなくなっていましたが、この新制度により、年収150万円を超えても188万円まで段階的に控除が受けられるようになり、扶養者の手取りが急激に減ることを防ぎます。
扶養控除・配偶者控除などの所得要件緩和
扶養控除や配偶者控除などの所得要件も緩和されます。例えば、特定扶養親族の年収基準が103万円から123万円に引き上げられ、より多くの人が扶養控除の対象となる可能性があります。
これらの変更点は、2025年12月に行われる年末調整から適用されるため、ご自身の状況に合わせて申告書を正しく記入することが重要です。
よくある質問

- 年末調整はいつの給料が対象ですか?
- 年末調整の対象となる給与所得の範囲は?
- 年末調整の対象となる期間は?
- 年末調整の対象となる給与所得の期間はいつからいつまでですか?
- 年末調整はいつまで遡れる?
- 年の途中で退職した場合、年末調整はどうなりますか?
- パート・アルバイトでも年末調整は必要ですか?
- 年末調整を忘れた場合はどうすればいいですか?
- 住宅ローン控除は年末調整でできますか?
- 年末調整で扶養控除を受ける条件は?
年末調整はいつの給料が対象ですか?
年末調整の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までの1年間に「支払われた」給料や賞与です。例えば、12月分の給料が翌年1月に支払われる場合は、翌年の年末調整の対象となります。
年末調整の対象となる給与所得の範囲は?
基本給、残業手当、役職手当、賞与など、給与として支払われる全ての経済的利益が対象です。ただし、非課税の通勤手当や出張手当などは対象外となります。
年末調整の対象となる期間は?
毎年1月1日から12月31日までの1年間です。
年末調整の対象となる給与所得の期間はいつからいつまでですか?
その年の1月1日から12月31日までに支払いが確定した給与所得が対象です。
年末調整はいつまで遡れる?
年末調整のやり直しは、原則として翌年1月末までです。それ以降に修正したい場合は、過去5年間まで遡って確定申告(還付申告)を行うことで、払いすぎた税金の還付を受けられます。
年の途中で退職した場合、年末調整はどうなりますか?
原則として、年の途中で退職した場合は退職した会社での年末調整は行われません。再就職した場合は転職先の会社で前職分と合算して年末調整を受けます。再就職しない場合は、ご自身で確定申告を行う必要があります。ただし、死亡退職や12月退職など、特定のケースでは退職した会社で年末調整が行われることもあります。
パート・アルバイトでも年末調整は必要ですか?
はい、パート・アルバイトの方でも、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、年末時点で在籍していれば年末調整の対象となります。
年末調整を忘れた場合はどうすればいいですか?
年末調整の提出期限に間に合わなかったり、申告漏れがあったりした場合は、ご自身で確定申告(還付申告)を行うことで税金の精算が可能です。確定申告の期間は通常、翌年の2月16日から3月15日までです。
住宅ローン控除は年末調整でできますか?
住宅ローン控除は、入居した初年度のみ確定申告が必要です。2年目以降は、勤務先の年末調整で手続きが可能です。
年末調整で扶養控除を受ける条件は?
扶養控除の対象となる親族は、配偶者以外の親族で、その年の12月31日時点で16歳以上であること、納税者と生計を一つにしていること、年間の合計所得金額が58万円以下(給与収入のみの場合は年収123万円以下)であること、青色申告者の事業専従者ではないこと、などの条件を満たす必要があります。
まとめ
- 年末調整の給与所得対象期間は、その年の1月1日から12月31日までに「支払われた」給与や賞与です。
- 12月分の給与が翌年1月に支払われる場合は、翌年の年末調整の対象となります。
- 年末調整は、毎月の源泉徴収税額と年間の正確な所得税額の過不足を精算する手続きです。
- 年末調整の対象者は、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、年末まで在籍している従業員です。
- 年収2,000万円超の人や、年の途中で退職し再就職しない人は年末調整の対象外となり、確定申告が必要です。
- 確定申告は、納税者本人が行う手続きであり、医療費控除や寄附金控除、住宅ローン控除の初年度など、年末調整では対応できない控除を申告できます。
- 従業員が会社に提出する主な書類は、「扶養控除等(異動)申告書」「保険料控除申告書」「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書」などです。
- 従業員から会社への書類提出期限は11月頃、会社から税務署への提出期限は翌年1月31日です。
- 2025年(令和7年)の年末調整では、基礎控除額が最大95万円に引き上げられ、特定親族特別控除が新設されます。
- 扶養控除や配偶者控除などの所得要件も緩和されます。
- 年末調整を忘れたり、申告漏れがあったりした場合は、過去5年間まで遡って確定申告(還付申告)が可能です。
- パート・アルバイトの方も、条件を満たせば年末調整の対象となります。
- 住宅ローン控除は、初年度は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で手続きできます。
- 扶養控除の対象となる親族には、年齢や所得、生計同一などの条件があります。
- 年末調整は、税金の過不足を解消し、適切な納税を行うための重要な手続きです。
- 最新の税制改正情報を確認し、不明な点は勤務先の担当者や税務署に相談することが大切です。
