大切に育てていた野菜の苗が、ある朝突然、根元からポッキリと折れて倒れている…。そんな悲しい経験はありませんか?その犯人は、もしかしたら「ネキリムシ」かもしれません。夜の間に活動するため姿が見えず、気づいた時には手遅れになっていることも多い厄介な害虫です。本記事では、そんな神出鬼没のネキリムシについて、その正体から主な種類、見分け方、そして効果的な駆除・予防方法まで、家庭菜園を楽しむすべての方へ向けて分かりやすく解説していきます。
そもそもネキリムシとは?その正体と生態

「ネキリムシ」という名前を聞くと、特定の虫を思い浮かべるかもしれませんが、実はその正体は一つではありません。まずは、謎に包まれたネキリムシの基本的な情報から見ていきましょう。一体どんな虫で、どのように活動しているのでしょうか。
- ネキリムシは特定の虫の名前ではない
- 夜行性で発見が難しい厄介な害虫
- ネキリムシの発生時期と活動サイクル
ネキリムシは特定の虫の名前ではない
驚かれるかもしれませんが、「ネキリムシ」という名前の特定の昆虫は存在しません。 ネキリムシとは、主にヤガ科に属するガの幼虫のうち、植物の地際部の茎を食い切る性質を持つものの総称です。 つまり、複数の種類のガの幼虫が「ネキリムシ」として一括りに呼ばれているのです。
日本全国で被害をもたらす代表的なネキリムシは、主にカブラヤガとタマナヤガの2種類です。 地域によって発生する種類に傾向があり、一般的に西日本ではカブラヤガ、東日本ではタマナヤガが多いと言われています。 これらの幼虫は、昼間は土の中に隠れていて、夜になると地上に出てきて活動するという特徴があります。
夜行性で発見が難しい厄介な害虫
ネキリムシが厄介な害虫とされる最大の理由は、その夜行性の生態にあります。 昼間は土の浅いところ(深さ1〜数cm)に潜んでいるため、姿を見つけることが非常に困難です。 そして、私たちが寝静まった夜間に土から這い出し、活動を開始します。
主な被害は、植え付けたばかりの若い苗や発芽したばかりの芽の、地際部分の柔らかい茎をかじり、食い切ってしまうことです。 一晩で複数の苗をなぎ倒すこともあり、たった1匹の幼虫によって畑の一部が全滅させられてしまうという深刻な被害につながることも少なくありません。 被害にあった株は、まるでナイフで切られたかのようにスパッと倒れているのが特徴です。
ネキリムシの発生時期と活動サイクル
ネキリムシの発生は、春から秋にかけて複数回見られます。 種類や地域によって多少異なりますが、一般的には年に2〜4回発生すると言われています。 越冬は幼虫または蛹の状態で土中で行い、春になって気温が上がると活動を再開します。
春(4月〜6月)と秋(9月〜11月)が発生のピークで、特に注意が必要です。 成虫であるガが飛来し、作物の株元や雑草の葉などに卵を産み付けます。 孵化した幼虫は、最初は葉を食べるなど被害は小さいですが、成長するにつれて地中に潜むようになり、夜間に茎を切り倒すという特徴的な加害を行うようになります。 猛暑の年には多発する傾向があるため、特に注意が必要です。
【写真で比較】ネキリムシの主な種類と見分け方

畑で不審なイモムシを見つけても、それが本当にネキリムシなのか、どの種類なのかを見分けるのは難しいものです。ここでは、日本でよく見られる代表的なネキリムシの種類と、その見分け方のポイントを写真付きで詳しく解説します。それぞれの特徴を知ることが、的確な対策への第一歩です。
- 代表的なネキリムシは3種類
- カブラヤガの特徴と見分け方
- タマナヤガの特徴と見分け方
- オオカブラヤガの特徴と見分け方
- 【早見表】ネキリムシの種類別特徴まとめ
代表的なネキリムシは3種類
家庭菜園や畑で問題となるネキリムシは、主に以下の3種類です。
- カブラヤガ
- タマナヤガ
- オオカブラヤガ
これらの幼虫は見た目が似ていますが、成虫の姿や幼虫の体表の模様に少しずつ違いがあります。見分けるポイントを押さえておきましょう。
カブラヤガの特徴と見分け方
カブラヤガは、日本全国、特に西日本で多く見られるネキリムシの代表格です。
- 幼虫(ネキリムシ): 体長は約40mmほど。 体色は灰褐色から暗褐色で、表面は滑らかでつるっとしています。 土から掘り出すと、体を丸める習性があります。
- 成虫(ガ): 開張(羽を広げた大きさ)は約37〜45mm。 全体的に灰褐色で、前翅には黒い縁取りのある腎状紋(じんじょうもん)、環状紋(かんじょうもん)、楔状紋(くさびじょうもん)という3対の紋があるのが特徴です。 特に楔状紋がはっきりしています。
- 発生時期: 年に3回ほど発生し、成虫は春(4-5月)、夏(7月)、秋(9-10月)に見られます。
カブラヤガの幼虫は非常に多くの植物を食害し、キャベツ、ハクサイ、ダイコンなどのアブラナ科野菜をはじめ、トマト、ナス、ネギ、豆類など、多岐にわたる作物が被害を受けます。
タマナヤガの特徴と見分け方
タマナヤガは、カブラヤガと並んで被害の多いネキリムシで、特に東日本で多く発生する傾向があります。
- 幼虫(ネキリムシ): 体長は約40〜45mm。 体色はカブラヤガに似ていますが、少し光沢が鈍いのが特徴です。 刺激を与えると丸くなる習性はカブラヤガと同じです。
- 成虫(ガ): 開張は約40〜45mm。 前翅は褐色で、カブラヤガに比べて斑紋がやや不明瞭な個体が多いです。 見分けるポイントは、腎状紋の下に続く黒い尖った線です。 この特徴が安定して見られます。
- 発生時期: 春から秋にかけて2〜4回発生します。 越冬は幼虫または蛹で行います。
タマナヤガも食性が広く、アブラナ科野菜やマメ類、レタス、ニンジン、芝生など多くの植物を加害します。
オオカブラヤガの特徴と見分け方
オオカブラヤガは、その名の通りカブラヤガに似ていますが、より大型のネキリムシです。
- 幼虫(ネキリムシ): 幼虫はハクサイやネギなどを食害することが知られています。
- 成虫(ガ): 開張は約43〜50mmと、他の2種より一回り大きいです。 前翅の地色は淡褐色から茶褐色で、前縁部が幅広く黒褐色になっているのが大きな特徴です。
- 発生時期: 主に秋(10月〜11月)に出現する、年1回の発生です。
出現時期が秋に限定されるため、その時期のハクサイやネギなどの野菜は特に注意が必要です。
【早見表】ネキリムシの種類別特徴まとめ
各種ネキリムシの特徴を一覧表にまとめました。見分ける際の参考にしてください。
種類 | 幼虫の特徴 | 成虫の特徴 | 主な発生時期 |
---|---|---|---|
カブラヤガ | 体長約40mm。灰褐色で滑らかな体表。 | 開張37-45mm。灰褐色で3対の明瞭な紋(特に楔状紋)。 | 春・夏・秋(年3回程度) |
タマナヤガ | 体長約40-45mm。光沢が鈍い体表。 | 開張40-45mm。褐色で、腎状紋の下に黒く尖った線がある。 | 春〜秋(年2〜4回) |
オオカブラヤガ | ハクサイ、ネギなどを加害。 | 開張43-50mmと大型。前翅の前縁が幅広く黒褐色。 | 秋(年1回) |
ネキリムシによる被害のサインと被害に遭いやすい野菜

ネキリムシの被害は、ある日突然やってきます。しかし、注意深く観察すれば、その被害のサインを見つけることができます。ここでは、ネキリムシによる被害の具体的な症状と、特に狙われやすい野菜について解説します。早期発見が被害を最小限に食い止める鍵です。
- こんな症状は要注意!被害の見分け方
- ネキリムシが好む野菜一覧
- ネキリムシとヨトウムシの違いとは?
こんな症状は要注意!被害の見分け方
ネキリムシの被害を早期に発見するためのチェックポイントは以下の通りです。
- 苗が地際から切断され、倒れている: これが最も典型的で分かりやすい被害のサインです。 まるでハサミで切ったかのように、茎がスパッと切断されています。
- 株元の土を少し掘ると幼虫が見つかる: 被害にあった株の周辺の土を、深さ数センチほど優しく掘り返してみてください。 Cの字に丸まったイモムシがいれば、それがネキリムシです。
- 葉が土の中に引きずり込まれている: ネキリムシは切り取った葉を巣穴である土の中に引き込んで食べることがあります。 不自然に葉が土に埋まっていたら要注意です。
これらのサインを見つけたら、被害が拡大する前にすぐに対策を講じる必要があります。
ネキリムシが好む野菜一覧
ネキリムシは非常に食性が広く、多くの野菜が被害の対象となります。 特に、植え付けたばかりの柔らかい苗が大好きです。家庭菜園で栽培される野菜の中でも、特に被害に遭いやすいものを以下に挙げます。
- アブラナ科: キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ダイコン、カブ
- ナス科: トマト、ナス、ピーマン、ジャガイモ
- ウリ科: キュウリ、スイカ、カボチャ
- キク科: レタス
- マメ科: ダイズ、エダマメ、インゲン
- その他: ネギ、タマネギ、ホウレンソウ、トウモロコシ
見ての通り、ほとんどの野菜がターゲットになると考えてよいでしょう。特に苗の定植直後は、こまめなチェックが欠かせません。
ネキリムシとヨトウムシの違いとは?
ネキリムシとよく混同される害虫に「ヨトウムシ」がいます。ヨトウムシもヨトウガというガの幼虫で夜行性ですが、被害の出方が異なります。
- ネキリムシ: 主に地際の茎を食害し、株を切り倒します。単独で行動することが多いです。
- ヨトウムシ: 主に葉を食害します。若齢幼虫は集団で葉の裏側から食害し、葉を白っぽく透けたようにします(表皮を残すため)。成長すると葉脈を残して葉を食べ尽くすこともあります。
被害の場所が「茎の根元」なのか「葉」なのかで、どちらの害虫によるものか、ある程度判断することができます。
【見つけたら即実行】ネキリムシの効果的な駆除方法

もし畑でネキリムシの被害や幼虫そのものを見つけてしまったら、一刻も早く駆除する必要があります。放置すれば、被害はどんどん広がってしまいます。ここでは、手作業による駆除から農薬を使った方法、そして環境に優しい対策まで、効果的な駆除方法を具体的に紹介します。
- 基本は手で捕殺!見つけ方とコツ
- 農薬を使った確実な駆除方法
- 農薬を使わない!自然に優しい駆除方法
基本は手で捕殺!見つけ方とコツ
最も確実で原始的な方法は、見つけて捕まえる(捕殺する)ことです。 被害は夜間に起こりますが、幼虫は昼間、被害株のすぐ近くの土の中に潜んでいます。
被害にあった苗を見つけたら、その株元の土を深さ5cmほど、スコップなどでそっと掘り返してみてください。 Cの字に丸まった幼虫が見つかるはずです。見つけ次第、捕まえて駆除しましょう。数が少ないうちなら、この方法が最も手軽で効果的です。夜間に懐中電灯を持って畑を見回り、地上に出てきている幼虫を捕殺するのも有効です。
農薬を使った確実な駆除方法
被害が広範囲に及んでいたり、毎年発生して困っている場合には、農薬の使用が効果的です。ネキリムシ用の農薬には、大きく分けて2つのタイプがあります。
誘って食べさせるベイト剤(ネキリベイト、ガードベイトAなど)
ベイト剤は、ネキリムシが好む餌に殺虫成分を混ぜ込んだ、いわば「毒餌」です。 株元や畝間にパラパラとまいておくと、夜間に土から出てきたネキリムシがそれを食べて死んでしまいます。
代表的な商品には「ネキリベイト」や「ガードベイトA」、「ネキリエースK」などがあります。 これらの薬剤は、ネキリムシを誘い出して食べさせるタイプなので、効果が高く、速効性も期待できます。 使用する際は、商品のラベルをよく読み、適用作物や使用方法を必ず守ってください。
土に混ぜ込む粒剤(ダイアジノン粒剤など)
もう一つのタイプは、土壌に混ぜ込む粒剤です。代表的なものに「ダイアジノン粒剤」があります。 これは、植え付け前や植え付け時に土に混ぜ込むことで、土の中にいるネキリムシやその他の土壌害虫を駆除する効果があります。
予防的な効果も期待できるため、毎年ネキリムシの被害に悩まされる畑では、植え付け前の土壌処理として検討する価値があります。こちらも使用前には必ずラベルの記載内容を確認し、正しく使用することが重要です。
農薬を使わない!自然に優しい駆除方法
「できるだけ農薬は使いたくない」という方のために、自然に優しい駆除方法もいくつかご紹介します。
米ぬかトラップの作り方と効果
ネキリムシは米ぬかが大好きです。 この習性を利用したのが米ぬかトラップです。米ぬかを水で軽く湿らせてお団子状にし、畑の数カ所に置いておきます。夜になるとネキリムシが米ぬかを食べに集まってくるので、翌朝、集まってきた幼虫ごと処分します。農薬と混ぜてベイト剤を自作する方法もありますが、米ぬかだけでもおびき寄せる効果は期待できます。
天敵を利用した生物農薬
天敵を利用する方法もあります。「スタイナーネマ」という種類の昆虫寄生性線虫を利用した生物農薬(商品名:バイオトピアなど)が市販されています。 この線虫は土の中でネキリムシなどの害虫を探し出し、体内に侵入して殺してくれます。人や作物には無害で、環境への負荷が少ないのが特徴です。価格は化学農薬に比べて高めですが、有機栽培などに取り組んでいる方には有効な選択肢の一つです。
被害を未然に防ぐ!今日からできるネキリムシ予防策

一度発生すると厄介なネキリムシですが、被害を未然に防ぐための予防策も重要です。駆除と合わせて予防を行うことで、大切な作物を守りましょう。ここでは、誰でも今日から始められる簡単な予防方法を紹介します。
- 産卵させない環境づくりが重要
- 物理的に侵入を防ぐ方法(防虫ネット・株元ガード)
- 畑を清潔に保つ(除草・耕うん)
産卵させない環境づくりが重要
ネキリムシ対策の基本は、成虫であるガに卵を産み付けさせないことです。 ガは雑草が生い茂っている場所を好んで卵を産みます。 畑の周りに雑草地があると、そこが発生源となり、畑に侵入してくる可能性が高くなります。日頃から畑の周囲の雑草管理を徹底することが、予防の第一歩となります。
物理的に侵入を防ぐ方法(防虫ネット・株元ガード)
物理的にガの侵入や幼虫の加害を防ぐ方法も非常に効果的です。
- 防虫ネット: 畑全体を目の細かい防虫ネットで覆うことで、成虫の飛来と産卵を防ぐことができます。 特に苗を育てている期間だけでもトンネルがけをすると、大きな予防効果が期待できます。
- 株元ガード: 植え付けた苗の株元を、トイレットペーパーの芯や、底を抜いたペットボトルなどで囲う方法です。 これにより、ネキリムシが茎に到達するのを物理的に防ぎます。簡単ですが、効果は絶大です。アルミホイルを巻くのも良いでしょう。
畑を清潔に保つ(除草・耕うん)
畑自体の管理も重要です。ネキリムシの成虫は、作物の残渣や枯れ葉などにも卵を産み付けます。 収穫が終わった後の残渣は速やかに片付け、畑を清潔に保ちましょう。
また、植え付け前に畑をよく耕す(耕うんする)ことも有効です。土を耕すことで、土の中に潜んでいる幼虫や蛹を物理的に駆除したり、地表にさらして鳥などの天敵に食べさせたりする効果が期待できます。 特に、雑草が生えていた場所を新しく畑にする場合は、念入りに耕うんを行うことが大切です。
よくある質問

ネキリムシに天敵はいますか?
はい、います。鳥類(ムクドリなど)や、カエル、ゴミムシ、アリなどがネキリムシの幼虫を食べることがあります。また、昆虫に寄生する線虫(スタイナーネマ線虫)を利用した生物農薬も市販されています。
卵の殻をまくと効果がありますか?
「株元に砕いた卵の殻をまくと、体がチクチクしてネキリムシが寄り付かない」という話がよく聞かれます。 科学的な効果は証明されていませんが、実際に試して効果があったという声もあります。 ダメ元で試してみる価値はあるかもしれません。
コーヒーかすはネキリムシ対策になりますか?
コーヒーかすに含まれるカフェインや香りを嫌う虫がいるため、一部の害虫には忌避効果が期待できると言われています。しかし、ネキリムシに対する明確な効果は実証されていません。土壌改良の効果はあるため、土に混ぜ込む分には問題ありませんが、過度な期待はしない方が良いでしょう。
ネキリムシの成虫(ガ)も駆除した方がいいですか?
成虫のガは夜行性で、畑に卵を産み付ける原因となります。もし見つけたら駆除するに越したことはありませんが、広範囲を飛び回るため、全てを駆除するのは困難です。防虫ネットで産卵場所への侵入を防ぐ方が効率的です。
薬剤はいつまくのが効果的ですか?
ベイト剤(毒餌剤)は、ネキリムシが活動を始める夕方から夜にかけてまくと、新鮮な状態で食べてもらえるため効果的です。 土壌混和剤は、植え付け前や植え付け時に土に混ぜ込むのが基本です。いずれの場合も、商品の説明書に従って適切な時期に使用してください。
まとめ

- ネキリムシはヤガ科のガの幼虫の総称です。
- 代表的な種類はカブラヤガ、タマナヤガ、オオカブラヤガです。
- 夜行性で、昼間は土の中に隠れています。
- 主な被害は、苗の地際の茎を食い切ることです。
- 春(4-6月)と秋(9-11月)が発生のピークです。
- 見分け方は成虫の翅の模様や幼虫の体表がポイントです。
- 被害株の周りの土を掘ると幼虫が見つかります。
- 駆除の基本は、見つけて捕殺することです。
- 農薬には誘って食べさせるベイト剤が効果的です。
- 土に混ぜる粒剤で予防することもできます。
- 農薬を使わない方法として米ぬかトラップがあります。
- 予防には防虫ネットや株元ガードが有効です。
- 畑やその周りの除草を徹底することが重要です。
- 植え付け前の耕うんは土中の幼虫駆除に繋がります。
- 被害を正しく見分け、迅速な対策を心がけましょう。