ネブライザーの使い方が分からず、不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。自宅で吸入療法を行う際、正しいやり方を知ることは、症状の改善を早める上で非常に重要です。本記事では、ネブライザーの基本的な知識から、効果的な吸入方法、そして清潔に保つためのお手入れまで、詳しく解説します。大切なご家族のために、あるいはご自身の健康のために、ネブライザーを安全かつ効果的に活用するための情報をお届けします。
ネブライザーとは?基本知識と種類を知ろう

ネブライザーは、液状の薬液を細かい霧状にして、気道や肺などの患部に直接届けるための医療機器です。この吸入療法は、薬を飲み込むのが難しい乳幼児や高齢者でも、自然な呼吸で確実に薬を吸入できるという大きなメリットがあります。
ネブライザーの役割と吸入療法のメリット
ネブライザーは、薬液を微細な霧状の粒子(エアロゾル)に変え、それを呼吸とともに吸入することで、薬効成分を直接患部に届けます。これにより、経口薬に比べて少ない薬の量で効果を発揮しやすく、全身への副作用を軽減できるというメリットが期待できます。また、薬が直接作用するため、速効性がある点も特徴です。
ネブライザーは、気管支喘息や気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、咽喉頭炎などの治療に広く活用されています。具体的には、気管支を広げたり、炎症を鎮めたり、痰を柔らかくして体外への排出を促したり、炎症状態にある副鼻腔の症状を緩和したりする目標のもとで用いられます。
主なネブライザーの種類と特徴
ネブライザーは、薬液を霧状にする方式によって主に3つの種類に分けられます。それぞれの特徴を理解し、ご自身の症状や使用環境に合ったタイプを選ぶことが大切です。
ジェット式(コンプレッサー式)ネブライザー
ジェット式ネブライザーは、圧縮した空気の力で薬液を霧状にするタイプで、コンプレッサー式とも呼ばれます。現在、最もスタンダードで広く使用されている種類です。
- メリット:ほとんどの吸入薬に対応しており、粘性の高い薬剤や懸濁剤(液体のなかに微細粒子が分散している薬剤)も使用できます。また、メンテナンスが比較的簡単です。
- デメリット:空気を圧縮する際の動作音が大きい傾向にあります。そのため、集合住宅での夜間の使用や、音が苦手な子供が怖がってしまう場合もあります。
メッシュ式ネブライザー
メッシュ式ネブライザーは、超音波で薬液を振動させた後、機器内部の微細なメッシュの穴から薬液を押し出して霧状にするタイプです。
- メリット:小型で軽量な製品が多く、携帯性に優れています。動作音も比較的静かで、寝たまま吸入できる機種もあります。
- デメリット:ジェット式と比較して、使用できない吸入薬がある場合があります。特に、粘性の高い薬剤や一部の懸濁剤には適さないことがあるため、使用可能な薬液を事前に確認することが重要です。
超音波式ネブライザー
超音波式ネブライザーは、超音波振動によって薬液を霧状にして噴出するタイプです。
- メリット:パワーがあり、長時間の吸入に適しています。動作音も比較的静かです。
- デメリット:一般的に大型で、携帯には不向きな機種が多いです。また、手入れに手間がかかることや、使用できる薬液が限られる(特に懸濁性製剤は薬効成分が沈殿しやすいため不向き)という点も考慮が必要です。
ネブライザーの吸入口には、主に口にくわえるマウスピース型と、鼻と口を覆うマスク型、鼻腔に直接薬液を届けるノーズピース型があります。乳幼児などマウスピースをうまく使えない場合はマスク型が効果的です。
ネブライザーの正しいやり方:準備から吸入、片付けまで
ネブライザーを効果的に使うためには、正しい手順で準備し、吸入を行い、使用後のお手入れを欠かさないことが重要です。ここでは、ネブライザーの基本的なやり方について詳しく説明します。機種によって細かな操作方法が異なるため、必ずお手持ちの製品の取扱説明書も併せて確認してください。
吸入前の準備:必要なものと確認事項
吸入を始める前に、以下の手順で準備を進めましょう。この準備を丁寧に行うことが、安全で効果的な吸入につながります。
- 手洗い:ネブライザーのパーツや薬液に触れる前に、石鹸で手をきれいに洗いましょう。
- 薬液の確認:医師から処方された薬液の種類、量、有効期限を必ず確認してください。複数の薬液を混ぜて使用する場合は、医師の指示に従いましょう。
- パーツの清潔さ確認:薬液カップやマウスピース、マスクなどの各パーツが清潔であることを確認します。初めて使用する場合や長期間使用しなかった場合は、事前に洗浄・消毒が必要です。
- 薬液の充填:薬液カップに、医師の指示された量の薬液を入れます。適正薬液量は機種によって異なりますが、一般的に2~7mL程度です。
- 組み立て:薬液カップにチューブの一方の端を接続し、もう一方の端をネブライザー本体に接続します。その後、マウスピースまたはマスクを薬液カップに取り付けます。
効果的な吸入方法と姿勢のコツ
吸入中は、薬液が気道や肺にしっかり届くように、リラックスして正しい姿勢と呼吸を心がけましょう。
- 姿勢:椅子に座るなど、リラックスできる姿勢で吸入を行います。乳幼児の場合は、保護者が抱っこしてあげると良いでしょう。
- マウスピースの場合:マウスピースをしっかりと口にくわえ、口からゆっくりと深く呼吸します。口に唾液が溜まってきたら、途中で吐き出してください。
- マスクの場合:マスクで鼻と口を覆うように顔に密着させます。特に乳幼児は、マスクの方が効果的に吸入できます。
- 呼吸:ネブライザーをオンにし、霧が出ていることを確認したら、医師の指示に従って口からゆっくりと深く呼吸を繰り返します。自然な呼吸で吸入できるため、特別な呼吸のタイミングを合わせる必要はありません。
- 吸入時間:吸入にかかる時間は、機種や薬液の量によって異なりますが、一般的に数分程度かかるのが一般的です。薬液がなくなるまで、指示された時間吸入を続けましょう。
吸入後の片付けと清潔な保管方法
ネブライザーは医療機器であるため、使用後のお手入れと清潔な保管が非常に重要です。これを怠ると、感染症の原因になったり、機器の性能が低下したりする可能性があります。
- 薬液の廃棄:吸入後に薬液カップに残った薬液は、必ず捨ててください。
- 分解と洗浄:ネブライザーの各パーツ(送気ホースを除く)を分解し、ぬるま湯と少量の中性洗剤を使って丁寧に水洗いします。特に薬液が触れた部分は、念入りに洗いましょう。
- すすぎと乾燥:全ての部品をぬるま湯で丁寧にすすぎ、洗剤成分を完全に洗い流します。その後、水滴をよく振り落とし、清潔な場所で自然乾燥させます。タオルなどで拭くと、繊維が付着したりメッシュが破損したりする可能性があるため、避けてください。
- 消毒:製品の取扱説明書に従って、定期的に消毒を行いましょう。一般的には、0.0125%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に1時間以上浸ける方法や、煮沸消毒が推奨される場合があります。ただし、メッシュ式ネブライザーのメッシュ部分には、次亜塩素酸ナトリウム系の消毒液が使用できない場合があるため注意が必要です。
- 保管:消毒後は十分に乾燥させ、直射日光が当たらない、埃のない清潔な場所で保管してください。
ネブライザー使用時の注意点とよくある疑問

ネブライザーを安全かつ効果的に使用するためには、いくつかの注意点や、よくある疑問について理解しておくことが大切です。特に薬液の取り扱いや、子供・高齢者が使用する際の配慮は、治療の成果に大きく影響します。
薬液の種類と正しい使い方
ネブライザーで使用する薬液は、患者さんの症状や体調に応じて医師が選択します。必ず医師の指示に従い、処方された薬液の種類、用量、用法を守って使用してください。自己判断で薬液の種類を変えたり、量を調整したりすることは絶対に避けましょう。
ネブライザーの種類によっては、使用できない薬液があることを覚えておいてください。例えば、超音波式ネブライザーでは、パルミコート吸入液のような懸濁性製剤は薬効成分が沈殿しやすく、上澄みしか吸入できないため適さないとされています。購入を検討する際は、普段処方されている薬液に対応しているかを確認することが重要です。
生理食塩水のみを吸入に使用する場合もありますが、これは主に鼻やのどの加湿を目的としたものです。治療目的で生理食塩水を使用する場合は、必ず医師に相談し、指示を仰ぎましょう。また、複数の薬液を組み合わせて使用する際は、医師の指示に従い、正しい手順で行ってください。
子供や高齢者が使用する際のポイント
ネブライザーは、吸い込む力が弱い乳幼児や、定量噴霧式吸入器(pMDI)をうまく扱えない高齢者でも、自然な呼吸で確実に吸入できるため、非常に便利な医療機器です。しかし、使用する際にはいくつかのポイントがあります。
子供がネブライザーを使用する場合、動作音が大きいジェット式ネブライザーを怖がってしまうことがあります。そのような場合は、静音設計のメッシュ式や超音波式を検討したり、吸入中に好きな動画を見せたり、遊びながら吸入したりする工夫が有効です。また、吸入が終わったらシールを貼るなどして、達成感を与えてあげるのも良いでしょう。
乳幼児には、鼻と口を覆うマスク型を使用すると、より効果的に薬液を吸入できます。
高齢者が使用する際も、無理のない姿勢で、呼吸の様子や顔色を十分に観察しながら吸入を行うことが大切です。吐き気や頭痛、呼吸が苦しいなどの症状が見られた場合は、すぐに吸入を中止し、医師に相談してください。
ネブライザーの選び方と購入場所
家庭用ネブライザーを選ぶ際は、使用する目的や症状、ライフスタイルに合わせて検討することが大切です。
- 目的と症状:喘息や気管支炎などの治療が主目的であれば、幅広い薬液に対応するジェット式が適していることが多いです。花粉症や軽度の気管支炎のケア、加湿目的であれば、静音で携帯しやすいメッシュ式や超音波式も選択肢になります。
- 動作音:夜間や集合住宅での使用が多い場合は、動作音が静かなメッシュ式や超音波式がおすすめです。
- 携帯性:外出先での使用を考えている場合は、小型・軽量で持ち運びしやすいメッシュ式が良いでしょう。
- 手入れのしやすさ:毎日使用するものなので、分解しやすく、洗浄・消毒が簡単な製品を選ぶと、清潔を保ちやすくなります。
- 対応薬液:最も重要なのは、医師から処方されている薬液に対応しているかを確認することです。
ネブライザーは、オムロンやフィリップス、A&Dなどのメーカーから様々な製品が販売されています。医療機関で貸し出しを行っている場合もありますが、家電量販店やオンラインストアでも購入可能です。購入する際は、必ず製品の仕様や取扱説明書をよく確認し、不明な点があれば医師や薬剤師に相談しましょう。
よくある質問

- ネブライザーはどんな症状に効果がありますか?
- 生理食塩水だけでも使えますか?
- 毎日使っても大丈夫ですか?
- ネブライザーの薬液はどこで手に入りますか?
- ネブライザーの音がうるさいのですが、静かなタイプはありますか?
- ネブライザーの部品はどのくらいの頻度で交換すべきですか?
ネブライザーはどんな症状に効果がありますか?
ネブライザーは、気管支喘息、気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、咽喉頭炎などの呼吸器系の症状や疾患に効果が期待できます。薬液を霧状にして直接患部に届けることで、気管支を広げたり、炎症を鎮めたり、痰を柔らかくして排出を促したり、鼻腔の炎症を緩和したりする役割があります。
生理食塩水だけでも使えますか?
生理食塩水のみをネブライザーで吸入することは、鼻やのどの加湿を目的とする場合には可能です。しかし、治療目的で薬液の代わりに生理食塩水を使用する場合は、必ず医師の指示に従ってください。ネブライザーは、のどや鼻の粘膜の加湿だけを目的とした機器とは用途が異なります。
毎日使っても大丈夫ですか?
ネブライザーの使用回数や間隔、薬の量などは、医師の指示に従って正しく使用することが重要です。自己判断で過度に使用したり、使用を中断したりすることは避け、必ず医師の指示を守りましょう。症状がひどい場合は、ネブライザーの使用に頼らずに、速やかに病院を受診してください。
ネブライザーの薬液はどこで手に入りますか?
ネブライザーで使用する薬液は、医師の処方箋が必要です。処方箋を持って薬局に行き、薬剤師から薬液を受け取ることになります。自己判断で市販薬などをネブライザーに使用することはできません。
ネブライザーの音がうるさいのですが、静かなタイプはありますか?
はい、あります。ジェット式ネブライザーは動作音が大きい傾向がありますが、メッシュ式ネブライザーや超音波式ネブライザーは比較的静音設計の製品が多いです。特に夜間の使用や、音が気になる環境で使う場合は、静音性を重視してメッシュ式や超音波式を選ぶことをおすすめします。
ネブライザーの部品はどのくらいの頻度で交換すべきですか?
ネブライザーの部品の交換頻度は、製品の取扱説明書に記載されています。薬液カップやマウスピース、マスクなどの消耗品は、定期的な交換が必要です。また、エアフィルターも汚れていないか定期的にチェックし、必要に応じて交換しましょう。部品の劣化は、吸入効率の低下や衛生面の問題につながるため、指示された頻度での交換を心がけてください。
まとめ
- ネブライザーは薬液を霧状にして直接患部に届ける医療機器です。
- 経口薬より少ない量で効果を発揮しやすく、副作用軽減が期待できます。
- 喘息や気管支炎、副鼻腔炎などの治療に活用されます。
- 主な種類はジェット式、メッシュ式、超音波式があります。
- ジェット式は多くの薬液に対応しますが、動作音が大きめです。
- メッシュ式は小型・静音で携帯性に優れています。
- 超音波式はパワーがあり長時間使用に適していますが、大型です。
- 吸入前には手洗いと薬液、パーツの確認が重要です。
- 薬液カップには規定量の薬液を入れましょう。
- 吸入中はリラックスし、深くゆっくりと呼吸します。
- 乳幼児にはマスク型が効果的です。
- 使用後は各パーツを分解し、丁寧に洗浄・乾燥させます。
- 製品の取扱説明書に従い、定期的な消毒を行いましょう。
- 薬液は医師の処方箋に従い、自己判断での使用は避けてください。
- 子供が怖がらないよう、遊びを取り入れる工夫も有効です。
- ネブライザーを選ぶ際は、目的、動作音、携帯性、対応薬液を考慮します。
- 部品は定期的に交換し、清潔を保つことが大切です。
