丹精込めて育てた白菜が、気づけば虫に食べられて穴だらけに…家庭菜園を楽しむ多くの方が、そんな悔しい思いを経験しているのではないでしょうか。白菜はみずみずしくて美味しいため、残念ながら害虫にとっても大好物です。しかし、がっかりする必要はありません。敵を知り、正しい対策を講じることで、害虫の被害を最小限に抑え、立派な白菜を収穫することは十分に可能です。本記事では、白菜に付きやすい害虫の種類から、今日からできる予防策、そして発生してしまった際の駆除方法まで、プロの視点で徹底的に解説します。
なぜ白菜には害虫対策が必須なのか

白菜の栽培において、害虫対策は避けては通れない重要な作業です。葉が幾重にも重なる結球野菜である白菜は、一度害虫が内部に侵入すると、発見が遅れやすく、気付いた時には内部が食い荒らされていたという事態になりがちです。 害虫は単に葉を食べるだけでなく、排泄物で白菜を汚したり、病気のウイルスを媒介したりすることもあります。 被害が拡大すると、白菜の生育が悪くなるだけでなく、最悪の場合、株全体が枯れてしまうこともあります。美味しい白菜を収穫するためには、まず害虫の生態を知り、適切な対策を講じることが何よりも大切なのです。
本記事で解説する主な内容は以下の通りです。
- 白菜に集まる代表的な害虫とその見分け方
- 農薬に頼らない!今日からできる害虫予防策
- 発生してしまった害虫の効果的な駆除方法
- 虫食い白菜に関するよくある質問
【写真で解説】白菜に付く主な害虫の種類と見分け方

まずは、あなたの白菜を狙っている犯人を特定することから始めましょう。ここでは、白菜に特に付きやすい代表的な害虫を、その特徴や被害の様子とともにご紹介します。
アオムシ(モンシロチョウの幼虫)
家庭菜園で最もよく見かける害虫の一つがアオムシです。その名の通り、モンシロチョウの幼虫で、鮮やかな緑色をしています。 春から秋にかけて長期間発生し、特に春と秋に活動が活発になります。 葉の裏にいることが多く、食欲旺盛で、放置すると葉脈だけを残して葉全体を食べ尽くされてしまうこともあります。 葉に不自然な穴が開いていたら、まずはアオムシを疑い、葉の裏を念入りにチェックしてみましょう。
ヨトウムシ(夜盗虫)
日中は土の中や株の根元に隠れ、夜になると活動を始めることから「夜盗虫」と名付けられた厄介な害虫です。 孵化したばかりの若い幼虫は葉の裏に群がって表皮を残して食べるため、葉が白くカスリ状に見えるのが特徴です。 成長すると食欲がさらに旺盛になり、一晩で白菜がボロボロにされてしまうこともあります。 昼間に姿が見えなくても、葉に新しい食害痕があれば、夜のうちにヨトウムシが活動している可能性が高いでしょう。
コナガ
アオムシとよく似ていますが、アオムシより一回り小さいのがコナガの幼虫です。 体長は1cmほどで、刺激を与えるとピョンピョンと跳ねるように動く特徴があります。 コナガの食害は、葉の表面の薄皮を残して裏側から食べるため、被害部分が白っぽく窓ガラスのように透けて見えるのが特徴です。 世代交代が非常に早く、薬剤への抵抗性を持ちやすい害虫としても知られています。
アブラムシ類
体長1~3mmほどの非常に小さな虫で、新芽や葉の裏にびっしりと群生します。 植物の汁を吸って生育を妨げるだけでなく、その排泄物が「すす病」という病気を引き起こしたり、モザイク病などのウイルス病を媒介したりする、非常に厄介な害虫です。 特に春と秋の過ごしやすい気候で爆発的に増殖するため、早期発見・早期駆除が何よりも重要です。
ハイマダラノメイガ(ダイコンシンクイムシ)
その名の通り、白菜の芯(生長点)に潜り込んで食害する、タチの悪い害虫です。 別名「ダイコンシンクイムシ」とも呼ばれます。 生育初期の苗が被害にあうと、生長点が食べられてしまい、その後の生育が止まって枯れてしまうこともあります。 葉が結球し始めると被害は出にくくなりますが、 育苗期や植え付け直後の若い苗の時期は特に注意が必要です。高温で雨が少ない年に発生しやすい傾向があります。
ダイコンハムシ(ダイコンサルハムシ)
成虫も幼虫も白菜の葉を食害します。成虫は光沢のある黒藍色をした体長4mmほどの甲虫です。 葉に数ミリ程度の小さな穴をたくさん開けるのが特徴で、被害がひどいと葉がレース状になってしまいます。 寒さに強く、秋から活動を始め、冬の暖かい日にも見られることがあります。
ハクサイダニ
気温が低い11月から翌年の4月頃にかけて発生するダニの一種です。 幼虫も成虫も葉の汁を吸い、被害を受けた葉は白っぽく変色します。 被害が広がると生育が悪くなるため、見つけ次第、被害株ごと取り除くのが確実な対策です。
カブラハバチ(ナノクロムシ)
幼虫がアブラナ科の植物を食害するハチの仲間です。幼虫は真っ黒なイモムシ状で、「ナノクロムシ」とも呼ばれます。 新しい葉を好み、集団で葉脈を残してきれいに食べてしまうのが特徴です。 触ると丸まって地面に落ちる習性があります。
今日からできる!白菜を害虫から守るための予防策

害虫対策で最も重要なのは、そもそも害虫を寄せ付けない環境を作ることです。発生してからの駆除は手間がかかりますが、予防策をしっかり行えば、被害を大幅に減らすことができます。ここでは、農薬に頼らない予防方法を中心にご紹介します。
防虫ネットや寒冷紗で物理的にシャットアウト
最も効果的で基本的な予防策が、防虫ネットや寒冷紗(かんれいしゃ)でトンネル掛けをすることです。 害虫の成虫が飛来して葉に卵を産み付けるのを物理的に防ぎます。 特に、アオムシやコナガ、ハイマダラノメイガなどのチョウやガの仲間に対して絶大な効果を発揮します。植え付け直後からすぐに設置し、ネットの裾を土でしっかり埋めて隙間を作らないのがコツです。
畑の周りの雑草はこまめに除去する
畑の周りに雑草が生い茂っていると、そこが害虫の隠れ家や繁殖場所になってしまいます。 雑草に付いた害虫が、やがて白菜に移動してくるケースは非常に多いです。白菜を植えている畝(うね)の周りはもちろん、畑全体の雑草をこまめに取り除き、害虫が住みにくい環境を保ちましょう。
コンパニオンプランツを活用する
特定の野菜を一緒に植えることで、互いに良い影響を与え合う「コンパニオンプランツ」を利用するのも有効な方法です。白菜の場合、キク科のレタスやシュンギクなどがおすすめです。これらの植物が放つ独特の香りを害虫が嫌うため、白菜に寄せ付けにくくする効果が期待できます。 見た目も華やかになり、一石二鳥です。
適切な肥料管理を心がける
意外に思われるかもしれませんが、肥料の与えすぎ、特に窒素成分の過多は害虫の発生を助長することがあります。 窒素が多いと葉が軟弱に育ち、アブラムシなどの害虫が付きやすくなると言われています。適正な量の肥料を適切なタイミングで与え、白菜が健康に育つ手助けをすることが、結果的に害虫に強い株を育てることに繋がります。
発生してしまった!白菜の害虫駆除方法

予防策を講じていても、害虫が完全に発生しないとは限りません。もし害虫を見つけてしまったら、被害が広がる前に迅速に対処しましょう。ここでは、無農薬でできる方法と、農薬を使用する方法の両方をご紹介します。
無農薬でできる駆除方法
家庭菜園で、できるだけ農薬を使いたくないという方は多いでしょう。数が少ないうちは、手作業や自然由来のもので十分対処可能です。
見つけ次第、手で取り除く
アオムシやヨトウムシなど、目に見える大きさの害虫は、見つけ次第、手で捕殺するのが最も確実で簡単な方法です。 特に被害が広がる前の初期段階では非常に有効です。毎日の水やりや観察の際に、葉の裏までしっかりチェックする習慣をつけましょう。
自然由来のスプレーを活用する
アブラムシのように小さな虫が大量に発生してしまった場合は、手で取るのは困難です。そんな時は、自然由来の材料で作ったスプレーが役立ちます。
- 木酢液・竹酢液: 木炭や竹炭を作る際に出る煙を冷却して液体にしたもので、希釈して散布すると、その独特の匂いで害虫を寄せ付けにくくする効果があります。
- せっけん水: 食器用洗剤(天然由来成分のもの)を水で薄めたものをスプレーすると、アブラムシなどの小さな害虫を窒息させる効果が期待できます。 散布後、しばらくしたら水で洗い流しましょう。
- 食酢スプレー: 穀物酢などを水で25~50倍程度に薄めて散布します。殺菌効果も期待でき、病気の予防にも繋がります。
これらのスプレーは、使用前に必ず目立たない部分で試してから、全体に散布するようにしてください。
農薬(殺虫剤)を使用する場合
害虫が大量発生してしまい、手作業での駆除が追いつかない場合や、広い面積で栽培している場合は、農薬の使用も有効な選択肢となります。
適切な殺虫剤を選ぶ
ホームセンターなどでは、家庭菜園用の様々な殺虫剤が販売されています。 白菜に使用できるか、対象の害虫は何かを必ずラベルで確認してから購入しましょう。「オルトラン粒剤」のように植え付け時に土に混ぜ込むタイプや、「プレバソンフロアブル5」のように収穫前日まで使えるスプレータイプなどがあります。
使用方法と注意点を守る
農薬は、定められた希釈倍率や使用回数、使用時期を必ず守ってください。 特に収穫前の使用制限期間は厳守する必要があります。また、同じ薬剤を使い続けると、害虫が抵抗性を持って効きにくくなることがあるため、系統の異なる複数の薬剤を交互に使う「ローテーション散布」が推奨されます。 散布する際は、風のない早朝や夕方に行い、葉の裏までしっかりとかかるように丁寧に散布するのが効果を高めるコツです。
白菜の害虫に関するよくある質問

虫食いの白菜は食べられますか?
はい、食べられます。虫が食べた部分は、見た目が悪いだけでなく、フンなどで汚れている可能性があるので、その部分と周囲を少し大きめに取り除けば、残りの部分は問題なく食べることができます。 むしろ、虫が付くということは、農薬の使用が少ない、あるいは使われていない新鮮で安全な白菜である証拠と考えることもできます。
白菜の中にある黒い点々や黒い虫は何ですか?
白菜の葉に黒い点々がある場合、それは「ゴマ症」と呼ばれる生理現象の可能性が高いです。これは害虫や病気ではなく、ポリフェノールが蓄積したもので、食べても全く問題ありません。一方で、動いている小さな黒い虫は「ダイコンハムシ」や「ハクサイダニ」の可能性があります。 よく観察して、虫であれば取り除き、ただの点であれば気にせず調理して大丈夫です。
収穫した白菜の虫はどうやって洗い流せばいいですか?
葉の間に隠れた虫を効果的に洗い流すには、いくつかの方法があります。
- 50℃洗い: 50℃のお湯で洗うと、ヒートショックで虫が剥がれ落ちやすくなります。また、白菜の葉がシャキッとする効果もあります。
- 塩水・酢水に浸ける: ボウルに張った水に塩や酢を少し溶かし、そこに白菜の葉を数分間浸けておくと、浸透圧の変化で虫が浮き上がってきやすくなります。
その後、流水でしっかりと洗い流せば、気持ちよく食べることができます。
無農薬で育てるのは無理なのでしょうか?
決して無理ではありません。実際に無農薬で立派な白菜を育てている方はたくさんいます。 重要なのは、防虫ネットの徹底、コンパニオンプランツの活用、こまめな観察と手作業での駆除など、予防策を丁寧に行うことです。 少し手間はかかりますが、その分、安全で美味しい白菜を収穫できた時の喜びは格別です。
まとめ

- 白菜は害虫に狙われやすく、対策は必須。
- 代表的な害虫はアオムシ、ヨトウムシ、コナガなど。
- 害虫対策は「予防」が最も重要である。
- 防虫ネットは物理的防除として非常に効果的。
- 畑の周りの除草は害虫の隠れ家をなくす。
- レタスなどのコンパニオンプランツも有効。
- 窒素肥料の与えすぎは害虫を呼ぶ原因になる。
- 発生初期は手で取り除くのが確実な方法。
- アブラムシには木酢液やせっけん水が有効。
- 大量発生時は適切な農薬の使用も検討する。
- 農薬は用法・用量を守って正しく使用する。
- 虫食い部分は取り除けば食べても問題ない。
- 白菜の黒い点は「ゴマ症」なら無害である。
- 収穫後の虫は50℃洗いや塩水で落としやすい。
- 丁寧な管理で無農薬栽培も十分に可能。