大切に育てている植物の葉に、キラリと光る筋…。「もしかしてナメクジ?」と不安に思った経験はありませんか?ガーデニングの厄介者であるナメクジ対策として、有名な殺虫剤「オルトラン」を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、本当にオルトランはナメクジに効果があるのでしょうか。本記事では、その疑問に明確にお答えし、ナメクジに本当に効く対策を詳しく解説します。
結論:ナメクジ駆除にオルトランの効果は期待薄

いきなり結論からお伝えすると、ナメクジを駆除する目的でオルトランを使用しても、残念ながら十分な効果は期待できません。「害虫に効くならナメクジにも効くはず」と考えて使用しても、がっかりする結果になる可能性が高いのです。なぜ効果がないのか、その理由を詳しく見ていきましょう。
オルトランはナメクジの適用害虫ではない
オルトランを製造・販売している住友化学園芸(2025年7月1日よりKINCHO園芸株式会社に社名変更)の公式情報を見ると、家庭園芸用GFオルトラン粒剤の適用害虫リストに「ナメクジ」の記載はありません。 適用害虫とは、その薬剤が効果を発揮することが確認されている害虫のことです。つまり、メーカーが公式にナメクジへの効果を保証していない、ということになります。
農薬は、対象とする害虫や病気に対して登録されており、ラベルに記載のない使い方をすることは推奨されません。 ナメクジには、ナメクジ専用として販売されている駆除剤を使用するのが最も確実で正しい方法と言えるでしょう。
なぜ効かない?オルトランの作用の仕組み
オルトランがナメクジに効かない最大の理由は、その作用の仕方にあります。オルトランの有効成分「アセフェート」は、「浸透移行性」という特徴を持つ殺虫剤です。
これは、薬剤が植物の根や葉から吸収され、植物の体内の隅々まで行き渡る仕組みです。 そして、その植物の汁を吸ったアブラムシや、葉を食べたアオムシなどの害虫を退治します。
一方で、ナメクジは植物の汁を吸うタイプの害虫ではありません。葉や花びらを直接かじって食べる「食害性」の害虫です。 オルトランの成分が含まれた植物を食べれば効果があるのでは?と思うかもしれませんが、ナメクジのような比較的大きな生物に対して、植物経由で摂取される程度の量の成分では、致死量に至らないと考えられています。 そのため、オルトランの得意な攻撃方法が、ナメクジには通用しにくいのです。
オルトランの本当の効果と正しい使い方

ナメクジには効果が期待できないオルトランですが、本来の用途で使えば非常に頼りになる殺虫剤です。せっかくなので、オルトランがどんな害虫に強く、どのように使えば効果を最大限に発揮できるのかを確認しておきましょう。
この章では、以下の点について解説します。
- オルトランが得意な害虫一覧
- 効果的な使い方:株元に撒いて浸透させる
オルトランが得意な害虫一覧
オルトランは、非常に幅広い種類の害虫に効果を発揮します。 特に、植物の生育を著しく妨げる吸汁性害虫に強いのが特徴です。大切な植物をこれらの害虫から守るために、ぜひ活用してください。
代表的な適用害虫は以下の通りです。
- 吸汁性害虫(汁を吸う虫): アブラムシ類、コナジラミ類、グンバイムシ、アザミウマ類
- 食害性害虫(葉などを食べる虫): アオムシ、コナガ、ヨトウムシ、ハモグリバエ類
- 土の中の害虫: コガネムシ類幼虫、ネキリムシ類
このように、目に見えにくい土の中の害虫にも効果があるのは嬉しいポイントです。特にコガネムシの幼虫は、気づかないうちに根を食い荒らし、植物を枯らしてしまう厄介な存在。オルトランを土に混ぜ込んでおくことで、これらの被害を予防できます。
効果的な使い方:株元に撒いて浸透させる
オルトランの効果を最大限に引き出す使い方は、植物の株元にパラパラと撒くことです。 粒剤タイプが主流で、土の上に撒くと、水やりなどの水分によって有効成分が溶け出し、根から吸収されます。
吸収された成分は植物全体に行き渡り、植物自体がバリアをまとったような状態になります。 この効果は製品にもよりますが、約2〜3週間持続するため、害虫の発生を長期間抑えることが可能です。
植え付けの際に土に混ぜ込んだり、生育中に株元に追肥のように撒いたりするのが一般的な使い方です。直接害虫に薬剤をかける必要がないため、葉の裏などに隠れている害虫にも効果を発揮するのが大きなメリットです。
【ナメクジにはコレ!】効果的な駆除方法5選

オルトランがナメクジに効かないと分かったところで、ではどうすればあの厄介なナメクジを退治できるのでしょうか。ご安心ください、ナメクジに特化した効果的な対策はたくさんあります。ここでは、薬剤を使う方法から、ご家庭にあるもので手軽にできる方法まで、おすすめの駆除方法を5つ厳選してご紹介します。
この章で紹介する方法は以下の通りです。
- ①【ペットがいても安心】リン酸鉄系の駆除剤
- ②【速効性重視】メタアルデヒド系の駆除剤
- ③【手軽さNo.1】ビールトラップ
- ④【エコな対策】コーヒーかすや銅を利用する
- ⑤【見つけ次第退治】熱湯や塩・重曹
①【ペットがいても安心】リン酸鉄系の駆除剤
小さなお子様やペットがいるご家庭で最もおすすめなのが、「リン酸第二鉄」を有効成分とする駆除剤です。 代表的な商品に「ナメトール」や「スラゴ」などがあります。
この成分は天然の土壌中にも存在するもので、犬や猫、鳥などの温血動物には影響がありません。 ナメクジがこの成分を含んだ粒を食べると、食欲をなくして数日後に死に至ります。 雨や湿気に強いタイプが多く、有機JAS(有機農産物)適合の製品もあるため、家庭菜園でも安心して使用できるのが大きな魅力です。
②【速効性重視】メタアルデヒド系の駆除剤
とにかく早く、確実にナメクジを駆除したいという場合には、「メタアルデヒド」を有効成分とする駆除剤が効果的です。 こちらはナメクジに対して非常に高い殺虫効果と速効性があり、食べたナメクジは数時間で退治できます。
ただし、メタアルデヒドはペットなどが誤って食べてしまうと中毒を起こす危険性があるため、使用には注意が必要です。ペットや子供が近づかない場所に設置する、容器に入ったタイプを選ぶなどの工夫をしましょう。 住友化学園芸の「ナメ退治ベイト」などがこのタイプにあたります。
③【手軽さNo.1】ビールトラップ
薬剤を使いたくない方におすすめなのが、ビールを使ったトラップです。ナメクジはビールの酵母の匂いが大好きで、その匂いに誘われてやってきます。
ビールトラップの作り方と設置のコツ
作り方はとても簡単です。
- プリンの空き容器やペットボトルの底など、浅めの容器を用意します。
- 容器にビールを1cmほどの深さまで注ぎます。
- ナメクジがよく出没する場所(プランターの陰、ジメジメした場所など)の地面に、容器のフチが地面と同じ高さになるように少し埋めて設置します。
これだけで、夜になるとナメクジが匂いに釣られて容器の中に落ち、溺れてしまいます。飲み残しのビールで十分効果がありますので、ぜひ試してみてください。ただし、雨が入ると効果が薄まるので、軒下などに設置するのがおすすめです。
④【エコな対策】コーヒーかすや銅を利用する
ご家庭で出るものを再利用したエコな対策もあります。その一つがコーヒーかすです。ナメクジはコーヒーに含まれるカフェインを嫌う性質があるため、乾燥させたコーヒーかすを植物の周りにぐるりと撒いておくと、忌避効果が期待できます。
また、ナメクジは銅に触れると微弱な電流を感じて嫌がる性質があります。銅線や銅板をプランターの周りに巻いておくと、ナメクジの侵入を防ぐバリアになります。ホームセンターなどでは、ナメクジ除け用の銅テープも販売されています。
⑤【見つけ次第退治】熱湯や塩・重曹
ナメクジを見つけたその場で退治したい場合は、熱湯をかけるのが最も手っ取り早く確実な方法です。 ただし、植物に直接かかると枯れてしまうので注意してください。
有名な方法として塩をかけるというものもありますが、これはナメクジの体から水分を奪って退治する方法です。 確かに効果はありますが、塩分が土壌に残ると植物の生育に悪影響を与える可能性があるため、庭や花壇での使用は避けた方が無難です。 どうしても使う場合は、コンクリートの上などで見つけた場合に限定しましょう。重曹でも同様の効果が得られます。
そもそもナメクジを発生させない!今日からできる予防策

ナメクジを駆除するのも大切ですが、それ以上に重要なのが、そもそもナメクジが住み着きにくい環境を作ることです。ナメクジは「暗くてジメジメした場所」が大好き。 このような環境をなくすことで、発生を大幅に抑えることができます。
この章では、今日からできる予防策を3つご紹介します。
- 隠れ家をなくす(雑草・落ち葉の掃除)
- 湿気を減らす(水はけ・風通しの改善)
- プランターや鉢の置き方を工夫する
隠れ家をなくす(雑草・落ち葉の掃除)
ナメクジは日中、敵から身を守るために物陰に隠れています。雑草が生い茂っていたり、落ち葉が積もっていたりする場所は、ナメクジにとって最高の隠れ家です。
こまめに雑草を抜き、落ち葉を掃除するだけで、ナメクジが隠れる場所を奪うことができます。また、使っていない植木鉢や石などを庭に放置している場合も、格好の潜伏場所になるため、整理整頓を心がけましょう。
湿気を減らす(水はけ・風通しの改善)
ナメクジの体は乾燥に非常に弱いため、常に湿った環境を好みます。 庭の水はけが悪い場合は、土壌改良材を混ぜ込むなどして改善しましょう。
また、植物が密集しすぎていると、株元の風通しが悪くなり、湿度が高い状態が保たれてしまいます。適度に剪定を行ったり、株間を十分に空けて植え付けたりすることで、風通しを良くし、地面が乾きやすい環境を作ることが大切です。
プランターや鉢の置き方を工夫する
プランターや植木鉢の裏側は、湿気がこもりやすく、ナメクジが好んで隠れる場所の一つです。 プランターを地面に直接置いている方は注意が必要です。
レンガやブロック、専用のスタンドなどの上にプランターを置くことで、鉢底の風通しが良くなり、ナメクジが隠れにくくなります。 これだけでも侵入を防ぐ効果がかなり期待できます。定期的に鉢を移動させて、下にナメクジがいないかチェックする習慣をつけるのも良いでしょう。
ナメクジとオルトランに関するよくある質問

オルトランDX粒剤ならナメクジに効きますか?
オルトランDX粒剤は、アセフェートに加えてクロチアニジンというもう一つの浸透移行性殺虫成分を配合した製品です。 これにより、コナジラミ類など、従来のオルトランでは効きにくかった害虫にも効果を発揮します。 しかし、作用の仕組みは同じ浸透移行性であるため、残念ながらオルトランDX粒剤もナメクジに対する直接的な駆除効果は適用リストに含まれておらず、期待できません。
ナメクジに塩をかけるとどうして縮むのですか?
ナメクジの体の表面は、水分を多く含んだ粘膜で覆われています。ここに塩をかけると、浸透圧の原理によって体内の水分が急激に外に出てしまいます。 これが脱水症状を引き起こし、ナメクジは縮んで死んでしまうのです。砂糖や重曹でも同じ原理で効果があります。
ナメクジは人体に害がありますか?触っても大丈夫?
ナメクジ自体に毒はありませんが、広東住血線虫(かんとうじゅうけつせんちゅう)などの寄生虫を持っている可能性があります。 この寄生虫が口から体内に入ると、髄膜炎などの重篤な症状を引き起こすことがあるため、注意が必要です。ナメクジを触った後は、必ず石鹸でよく手を洗いましょう。 また、ナメクジが這った可能性のある野菜やハーブを生で食べる際は、流水で十分に洗浄することが重要です。
オルトランの匂いがきついのですが、対策はありますか?
オルトラン粒剤は、特有の強い匂いがあります。この匂いが苦手という方も少なくありません。対策としては、薬剤を撒いた後に軽く土と混ぜ合わせる(中耕する)と、匂いが少し和らぎます。また、風の強い日に散布するのを避け、マスクや手袋を着用して作業することも大切です。
オルトランはミミズにも影響がありますか?
オルトランは主に植物の樹液を吸う害虫を対象とした薬剤であり、ミミズのような土壌生物に対する直接的な影響は少ないと考えられています。 薬剤は土壌中で徐々に分解されますし、ミミズは比較的深い場所に生息しているため、大きな影響は受けにくいとされています。 ただし、農薬全般に言えることですが、規定量を守って正しく使用することが、環境への影響を最小限に抑える上で重要です。
まとめ

- オルトランはナメクジ駆除に効果は期待できない。
- オルトランはナメクジの適用害虫ではない。
- オルトランは浸透移行性で吸汁害虫に効く薬剤。
- ナメクジにはナメクジ専用の駆除剤が最も効果的。
- ペットがいる家庭ではリン酸鉄系の駆除剤が安心。
- 速効性を求めるならメタアルデヒド系の駆除剤。
- 薬剤を使いたくない場合はビールトラップが手軽。
- コーヒーかすや銅製品には忌避効果がある。
- 見つけ次第退治するなら熱湯が確実。
- 塩や重曹は土壌への影響に注意が必要。
- ナメクジ予防には隠れ家をなくすことが重要。
- 雑草や落ち葉をこまめに掃除する。
- 風通しを良くして湿気を減らす。
- プランターは台の上に置いて風通しを確保する。
- ナメクジは寄生虫を持つ可能性があるので素手で触らない。