生命保険料控除は、支払った保険料に応じて所得税や住民税が軽減される大切な制度です。しかし、年末調整と確定申告のどちらで申告すべきか迷ったり、誤って二重に控除を受けてしまわないかと不安に感じたりする方も少なくありません。本記事では、生命保険料控除の基本から、年末調整と確定申告それぞれの進め方、そして「二重控除」を確実に防ぐための具体的な方法まで、分かりやすく解説します。
生命保険料控除とは?基本をおさらい

生命保険料控除は、納税者が支払った生命保険料に応じて、所得から一定額を差し引くことで税負担を軽くする制度です。この控除を適用することで、所得税や住民税が軽減され、家計の助けとなります。控除の対象となる保険の種類や、控除される金額には上限があるため、ご自身の加入している保険が対象となるか、どのくらいの控除が受けられるのかを把握することが大切です。
控除の対象となる保険の種類
生命保険料控除には、大きく分けて「新制度」と「旧制度」があり、それぞれ控除の対象となる保険の種類が異なります。新制度では、以下の3つの区分に分けられます。
- 一般生命保険料控除:死亡保険や学資保険など、生存または死亡に起因して保険金が支払われる保険が対象です。
- 介護医療保険料控除:医療保険やがん保険、介護保険など、入院や通院、介護に備える保険が対象となります。
- 個人年金保険料控除:個人年金保険のうち、税制適格特約が付加されているものが対象です。
旧制度の保険に加入している場合は、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除の2区分となります。ご自身の加入している保険が新旧どちらの制度に該当するかは、保険会社から送られてくる控除証明書で確認できます。控除証明書には、どの区分に該当するかが明記されているため、必ず確認しましょう。
控除額の計算方法と上限
生命保険料控除の控除額は、支払った保険料の金額に応じて計算されますが、それぞれの上限が設けられています。新制度の場合、各控除区分(一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料)ごとに、年間支払保険料が8万円を超えると所得税の控除額は一律4万円、住民税の控除額は一律2万8千円となります。つまり、各区分で最大4万円(所得税)の控除が受けられるため、3区分全てで上限まで控除を受ければ、所得税では最大12万円の控除が可能です。
旧制度の場合、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除のそれぞれで、年間支払保険料が10万円を超えると所得税の控除額は一律5万円、住民税の控除額は一律3万5千円となります。新旧制度で控除額の計算方法や上限が異なるため、ご自身の契約がどちらに該当するかを確認し、正確な控除額を計算することが重要です。
年末調整で生命保険料控除を受ける進め方

会社員や公務員の方の多くは、年末調整で生命保険料控除の申告を行います。年末調整は、会社が従業員に代わって税金の計算と精算を行う制度のため、比較的簡単に控除を受けられるのが特徴です。しかし、必要な書類の準備や記入方法にはいくつかのコツがあります。
必要書類と記入のコツ
年末調整で生命保険料控除を受けるために必要な書類は、「給与所得者の保険料控除申告書」と、各保険会社から発行される「生命保険料控除証明書」です。保険料控除申告書には、保険会社名、保険の種類、保険期間、支払った保険料の金額などを正確に記入する必要があります。特に、控除証明書に記載されている「新・旧の区分」や「控除の種類」を間違えずに転記することが、正確な申告のコツです。
複数の保険に加入している場合は、全ての控除証明書を添付し、それぞれの保険料を合算して申告書に記入します。控除証明書は通常10月頃から11月にかけて郵送されてきますので、大切に保管しておきましょう。もし紛失してしまった場合は、速やかに保険会社に再発行を依頼することが大切です。
提出期限と注意点
年末調整の書類提出期限は、一般的に11月下旬から12月上旬に設定されていることが多いです。会社によって具体的な期限は異なるため、勤務先の指示に従って期日までに提出するようにしましょう。期限を過ぎてしまうと、年末調整での控除が受けられず、ご自身で確定申告を行う必要が出てくる場合があります。
また、年末調整で申告できるのは、その年の1月1日から12月31日までに支払った保険料のみです。年払いの保険料を支払っている場合は、支払日が対象期間内であることを確認するように注意してください。もし、年末調整の提出後に控除証明書が届いた場合や、申告を忘れてしまった場合は、後述する確定申告で控除を受けることが可能です。
確定申告で生命保険料控除を受ける進め方

自営業の方や、年末調整で生命保険料控除の申告を忘れてしまった会社員の方は、確定申告で控除を受けることになります。確定申告はご自身で税務署に書類を提出する進め方ですが、年末調整と同様に、必要書類を揃え、正確に記入することが求められます。
確定申告が必要なケース
確定申告で生命保険料控除を受ける必要があるのは、主に以下のようなケースです。
- 個人事業主やフリーランスの方で、年末調整の制度がない場合。
- 会社員だが、年末調整の際に生命保険料控除の申告を忘れてしまった場合。
- 年の途中で退職し、年末調整を受けていない場合。
- 複数の会社から給与を得ており、主たる給与以外の所得がある場合。
- 医療費控除や住宅ローン控除など、他の控除も合わせて申告したい場合。
これらのケースに該当する場合は、ご自身で確定申告書を作成し、税務署に提出することで生命保険料控除を受けることができます。還付申告であれば、過去5年分まで遡って申告が可能です。
必要書類と記入のコツ
確定申告で生命保険料控除を受けるために必要な書類は、「確定申告書」と「生命保険料控除証明書」です。確定申告書には、所得の種類や金額、各種控除の金額などを記入します。生命保険料控除については、確定申告書第二表の「生命保険料控除」欄に、控除証明書に基づいて正確な情報を記入します。
記入のコツは、年末調整と同様に、控除証明書の内容を正確に転記することです。特に、新旧の区分や控除の種類、そして支払った保険料の金額を間違えないように注意しましょう。また、確定申告書には、生命保険料控除証明書を添付する必要があるため、提出前に忘れずに確認してください。国税庁のウェブサイトには、確定申告書の作成を支援するコーナーがあり、指示に従って入力すれば比較的簡単に作成できます。
提出期限と注意点
確定申告の提出期限は、原則として毎年2月16日から3月15日までです。この期間内に、税務署に確定申告書を提出する必要があります。還付申告の場合は、この期間に限らず、対象となる年の翌年1月1日から5年間提出が可能です。
確定申告を行う際は、生命保険料控除だけでなく、他の所得や控除についても全て正確に申告することが求められます。もし申告内容に誤りがあった場合、税務署から指摘を受け、修正申告や追加納税が必要になることもあります。不明な点があれば、税務署や税理士に相談するなどして、正確な申告を心がけましょう。
生命保険料控除の「二重控除」とは?なぜ起こるのか

生命保険料控除における「二重控除」とは、同じ生命保険料に対して、誤って二度控除を受けてしまう状態を指します。これは意図的なものでなくても、税務上の問題となるため、避けるべきです。なぜ二重控除が起こってしまうのか、具体的なケースと対処法を知っておくことが大切です。
二重控除の具体的なケース
二重控除が発生する主なケースは、以下の通りです。
- 年末調整で申告したにもかかわらず、確定申告でも同じ保険料を申告してしまうケース:会社員の方が年末調整で生命保険料控除を申告した後、医療費控除などのために確定申告を行う際に、誤って生命保険料控除も再度申告してしまうことがあります。
- 複数の勤務先でそれぞれ生命保険料控除を申告してしまうケース:副業をしている方などが、それぞれの勤務先で生命保険料控除を申告してしまうと、二重控除となる可能性があります。
- 夫婦間で同じ保険料を二重に申告してしまうケース:夫婦の一方が契約者・被保険者となり、もう一方が保険料を支払っている場合など、どちらが控除を受けるべきか混乱し、両方が申告してしまうことがあります。
これらのケースでは、税務署のシステムで二重控除が検知されることがほとんどです。意図せずとも二重控除となってしまう可能性があるため、ご自身の申告内容をしっかりと確認することが重要です。
二重控除が発覚した場合の対処法
もし二重控除が発覚した場合、慌てずに適切な対処を行うことが大切です。税務署から連絡があった場合は、指示に従って修正申告を行うことになります。ご自身で二重控除に気づいた場合は、速やかに税務署に連絡し、修正申告の手続きを進めましょう。
修正申告では、正しい控除額に基づいて税金を再計算し、不足している税額があれば追加で納付することになります。場合によっては、延滞税などのペナルティが発生することもありますが、自主的に修正申告を行うことで、ペナルティが軽減される可能性もあります。正直に申告し、適切な手続きを踏むことが、問題を解決するための最善の方法です。
年末調整と確定申告、どちらで控除を受けるべき?

生命保険料控除を受ける際、年末調整と確定申告のどちらで申告すべきか迷う方もいるでしょう。どちらの方法でも控除は受けられますが、ご自身の状況によって最適な選択肢が異なります。控除証明書の取り扱いも含め、状況別の最適な選択肢を理解しておくことが大切です。
状況別の最適な選択
ご自身の状況に応じて、年末調整と確定申告のどちらで生命保険料控除を受けるべきか判断しましょう。
- 会社員で、他に確定申告が必要な控除がない場合:年末調整で申告するのが最も簡単で手間がかかりません。会社に必要書類を提出するだけで手続きが完了します。
- 会社員だが、医療費控除や住宅ローン控除など、他に確定申告が必要な控除がある場合:生命保険料控除も合わせて確定申告で申告すると、一度の手続きで全ての控除を受けられます。
- 個人事業主やフリーランスの場合:年末調整の制度がないため、確定申告で生命保険料控除を申告する必要があります。
- 年末調整で申告し忘れた場合:確定申告期間中であれば、確定申告で還付申告を行うことで控除を受けられます。
このように、ご自身の働き方や他に申告したい控除があるかどうかで、最適な選択肢が変わってきます。ご自身の状況をよく考え、最も効率的で確実な方法を選ぶようにしましょう。
控除証明書の取り扱い
生命保険料控除を受けるためには、年末調整でも確定申告でも「生命保険料控除証明書」が必須です。この証明書は、保険会社から毎年10月頃に郵送されてきます。年末調整で申告する場合は、会社に提出し、確定申告で申告する場合は、確定申告書に添付して税務署に提出します。
もし、年末調整で提出した後に確定申告が必要になった場合でも、年末調整で提出した控除証明書を再度確定申告で使うことはできません。確定申告で控除を受ける場合は、年末調整で提出しなかった控除証明書を使用するか、保険会社に再発行を依頼する必要があります。控除証明書は税務上の重要な書類ですので、大切に保管し、紛失しないように注意しましょう。
よくある質問

- 控除証明書をなくしてしまった場合はどうすればいいですか?
- 複数の保険会社と契約している場合、全て申告できますか?
- 夫婦で生命保険料を支払っている場合、どちらが控除を受けられますか?
- 年末調整で申告し忘れた場合、どうすればいいですか?
- 確定申告の期限を過ぎてしまった場合、控除は受けられますか?
控除証明書をなくしてしまった場合はどうすればいいですか?
控除証明書を紛失してしまった場合でも、控除を受けることは可能です。まずはご加入の保険会社に連絡し、再発行を依頼してください。多くの保険会社では、電話やウェブサイトから再発行の手続きができます。再発行には数日かかる場合があるため、年末調整や確定申告の期限に間に合うよう、早めに手続きを進めることが大切です。
複数の保険会社と契約している場合、全て申告できますか?
はい、複数の保険会社と契約している場合でも、全ての生命保険料控除の対象となる保険料を合算して申告できます。各保険会社から送られてくる控除証明書を全て集め、それぞれの保険料を「給与所得者の保険料控除申告書」または「確定申告書」に記入し、合計額で控除を申請します。ただし、控除額には上限があるため、支払った保険料の合計額が上限を超えても、控除額は上限までとなります。
夫婦で生命保険料を支払っている場合、どちらが控除を受けられますか?
生命保険料控除は、実際に保険料を支払った人が控除を受けられます。例えば、夫が契約者で妻が保険料を支払っている場合は、妻が控除を受けられます。夫婦でそれぞれ保険料を支払っている場合は、それぞれが支払った保険料に応じて控除を受けることが可能です。どちらが支払ったか明確にするため、保険料の引き落とし口座名義などを確認すると良いでしょう。
年末調整で申告し忘れた場合、どうすればいいですか?
年末調整で生命保険料控除の申告を忘れてしまった場合でも、諦める必要はありません。確定申告期間中(翌年の2月16日~3月15日)であれば、ご自身で確定申告を行うことで控除を受けられます。また、確定申告期間を過ぎてしまっても、対象となる年の翌年1月1日から5年間は「還付申告」として税務署に申告することが可能です。
還付申告は、払いすぎた税金を取り戻すための手続きです。
確定申告の期限を過ぎてしまった場合、控除は受けられますか?
確定申告の期限(原則3月15日)を過ぎてしまった場合でも、還付申告であれば控除を受けることが可能です。還付申告は、税金を払いすぎた場合にその還付を求める申告であり、対象となる年の翌年1月1日から5年間提出できます。ただし、期限後申告や修正申告の場合は、延滞税などのペナルティが発生する可能性もあるため、できるだけ期限内に申告を済ませることが望ましいです。
まとめ
- 生命保険料控除は所得税・住民税の軽減に役立つ制度です。
- 控除には一般・介護医療・個人年金の3区分があります。
- 控除額には新旧制度で異なる上限が設けられています。
- 年末調整は会社員が控除を受ける簡単な方法です。
- 控除証明書は年末調整・確定申告ともに必須書類です。
- 確定申告は自営業者や年末調整漏れの場合に利用します。
- 確定申告は還付申告であれば5年間遡って可能です。
- 二重控除は同じ保険料を二度申告する誤りです。
- 二重控除は意図せず発生することもあります。
- 二重控除が発覚したら速やかに修正申告が必要です。
- 年末調整と確定申告は状況に応じて選択します。
- 控除証明書は大切に保管し、紛失時は再発行を依頼します。
- 複数の保険契約も合算して申告できます。
- 実際に保険料を支払った人が控除を受けられます。
- 年末調整を忘れても確定申告や還付申告で対応可能です。
