大切なご家族である高齢者の方が、熱が上がったり下がったりするのを見ると、不安や心配で胸がいっぱいになることでしょう。なぜ体温が不安定になるのか、どんな病気が隠れているのか、そしてどのように対応すれば良いのか、多くの疑問を抱えているかもしれません。本記事では、高齢者の体温変動のメカニズムから、考えられる原因、見逃してはいけないサイン、そしてご家庭でできる適切な対処法まで、詳しく解説します。
高齢者熱が上がったり下がったりする体温変動のメカニズム

高齢者の体温は、若い頃とは異なる特徴を持っています。そのため、熱が上がったり下がったりする現象も、加齢に伴う体の変化と深く関係しているのです。
加齢による体温調節機能の低下
私たちの体には、常に体温を一定に保とうとする体温調節機能が備わっています。しかし、加齢とともにこの機能は徐々に低下していきます。具体的には、汗をかく汗腺の機能が衰え、発汗量が減少します。また、皮膚の血流を調節する能力も低下するため、体内の熱を効率的に放散することが難しくなるのです。さらに、暑さや寒さを感知する皮膚のセンサーが鈍くなったり、体温調節を司る自律神経の働きが低下したりすることも、体温が不安定になる一因と考えられています。
これらの変化により、高齢者は環境の変化に体温が左右されやすくなり、熱が上がりにくかったり、一度上がった熱が下がりにくかったり、あるいは逆に低体温になりやすくなったりと、体温の変動幅が大きくなる傾向があります。
高齢者の平熱と発熱の捉え方
一般的に、高齢者の平熱は若い世代に比べて約0.2℃低いとされています。 例えば、若い人の平熱が36.5℃程度であるのに対し、高齢者では36.0℃~36.2℃程度が平熱ということも珍しくありません。そのため、37℃台の微熱であっても、高齢者にとっては普段よりも高い熱であり、何らかの異常を示すサインである可能性が高いのです。
また、高齢者は免疫機能が低下しているため、重い感染症にかかっていても、若い人のように高熱が出にくいという特徴があります。 むしろ、微熱が続いたり、熱が上がったり下がったりするような不安定な状態が、病気の進行を示していることも少なくありません。そのため、体温計の数値だけでなく、全身の状態を注意深く観察することが非常に重要になります。
高齢者熱が上がったり下がったりする主な原因

高齢者の体温が不安定になる背景には、さまざまな原因が考えられます。特に注意が必要なのは、感染症、脱水、そして基礎疾患の影響です。
感染症による発熱と体温変動
高齢者の発熱で最も多い原因の一つが感染症です。免疫力の低下により、様々な病原体に対する抵抗力が弱まっているため、感染症にかかりやすくなります。
肺炎・誤嚥性肺炎
肺炎は高齢者の死因の上位を占める病気であり、特に注意が必要です。 咳や痰、息苦しさといった典型的な症状が出にくいことが多く、「何となく元気がない」「食欲がない」「ぼんやりしている」といった非典型的な症状で進行することがあります。 熱も高熱ではなく、微熱が続いたり、上がったり下がったりと変動することが特徴です。 寝たきりの方や嚥下機能が低下している方では、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまうことで起こる誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
尿路感染症
尿路感染症も高齢者に多く見られる感染症です。特に女性は尿道が短いため、男性よりもかかりやすい傾向があります。 膀胱炎や腎盂腎炎などが代表的で、発熱の他に排尿時の痛み、頻尿、残尿感などの症状が現れますが、高齢者の場合はこれらの症状がはっきりしないこともあります。 微熱が続いたり、熱が上がったり下がったりする原因となることがあります。
その他の感染症(インフルエンザ、新型コロナなど)
風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症なども、高齢者にとっては重症化しやすい感染症です。 これらの感染症でも、若い人のように高熱が出ず、微熱や体温の変動が見られることがあります。 全身の倦怠感や食欲不振、意識の変化など、全身症状に注意が必要です。
脱水と熱中症(うつ熱)
高齢者は体内の水分量が少なく、喉の渇きを感じにくい傾向があるため、脱水状態になりやすいです。 脱水は体温調節機能をさらに低下させ、熱が体にこもりやすくなる「うつ熱」と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。 うつ熱は、高熱ではなく微熱が続いたり、体温が上がったり下がったりする原因となることがあります。 特に夏場だけでなく、冬場でも暖房の効いた室内で水分補給が不足すると、熱中症やうつ熱のリスクが高まります。
基礎疾患や薬剤による影響
関節リウマチなどの膠原病や、がんなどの悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症など、特定の基礎疾患が原因で発熱が起こることもあります。 また、服用している薬の副作用として発熱が見られることもあり、これを「薬剤熱」と呼びます。 これらの場合も、熱が上がったり下がったりと変動することがあります。持病がある方や複数の薬を服用している方は、医師や薬剤師に相談することが大切です。
高齢者熱が上がったり下がったりする際に見逃せないサイン

高齢者の体温変動は、単なる体調不良ではなく、重大な病気のサインである可能性があります。体温計の数値だけでなく、普段の様子との違いに気づくことが重要です。
発熱以外の注意すべき症状
高齢者の場合、発熱がはっきりしない代わりに、以下のような非典型的な症状が現れることがあります。これらのサインを見逃さないようにしましょう。
- 全身の倦怠感や疲労感:いつもより元気がない、だるそうにしている。
- 食欲不振:食事量が減った、食べ残しが増えた。
- 意識の変化:ぼんやりしている、口数が少ない、呼びかけへの反応が鈍い。
- 呼吸の変化:息苦しそう、呼吸が速い、浅い。
- 排泄の変化:尿の色が濃い、尿量が少ない、排尿回数が増えた、下痢や嘔吐。
- 皮膚の状態:皮膚が乾燥している、赤みがある。
- その他:めまい、ふらつき、頭痛、関節痛、筋肉痛など。
これらの症状は、病気が進行しているサインである可能性が高いため、注意深く観察し、異変を感じたら早めに医療機関を受診することが大切です。
緊急性が高いと判断するポイント
以下のような症状が見られる場合は、緊急性が高いと判断し、速やかに医療機関を受診するか、救急車を呼ぶことを検討してください。
- 意識がはっきりしない、呼びかけに反応しない。
- 呼吸が非常に苦しそう、唇が紫色になっている。
- 激しい頭痛や胸の痛みがある。
- けいれんを起こしている。
- 高熱が続き、解熱剤が効かない。
- 脱水症状がひどく、水分が摂れない。
- 普段と明らかに様子が異なり、急激に悪化している。
これらの症状は、命に関わる重篤な状態である可能性があり、迅速な対応が求められます。自己判断せずに、専門家の助けを求めることが重要です。
高齢者熱が上がったり下がったりする時の適切な対処法

高齢者の体温変動に気づいた場合、慌てずに適切な対処をすることが大切です。家庭でできるケアと、医療機関を受診するタイミングについて理解しておきましょう。
家庭でできるケアと観察のコツ
熱が上がったり下がったりする高齢者の方に対して、ご家庭でできるケアと観察のコツをまとめました。
- こまめな体温測定と記録:毎日決まった時間に体温を測り、記録しておくことで、平熱や体温変動のパターンを把握できます。 異常に早く気づくための大切な情報源となります。
- 十分な水分補給:脱水予防のため、喉が渇いていなくても、こまめに水分を摂るように促しましょう。 水やお茶だけでなく、経口補水液やスポーツドリンクなども活用すると良いでしょう。
- 室温・湿度の管理:暑すぎず寒すぎない、快適な室温(25~28℃程度)と湿度(50~60%程度)を保つように心がけましょう。 エアコンや加湿器を適切に使い、直接風が当たらないように注意してください。
- 衣類や寝具の調整:体温に合わせて、衣類や寝具をこまめに調整し、体を冷やしすぎたり、温めすぎたりしないようにしましょう。 汗をかいたらすぐに着替えさせ、体を清潔に保つことも大切です。
- 全身状態の観察:体温だけでなく、顔色、食欲、活気、排泄の状況、意識レベルなど、全身の状態を注意深く観察し、普段との違いがないかを確認しましょう。
これらのケアは、病気の早期発見や重症化予防に繋がります。日頃から高齢者の方の様子をよく見て、小さな変化にも気づけるように心がけましょう。
医療機関を受診するタイミングと準備
以下のような場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。
- 微熱であっても、普段と比べて明らかに体調が悪いと感じる場合。
- 発熱以外の症状(食欲不振、倦怠感、意識の変化など)が伴う場合。
- 熱が上がったり下がったりする状態が数日以上続く場合。
- 急激に症状が悪化したり、緊急性の高いサインが見られる場合。
受診する際は、以下の情報をまとめておくと、スムーズな診察に繋がります。
- いつから、どのような症状があるのか。
- 体温の変動(最高体温、最低体温、測定時間など)の記録。
- 服用している薬の種類。
- 持病やアレルギーの有無。
- 普段の食事量や水分摂取量、排泄の状況。
これらの情報は、医師が正確な診断を下す上で非常に役立ちます。
日常生活での予防策
高齢者の体温変動や発熱を予防するためには、日頃からの生活習慣が重要です。
- バランスの取れた食事:免疫力を維持するためにも、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
- 適度な運動:無理のない範囲で体を動かすことで、筋力維持や血行促進に繋がり、体温調節機能の維持にも役立ちます。
- 十分な睡眠:質の良い睡眠は、免疫力を高め、体の回復を促します。
- 手洗い・うがいの徹底:感染症予防の基本です。外出後や食事前には、必ず手洗いとうがいを行いましょう。
- 予防接種の検討:インフルエンザや肺炎球菌ワクチンなど、医師と相談して必要な予防接種を受けましょう。
- 口腔ケア:誤嚥性肺炎の予防には、口腔内を清潔に保つことが非常に重要です。
これらの予防策を日常生活に取り入れることで、高齢者の方の健康維持に繋がります。
よくある質問

高齢者の微熱が続くのはなぜですか?
高齢者の微熱が続く場合、様々な原因が考えられます。最も多いのは、肺炎や尿路感染症などの感染症です。高齢者は免疫力が低下しているため、重い感染症にかかっていても高熱が出にくく、微熱が続くことがあります。 また、脱水や基礎疾患、薬剤の副作用なども微熱の原因となることがあります。微熱であっても、普段と比べて体調が悪いと感じる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
高齢者が熱を出しても元気なのは大丈夫ですか?
高齢者が熱を出しても元気そうに見える場合でも、油断は禁物です。高齢者は免疫反応が弱いため、体内で病気が進行していても、若い人のように高熱が出ないことがあります。 むしろ、微熱程度でも、食欲不振や倦怠感、ぼんやりしているなどの症状が伴う場合は、重篤な病気が隠れている可能性も考えられます。体温だけでなく、全身の状態を注意深く観察し、少しでも異変を感じたら医療機関を受診しましょう。
高齢者の平熱は何度ですか?
高齢者の平熱は、若い世代に比べてやや低い傾向にあります。一般的に、65歳以上の高齢者の平均体温は、10~50歳代と比べて約0.2℃低いとされています。 個人差はありますが、36.0℃~36.2℃程度が平熱という方も少なくありません。日頃から体温を測り、ご自身の平熱を把握しておくことが、体調の変化に早く気づくためのコツとなります。
高齢者が熱中症になりやすいのはなぜですか?
高齢者が熱中症になりやすい理由はいくつかあります。まず、加齢により汗をかく機能や皮膚の血流を調節する機能が低下し、体内の熱を効率的に放散しにくくなります。 また、喉の渇きを感じにくくなるため、水分補給が不足しがちになり、脱水状態に陥りやすいことも原因です。 さらに、暑さを感じにくくなるため、室温が高くても気づかずに過ごしてしまうことがあります。 これらの要因が重なり、高齢者は熱中症のリスクが高まります。
高齢者の発熱で病院に行く目安は?
高齢者の発熱で病院に行く目安は、体温の数値だけでなく、全身の状態を総合的に判断することが重要です。微熱であっても、普段と比べて明らかに体調が悪い、食欲がない、元気がない、意識がぼんやりしているなどの症状が伴う場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 特に、高熱が続く、呼吸が苦しい、激しい頭痛や胸の痛みがある、意識がはっきりしないなどの緊急性の高い症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。
まとめ

- 高齢者の体温は加齢により変動しやすくなります。
- 体温調節機能の低下が主な原因です。
- 高齢者の平熱は若い頃より低い傾向にあります。
- 微熱でも重大な病気のサインの可能性があります。
- 肺炎や尿路感染症などの感染症が主な原因です。
- 脱水や熱中症(うつ熱)も体温変動の原因となります。
- 基礎疾患や薬剤の副作用も影響することがあります。
- 発熱以外の全身症状に注意が必要です。
- 倦怠感や食欲不振、意識の変化は重要なサインです。
- 緊急性の高い症状の場合は速やかな受診が必要です。
- こまめな体温測定と記録が大切です。
- 十分な水分補給と室温管理を心がけましょう。
- バランスの取れた食事と適度な運動も重要です。
- 手洗い・うがい、予防接種で感染症を予防しましょう。
- 口腔ケアは誤嚥性肺炎予防に繋がります。
