給料明細を見て「厚生年金が3万円も引かれている…これって普通なの?」と驚きや不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。社会保険料の中でも大きな割合を占める厚生年金は、毎月の手取り額に直結するため、その金額に疑問を持つのは当然のことです。
本記事では、給料から厚生年金保険料が3万円引かれる理由や、その計算方法、そして手取り額への影響について詳しく解説します。さらに、保険料負担を賢く軽減するためのコツや、よくある疑問にもお答えしますので、ぜひ最後まで読んで、厚生年金に関する不安を解消してください。
給料から厚生年金3万円が引かれるのは普通?その理由を徹底解説

給料から厚生年金保険料として3万円が引かれている場合、それは決して珍しいことではありません。厚生年金保険料は、あなたの給与額に応じて決まるため、収入が高ければ高いほど保険料も高くなる仕組みです。この章では、厚生年金の基本的な仕組みと、国民年金との違いについて詳しく見ていきましょう。
厚生年金は、会社員や公務員が加入する公的年金制度の一つであり、将来受け取る年金額に大きく影響します。日本の公的年金制度は「2階建て」と表現され、1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金に該当します。会社員や公務員は、国民年金に上乗せする形で厚生年金にも加入しているため、国民年金のみに加入している自営業者などと比べて、老後の年金給付が手厚くなるのが特徴です。
厚生年金とは?国民年金との違いを理解しよう
日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2種類で構成されています。国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の全ての方が加入する「1階部分」の年金です。 一方、厚生年金は、会社員や公務員が加入する「2階部分」の年金であり、国民年金に上乗せされる形で支給されます。
この二つの制度には、いくつかの重要な違いがあります。まず、加入対象者が異なります。国民年金は全国民が対象ですが、厚生年金は企業に勤める従業員や公務員が対象です。 次に、保険料の負担方法も違います。国民年金保険料は加入者本人が全額を負担しますが、厚生年金保険料は事業主と従業員が半分ずつ負担する「労使折半」が原則です。 さらに、将来受け取れる年金額にも差があります。国民年金は加入期間に応じて一律の老齢基礎年金が支給されるのに対し、厚生年金は現役時代の給与や賞与の額、加入期間に応じて年金額が変動し、国民年金に上乗せして支給されるため、より手厚い保障が期待できます。
厚生年金保険料の計算方法の基本
厚生年金保険料は、あなたの毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけて計算されます。 そして、その保険料は事業主と被保険者(従業員)が半分ずつ負担する仕組みです。
具体的には、以下の計算式で自己負担額が算出されます。
- 厚生年金保険料(自己負担額) = 標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2
この「標準報酬月額」とは、毎月の給与を一定の幅で区分したもので、厚生年金保険料や健康保険料を計算する際の基準となります。 標準報酬月額は、毎年4月から6月までの3ヶ月間の平均給与を基に決定され、原則としてその年の9月から翌年8月まで適用されます。 そのため、給与が大きく変動した場合は、保険料も変わる可能性があるのです。保険料率は、2017年9月以降18.3%で固定されており、2024年度も引き続きこの料率が適用されています。 この計算方法を理解することで、なぜ給料から3万円が引かれるのか、その根拠が明確になるでしょう。
あなたの厚生年金保険料が3万円になる具体的なケース

厚生年金保険料が3万円引かれるのは、あなたの給与額が特定の範囲にあることを示しています。この章では、厚生年金保険料を決定する重要な要素である「標準報酬月額」の仕組みと、実際の給与額から保険料がどのように算出されるのかを具体的に解説します。自分の給与と照らし合わせながら確認することで、なぜ3万円という金額が引かれているのか、より深く理解できるでしょう。
標準報酬月額の仕組みと保険料率
厚生年金保険料は、毎月の給与を一定の範囲で区切った「標準報酬月額」に、全国一律の「保険料率」を掛けて算出されます。標準報酬月額は、報酬月額(基本給のほか、残業手当や通勤手当など毎月支給される手当を含んだ総支給額)を、厚生年金保険料額表に定められた等級に当てはめて決定されます。
この標準報酬月額は、毎年4月から6月までの3ヶ月間の平均報酬月額を基に、年に一度「定時決定」として見直されます。 そして、その決定された標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月までの1年間適用されるのです。 もし、昇給や降給などで固定的賃金が大幅に変動した場合は、定時決定を待たずに「随時改定」が行われることもあります。
厚生年金保険料率は、2017年9月以降、18.3%で固定されています。 この保険料率は、事業主と被保険者が折半するため、実際に給与から差し引かれる自己負担分は18.3%の半分、つまり9.15%となります。
実際の給与額と厚生年金保険料の目安
では、具体的な給与額と厚生年金保険料(自己負担分)の目安を見てみましょう。厚生年金保険料額表(令和2年9月分~)によると、標準報酬月額とそれに対応する保険料が定められています。
例えば、厚生年金保険料の自己負担額が3万円になるケースを考えてみましょう。保険料率が18.3%で労使折半(自己負担9.15%)なので、逆算すると以下のようになります。
- 自己負担額30,000円 ÷ 0.0915(9.15%) ≒ 327,868円
つまり、標準報酬月額が約327,868円の場合、自己負担額が約3万円になります。厚生年金保険料額表で確認すると、標準報酬月額が32万円(報酬月額31万5千円~33万5千円)の場合、厚生年金保険料の全額は58,560円、自己負担額は29,280円です。また、標準報酬月額が34万円(報酬月額33万5千円~35万5千円)の場合、厚生年金保険料の全額は62,220円、自己負担額は31,110円となります。 [cite: 32を参考に計算]
このことから、給与の総支給額が31万5千円から35万5千円程度の範囲にある場合、厚生年金保険料として約3万円が引かれる可能性が高いと言えるでしょう。給与明細の「標準報酬月額」の項目を確認することで、ご自身の保険料がどのように計算されているか、より正確に把握できます。
厚生年金保険料が手取りに与える影響と負担軽減のコツ

厚生年金保険料は、毎月の給与から天引きされるため、手取り額に直接影響します。3万円という金額が引かれることで、家計のやりくりに影響が出ると感じる方もいるかもしれません。この章では、厚生年金保険料が手取り額を減らすメカニズムと、合法的に保険料負担を軽減するための具体的なコツについて解説します。賢く対策を講じることで、手取り額を増やし、経済的なゆとりを持つことにつながるでしょう。
手取り額が減るメカニズム
給与から厚生年金保険料が引かれることで手取り額が減るのは、社会保険料が所得税や住民税の計算よりも前に控除されるためです。厚生年金保険料は、健康保険料や雇用保険料などと同様に「社会保険料」として給与から天引きされます。
この社会保険料は、所得税や住民税を計算する際の課税所得から差し引かれる「社会保険料控除」の対象となります。 つまり、社会保険料を支払うことで課税所得が減り、結果として所得税や住民税の負担も軽減されるという節税効果があるのです。 しかし、それでも社会保険料そのものの負担は大きく、特に厚生年金保険料は給与額に応じて変動するため、収入が高いほど手取り額が減る割合も大きくなる傾向にあります。
例えば、給与が上がると厚生年金保険料も増え、それに伴い健康保険料なども増えるため、手取り額の伸びが給与の伸びほど大きくないと感じることもあるでしょう。これは、社会保険料が給与に連動して増えるため、見かけ上の給与が増えても、実際に使えるお金(手取り)は思ったほど増えないというメカニズムによるものです。
厚生年金保険料の負担を賢く軽減する方法
厚生年金保険料は、将来の年金受給額に直結するため、安易に支払いを減らすことはおすすめできません。しかし、合法的な方法で負担を軽減し、手取り額を増やすコツはいくつか存在します。
一つ目のコツは、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などの私的年金制度や資産運用制度を活用することです。iDeCoは、掛金が全額所得控除の対象となるため、所得税や住民税の負担を軽減できます。 これにより、実質的な手取り額を増やす効果が期待できます。NISAも運用益が非課税になるため、効率的な資産形成が可能です。
二つ目のコツは、ふるさと納税を活用することです。ふるさと納税は、寄付金控除の対象となり、住民税の控除が受けられます。実質2,000円の自己負担で、返礼品を受け取ることができるため、賢く利用することで家計の負担を軽減できます。
三つ目のコツは、給与体系の見直しを検討することです。例えば、基本給を抑え、賞与の割合を増やすことで、標準報酬月額を下げ、結果的に厚生年金保険料の負担を軽減できる場合があります。ただし、これは将来の年金受給額にも影響するため、慎重な検討が必要です。また、会社との相談が必要となるため、個人の判断だけで行うことはできません。
これらの方法を組み合わせることで、厚生年金保険料の負担を直接的に減らすわけではありませんが、手取り額を増やしたり、将来に向けた資産形成を効率的に進めたりすることが可能になります。ご自身のライフプランに合わせて、最適な方法を選択することが大切です。
厚生年金に関するよくある質問を解決!

厚生年金について、多くの方が抱える疑問や不安を解消するため、ここではよくある質問とその回答をまとめました。あなたの疑問もきっと解決するはずです。
厚生年金保険料はいつから引かれるの?
厚生年金保険料は、会社に入社した日から被保険者資格を取得し、その月の保険料から発生します。 ただし、実際に給与から天引きされるのは、原則として翌月の給与支払い時です。これを「翌月控除」と呼びます。 例えば、4月に入社した場合、4月分の厚生年金保険料は5月に支払われる給与から控除されることになります。
ただし、月の途中で退職した場合や、入社と同月に退職した「同月得喪」のケースでは、控除のタイミングや金額が異なる場合があります。月の末日に退職した場合は、退職した月分の保険料まで納める必要がありますが、月の途中で退職した場合は、その月分の保険料は発生しません。
厚生年金保険料は毎年変わるの?
厚生年金保険料率は、2017年9月以降18.3%で固定されており、現在のところ毎年変わることはありません。 しかし、保険料の計算基準となる「標準報酬月額」は、原則として年に一度見直されます。
この見直しは、毎年4月から6月までの3ヶ月間の平均給与を基に行われ、「定時決定」と呼ばれます。 そのため、給与額に変動があった場合は、9月以降の厚生年金保険料が変わる可能性があります。また、昇給や降給などで固定的賃金が大幅に変動した場合は、定時決定を待たずに「随時改定」が行われ、保険料が変更されることもあります。
将来的に年金制度の改正によって保険料率が見直される可能性はありますが、現時点では固定されていることを理解しておきましょう。
産休・育休中の厚生年金保険料はどうなる?
産前産後休業期間中や育児休業等期間中は、厚生年金保険料が免除される制度があります。 この免除期間中も、将来の年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われるため、年金額が減る心配はありません。
産前産後休業期間は、出産の日(出産予定日後に出産した場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の日後56日までの間です。育児休業等期間は、子が3歳に達するまでの間が対象となります。 これらの免除を受けるためには、事業主が日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」や「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
ボーナス月に産休・育休を取得している場合も、一定の条件を満たせば賞与にかかる社会保険料も免除されます。
退職したら厚生年金はどうなる?
会社を退職すると、退職日の翌日に厚生年金の被保険者資格を喪失します。 その後、あなたの状況に応じて以下のいずれかの手続きが必要になります。
- 国民年金第1号被保険者への切り替え:自営業になる場合や、転職先が決まっていない場合など。市区町村役場で手続きが必要です。
- 配偶者の扶養に入る(国民年金第3号被保険者):配偶者が厚生年金に加入しており、あなたの収入が一定額以下の場合。配偶者の勤務先で手続きを行います。
- 転職先の厚生年金に加入:転職先の会社で厚生年金に加入します。この場合、あなた自身で特別な手続きは不要で、勤務先が手続きを行います。
手続きを怠ると、年金が未加入期間となり、将来の年金受給額に影響が出る可能性があるため、注意が必要です。
厚生年金保険料を滞納するとどうなる?
厚生年金保険料は、原則として給与から天引きされるため、個人が滞納することは稀です。しかし、もし事業主が保険料を滞納した場合、従業員にも影響が及ぶ可能性があります。
事業主が厚生年金保険料を滞納すると、日本年金機構から督促状が送付され、延滞金が発生します。 さらに滞納が続くと、最終的には財産の差し押さえなどの強制徴収が行われることもあります。
従業員にとっては、事業主の滞納によって将来の年金受給額が減ってしまうリスクや、障害年金・遺族年金などの保障が受けられなくなる可能性も考えられます。 もし、ご自身の勤務先が社会保険料を適切に納付しているか不安な場合は、給与明細で控除額を確認したり、年金事務所に相談したりすることも検討しましょう。
まとめ

- 厚生年金保険料が3万円引かれるのは、給与額に応じた一般的な金額である。
- 厚生年金は国民年金に上乗せされる「2階部分」の年金であり、老後の保障が手厚い。
- 厚生年金保険料は「標準報酬月額」に「保険料率(18.3%)」をかけて計算され、労使折半で負担する。
- 給与の総支給額が31万5千円から35万5千円程度の場合、自己負担額が約3万円になることが多い。
- 厚生年金保険料は手取り額を減らすが、社会保険料控除により所得税・住民税の節税効果がある。
- iDeCoやNISA、ふるさと納税の活用は、実質的な手取り額を増やし、資産形成を助けるコツとなる。
- 厚生年金保険料は入社した月の分から発生し、原則として翌月の給与から控除される。
- 厚生年金保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されているが、標準報酬月額は毎年見直される。
- 産休・育休中は厚生年金保険料が免除され、免除期間も年金額に影響しない。
- 退職後は国民年金への切り替えや転職先での厚生年金加入など、状況に応じた手続きが必要。
- 厚生年金保険料の滞納は、延滞金や財産差し押さえのリスクがあり、将来の年金受給額にも影響する。
- 給与明細で控除額を確認し、不明な点は年金事務所に相談することが大切。
- 厚生年金は将来の安心につながる重要な制度である。
- 自身の年金制度への理解を深めることが、賢いライフプランニングの第一歩。
- 不安な場合は専門家への相談も検討し、適切な対策を講じる。
