大切に育てているアブラナ科の野菜が、気づけば小さな穴だらけに…。そんな悲しい経験はありませんか?犯人は、体長3mmほどの小さな害虫「キスジノミハムシ」かもしれません。農薬を使わずにこの厄介な害虫を対策したいと考えたとき、「天敵はいないの?」と疑問に思う方も多いでしょう。本記事では、キスジノミハムシの天敵に関する情報から、農薬に頼らない具体的な防除方法まで、あなたの家庭菜園を守るための知識を詳しく解説します。
キスジノミハムシの天敵はいる?生物的防除の可能性

アブラナ科野菜の大敵、キスジノミハムシ。この小さな害虫に頭を悩ませている方にとって、「天敵がいてくれたら…」というのは切実な願いでしょう。ここでは、キスジノミハムシの天敵となる生物や、それを利用した防除の可能性について掘り下げていきます。
- キスジノミハムシを捕食する生物たち
- 天敵を利用した防除は現実的か?
- 天敵を増やすための環境づくり
キスジノミハムシを捕食する生物たち
自然界には、キスジノミハムシを捕食する生物が存在します。例えば、カエルやクモ、ゴミムシなどがその代表例です。 畑やその周辺にこれらの生物が住み着いていれば、キスジノミハムシの個体数をある程度抑制してくれる可能性があります。
カエルは昆虫を主食としており、畑に現れるキスジノミハムシも捕食対象となります。また、クモは巣を張ったり、徘徊したりして獲物を捕らえるため、飛来した成虫や葉の上を移動する成虫を捕まえてくれるでしょう。ゴミムシは地面を歩き回る昆虫で、土壌表面にいるキスジノミハムシの成虫や、場合によっては幼虫も捕食することが期待されます。これらの生物は、特定の害虫だけを狙うわけではありませんが、生態系の一員として害虫の増加を抑える役割を担っています。
天敵を利用した防除は現実的か?
では、これらの天敵を積極的に利用して、キスジノミハムシを防除することは可能なのでしょうか。結論から言うと、現時点では天敵のみに頼った防除は非常に難しいのが実情です。
研究報告によると、カエルによる捕食例は観察されているものの、畑のキスジノミハムシの密度を十分に下げられるほどの効果は確認されていません。 また、アブラムシに対するアブラバチのように、特定の害虫に高い効果を発揮する「天敵製剤」として市販されている生物的防除資材も、現在のところキスジノミハムシ用には存在しないのです。
天敵はあくまで自然環境の一部であり、その数や活動は天候や他の餌の量など、様々な要因に左右されます。そのため、キスジノミハムシが大量発生した場合に、天敵だけで被害を完全に抑え込むのは現実的ではないと言えるでしょう。
天敵を増やすための環境づくり
天敵だけに頼ることは難しくても、畑の周りの環境を整えて、天敵が住みやすい場所を作ることは無駄ではありません。多様な生物が暮らす環境は、特定の害虫だけが異常発生するのを防ぐ力、すなわち「生物多様性」を高めることに繋がります。
例えば、畑の近くに草地を残したり、クリムソンクローバーのようなバンカープランツ(天敵温存植物)を植えたりすることで、クモやカエル、その他の益虫の隠れ家や餌場を提供できます。 クリムソンクローバーは、景観を良くするだけでなく、天敵の住処となり、結果的に害虫の抑制に貢献してくれる可能性があります。
ただし、闇雲に雑草を生い茂らせるのは禁物です。アブラナ科の雑草はキスジノミハムシ自身の発生源にもなってしまうため、管理は必要です。 天敵を呼び込みつつ、害虫の温床は作らない、バランスの取れた環境づくりが大切です。
天敵だけに頼らない!農薬を使わないキスジノミハムシ対策

キスジノミハムシの防除において、天敵の力は限定的です。しかし、がっかりする必要はありません。農薬を使わなくても、この厄介な害虫から大切な野菜を守る方法はいくつもあります。ここでは、物理的な障壁で虫を寄せ付けない方法から、植物の力を借りる方法まで、効果的な対策を具体的にご紹介します。
- 物理的防除が最も効果的
- コンパニオンプランツを活用する
- 耕種的防除で発生源を断つ
物理的防除が最も効果的
農薬を使わないキスジノミハムシ対策として、最も確実で効果が高いのが物理的防除です。つまり、ネットなどで虫の侵入を物理的に防ぐ方法です。キスジノミハムシは体長が2〜3mmと非常に小さいため、その点を考慮した対策が重要になります。
防虫ネットの選び方と使い方(目合いの重要性)
キスジノミハムシ対策で防虫ネットを使う場合、最も重要なのが「目合い」のサイズです。一般的な1mm目合いのネットでは、小さなキスジノミハムシは簡単に通り抜けてしまいます。
研究機関の調査でも、0.8mm目合いでも侵入を許す場合があり、完全に防ぐには0.6mm以下の目合いが必要であると報告されています。 家庭菜園でキスジノミハムシ対策を徹底するなら、0.6mm目合いの防虫ネットや不織布を選ぶようにしましょう。
ネットをかける際は、トンネル状に支柱を立てて、葉とネットが触れないようにすることが大切です。また、裾に隙間ができないよう、土でしっかりと埋めるか、専用のクリップで留めるなどして、侵入経路を完全に断つようにしてください。
シルバーマルチの効果
太陽の光を反射するシルバーマルチ(銀色のマルチシート)を畝に敷くことも、キスジノミハムシ対策に有効です。キラキラとした光を嫌う虫の習性を利用したもので、アブラムシなど他の害虫に対しても忌避効果が知られています。
キスジノミハムシは、作物の株元に飛来して産卵するため、シルバーマルチで畝全体を覆うことで、飛来を抑制し、産卵場所を奪う効果が期待できます。 防虫ネットとの併用で、さらに高い防除効果が見込めるでしょう。
太陽熱消毒
夏場の栽培終了後、次の作付けまでの期間が空くのであれば、太陽熱土壌消毒も有効な手段です。キスジノミハムシは幼虫や蛹の時期を土中で過ごします。
畑にたっぷりと水をまき、透明なビニールシートで覆って密閉することで、太陽の熱で地温を上昇させ、土の中にいる幼虫や蛹を死滅させることができます。 奈良県の研究によれば、7月〜8月であれば約12日間、9月であれば約20日間の処理で効果が期待できるとされています。 連作によって土中に残ったキスジノミハムシをリセットするのに効果的な方法です。
コンパニオンプランツを活用する
コンパニオンプランツとは、一緒に植えることで互いに良い影響を与え合う植物のことです。害虫を遠ざけたり、天敵を呼び寄せたりする効果が期待できる組み合わせがあり、キスジノミハムシ対策にも役立つ植物があります。
キスジノミハムシに効果的なコンパニオンプランツ
キスジノミハムシに対して効果が期待できるとされる代表的なコンパニオンプランツには、以下のようなものがあります。
- ニラ: 独特の匂いがキスジノミハムシなどのハムシ類を遠ざける効果があると言われています。
- レタス類(キク科): アブラナ科の野菜とキク科のレタスを混植することで、お互いの害虫を寄せ付けにくくする効果が期待できます。
- エンバク(イネ科): エンバクをすき込むことで、キスジノミハムシの被害が軽減されたという報告があります。 また、緑肥として土壌改良効果も期待できます。
- シュンギク(キク科): キク科特有の香りで害虫を遠ざける効果が期待され、アブラナ科野菜のコンパニオンプランツとして利用されます。
混植の具体的な方法
コンパニオンプランツの効果を得るためには、植え方が重要です。例えば、キャベツやコマツナといったアブラナ科野菜の列の間に、レタスやニラの列を作る「間作(かんさく)」や、株元に点在させるように植える「混植(こんしょく)」といった方法があります。
キャベツ5〜10株に対してレタス1株の割合で植えたり、アブラナ科野菜とレタスを交互に植え付けたりするのがおすすめです。 ニラの場合は、アブラナ科野菜の株元近くに植えることで、その効果を発揮しやすくなります。大切なのは、アブラナ科野菜のすぐ近くにコンパニオンプランツがある状態を作ることです。ただし、これらの効果は100%ではないため、物理的防除と組み合わせることが、より確実な対策となります。
耕種的防除で発生源を断つ
耕種的防除とは、栽培管理の方法を工夫することで、病害虫が発生しにくい環境を作る取り組みのことです。キスジノミハムシの生態を理解し、彼らが好む環境を作らないことが重要になります。
連作を避ける
同じ場所でアブラナ科の野菜(キャベツ、ハクサイ、ダイコン、コマツナなど)を続けて栽培する「連作」は、キスジノミハムシの発生を助長する大きな原因となります。
収穫後も土の中には幼虫や蛹が残っている可能性があり、次にまた好物であるアブラナ科野菜が植えられると、待ってましたとばかりに発生し、密度がどんどん高くなってしまいます。 可能な限り、アブラナ科の後はマメ科やナス科など、科の異なる野菜を栽培する「輪作」を心がけましょう。
周辺の雑草管理
畑の中だけでなく、その周りの環境も重要です。キスジノミハムシは、栽培している野菜がない時期には、周辺に生えているアブラナ科の雑草(ナズナ、イヌガラシ、スカシタゴボウなど)を食べて生き延び、繁殖します。
これらの雑草が、キスジノミハムシの発生源(すみか)となってしまいます。畑の周りを定期的に草刈りし、特にアブラナ科の雑草は放置しないように徹底することが、畑への侵入を防ぐための重要な対策となります。
それでも発生した場合の対処法

防虫ネットやコンパニオンプランツで万全の対策をしていても、わずかな隙間から侵入されたり、土の中に残っていた蛹から羽化したりして、キスジノミハムシが発生してしまうこともあります。ここでは、発生してしまった場合に農薬を使わずに行える対処法について解説します。
- 天然由来の資材を活用する
- 早期発見と手作業での捕殺
天然由来の資材を活用する
農薬は使いたくないけれど、何とかして被害を食い止めたいという場合、天然由来の資材をスプレーとして利用する方法があります。代表的なものに、食酢や木酢液、草木灰などがあります。
例えば、水で薄めた食酢や、炭の粉を混ぜた酢水などをスプレーする方法が試されています。 これらの資材には殺虫効果はありませんが、虫が嫌がる匂いや成分によって、一時的に寄り付きにくくする「忌避効果」が期待できます。
ただし、効果は限定的で、持続性も低いため、雨が降れば流れてしまいます。そのため、こまめに散布する必要があります。また、濃度が濃すぎると植物自体を傷めてしまう可能性もあるため、必ず薄めてから、まずは一部の葉で試すなどして使用してください。あくまで応急処置的な方法と捉え、過度な期待は禁物です。
早期発見と手作業での捕殺
最も原始的ですが、確実な方法が手作業による捕殺です。キスジノミハムシは非常に小さく、ノミのように素早く跳ねるため、手で捕まえるのは至難の業です。
そこで役立つのが、黄色い粘着シートです。キスジノミハムシは黄色に誘引される性質があるため、黄色粘着板を株の近くに設置しておくと、飛来した成虫を捕獲することができます。 これは発生状況のモニタリングにも役立ちます。
また、朝早い時間帯など、虫の動きが鈍い時を狙って、葉を揺すって粘着シートに落としたり、小さなハンディ掃除機で吸い取ったりする方法も考えられます。 発生初期であれば、こうした地道な作業で被害の拡大をある程度抑えることが可能です。数が少ないうちに対処することが、何よりも重要になります。
そもそもキスジノミハムシとは?生態を知って対策に活かす

効果的な対策を行うためには、まず敵を知ることが重要です。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉の通り、キスジノミハムシの生態を理解することで、なぜその対策が有効なのかが分かり、より的確な防除が可能になります。
- キスジノミハムシの見た目と特徴
- ライフサイクルと発生時期
- 好む野菜と被害の様子
キスジノミハムシの見た目と特徴
キスジノミハムシ(学名: Phyllotreta striolata)は、コウチュウ目ハムシ科に属する昆虫です。 その名の通り、特徴的な見た目をしています。
- 体長: 約2〜3mmと非常に小さい。
- 体色: 全体的に黒色で、光沢があり、左右の翅(はね)にそれぞれ1本ずつ、はっきりとした黄色い縦筋の模様があります。 これが「黄筋(キスジ)」の由来です。
- 動き: 後ろ脚がよく発達しており、危険を察知するとノミのようにピョンと高く跳ねて逃げます。 「ノミハムシ」という名前はこの性質に由来します。
この小ささと素早い動きのため、畑で見つけても捕まえるのは非常に困難です。葉の上に小さな黒い点のような虫がいて、触ろうとすると消えるようにいなくなったら、それはキスジノミハムシの可能性が高いでしょう。
ライフサイクルと発生時期
キスジノミハムシの活動期間は長く、その一生を知ることは防除のタイミングを計る上で非常に重要です。
- 越冬: 成虫の姿で、雑草の根元や落ち葉の下、土の隙間などで冬を越します。 暖冬の年は越冬する成虫の数が多くなり、翌春の発生量が増える傾向にあります。
- 活動開始: 春になり気温が上がると(3月〜4月頃)、越冬していた成虫が活動を始め、餌となるアブラナ科の植物を探して飛来します。
- 産卵: 成虫はアブラナ科植物の株元の土壌表面に卵を産み付けます。
- 幼虫: 卵から孵化した幼虫は、土の中で植物の根を食べて成長します。幼虫の期間は約10〜20日です。
- 蛹: 成長した幼虫は土の中で蛹になります。蛹の期間は約3〜15日です。
- 羽化と世代交代: 蛹から羽化した新しい成虫が地上に現れ、葉を食害します。卵から成虫になるまでの期間は約1ヶ月です。 暖かい地域では、年に3〜5回世代を繰り返します。
このように、春から秋(4月〜10月)まで長期間にわたって発生し、特に気温が高くなる6月〜9月頃に活動が最も活発になります。
好む野菜と被害の様子
キスジノミハムシは、アブラナ科の植物を専門に食べる害虫です。 家庭菜園で人気の多くの野菜が被害対象となります。
- 被害に遭いやすい野菜: ダイコン、カブ、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、ミズナ、チンゲンサイ、からし菜など、アブラナ科全般。
被害は成虫と幼虫の両方によって引き起こされますが、被害の現れ方が異なります。
- 成虫による被害: 主に葉を食べます。直径1mm程度の小さな円い穴を無数にあけるのが特徴で、被害がひどいと葉がレース状(スポンジ状)になります。 特に、発芽したばかりの双葉や本葉が少ない幼苗期に被害を受けると、生育が著しく阻害され、枯れてしまうこともあります。
- 幼虫による被害: 土の中で根の表面をかじるように食害します。ダイコンやカブなどの根菜類では、根の表面に食害痕が網目状に残り、「なめり」と呼ばれる肌荒れ症状を引き起こします。 これにより商品価値が大きく損なわれるため、特にダイコン栽培では深刻な問題となります。
よくある質問

キスジノミハムシに天敵はいますか?
はい、存在します。カエルやクモ、ゴミムシなどがキスジノミハムシを捕食することが知られています。 しかし、これらの天敵だけで畑のキスジノミハムシを完全に防除するのは難しいのが現状です。
キスジノミハムシの天敵となる生物は何ですか?
自然界における天敵としては、カエル、クモ、ゴミムシなどが挙げられます。 これらは特定の害虫だけを食べるわけではありませんが、畑の生態系の中でキスジノミハムシの数を抑制する一助となります。
キスジノミハムシの天敵を増やす方法はありますか?
天敵が住みやすい環境を整えることが有効です。例えば、畑の周りに草地を残したり、クリムソンクローバーのような天敵の隠れ家となる植物(バンカープランツ)を植えたりすることで、クモやカエルなどの天敵を呼び寄せ、定着を促すことができます。
キスジノミハムシにコンパニオンプランツは効果がありますか?
はい、効果が期待できます。ニラやレタス、シュンギクなどをアブラナ科野菜と一緒に植えることで、キスジノミハムシを寄せ付けにくくする効果があるとされています。 ただし、効果は100%ではないため、防虫ネットなど他の対策と組み合わせることが推奨されます。
キスジノミハムシの防除に最も効果的な方法は何ですか?
農薬を使わない方法の中では、物理的防除が最も効果的です。特に、目合いが0.6mm以下の細かい防虫ネットでトンネル栽培をすることで、成虫の侵入をほぼ完全に防ぐことができます。
キスジノミハムシはいつ発生しますか?
成虫は4月から10月頃まで長期間にわたって活動しますが、特に気温が高くなる6月から9月にかけて発生が多くなります。 暖冬の年は春先の発生が多くなる傾向があります。
キスジノミハムシに効く農薬以外のスプレーはありますか?
水で薄めた食酢や木酢液、炭の粉を混ぜた水などをスプレーする方法があります。 これらは殺虫効果ではなく、虫が嫌がる匂いなどで遠ざける忌避効果を狙ったものです。効果は一時的で限定的なため、こまめな散布が必要です。
まとめ

- キスジノミハムシの天敵はカエルやクモなど。
- 天敵のみでの防除は難しく、天敵製剤も市販されていない。
- 天敵を増やすには、多様な生物が住める環境づくりが大切。
- 最も効果的な無農薬対策は物理的防除である。
- 防虫ネットは0.6mm以下の目合いを選ぶことが重要。
- シルバーマルチは成虫の飛来を抑制する効果がある。
- 夏の太陽熱消毒は土中の幼虫や蛹に効果的。
- コンパニオンプランツ(ニラ、レタス等)も有効な手段。
- アブラナ科の連作を避けることが発生抑制に繋がる。
- 畑周辺のアブラナ科雑草はこまめに除去する。
- 発生初期には黄色粘着シートや手作業での捕殺も有効。
- キスジノミハムシはアブラナ科野菜を専門に加害する。
- 成虫は葉に穴をあけ、幼虫は根を食害する。
- 生態を理解し、総合的な対策を講じることが成功のコツ。
- 天敵、物理的、耕種的防除の組み合わせが理想的。