事業を始めたばかりの頃や、予期せぬ出来事で損失(赤字)が出てしまうと、「今年の確定申告はどうすればいいのだろう」と不安に感じる方もいるでしょう。しかし、青色申告をしている個人事業主であれば、「損失の繰越控除」という制度を利用して、翌年以降の税負担を軽減できる可能性があります。特に、損失繰越を初めて行う1年目は、記入方法に迷うことも少なくありません。
本記事では、確定申告で損失繰越を初めて行う方向けに、制度の基本から必要な書類、そして青色申告決算書や確定申告書第四表(損失申告用)への具体的な書き方まで、分かりやすく解説します。この記事を読めば、損失繰越1年目の確定申告をスムーズに進めるための方法がきっと見つかるでしょう。
確定申告の損失繰越とは?制度の基本を理解しよう

事業で赤字が出た場合でも、適切な手続きを行えば、翌年以降の黒字と相殺して税負担を軽くできる制度が「純損失の繰越控除」です。この制度は、特に青色申告をしている個人事業主にとって、有効な節税手段となります。ここでは、その概要とメリット、そして青色申告が条件となる理由を詳しく見ていきましょう。
損失繰越制度の概要とメリット
損失繰越制度とは、年間の事業所得がマイナス(赤字)になった場合に、その損失額を翌年以降に繰り越して、将来の利益と相殺できる制度です。具体的には、赤字が出た年の翌年から最大3年間、その損失を繰り越すことが可能です。例えば、開業1年目に100万円の赤字が出た場合、翌年に120万円の黒字が出たとすると、この制度を利用すれば、翌年の所得は「120万円(黒字)-100万円(前年の繰越損失)=20万円」として計算されます。
これにより、課税対象となる所得が減り、結果として所得税や住民税の負担を抑えることができるのです。
この制度の大きなメリットは、事業の継続を支援し、納税者の経済的な負担を軽減する点にあります。特に、事業開始当初は先行投資が多く、赤字になりやすい傾向があるため、損失繰越は非常に重要な役割を果たします。
青色申告が損失繰越の条件となる理由
純損失の繰越控除は、原則として青色申告をしている個人事業主のみが利用できる制度です。 青色申告とは、国が定めたルールに沿って帳簿を作成し、その帳簿に基づいた正確な申告を行うことで、税制上のさまざまな特典が受けられる制度を指します。具体的には、日々の取引を複式簿記などの形式で記帳し、損益や資産状況を明確にした上で確定申告を行います。
この厳格な記帳義務があるからこそ、税務署は事業の正確な損益状況を把握でき、損失繰越という優遇措置を認めているのです。白色申告の場合、原則として損失の繰越はできませんが、例外的に災害による損失など、一部の損失のみが繰越控除の対象となります。
損失繰越1年目の確定申告で準備するもの

損失繰越を初めて行う確定申告では、通常の確定申告に加えて、いくつかの書類や情報が必要になります。スムーズに手続きを進めるために、事前にしっかりと準備を進めることが大切です。ここでは、必要な書類と過去の確定申告書や帳簿の確認について解説します。
必要な書類一覧
損失繰越1年目の確定申告で必要となる主な書類は以下の通りです。
- 確定申告書B第一表・第二表:全ての確定申告者が提出する基本的な書類です。
- 青色申告決算書:事業所得や不動産所得がある青色申告者が提出する書類で、損益計算書や貸借対照表などが含まれます。
- 確定申告書第四表(損失申告用):損失繰越の適用を受けるために最も重要な書類です。この書類に損失額や繰越額を記入します。
- 本人確認書類:マイナンバーカードなど。
- 所得を証明する書類:源泉徴収票(給与所得がある場合)など。
- 各種控除証明書:社会保険料控除証明書、生命保険料控除証明書など。
これらの書類は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできるほか、税務署でも入手できます。特に確定申告書第四表は、損失繰越の肝となる書類なので、事前に内容を確認しておくと良いでしょう。
過去の確定申告書や帳簿の確認
損失繰越1年目では、前年度に損失が発生しているはずです。そのため、前年度の確定申告書や帳簿の内容を正確に把握しておく必要があります。
- 前年度の青色申告決算書:前年度の損益計算書で、当期純損失の金額を確認します。この金額が、今年度に繰り越す損失額の基礎となります。
- 帳簿(総勘定元帳など):損失が発生した年度の取引内容を詳細に記した帳簿も重要です。税務調査などがあった際に、損失の根拠を説明するために必要となります。
これらの書類や帳簿は、損失額が正確に計算されているかを確認するために不可欠です。また、損失繰越は、損失が発生した年から連続して確定申告を行うことが条件となるため、過去の申告状況も確認しておきましょう。
青色申告決算書への損失記入方法

青色申告決算書は、事業の損益状況を明らかにする重要な書類です。損失繰越1年目の確定申告では、この青色申告決算書に当期純損失を正確に記載することが求められます。ここでは、損益計算書における「当期純損失」の記載と、具体的な記入箇所について解説します。
損益計算書の「当期純損失」の記載
青色申告決算書の中の「損益計算書」は、1年間の収入と支出をまとめたもので、事業の最終的な利益または損失を示します。事業が赤字になった場合、損益計算書の最終的な計算結果として「当期純損失」の金額が算出されます。この当期純損失の金額が、翌年以降に繰り越す損失額の元となるものです。
損益計算書では、収入から売上原価、販売費及び一般管理費などを差し引いて計算を進めます。最終的に利益が出れば「当期純利益」、損失が出れば「当期純損失」として表示されます。この「当期純損失」の金額を正確に把握することが、損失繰越の第一歩です。
青色申告決算書(損益計算書)の具体的な記入箇所
青色申告決算書(損益計算書)において、当期純損失を記入する具体的な箇所は、用紙の様式によって多少異なりますが、一般的には以下のようになります。
- 損益計算書の最終行:「当期純損失」または「純損失」と記載された欄に、計算された損失額を記入します。金額の前に「△」を付けて、損失であることを明確に示しましょう。
- 青色申告決算書(損益計算書)の「所得金額」欄:損失が出ている場合、この欄にも「△」を付けて損失額を記入します。
この青色申告決算書で計算された当期純損失の金額は、後述する確定申告書第四表(損失申告用)に転記することになります。そのため、青色申告決算書の記入は、損失繰越の申告において非常に重要な基礎作業となります。正確な数字を記入し、間違いがないか十分に確認しましょう。
所得税青色申告決算書(損失申告用)の書き方

損失繰越の適用を受けるためには、確定申告書第四表(損失申告用)の提出が不可欠です。この書類に、損失額やその繰越に関する詳細を記入します。ここでは、損失申告書の役割と提出の必要性、そして第一表・第二表への具体的な記入方法を解説します。
損失申告書の役割と提出の必要性
確定申告書第四表(損失申告用)は、事業で発生した純損失や雑損失を翌年以降に繰り越すために使用する専用の書類です。 この書類を提出することで、税務署に対して「今年は損失が出たので、来年以降の所得と相殺したい」という意思表示を行います。この申告を怠ると、たとえ損失が出ていても繰越控除の適用を受けることができません。
損失繰越は、損失が発生した年だけでなく、その後も連続して確定申告書を提出し、第四表を添付することが条件となります。 これにより、損失額が毎年どのように控除されていくかを税務署が把握できるようになります。したがって、損失繰越のメリットを享受するためには、この第四表の提出が非常に重要です。
損失申告書第一表の記入方法
確定申告書第四表(損失申告用)は、第一表と第二表に分かれています。まず、第一表の記入方法について見ていきましょう。第四表(一)とも呼ばれます。
- 住所・氏名など:申告者の基本情報を記入します。
- 損失額又は所得金額:青色申告決算書で計算した「当期純損失」の金額を、該当する所得の種類(事業所得など)の欄に「△」を付けて記入します。
- 損益の通算:もし他の所得(不動産所得など)で利益が出ている場合、その利益と事業所得の損失を相殺する「損益通算」を行います。損益通算後の金額を記入します。
第一表は、その年に発生した損失額や、他の所得との損益通算の結果をまとめる役割があります。正確な金額を記入し、計算間違いがないように注意しましょう。
損失申告書第二表の記入方法
次に、確定申告書第四表(損失申告用)の第二表の記入方法です。第四表(二)とも呼ばれます。
- 翌年以後に繰り越す損失額:第一表で計算した損益通算後の損失額のうち、本年分の所得から控除しきれなかった金額を、翌年以降に繰り越す損失額として記入します。 1年目の確定申告では、この欄に全額を記入することになります。
- 繰越損失を差し引く計算:この欄は、翌年以降に繰り越された損失を、その年の所得から差し引く際に使用します。損失繰越1年目の確定申告では、この欄は基本的に記入不要です。
第二表は、翌年以降に繰り越す損失額を明確にするためのものです。特に1年目の申告では、「翌年以後に繰り越す損失額」の欄に、その年に発生した純損失の全額を記入することが重要です。これにより、将来の確定申告でこの損失を有効に活用できるようになります。
損失繰越の注意点とよくある疑問

損失繰越制度は節税に役立つ一方で、いくつかの注意点や疑問点があります。制度を最大限に活用するためにも、これらのポイントを理解しておくことが大切です。ここでは、損失繰越ができる期間や期限、忘れてしまった場合の対処法、所得の種類による違い、そして適用を受けられないケースについて解説します。
損失繰越ができる期間と期限
青色申告における純損失の繰越控除は、損失が発生した年の翌年から最大3年間にわたって適用されます。 例えば、2025年に発生した損失は、2026年、2027年、2028年の所得と相殺することが可能です。この期間を過ぎると、その損失は消滅し、控除の対象外となってしまいます。
また、損失繰越の適用を受けるためには、損失が発生した年に確定申告を行うだけでなく、その後も毎年継続して確定申告を行う必要があります。 たとえその年に事業所得がなかったとしても、損失を繰り越す意思を示すために申告書を提出しなければなりません。この連続申告を怠ると、繰越控除の権利を失う可能性があるので注意が必要です。
損失繰越を忘れてしまった場合の対処法
もし、損失が発生した年に確定申告を忘れてしまったり、損失申告書(第四表)の提出を忘れてしまったりした場合、原則としてその損失を繰り越すことはできません。 しかし、状況によっては対処法がある場合もあります。
- 期限後申告:確定申告の期限を過ぎてしまっても、期限後申告を行うことで損失繰越が認められるケースがあります。 ただし、無申告加算税などのペナルティが発生する可能性もあるため、早めに税務署や税理士に相談することが重要です。
- 更正の請求:過去に提出した確定申告書に誤りがあった場合、「更正の請求」を行うことで、損失額を訂正し、繰越控除の適用を受けられる場合があります。 ただし、特定口座(源泉徴収あり)の株式等の譲渡損失など、更正の請求が認められないケースもあるため、注意が必要です。
いずれにしても、損失申告を忘れたことに気づいたら、速やかに専門家へ相談し、適切な対応を取ることが大切です。
損失繰越と所得の種類による違い
損失繰越が可能な所得の種類は、主に事業所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得です。 これらの所得で発生した損失は、純損失として繰り越すことができます。
一方で、利子所得、給与所得、退職所得、配当所得、一時所得、雑所得など、一部の所得については、原則として損失が出ても繰り越すことはできません。 例えば、FX取引による損失は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象となり、事業所得とは別に計算されますが、これも3年間繰り越すことが可能です。
ご自身の損失がどの所得に該当し、繰越控除の対象となるのかを正確に把握することが重要です。
損失繰越の適用を受けられないケース
以下のようなケースでは、損失繰越の適用を受けられない場合があります。
- 青色申告をしていない場合:原則として、青色申告者であることが損失繰越の条件です。白色申告では、災害による損失など、ごく一部の例外を除き、損失繰越はできません。
- 連続して確定申告を行っていない場合:損失が発生した年から、繰越控除を受ける年まで、毎年連続して確定申告書を提出していない場合、繰越控除の権利を失います。
- NISA口座での損失:NISA口座で発生した損失は、損益通算や繰越控除の対象外となります。
- 特定口座(源泉徴収あり)で申告不要を選択した場合:特定口座(源泉徴収あり)で取引し、確定申告をしないことを選択した場合、損失はなかったものとみなされ、繰越控除はできません。
これらの条件に当てはまらないか、ご自身の状況をよく確認し、不明な点があれば税務署や税理士に相談することをおすすめします。
よくある質問

ここでは、確定申告の損失繰越に関してよくある質問とその回答をまとめました。
- 確定申告で損失が出た場合、必ず損失繰越を申請すべきですか?
- 損失繰越の適用を受けるには、毎年確定申告が必要ですか?
- 損失繰越の金額はどのように計算すれば良いですか?
- 白色申告でも損失繰越は可能ですか?
- 損失繰越の申告を間違えてしまった場合、どうすれば良いですか?
確定申告で損失が出た場合、必ず損失繰越を申請すべきですか?
損失が出た場合でも、必ず損失繰越を申請すべきです。損失繰越を申請することで、翌年以降に利益が出た際に、その利益と相殺して税負担を軽減できる大きなメリットがあります。 損失が出た年に確定申告をしないと、この制度を利用する権利を失ってしまいます。
損失繰越の適用を受けるには、毎年確定申告が必要ですか?
はい、損失繰越の適用を受けるためには、損失が発生した年だけでなく、その後も継続して毎年確定申告を行う必要があります。 たとえその年に事業所得がなかったとしても、損失を繰り越す意思を示すために申告書を提出しなければなりません。この連続申告を怠ると、繰越控除の権利を失う可能性があるので注意が必要です。
損失繰越の金額はどのように計算すれば良いですか?
損失繰越の金額は、まずその年の事業所得や不動産所得などの損失を計算し、他の所得との損益通算を行います。損益通算後も残った損失額が「純損失」となり、この純損失の金額を翌年以降に繰り越すことができます。 具体的な計算は、青色申告決算書や確定申告書第四表(損失申告用)に沿って行います。
白色申告でも損失繰越は可能ですか?
原則として、白色申告では純損失の繰越控除はできません。 ただし、震災、風水害、火災などによって生じた事業用資産の損失(被災事業用資産の損失)や、変動所得の損失については、白色申告でも翌年以降3年間にわたって繰り越すことが可能です。 ご自身の損失が該当するかどうか、確認が必要です。
損失繰越の申告を間違えてしまった場合、どうすれば良いですか?
損失繰越の申告を間違えてしまった場合、状況に応じて「更正の請求」を行うことで訂正できる可能性があります。 更正の請求は、法定申告期限から5年以内に行うことができます。 ただし、特定口座(源泉徴収あり)の株式等の譲渡損失など、更正の請求が認められないケースもあるため、早めに税務署や税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
- 確定申告の損失繰越は、青色申告者が赤字を翌年以降3年間繰り越せる制度です。
- 損失繰越は、将来の所得税や住民税の負担を軽減する節税効果があります。
- 損失繰越の適用を受けるには、青色申告の承認を受けていることが条件です。
- 損失繰越1年目の確定申告では、青色申告決算書と確定申告書第四表(損失申告用)の提出が必須です。
- 青色申告決算書には「当期純損失」を正確に記入します。
- 確定申告書第四表(損失申告用)の第一表には損失額を、第二表には翌年以降に繰り越す損失額を記入します。
- 損失繰越の適用を受けるためには、損失が発生した年から毎年継続して確定申告を行う必要があります。
- 損失繰越を忘れてしまった場合、期限後申告や更正の請求で対処できる可能性がありますが、専門家への相談が重要です。
- 事業所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得の損失が繰越控除の対象となります。
- 利子所得、給与所得、退職所得、配当所得、一時所得、雑所得の損失は原則繰越できません。
- 白色申告では、災害による損失など一部の損失のみが繰越控除の対象です。
- NISA口座での損失は、損失繰越の対象外となります。
- 特定口座(源泉徴収あり)で申告不要を選択した場合、損失繰越はできません。
- 損失繰越は、事業の継続を支援し、納税者の経済的負担を軽減する重要な制度です。
- 不明な点があれば、税務署や税理士などの専門家に相談しましょう。
