大切に育てている植物に、白い綿のようなものや、硬い殻のようなものがびっしり…。その正体は、植物の汁を吸って弱らせてしまう厄介な害虫「カイガラムシ」かもしれません。カイガラムシの駆除方法を調べていると、「オルトラン」という薬剤がよく紹介されていますが、「本当に効くの?」「どうやって使えばいいの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。本記事では、カイガラムシの駆除におけるオルトランの効果的な使い方や注意点、効かない場合の対処法まで、詳しく解説します。
オルトランはカイガラムシ駆除に効果あり!ただし使う時期が重要

結論から言うと、オルトランはカイガラムシの駆除に効果的な薬剤です。 しかし、最も効果を発揮するのはカイガラムシの「幼虫」に対してであり、硬い殻やロウ物質で覆われた「成虫」には効果が薄いという点を覚えておく必要があります。 そのため、オルトランを使ってカイガラムシを効果的に駆除するには、使用するタイミングが非常に重要になります。
カイガラムシの多くは、5月~7月頃に卵から孵化して幼虫になります。 この時期の幼虫は、まだ薬剤に対する抵抗力が弱いため、オルトランでの駆除が最も効果的です。大切な植物をカイガラムシの被害から守るために、まずはこの基本的なポイントをしっかりと押さえておきましょう。
この章では、オルトランがカイガラムシに効果的である理由と、使用する上で最も大切なポイントについて解説しました。次の章からは、具体的なオルトランの使い方について詳しく見ていきましょう。
- オルトランの種類別(粒剤・水和剤)の正しい使い方
- オルトランがカイガラムシに効く仕組み
- オルトランの種類(GFとDX)の違いと選び方
- オルトランが効かない場合の対処法
【種類別】カイガラムシ駆除におけるオルトランの正しい使い方

オルトランには、土に混ぜ込む「粒剤」タイプと、水に溶かして散布する「水和剤」タイプがあります。それぞれに特徴と適した使い方があるため、ご自身の状況に合わせて選ぶことが大切です。ここでは、それぞれのタイプの正しい使い方を分かりやすく解説します。
手軽で予防にもなる「オルトラン粒剤」の使い方
オルトラン粒剤は、土にパラパラと撒くだけで効果が持続するため、手軽に使いたい方や、事前の予防策として使用したい方におすすめです。 特に、鉢植えの植物には使いやすいでしょう。
使い方は非常に簡単です。
- 植え付け時に土に混ぜ込む: 新しく植物を植える際に、規定量のオルトラン粒剤を土に混ぜ込みます。これにより、植え付け初期からの害虫被害を防ぐことができます。
- 株元に散布する: すでに植えてある植物の場合は、植物の株元に規定量を均一に散布します。散布後は、軽く土に混ぜ込むとより効果的です。
粒剤は、土の中の水分によって有効成分が溶け出し、根から吸収されて植物全体に行き渡ります。 効果の持続期間は約2~4週間程度なので、カイガラムシの発生時期には定期的に散布すると良いでしょう。
即効性が期待できる「オルトラン水和剤」の使い方
オルトラン水和剤は、水に溶かしてスプレーなどで植物に直接散布するタイプです。葉や茎から直接成分が吸収されるため、粒剤よりも即効性が期待できます。 すでにカイガラムシ(特に幼虫)が発生してしまった場合に、迅速に対処したい方におすすめです。
使用する際は、以下の手順で行います。
- 薬剤を水で希釈する: 製品のパッケージに記載されている希釈倍率に従い、オルトラン水和剤を水で正確に薄めます。濃すぎると薬害の原因になり、薄すぎると効果が得られないため注意が必要です。
- スプレーボトルなどで散布する: 希釈した薬剤をスプレーボトルなどに入れ、カイガラムシが発生している場所を中心に、葉の裏や茎など、植物全体にまんべんなく散布します。
散布する際は、薬剤が植物の表面にしっかり付着するように、展着剤(ダインなど)を混ぜて使用すると、より効果が高まります。 散布のタイミングは、カイガラムシの幼虫が発生する5月~7月頃に、月に2~3回程度行うのが目安です。
オルトランがカイガラムシに効くのは「浸透移行性」だから

なぜオルトランは、土に撒いたり、葉に散布したりするだけでカイガラムシを駆除できるのでしょうか。その秘密は、オルトランが持つ「浸透移行性」という性質にあります。 この性質こそが、オルトランをカイガラムシ駆除の強力な味方にしてくれるのです。
この章では、オルトランの作用の仕組みと、それがカイガラムシ駆除になぜ有効なのかを解説します。
- 浸透移行性とは?植物が殺虫バリアをまとう仕組み
- 隠れたカイガラムシにも効果を発揮
浸透移行性とは?植物が殺虫バリアをまとう仕組み
浸透移行性とは、薬剤の有効成分が植物の根や葉から吸収され、植物体内を隅々まで行き渡る性質のことを指します。 オルトランを土に撒くと、有効成分が根から吸収され、道管を通って茎や葉、さらには新しい芽にまで運ばれます。水和剤を葉に散布した場合も同様に、葉の表面から成分が吸収され、植物全体に広がっていきます。
これにより、植物自体が殺虫成分を持つようになります。まるで、植物が内側から害虫に対するバリアを張っているような状態になるのです。そして、その植物の汁を吸ったカイガラムシは、体内に殺虫成分を取り込んでしまい、駆除されるという仕組みです。
隠れたカイガラムシにも効果を発揮
カイガラムシは、葉の裏や付け根、枝が込み入った場所など、薬剤が直接かかりにくい場所に潜んでいることが多い厄介な害虫です。 通常のスプレータイプの殺虫剤では、全てのカイガラムシに薬剤をかけるのは非常に困難です。
しかし、浸透移行性を持つオルトランなら、薬剤が直接かからない場所に隠れているカイガラムシにも効果を発揮します。 植物全体に有効成分が行き渡っているため、カイガラムシがどこに隠れて汁を吸っても、駆除することができるのです。この点が、オルトランの大きな強みと言えるでしょう。
オルトランの種類と選び方「GFオルトラン」と「オルトランDX」の違い

ホームセンターなどでオルトランを探すと、「GFオルトラン」と「オルトランDX」という2つの種類があることに気づくでしょう。 パッケージの色も異なり、どちらを選べば良いか迷ってしまうかもしれません。この2つの主な違いは、含まれている有効成分にあります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の目的に合ったものを選びましょう。
ここでは、GFオルトランとオルトランDXの違いを比較し、どのような基準で選べばよいかを解説します。
- 有効成分と効果の違い
- どちらを選ぶべき?目的別の選び方
有効成分と効果の違い
GFオルトランとオルトランDXの最も大きな違いは、有効成分の種類と数です。この違いが、効果のある害虫の範囲にも影響します。
種類 | 有効成分 | 主な特徴 |
---|---|---|
GFオルトラン粒剤 | アセフェート | 基本的な吸汁性害虫(アブラムシなど)や食害性害虫に効果があります。野菜など口にする植物にも幅広く使用できます。 |
オルトランDX粒剤 | アセフェート + クロチアニジン | 2種類の有効成分により、より広範囲の害虫に効果を発揮します。特に、GFオルトランでは効果が薄いとされた土の中のコガネムシの幼虫にも効果があります。 また、アセフェートに抵抗性を持つ害虫にも効果が期待できます。 |
このように、オルトランDXはGFオルトランの強化版と考えることができます。 2つの浸透移行性殺虫成分を配合しているため、より強力で幅広い害虫への効果が期待できるのです。
どちらを選ぶべき?目的別の選び方
では、実際にどちらを選べば良いのでしょうか。基本的には、以下の基準で選ぶことをおすすめします。
- 食べる野菜やハーブに使う場合 → GFオルトラン
オルトランDXに含まれるクロチアニジンは、ミツバチへの影響などが懸念されているネオニコチノイド系の成分です。 安全性を考慮し、口に入れる可能性のある植物には、適用作物の範囲が広いGFオルトランを選ぶとより安心でしょう。 - 花や観葉植物、庭木に使う場合や、コガネムシの幼虫も対策したい場合 → オルトランDX
カイガラムシだけでなく、コガネムシの幼虫による根の食害など、複数の害虫に悩まされている場合は、オルトランDXがおすすめです。 2つの成分で、より確実に植物を守ることができます。
どちらの薬剤を使用する場合でも、必ず製品ラベルに記載されている適用作物と使用方法を確認し、正しく使用することが大切です。
オルトランが効かない?考えられる原因と物理的な駆除方法

「オルトランを撒いたのに、カイガラムシが全然いなくならない…」そんな経験をすると、がっかりしてしまいますよね。オルトランが効かない場合、いくつかの原因が考えられます。原因を正しく理解し、適切な対処法をとることが、カイガラムシ駆除成功への近道です。また、薬剤だけに頼らず、物理的な駆除方法を組み合わせることも非常に効果的です。
この章では、オルトランが効かない主な原因と、誰でも簡単にできる物理的な駆除方法について解説します。
- 原因1:相手は成虫のカイガラムシ
- 原因2:散布の時期や方法が適切でない
- 対処法:歯ブラシやヘラでこすり落とす
原因1:相手は成虫のカイガラムシ
オルトランが効かない最も一般的な原因は、駆除しようとしている相手が「成虫」であるケースです。 前述の通り、カイガラムシの成虫は硬い殻やロウ状の物質で体を覆っています。 このバリアが薬剤の浸透を妨げるため、浸透移行性のオルトランであっても、成虫には効果が出にくいのです。
もし、植物に付いているのが、動かない硬い粒や、綿に覆われた塊である場合は、すでに成虫になっている可能性が高いです。この場合は、薬剤の効果を待つだけでなく、次の項目で紹介する物理的な駆除が必要になります。
原因2:散布の時期や方法が適切でない
オルトランの効果を最大限に引き出すには、適切な時期と方法で散布することが不可欠です。もし効果が見られない場合、以下の点を見直してみましょう。
- 散布時期:カイガラムシの幼虫が発生するピーク(主に5月~7月)を逃していませんか? 成虫ばかりになってからでは、効果は半減してしまいます。
- 散布量・希釈倍率:規定の量よりも少なかったり、薄めすぎたりしていませんか? 必ず製品の指示に従いましょう。
- 散布場所:水和剤の場合、葉の裏や枝の付け根など、カイガラムシが潜みやすい場所にまで、しっかりと薬剤がかかっていますか?
特に幼虫の発生時期に定期的に散布することで、成虫になる前に叩くことができ、被害の拡大を防ぐことができます。
対処法:歯ブラシやヘラでこすり落とす
薬剤が効きにくい成虫に対しては、物理的にこすり落とすのが最も確実で効果的な方法です。 少し手間はかかりますが、見つけ次第、地道に取り除きましょう。
用意するものは、使い古しの歯ブラシや、木製のヘラ、割り箸などです。植物の幹や枝を傷つけないように注意しながら、優しくカイガラムシをこそぎ落としていきます。被害がひどい枝や葉は、思い切って剪定してしまうのも一つの手です。
重要なのは、こすり落としたカイガラムシを地面に放置しないこと。 そのままにしておくと、再び植物に登ってきたり、そこからまた繁殖したりする可能性があります。 必ずビニール袋などに入れて、しっかりと密閉し、ゴミとして処分してください。
カイガラムシの生態と発生させないための予防策

カイガラムシの効果的な駆除方法が分かったところで、次は「そもそも発生させない」ための知識を身につけましょう。敵の正体を知り、好む環境をなくすことが、最も効果的な予防策となります。カイガラムシとは一体どんな虫で、どのような場所を好むのでしょうか。
この章では、カイガラムシの基本的な生態と、大切な植物をカイガラムシから守るための予防策について解説します。
- カイガラムシの正体と被害
- 発生の原因と好む環境
- 今日からできる予防策
カイガラムシの正体と被害
カイガラムシは、カメムシやセミの仲間で、植物の汁を吸って生活する昆虫です。 その種類は非常に多く、日本国内だけでも400種類以上が確認されています。 見た目も様々で、白い綿のような姿の「コナカイガラムシ」や、硬い殻を持つ「カタカイガラムシ」などがよく知られています。
カイガラムシによる被害は、単に植物の見た目を損なうだけではありません。
- 生育不良:植物の汁を吸われることで、栄養分を奪われ、成長が悪くなったり、葉が枯れたりします。
- すす病の誘発:カイガラムシの排泄物(甘露)を栄養源としてカビが繁殖し、葉や枝が黒いすすで覆われたようになる「すす病」を発生させます。 すす病は光合成を妨げ、植物をさらに弱らせます。
- こうやく病の誘発:排泄物が原因で、幹や枝に膏薬を貼ったようなカビが発生する「こうやく病」を引き起こすこともあります。
発生の原因と好む環境
カイガラムシは、どこからともなくやってくるように感じますが、主な侵入経路は以下の通りです。
- 風に乗って飛んでくる
- 人の衣服や持ち物に付着して運ばれる
- 新しく購入した苗木に付着している
そして、カイガラムシが特に好むのは、日当たりや風通しの悪い、湿気の多い場所です。 枝や葉が密集して蒸れやすい環境は、カイガラムシにとって絶好の住処となってしまいます。剪定をあまりしていない庭木や、室内で管理している観葉植物などは特に注意が必要です。
今日からできる予防策
カイガラムシの発生を防ぐためには、彼らが好む環境を作らないことが第一です。以下の点を日頃から心がけましょう。
- 剪定して風通しを良くする:枝や葉が込み合っている場所は、思い切って剪定し、株全体の風通しと日当たりを改善しましょう。これは、カイガラムシだけでなく、他の病害虫の予防にも繋がります。
- 定期的な観察:植物の状態をこまめにチェックする習慣をつけましょう。特に葉の裏や枝の付け根は、カイガラムシが好む場所なので念入りに確認します。早期発見・早期駆除が被害を最小限に抑えるコツです。
- 購入時のチェック:新しく植物を購入する際は、カイガラムシが付着していないか、葉や茎をよく確認してから迎え入れましょう。
- 予防的な薬剤散布:カイガラムシが発生しやすい植物には、幼虫が発生する前の春先から、オルトラン粒剤を撒いておくのも非常に有効な予防策です。
カイガラムシとオルトランに関するよくある質問

ここでは、カイガラムシの駆除やオルトランの使用に関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。
オルトランはペット(犬や猫)がいる環境で使っても大丈夫ですか?
オルトランの有効成分であるアセフェートは、哺乳類に対する毒性は低いとされていますが、ペットが直接薬剤を舐めたり食べたりしないように注意が必要です。 粒剤を散布した後は、ペットがその場所に近づかないようにするか、土に軽く混ぜ込んでおくと良いでしょう。水和剤を散布した場合は、薬剤が乾くまでペットをそのエリアに入れないようにしてください。心配な場合は、使用前に獣医師に相談することをおすすめします。
オルトランを散布するのに適した時間帯はありますか?
水和剤を散布する場合は、風のない穏やかな日の朝方や夕方に行うのがおすすめです。日中の気温が高い時間帯に散布すると、水分がすぐに蒸発してしまい、薬害(葉が焼けたように変色する)の原因になることがあります。また、雨が降る直前の散布も、薬剤が流れてしまうため避けましょう。
オルトラン以外にカイガラムシに効く薬剤はありますか?
はい、あります。特に成虫のカイガラムシに対しては、マシン油乳剤が効果的です。 これは、薬剤で虫を殺すのではなく、油の膜でカイガラムシの体を覆い、窒息させて駆除するタイプの薬剤です。 薬剤抵抗性もつきにくいため、オルトランと使い分けるのも良い方法です。ただし、使用できる時期や植物が限られているため、必ず説明書を確認してください。その他、スミチオン乳剤などもカイガラムシに効果があります。
牛乳をスプレーするとカイガラムシに効くと聞きましたが本当ですか?
はい、効果が期待できます。 牛乳を水で薄めずにスプレーし、乾かすことで膜を作り、カイガラムシを窒息させるという方法です。薬剤を使いたくない方には良い選択肢ですが、牛乳が腐敗して臭いが発生したり、カビの原因になったりすることもあるため、散布後はしばらくしてから水で洗い流すなどのケアが必要です。室内での使用はあまりおすすめできません。
落としたカイガラムシは放置しても死にますか?
いいえ、放置してはいけません。地面に落ちたカイガラムシは、再び植物に登って寄生する可能性があります。 歯ブラシなどでこすり落とした後は、必ず集めてビニール袋などに入れ、しっかりと口を縛って燃えるゴミとして処分してください。
まとめ

- オルトランはカイガラムシの幼虫駆除に効果的です。
- 成虫には効果が薄いため、発生初期の駆除が重要です。
- 手軽な予防には「粒剤」を土に撒くのがおすすめです。
- 即効性を求めるなら「水和剤」を散布しましょう。
- オルトランが効く理由は「浸透移行性」にあります。
- 植物全体が殺虫成分を持ち、隠れた害虫も駆除します。
- 「GFオルトラン」は野菜にも使える基本的なタイプです。
- 「オルトランDX」はより強力でコガネムシ幼虫にも効きます。
- オルトランが効かない主な原因は、相手が成虫だからです。
- 成虫は歯ブラシなどで物理的にこすり落とすのが確実です。
- こすり落とした虫は必ず袋に入れて処分してください。
- カイガラムシは風通しの悪い場所を好みます。
- 予防には剪定を行い、風通しを良くすることが大切です。
- 植物を定期的に観察し、早期発見を心がけましょう。
- マシン油乳剤など、他の薬剤との併用も効果的です。