大切な方を亡くされた後、遺族年金を受給しながら新たな生活をスタートさせ、仕事に就く方もいらっしゃるでしょう。その際、「遺族年金と働く収入、税金はどうなるの?」「確定申告は必要なの?」といった疑問や不安を抱えるのは当然のことです。本記事では、遺族年金をもらいながら働く場合の確定申告について、その進め方や知っておくべき注意点を分かりやすく解説します。
遺族年金と働く収入の税金に関する基本

遺族年金を受給しながら働く場合、税金に関する基本的な知識を理解しておくことが大切です。特に、遺族年金が非課税であることと、働く収入が課税対象となることの違いを把握しておきましょう。
遺族年金は非課税所得!確定申告の対象外
遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)は、所得税法によって非課税所得と定められています。これは、遺族年金が故人の遺族の生活保障を目的としたものであり、所得として課税する性質のものではないという考え方に基づいています。そのため、遺族年金自体には所得税や住民税がかかることはありません。
この非課税の扱いは、遺族年金を受け取りながら仕事をして収入がある場合でも変わりません。 遺族年金の金額がいくらであっても、その部分については税金がかからないため、遺族年金だけを理由に確定申告をする必要はないのです。
働く収入は課税対象!確定申告が必要になるケース
遺族年金が非課税である一方で、遺族年金を受給しながら働いて得た給与所得や事業所得などは、通常の所得と同様に課税対象となります。 これらの働く収入が一定の基準を超えた場合、確定申告が必要になることがあります。
具体的には、会社員やパート・アルバイトの方で、年末調整を受けていても、給与収入が2,000万円を超える場合や、給与所得以外の所得(副業、不動産所得など)が20万円を超える場合は確定申告が必要です。 また、自営業者やフリーランスの方は、所得の種類に関わらず、所得税の確定申告が原則として必要となります。 医療費控除や寄付金控除などで税金の還付を受けたい場合も、確定申告を行うことで税金が戻ってくる可能性があります。
所得税と住民税の計算における遺族年金の扱い
遺族年金は所得税法上非課税であるため、所得税の計算において所得には含まれません。 これは、年末調整や確定申告の際にも同様の扱いです。
住民税についても、遺族年金は非課税所得であるため、住民税の課税対象となる所得には含まれません。 そのため、遺族年金を受け取っていることで住民税額が増えることはありません。しかし、働くことで得た給与所得や事業所得は住民税の課税対象となるため、これらの収入に応じて住民税が発生します。健康保険の扶養の判定においては、税法上の所得とは異なり、遺族年金も収入として含まれる場合があるため注意が必要です。
遺族年金をもらいながら働く際の重要な注意点

遺族年金を受給しながら働くことは可能ですが、いくつか重要な注意点があります。特に、収入による年金の支給停止や、扶養控除への影響、そして再婚した場合の取り扱いについて理解を深めておきましょう。
収入による遺族年金の支給停止は原則なし(例外に注意)
遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)は、原則として受給者の働く収入によって支給が停止されることはありません。 これは、老齢年金のように収入に応じて支給額が調整される「在職老齢年金制度」とは異なる点です。
ただし、例外として、遺族厚生年金に加算される「中高齢寡婦加算」や「経過的寡婦加算」については、受給者自身の老齢厚生年金との調整が行われる場合があります。 また、遺族年金の受給資格を得る際の要件として、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族であること、そして遺族自身の前年の年収が850万円未満(または所得が655万5千円未満)であることという収入要件があります。
この要件は受給開始時に適用されるもので、受給開始後に収入が増えても、原則として遺族年金が減額されたり支給停止になったりすることはありません。 ただし、2025年の制度改正により、2028年4月からはこの収入制限が撤廃される予定です。
扶養控除への影響と収入の壁
遺族年金は非課税所得であるため、税法上の扶養控除の合計所得金額を計算する際には含まれません。 しかし、遺族年金を受給しながら働くことで得た収入は課税対象となるため、この働く収入が一定額を超えると、他の家族の扶養から外れてしまう可能性があります。
例えば、配偶者控除や扶養控除の対象となるためには、扶養される側の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみであれば103万円以下)である必要があります。 遺族年金は所得に含まれませんが、働く収入がこの基準を超えると、扶養している側の税金が増えることになります。また、社会保険(健康保険や国民年金)の扶養の判定においては、税法上の所得とは異なり、遺族年金も収入として合算されるため、注意が必要です。
健康保険の扶養に入るためには、原則として年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、かつ被保険者の収入の2分の1未満であることなどの条件があります。
再婚による遺族年金の失権
遺族年金は、受給権者が再婚(法律上の婚姻だけでなく、事実婚を含む)した場合に、その権利を失います。 これは、遺族年金が故人によって生計を維持されていた遺族の生活保障を目的としているため、新たな配偶者を得て生計を共にすることになった場合は、その目的が達成されたとみなされるためです。
再婚によって遺族年金の受給権が消滅することを「失権」と呼びます。 遺族年金を受給中に再婚した場合は、速やかに年金事務所に「遺族年金失権届」を提出する必要があります。 なお、配偶者が再婚した場合でも、子どもが遺族年金の受給要件を満たしていれば、子どもが引き続き遺族年金を受給できるケースもあります。 ただし、遺族基礎年金の場合は、再婚した親と子どもが生計を共にしていると、子どもも受給できなくなる可能性があるため、個別の状況を確認することが大切です。
遺族年金受給者が行う確定申告の具体的な進め方

遺族年金をもらいながら働く場合、確定申告が必要になるケースがあります。ここでは、確定申告をスムーズに進めるための具体的な方法について解説します。
確定申告に必要な書類を準備する
確定申告を行うためには、いくつかの書類を事前に準備しておく必要があります。これらの書類は、所得の種類や控除の種類によって異なります。
- 源泉徴収票:会社から給与を受け取っている場合、年末に会社から発行されます。1年間の給与収入や源泉徴収された所得税額が記載されています。
- 公的年金等の源泉徴収票:遺族年金以外の公的年金(老齢年金など)を受給している場合に、日本年金機構などから送付されます。遺族年金は非課税のため、この源泉徴収票には記載されません。
- 各種控除証明書:生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、寄付金控除などを受ける場合に必要となる書類です。保険会社や医療機関、寄付先などから発行されます。
- マイナンバーカードまたは通知カード:確定申告書にはマイナンバーの記載が必要です。
- 銀行口座情報:還付金を受け取る場合に必要です。
これらの書類は、確定申告書の作成や提出時に必要となるため、紛失しないように大切に保管しておきましょう。特に、医療費控除を受ける場合は、1年間の医療費の領収書をまとめておくことが大切です。
申告書の作成と提出方法
確定申告書の作成方法はいくつかあります。ご自身の状況や利便性に合わせて選びましょう。
- 国税庁の確定申告書等作成コーナー:国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の案内に従って必要事項を入力するだけで、自動的に税額が計算され、確定申告書が作成できます。
- 税務署で相談しながら作成:税務署では、確定申告期間中に相談窓口を設けています。不明な点がある場合や、複雑な申告が必要な場合は、税務署の職員に相談しながら作成することも可能です。
- 税理士に依頼する:税金に関する専門家である税理士に依頼すれば、正確かつスムーズに確定申告を済ませることができます。特に、事業所得がある場合や、控除の種類が多い場合など、複雑な申告が必要な場合に有効な方法です。
作成した確定申告書は、以下のいずれかの方法で提出します。
- e-Tax(電子申告):インターネットを通じて申告書を提出する方法です。自宅から手軽に提出でき、還付金も早く受け取れるメリットがあります。
- 税務署へ持参:管轄の税務署に直接提出する方法です。
- 郵送:管轄の税務署へ郵送する方法です。
提出期限は原則として毎年3月15日ですが、還付申告の場合は1月1日から5年間遡って提出が可能です。
還付申告で税金を取り戻す方法
確定申告は、税金を納めるためだけのものではありません。払いすぎた税金を取り戻す「還付申告」という目的もあります。遺族年金をもらいながら働いている方で、以下のようなケースに該当する場合は、還付申告を行うことで税金が戻ってくる可能性があります。
- 医療費控除:1年間にかかった医療費が一定額を超えた場合、医療費控除を受けることで所得税が還付されます。遺族年金受給者で課税対象となる収入がない場合、医療費控除は受けられません。 しかし、働く収入がある場合は、その収入に対して医療費控除を適用できます。
- 生命保険料控除や地震保険料控除:生命保険や地震保険に加入している場合、支払った保険料に応じて控除が受けられます。
- 寄付金控除:特定の団体に寄付をした場合、寄付金控除を受けることができます。
- 住宅ローン控除:住宅ローンを利用して住宅を購入・増改築した場合に受けられる控除です。
これらの控除は、年末調整では適用できないものや、適用されていても不足がある場合があります。還付申告は、過去5年間に遡って行うことができるため、もし申告を忘れていた年があれば、今からでも手続きを検討してみましょう。
よくある質問

遺族年金をもらいながら働くことや確定申告に関して、多くの方が抱える疑問にお答えします。
- 遺族年金をもらいながら働く場合、いくらまでなら確定申告は不要ですか?
- 遺族年金は収入に含まれますか?
- 遺族年金と給与所得がある場合、住民税はどうなりますか?
- 遺族年金受給者がパートで働く場合、扶養から外れることはありますか?
- 遺族年金をもらいながら働く際の注意点は何ですか?
遺族年金をもらいながら働く場合、いくらまでなら確定申告は不要ですか?
遺族年金自体は非課税所得であり、確定申告の対象にはなりません。 確定申告が必要かどうかは、遺族年金以外の「働く収入」によって決まります。会社員やパート・アルバイトの方で、年末調整を受けている場合、給与収入が2,000万円以下で、かつ給与所得以外の所得(副業など)が20万円以下であれば、原則として確定申告は不要です。 自営業者やフリーランスの方は、所得が基礎控除額(48万円)を超える場合は確定申告が必要です。
遺族年金は収入に含まれますか?
遺族年金は、所得税法上「非課税所得」として扱われるため、所得税や住民税を計算する際の「収入」には含まれません。 しかし、健康保険の被扶養者となるための収入要件を判定する際には、「収入」として遺族年金も合算されることがあります。 そのため、税金上の収入と社会保険上の収入では、遺族年金の扱いが異なる点に注意が必要です。
遺族年金と給与所得がある場合、住民税はどうなりますか?
遺族年金は非課税所得であるため、住民税の計算においても所得には含まれません。 したがって、遺族年金を受け取っていること自体で住民税が増えることはありません。しかし、給与所得は住民税の課税対象となりますので、給与収入に応じて住民税が発生します。給与所得に対する住民税は、通常、勤務先を通じて給与から天引きされる「特別徴収」によって納められます。
遺族年金受給者がパートで働く場合、扶養から外れることはありますか?
遺族年金は非課税所得のため、税法上の扶養(配偶者控除や扶養控除)の判定における合計所得金額には含まれません。しかし、パート収入が一定額を超えると、扶養から外れる可能性があります。例えば、配偶者控除の対象となるには、合計所得金額が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)である必要があります。 また、社会保険の扶養に関しては、遺族年金も収入として合算され、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)などの要件を満たす必要があります。 パート収入と遺族年金の合計額によっては、扶養から外れる可能性があるため、注意が必要です。
遺族年金をもらいながら働く際の注意点は何ですか?
遺族年金をもらいながら働く際の主な注意点は以下の通りです。
- 遺族年金は非課税ですが、働く収入は課税対象となるため、収入額によっては確定申告が必要になることがあります。
- 遺族年金には原則として収入による支給停止はありませんが、遺族厚生年金に加算される中高齢寡婦加算など、一部調整されるケースがあります。
- 働く収入が増えると、他の家族の税法上の扶養や社会保険上の扶養から外れる可能性があります。
- 再婚(事実婚を含む)すると、遺族年金の受給権を失います。
これらの点を踏まえ、ご自身の状況に合わせて適切な対応を取ることが大切です。
まとめ
* 遺族年金は所得税法上の非課税所得であり、確定申告の対象外です。
* 遺族年金自体に所得税や住民税はかかりません。
* 遺族年金をもらいながら得た働く収入は課税対象となります。
* 給与収入が2,000万円超、または給与以外の所得が20万円超の場合は確定申告が必要です。
* 自営業者やフリーランスは原則として確定申告が必要です。
* 医療費控除などで還付を受けたい場合も確定申告を行います。
* 遺族年金は住民税の計算においても所得には含まれません。
* 遺族年金は原則として働く収入による支給停止はありません。
* 中高齢寡婦加算など一部の加算は自身の老齢厚生年金と調整されることがあります。
* 遺族年金受給開始時の収入要件(年収850万円未満など)はあります。
* 働く収入が増えると、他の家族の税法上の扶養から外れる可能性があります。
* 社会保険の扶養判定では遺族年金も収入として合算されます。
* 再婚(事実婚含む)すると遺族年金の受給権は失権します。
* 確定申告には源泉徴収票や各種控除証明書が必要です。
* 還付申告は過去5年間に遡って提出が可能です。
