原材料費や人件費の高騰など、飲食店を取り巻く環境は厳しさを増しています。経営を続けるために値上げは避けられない選択肢ですが、「お客様が離れてしまうのではないか」という不安を抱える方も少なくありません。本記事では、お客様との信頼関係を維持しながら、スムーズに値上げを実施するための具体的な方法と、すぐに使えるお知らせテンプレートを徹底的に解説します。
値上げの背景から伝え方のコツ、そしてお客様に納得してもらうための工夫まで、あなたの悩みを解決するための情報がここにあります。
飲食店が値上げを検討する背景とお客様への影響

飲食店経営において、値上げは時に避けられない経営判断です。しかし、その背景にはさまざまな要因があり、お客様への影響も考慮しなければなりません。
なぜ今、飲食店は値上げが必要なのか
近年、多くの飲食店が値上げを余儀なくされています。その主な理由は、原材料費の高騰です。小麦粉、食用油、肉類、野菜といった主要食材の価格が世界情勢や為替変動の影響で上昇し続けています。また、人件費の上昇も大きな要因です。最低賃金の引き上げや人材確保のための待遇改善は、経営コストに直結します。
さらに、光熱費や物流費の増加も無視できません。これらのコスト増を吸収しきれなくなり、現在の価格を維持することが困難な状況に陥っているのです。
品質を維持しながらお客様に満足いただける料理を提供し続けるためには、適正な価格設定が不可欠です。値上げは、単に利益を増やすためだけでなく、お店の存続とサービスの質を守るための重要な手段と言えるでしょう。
値上げがお客様に与える心理的影響
お客様にとって、値上げは少なからずネガティブな印象を与えるものです。特に、来店頻度の高い常連のお客様ほど、わずかな値上げでも年間を通せば大きな負担と感じる可能性があります。
「なぜ値上げするのか」「品質は変わらないのか」といった疑問や不安を抱かせ、場合によっては不信感につながり、客離れの原因となることもあります。お客様は、食事を単なる消費ではなく、楽しみや体験として捉えているため、値上げの伝え方一つで、お店への印象が大きく変わることを理解しておく必要があります。
お客様に納得してもらう値上げのお知らせに含めるべき要素

値上げのお知らせは、お客様に理解と納得を得るための大切なコミュニケーションです。以下の要素を盛り込み、誠実な姿勢で伝えましょう。
感謝の気持ちと値上げの結論
まず、日頃のご愛顧に対する感謝の気持ちを丁寧に伝えることから始めましょう。お客様への感謝を冒頭に述べることで、値上げというデリケートな内容も受け入れやすくなります。その上で、価格改定を行う旨を明確に伝えます。遠回しな表現は避け、簡潔に結論を伝えることが重要です。例えば、「誠に心苦しいお願いではございますが、この度、一部メニューの価格を改定させていただくこととなりました」といった表現が考えられます。
お客様への敬意と感謝の気持ちを忘れずに伝えることで、値上げに対するお客様の心理的な抵抗を和らげることができます。この最初のメッセージが、その後の理解を深めるための土台となります。
値上げの具体的な理由と背景
お客様に納得してもらうためには、値上げに至った具体的な理由を明確に説明することが不可欠です。抽象的な表現ではなく、客観的な事実に基づいて伝えましょう。
例えば、「昨今の原材料費の高騰」や「人件費の上昇」「光熱費の増加」など、具体的なコスト増の要因を挙げることが効果的です。お店の努力だけでは吸収しきれない外部要因であることを正直に伝えることで、お客様は「仕方がない」と理解しやすくなります。また、品質維持のため、あるいはより良いサービス提供のためといった前向きな理由も添えると、お客様の納得感を高められます。
新価格の適用開始日と対象メニュー
値上げのお知らせでは、いつから新しい価格が適用されるのか、そしてどのメニューが対象となるのかを明確に記載する必要があります。適用開始日は、お客様が心の準備をする期間を考慮し、余裕を持って設定することが大切です。一般的には、値上げの1ヶ月前までには告知するのが目安とされています。
対象メニューと改定後の価格は、誤解を招かないよう具体的に示しましょう。可能であれば、旧価格と新価格を併記し、箇条書きなどで分かりやすく提示すると親切です。これにより、お客様は自身の利用するメニューがどう変わるのかを正確に把握できます。
今後のサービス向上への決意と問い合わせ先
値上げは、お客様にとって負担増となるため、お店として今後も変わらぬ、あるいはそれ以上のサービスを提供していくという決意を伝えることが重要です。「今回の改定を機に、より一層の品質管理と接客向上に努めてまいります」といった前向きな言葉を添えることで、お客様は値上げ後も期待感を持って来店しやすくなります。
また、お客様からの疑問や質問に対応できるよう、問い合わせ先を明記することも忘れてはなりません。電話番号やメールアドレス、WebサイトのURLなどを記載し、お客様が安心して情報を確認できる体制を整えましょう。誠実な対応は、お客様との信頼関係を深めることにつながります。
シーン別!飲食店値上げのお知らせテンプレートと例文

値上げのお知らせは、伝える媒体によって適した表現や形式があります。ここでは、主要な告知シーンに合わせたテンプレートと例文をご紹介します。
店内掲示(POP・貼り紙)用テンプレート
店内掲示は、来店したお客様に直接情報を伝える効果的な方法です。目立つ場所に設置し、簡潔で分かりやすい表現を心がけましょう。
- 件名:【重要】価格改定のお知らせ
- 本文:
平素より当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。
この度、昨今の原材料費高騰により、誠に不本意ながら、〇月〇日(〇)より一部メニューの価格を改定させていただく運びとなりました。
お客様にはご負担をおかけいたしますが、今後もより良い料理とサービスを提供できるよう努めてまいりますので、何卒ご理解と変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
- 対象メニュー:
例)
- 〇〇ランチ:現行〇〇円 → 新価格〇〇円
- 〇〇定食:現行〇〇円 → 新価格〇〇円
- 改定日:〇〇年〇月〇日(〇)より
- 店舗名:〇〇
POPや貼り紙は、視覚的な要素も重要です。読みやすいフォントや色使いで、お客様の目に留まる工夫をしましょう。
Webサイト・SNS用テンプレート
WebサイトやSNSは、不特定多数のお客様に情報を発信できる便利なツールです。詳細な情報を掲載しつつ、SNSでは簡潔な告知とリンク誘導を意識しましょう。
- 件名:【重要なお知らせ】〇月〇日より一部メニューの価格改定について
- 本文:
いつも当店〇〇をご利用いただき、厚く御礼申し上げます。
この度、長引く原材料費や光熱費の高騰を受け、現在の価格を維持することが大変困難な状況となりました。
つきましては、誠に恐縮ではございますが、〇〇年〇月〇日(〇)より、一部メニューの価格を改定させていただくこととなりました。
お客様にはご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。当店では、今回の価格改定を機に、一層の品質向上とサービス充実に努め、皆様にご満足いただけるお店づくりを目指してまいります。今後とも変わらぬご愛顧を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
- 改定内容:
詳細は下記リンクよりご確認ください。
(Webサイトの価格改定詳細ページへのリンク)
- 改定日:〇〇年〇月〇日(〇)より
- 店舗名:〇〇
- 問い合わせ先:〇〇(電話番号またはメールアドレス)
SNSでは、短いメッセージで告知し、詳細情報はWebサイトの専用ページへ誘導するのが効果的です。Webサイトには、FAQなども含め、お客様が知りたい情報を網羅的に掲載すると良いでしょう。
DM・メールマガジン用テンプレート
DMやメールマガジンは、お店のファンや常連のお客様に直接、丁寧に情報を伝えるのに適しています。個別のメッセージとして、より詳細な説明と感謝の気持ちを伝えましょう。
- 件名:【〇〇(店舗名)】価格改定のお知らせとお願い
- 本文:
拝啓
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、この度、当店では、昨今の主要原材料費の高騰、および物流コスト、人件費の上昇が続いており、現在の価格でのサービス提供が大変困難な状況となりました。
つきましては、誠に不本意ではございますが、〇〇年〇月〇日(〇)より、一部メニューの価格を改定させていただくこととなりました。お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますこと、深くお詫び申し上げます。
当店といたしましては、これまでもコスト削減に努めてまいりましたが、品質維持のため、やむを得ず今回の決定に至りました。何卒ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
今後も、お客様にご満足いただけるよう、より一層の品質向上とサービスの充実に努めてまいりますので、引き続きご愛顧を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
敬具
- 記
- 【価格改定実施日】〇〇年〇月〇日(〇)より
- 【対象メニューと新価格】
例)
- 〇〇(商品名):現行〇〇円 → 新価格〇〇円
- 〇〇(商品名):現行〇〇円 → 新価格〇〇円
- 【お問い合わせ先】〇〇(電話番号)
- 店舗名:〇〇
DMやメールマガジンでは、お客様が「特別に情報を受け取っている」と感じられるような丁寧な言葉遣いを心がけましょう。また、常連のお客様には、値上げ前に口頭で伝えるなどの配慮も有効です。
お客様の理解を得るための値上げの伝え方とコツ

値上げを成功させるには、単に告知するだけでなく、お客様に寄り添った伝え方が重要です。ここでは、お客様の理解を得るためのコツをご紹介します。
告知の最適なタイミングと期間
値上げの告知は、お客様が心の準備をする時間を十分に確保できるよう、値上げ実施の1ヶ月前までに行うのが理想的です。直前の告知は、お客様に不信感を与え、反感を買う原因となります。
また、告知のタイミングも重要です。お盆や年末年始などの繁忙期直前は避け、比較的落ち着いた時期を選ぶと良いでしょう。メニュー刷新や季節の切り替わりと同時に告知することで、値上げの印象を和らげ、ポジティブな変化として受け止めてもらいやすくなります。
「価格改定」など言葉選びの工夫
「値上げ」という言葉は、お客様にネガティブな印象を与えがちです。そのため、「価格改定」や「価格変更」といった言葉に言い換えることで、印象を和らげる工夫ができます。
また、文章全体で「誠に恐縮ではございますが」「心苦しいお願いではございますが」といったクッション言葉を効果的に使用し、お客様への配慮を示すことが大切です。言い訳がましくならないよう、誠実な姿勢を保ちつつ、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。
複数の媒体を活用した丁寧な告知
値上げのお知らせは、多くのお客様に確実に伝わるよう、複数の媒体を組み合わせて行うことが効果的です。店内掲示(POP、貼り紙)はもちろんのこと、Webサイト、SNS、メールマガジン、LINE公式アカウントなど、お客様が情報を得る可能性のあるあらゆるチャネルを活用しましょう。
特に、Webサイトには詳細な情報を掲載し、SNSでは簡潔な告知とWebサイトへの誘導を行うなど、媒体ごとの特性を活かした使い分けが重要です。これにより、お客様は自身の都合の良い方法で情報を確認でき、情報伝達の漏れを防ぐことにもつながります。
値上げと同時に提供する付加価値
値上げを単なる価格上昇で終わらせず、お客様にとっての「プラスの体験」を同時に提供することで、納得感を高めることができます。例えば、使用する食材の品質向上、新メニューの導入、サービスの質の改善(接客、雰囲気、清潔さなど)などが挙げられます。
「今回の価格改定を機に、〇〇を導入し、より一層お客様に満足いただけるよう努めます」といった形で、値上げによって何が良くなるのかを具体的に伝えることが大切です。お客様は、価格以上の価値を感じられれば、値上げを受け入れやすくなります。
常連のお客様への特別な配慮
常連のお客様は、お店の経営を支える大切な存在です。値上げの際には、特にきめ細やかな配慮を心がけましょう。例えば、値上げの正式発表前に口頭で先行告知したり、DMで個別に丁寧な説明を送ったりするのも良い方法です。
また、値上げ後も引き続き来店してもらうための工夫として、常連客限定のクーポン配布、ポイントカードの特典強化、特別メニューの提供なども効果的です。「いつもありがとうございます」という感謝の気持ちを形にして伝えることで、お客様との長期的な信頼関係を維持できます。
値上げに関するよくある質問

ここでは、飲食店が値上げを行う際によくある疑問とその回答をまとめました。
値上げ幅の目安はどのくらいですか?
値上げ幅の目安は、お店の業態や客層、競合店の価格設定などによって異なりますが、一般的には10%程度までであればお客様に受け入れられやすいと言われています。大幅な値上げ(15%以上)は、客離れのリスクを高める可能性があります。
一度に大きく値上げするよりも、ドリンクやサイドメニューから少しずつ段階的に値上げしたり、端数調整(980円を1,000円にするなど)を行ったりすることで、お客様に大きな負担を感じさせずに進めるコツもあります。値上げの際は、自店の原価率を正確に把握し、無理のない範囲で慎重に検討することが大切です。
ステルス値上げは避けるべきですか?
ステルス値上げは絶対に避けるべきです。ステルス値上げとは、告知なしで価格だけを変えたり、価格は据え置きで料理の量を減らしたりする行為を指します。
このような方法は、お客様に「騙された」という不信感を与え、お店の信頼を大きく損なう原因となります。一時的に客離れを防げたとしても、長期的に見ればお客様の離反を招き、お店の評判を落とすことにつながります。誠実な告知と透明性のある説明こそが、お客様との良好な関係を維持する上で最も重要です。
お客様からのクレームにはどう対応すれば良いですか?
値上げに関するクレームは、お客様が不安や不満を感じているサインです。まずは、お客様の意見に真摯に耳を傾け、共感する姿勢を示しましょう。
感情的にならず、冷静に「ご不便をおかけし、申し訳ございません」と謝意を伝えます。その上で、値上げの理由や背景を改めて丁寧に説明し、お店の努力や今後のサービス向上への決意を伝えましょう。お客様の疑問点に具体的に答え、納得してもらえるよう努めることが大切です。また、クレームを真摯に受け止め、今後の経営改善に活かす姿勢を見せることで、お客様からの信頼を回復できる可能性もあります。
値上げ後もお客様を維持するための方法はありますか?
値上げ後もお客様を維持するためには、価格以上の価値を提供し続けることが最も重要です。料理の品質維持・向上はもちろん、接客サービスの質を高めたり、お店の雰囲気づくりに力を入れたりするなど、お客様の満足度を高める工夫を継続しましょう。
また、常連のお客様への感謝を忘れず、特別なサービスや特典を提供することも効果的です。お客様からのフィードバックを積極的に収集し、メニューやサービスの改善に活かすサイクルを回すことで、お客様は「自分たちの声が届いている」と感じ、お店への愛着を深めてくれます。
まとめ
- 飲食店の値上げは原材料費や人件費高騰により避けられない経営判断です。
- 値上げはお客様に心理的負担を与えるため、丁寧な伝え方が大切です。
- お知らせには感謝、理由、新価格、実施日、今後の決意を含めましょう。
- 店内掲示、Webサイト、SNS、DMなど複数の媒体で告知が効果的です。
- 告知は値上げの1ヶ月前までに行い、繁忙期直前は避けましょう。
- 「値上げ」ではなく「価格改定」などの言葉選びで印象を和らげます。
- 値上げと同時に品質向上や新メニューなど付加価値を提供しましょう。
- 常連のお客様には先行告知や特典など特別な配慮が喜ばれます。
- 値上げ幅は10%程度までが受け入れられやすい目安です。
- ステルス値上げは信頼を失うため絶対に避け、透明性を保ちましょう。
- お客様からのクレームには真摯に耳を傾け、丁寧に説明します。
- 値上げ後も価格以上の価値提供とサービス改善を継続しましょう。
- お客様の声を積極的に取り入れ、お店づくりに活かすことが重要です。
- 適切な値上げは、お店の存続と品質維持のために必要です。
- 誠実なコミュニケーションで、お客様との信頼関係をさらに深めましょう。
