保育所の防災マニュアルは厚生労働省のガイドラインに沿って作成!必須項目や注意点を解説

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保育所は、子どもたちの命を預かる大切な場所です。地震や台風などの自然災害、火災、不審者の侵入など、いつ起こるかわからない「もしも」の事態に備え、日頃から防災対策を徹底しておく必要があります。特に、災害発生時に職員が迅速かつ的確に対応するための「防災マニュアル」の整備は不可欠です。

本記事では、厚生労働省のガイドラインに基づいた保育所の防災マニュアル作成のポイントや、盛り込むべき必須項目、作成後の注意点などを詳しく解説します。保育所の防災対策に関わる方は、ぜひ参考にしてください。

目次

厚生労働省が示す保育所の防災対策の重要性

保育所における防災対策の重要性は、厚生労働省が示す様々な通知やガイドラインからも明らかです。特に、子どもたちの安全確保は最優先事項であり、そのための具体的な計画と準備が求められています。

ここでは、厚生労働省が示す保育所の防災対策に関する主なポイントを解説します。

  • 安全計画の策定義務化
  • 避難訓練の実施義務
  • 防災マニュアルの整備
  • 業務継続計画(BCP)の策定(努力義務)

安全計画の策定義務化

2023年4月1日から、全国の保育所等で「安全計画」の策定が義務化されました。 これは、送迎バスでの置き去り事故など、保育現場での重大事故が相次いだことを受けた措置です。 安全計画には、施設の安全点検、園外活動を含む活動における安全確保策、職員への安全指導、避難訓練などの年間スケジュールを盛り込む必要があります。

この安全計画は、従来の事故防止のための指針に加えて、より具体的かつ計画的な安全管理体制の構築を目指すものです。 各保育所は、厚生労働省が示す例などを参考に、自園の実情に合わせた計画を策定し、PDCAサイクルに基づいた定期的な見直しと改善を行うことが求められます。

避難訓練の実施義務

保育所では、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(厚生省令)に基づき、毎月1回以上の避難訓練(避難及び消火)の実施が義務付けられています。 また、消防法においても、特定防火対象物として年2回以上の避難訓練が義務付けられています。

これらの訓練は、地震、火災、水害、不審者侵入など、様々な災害を想定して行う必要があります。 訓練を通じて、子どもたち自身が安全な避難行動を身につけるとともに、職員は避難誘導の手順や役割分担を確認し、いざという時に迅速かつ冷静に対応できる体制を整えることが重要です。

抜き打ちでの訓練を取り入れている園もあり、より実践的な対応力を養う工夫も見られます。

防災マニュアルの整備

災害発生時に、職員がパニックにならず、組織的に的確な対応をとるためには、事前に具体的な行動手順や役割分担を定めた「防災マニュアル」を整備しておくことが極めて重要です。 厚生労働省も、保育所保育指針の中で、災害発生時の対応体制、避難への備え、職員の役割分担、避難訓練計画等に関するマニュアルの作成を求めています。

マニュアルには、災害の種類別(地震、火災、水害など)の対応、発生時間帯別の対応、発生場所に応じた対応などを具体的に記載し、全職員が内容を熟知しておく必要があります。 また、マニュアルは一度作成したら終わりではなく、訓練などを通じて定期的に見直し、実効性を高めていくことが大切です。

業務継続計画(BCP)の策定(努力義務)

災害や感染症のまん延など、不測の事態が発生した場合でも、保育サービスを可能な限り継続するための「業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」の策定が、2023年度から努力義務化されました。 保育所は、子どもたちの生活を支える上で不可欠な社会インフラであり、非常時においても最低限のサービス提供を維持することが求められます。

BCPには、非常時の人員体制、代替施設の確保、必要物資(食料、水、衛生用品など)の備蓄、関係機関との連携体制などを具体的に定めます。 厚生労働省は、介護施設・事業所向けのガイドラインや、児童福祉施設向けのガイドラインを示しており、これらを参考に策定を進めることができます。BCP策定は、園児や職員の安全確保はもちろん、保護者からの信頼確保にも繋がります。


厚生労働省のガイドライン等を踏まえた防災マニュアルの必須項目

保育所の防災マニュアルを作成する際には、厚生労働省のガイドラインや通知、そして過去の災害事例などを踏まえ、必要な項目を網羅することが重要です。ここでは、防災マニュアルに盛り込むべき必須項目について解説します。

具体的には、以下の項目を検討しましょう。

  • 基本方針と目的
  • 災害対策本部(組織体制)と役割分担
  • 情報収集・伝達体制
  • 災害種別ごとの対応手順
  • 避難計画(避難場所・経路)
  • 園児の安全確保と引き渡し方法
  • 備蓄品リストと管理方法
  • 関係機関との連携体制
  • 防災教育・訓練計画
  • マニュアルの見直しと改善

基本方針と目的

まず、防災マニュアルの基本方針として、最も優先すべきは「園児及び職員の生命の安全確保」であることを明確に記載します。 その上で、このマニュアルが、災害発生時に職員が迅速かつ的確な判断・行動をとるための指針であり、被害を最小限に抑えることを目的とすることを明記しましょう。

また、マニュアルの適用範囲(対象者、場所、期間など)も具体的に定めておくことが重要です。

災害対策本部(組織体制)と役割分担

災害発生時に、組織的に対応するための「災害対策本部」の設置と、各職員の役割分担を明確に定めます。 園長を本部長(総括)とし、副園長などが副本部長(副総括)を務める体制が一般的です。 さらに、情報収集係、避難誘導係、救護係、消火係、非常持出係などの具体的な役割と担当者を事前に決めておくことで、混乱なく行動できます。

職員数が少ない場合や、夜間・早朝など人員が手薄になる時間帯も想定し、柔軟に対応できる体制を検討しておく必要があります。

情報収集・伝達体制

災害発生時には、正確な情報を迅速に収集し、職員間や保護者、関係機関と共有するための体制を整備しておくことが重要です。 テレビ、ラジオ、インターネット、自治体の防災無線など、複数の情報収集手段を確保しましょう。 収集した情報は、災害対策本部で集約し、状況判断や指示に活用します。

職員間の連絡体制(緊急連絡網など)や、保護者への連絡方法(電話、メール、アプリ、SNS、災害用伝言ダイヤルなど)も複数確保し、事前に周知しておく必要があります。 電話回線が不通になる可能性も考慮し、代替手段を準備しておくことが肝要です。

災害種別ごとの対応手順

地震、火災、風水害(台風、洪水)、土砂災害、津波、火山噴火、不審者侵入など、想定される災害の種類ごとに、具体的な対応手順を定めます。 例えば、地震発生時はまず身の安全を確保し、揺れが収まったら火の元の確認や避難経路の確保を行う、といった具体的な行動を時系列で示します。

また、災害が発生した時間帯(保育時間中、昼寝中、早朝・夜間など)や、場所(園舎内、園庭、散歩中など)に応じた対応も具体的に記載しておくことで、あらゆる状況に対応できるようになります。

避難計画(避難場所・経路)

地域のハザードマップなどを参考に、災害の種類や状況に応じた避難場所と、そこまでの安全な避難経路を複数設定します。 避難場所は、自治体が指定する広域避難場所や一時避難場所だけでなく、状況に応じて近隣の安全な建物(協力が得られる場合)なども検討しましょう。

避難経路は、実際に歩いて安全性を確認し、危険箇所(ブロック塀、ガラス窓、河川など)を把握しておくことが重要です。 避難経路図を作成し、園内に掲示するとともに、職員全員で共有しておきましょう。 乳幼児の避難方法(抱っこ、おんぶ、避難車など)も具体的に計画しておく必要があります。

園児の安全確保と引き渡し方法

避難中および避難先での園児の安全確保策と、保護者への確実な引き渡し方法を定めます。 避難時には、点呼を徹底し、園児から目を離さないようにします。 避難先では、安全なスペースを確保し、園児が安心して過ごせるよう配慮します。

保護者への引き渡しは、原則として事前に登録された引き取り者本人に行い、身分証明書の提示を求めるなど、確実な方法を定めます。 引き渡し場所や手順、連絡方法などを事前に保護者へ周知徹底しておくことが重要です。 交通機関の乱れ等で保護者がすぐに迎えに来られない場合に備え、園児を一定期間預かる体制(備蓄など)も整えておく必要があります。

備蓄品リストと管理方法

災害発生後、ライフラインが途絶した場合に備え、最低3日分を目安とした食料、飲料水、医薬品、衛生用品などの備蓄品リストを作成し、適切に管理します。 備蓄品には、ミルク、おむつ、おしりふきなど、乳幼児に必要な物品も忘れずに含めましょう。

備蓄品は、すぐに持ち出せる場所に保管し、定期的に賞味期限や使用期限を確認・更新する体制を整えます。 非常用持ち出し袋も準備し、避難時にすぐに持ち出せるようにしておきましょう。

関係機関との連携体制

災害発生時に、消防署、警察署、市区町村の防災担当課、地域の医療機関など、関係機関と迅速に連携するための連絡体制を整備しておきます。 緊急連絡先リストを作成し、常に最新の状態に保ちましょう。 平時から関係機関との連携を図り、災害時の協力体制について協議しておくことも有効です。

近隣の保育園や幼稚園との連携・協力体制を構築しておくことも、災害時の助け合いに繋がります。

防災教育・訓練計画

職員及び園児に対する防災教育と、定期的な避難訓練の年間計画を策定します。 防災教育では、絵本や紙芝居などを活用し、子どもたちにも分かりやすく災害の怖さや避難の重要性を伝えます。 「おかしもち」(おさない・かけない・しゃべらない・もどらない・ちかづかない)などの合言葉も有効です。

避難訓練は、毎月実施義務があるほか、様々な災害や状況を想定した実践的な訓練を計画的に行います。 訓練後は必ず振り返りを行い、課題を洗い出してマニュアルや計画の改善に繋げることが重要です。

マニュアルの見直しと改善

防災マニュアルは、一度作成したら終わりではありません。 避難訓練の結果や、新たな災害事例、地域の状況変化、厚生労働省からの通知などを踏まえ、定期的に内容を見直し、必要に応じて改訂していくことが不可欠です。 最低でも年に1回は見直しを行い、常に最新かつ実効性のあるマニュアルを維持するよう努めましょう。

マニュアルの改訂履歴を記録しておくことも大切です。

防災マニュアル作成・運用上の注意点

保育所の防災マニュアルは、作成するだけでなく、実際に災害が発生した際に役立つものでなければ意味がありません。ここでは、マニュアル作成時および運用上の注意点を解説します。

以下の点に注意して、実効性のある防災対策を進めましょう。

  • 園の実情に合わせた具体性
  • 全職員への周知徹底と理解
  • 保護者への情報共有と協力依頼
  • 定期的な訓練による習熟度向上
  • 地域との連携強化

園の実情に合わせた具体性

厚生労働省のガイドラインや他園の事例、自治体が提供する雛形などはあくまで参考とし、必ず自園の立地条件、建物の構造、園児の年齢構成、職員数などを考慮した、具体的で実践的な内容にすることが重要です。 例えば、海に近い園であれば津波対策、山間部の園であれば土砂災害対策を重点的に盛り込む必要があります。

また、アレルギーを持つ園児や配慮が必要な園児への対応なども具体的に記載しておきましょう。 机上の空論にならないよう、実際の保育現場で「使える」マニュアルを目指しましょう。

全職員への周知徹底と理解

作成した防災マニュアルは、園長や一部の職員だけでなく、正規・非正規を問わず、すべての職員が内容を十分に理解し、いざという時に自分の役割を果たせるように周知徹底する必要があります。 新規採用職員への研修に盛り込むのはもちろん、定期的な研修会や勉強会を実施し、内容の確認や意識の向上を図りましょう。

マニュアルをいつでも確認できるよう、見やすい場所に保管・掲示しておくことも大切です。

保護者への情報共有と協力依頼

災害時の対応については、保護者の理解と協力が不可欠です。 防災マニュアルの概要、緊急時の連絡方法、園児の引き渡しルールなどを、入園説明会や保護者会、園だよりなどを通じて、日頃から保護者に分かりやすく説明し、周知徹底を図りましょう。 特に、引き渡し訓練などを通じて、災害時の具体的な動きを共有しておくことが重要です。

保護者にも家庭での備えをお願いするなど、園と家庭が連携して防災意識を高めていくことが望ましいです。

定期的な訓練による習熟度向上

マニュアルの内容を職員が確実に身につけ、災害時に冷静かつ迅速に行動できるようにするためには、定期的な訓練が最も重要です。 毎月の避難訓練に加え、災害対策本部の設置・運営訓練、情報伝達訓練、救護訓練、引き渡し訓練など、マニュアルに基づいた様々な訓練を計画的に実施しましょう。

訓練は、可能な限りリアルな状況を想定し、抜き打ちで行うなど、緊張感を持って取り組むことが効果的です。 訓練後は必ず反省会を開き、マニュアルや対応手順の課題点を洗い出し、改善に繋げましょう。

地域との連携強化

災害時には、園単独での対応には限界があります。 日頃から、地域の消防署、警察、自治会、近隣の学校や企業などと良好な関係を築き、いざという時に協力し合える体制を整えておくことが重要です。 地域の防災訓練への参加や、合同での訓練実施なども有効です。

また、近隣住民との協力関係も大切です。避難場所への誘導や、一時的な避難場所の提供などで協力が得られる可能性もあります。

よくある質問

保育所の防災マニュアルに法的な作成義務はありますか?

はい、保育所保育指針において、災害発生時の対応体制や避難訓練計画等に関するマニュアルの作成が求められています。 また、2023年4月からは、安全に関する事項(安全点検、安全指導、訓練など)を盛り込んだ「安全計画」の策定が義務化されました。 防災マニュアルは、この安全計画の一部としても位置づけられる重要なものです。

防災マニュアルの雛形はどこで入手できますか?

厚生労働省自体が統一の雛形を提供しているわけではありませんが、各自治体(都道府県や市区町村)の子育て支援課や保育課などが、管轄内の保育所向けに防災マニュアルの雛形や作成の手引きを提供している場合があります。 例えば、長崎県、京都市、大阪市、新潟市、西東京市、千葉市などが雛形や手引きを公開しています。また、経済産業省が作成した「保育施設のための防災ハンドブック」なども参考になります。まずは、所在地の自治体のウェブサイトを確認したり、担当部署に問い合わせてみましょう。

防災マニュアルはどのくらいの頻度で見直すべきですか?

防災マニュアルは、最低でも年に1回は見直しを行うことが推奨されます。 避難訓練の結果、職員の異動、地域の状況変化、新しい災害リスクの認識、関連法規やガイドラインの改正などを踏まえ、常に最新の情報に基づいた実効性のある内容に更新していく必要があります。

避難訓練は毎月実施する必要がありますか?

はい、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(厚生省令)により、保育所では避難及び消火に対する訓練を少なくとも毎月1回実施することが義務付けられています。 様々な災害(地震、火災、水害など)や状況を想定し、計画的に実施することが重要です。

業務継続計画(BCP)の策定も必須ですか?

2023年4月1日より、保育所を含む児童福祉施設等において、業務継続計画(BCP)の策定、研修・訓練の実施、定期的な見直しは「努力義務」とされています。 義務ではありませんが、災害時等にも可能な限り保育サービスを継続し、園児と職員の安全を守るためには、BCPの策定が強く推奨されています。

まとめ

  • 保育所の防災マニュアル作成は厚生労働省の指針に沿う。
  • 安全計画策定は義務、BCP策定は努力義務(2023年度~)。
  • マニュアルには基本方針、組織体制、情報伝達、災害別対応等を記載。
  • 園児の安全確保、引き渡し方法、備蓄管理も必須。
  • 関係機関連携、防災教育・訓練計画も定める。
  • マニュアルは園の実情に合わせ具体的に作成する。
  • 全職員への周知徹底と理解が重要。
  • 保護者への情報共有と協力依頼も不可欠。
  • 定期的な訓練で習熟度を高める。
  • 地域との連携を強化し協力体制を築く。
  • マニュアルは定期的に見直し、改善を続ける。
  • 雛形は自治体等が提供する場合がある。
  • 避難訓練は児童福祉法に基づき毎月実施義務あり。
  • BCP策定は努力義務だが安全確保・信頼向上のため推奨。
  • 防災対策は園児・職員の命を守る最重要課題。
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