「人は変わらない」は嘘?アドラー心理学が解き明かす「変われる」可能性と具体的な方法

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「あの人は昔からああだから」「自分のこの性格は一生変わらないんだろうな…」私たちはつい、「人は変わらない」と考えてしまいがちです。しかし、アルフレッド・アドラーが提唱したアドラー心理学は、その考えに一石を投じます。本記事では、「人は変わらない」という通説とアドラー心理学の「人は変われる」という主張のギャップに焦点を当て、なぜアドラーはそう考えるのか、そして私たちが変化するための具体的な方法を分かりやすく解説します。

目次

「人は変わらない」と感じる理由とアドラー心理学の基本的な考え方

多くの人が「人は変わらない」と感じる背景には、過去の経験や観察があります。しかし、アドラー心理学は異なる視点を提供します。ここでは、その対比とアドラー心理学の根幹にある考え方を探ります。

  • なぜ私たちは「人は変わらない」と思ってしまうのか?
  • アドラー心理学の核心:「人はいつでも変われる」
  • 「変わらない」のではなく「変わらないという決断」をしている?

なぜ私たちは「人は変わらない」と思ってしまうのか?

日常生活の中で、私たちはしばしば「人は変わらない」という現実に直面するように感じます。長年付き合っている友人の頑固な一面、何度注意しても同じ失敗を繰り返す同僚、そして自分自身のなかなか変えられない癖や考え方。こうした経験が積み重なると、「人の本質や性格は、そう簡単には変わらないものだ」という考えに至るのは自然なことかもしれません。

特に、過去の出来事や育ってきた環境が、現在のその人の性格や行動パターンを決定づけていると考える「原因論」的な見方は、この「人は変わらない」感を強固にします。「あの人は幼い頃に苦労したから、ひねくれた性格になったんだ」「親から厳しく育てられたから、自分に自信が持てないんだ」といった具合に、過去の原因が現在の結果を規定していると捉えるわけです。

また、変化を試みてもうまくいかなかった経験も、「変われない」という思い込みを強化する一因となります。ダイエットに失敗したり、新しい習慣を身につけようとして挫折したりすると、「やっぱり自分は変われないんだ」と諦めの気持ちが生まれてしまうのです。他人の変化に対しても、「どうせ一時的なものだろう」「本性は変わっていないはずだ」と懐疑的な目を向けてしまうこともあります。このように、個人的な経験や観察、そして原因論的な思考が、「人は変わらない」という感覚を生み出す主な理由と言えるでしょう。

アドラー心理学の核心:「人はいつでも変われる」

こうした「人は変わらない」という一般的な考え方に対し、アドラー心理学は明確に「人はいつでも変われる」と主張します。これはアドラー心理学の最も重要で、かつ勇気づけられるメッセージの一つです。アドラーは、人間の行動や感情は過去の原因によって決定されるのではなく、未来の「目的」によって選択されると考えました。これを「目的論」と呼びます。

例えば、「内気な性格だから、人前で話せない」のではなく、「人前で話さない」という目的を達成するために、「内気な性格」という感情や理由を利用している、とアドラー心理学では考えます。つまり、現在の状況は過去の産物ではなく、自分自身が(無意識的にせよ)選択した結果である、という見方です。

この目的論に基づけば、もし「変わりたい」と本気で願い、異なる目的を設定し直すならば、人はいつでも自分の行動や感情、ひいては生き方(ライフスタイル)を変えることができる、ということになります。過去の経験やトラウマ、遺伝や環境といった要因が、現在の私たちを完全に縛り付けているわけではないのです。重要なのは、「これからどうしたいか」という未来に向けた意志であり、その意志があれば、年齢や状況に関わらず、人は変化を選択できる、というのがアドラー心理学の核心的な考え方です。

「変わらない」のではなく「変わらないという決断」をしている?

アドラー心理学の視点に立つと、「人は変わらない」という現象は、その人が「変われない」のではなく、「変わらない」という決断を自ら下している状態だと解釈できます。これは非常に重要なポイントです。私たちは、変化することに伴う不確実性や困難、あるいは新しい状況に適応するエネルギーを使うことを避けたい、という「目的」を持っている場合があります。

例えば、「今の仕事に不満はあるけれど、転職するのは不安だ」と感じている人は、「不満な現状維持」を選ぶことで、「転職活動のストレスや失敗のリスクを避ける」という目的を達成しています。口では「変わりたい」と言いながらも、心のどこかでは「変わらないでいることのメリット」を選択しているわけです。

アドラー心理学では、このような状態を「変化しないことへの勇気の欠如」と捉えることもあります。変わることへの不安や恐れが、変わらないという選択を後押ししているのです。しかし、これは決してその人を責めるものではありません。むしろ、「変わらない」という選択にも、その人なりの理由や目的があることを理解しようとします。

重要なのは、自分が無意識のうちに「変わらない」という決断をしている可能性に気づくことです。その決断の背景にある「目的」を理解し、もし本当に変わりたいと願うのであれば、勇気を持って「変わる」という新しい決断を下す必要がある、とアドラー心理学は示唆しています。

アドラー心理学の鍵となる概念:「変われる」を支える理論

アドラー心理学が「人は変われる」と主張する背景には、独自の理論的支柱があります。ここでは、その中でも特に重要な「目的論」「課題の分離」「ライフスタイル」「トラウマの否定」という概念について解説します。

  • 原因論ではなく「目的論」で考える
  • すべての悩みは対人関係?「課題の分離」の重要性
  • 性格ではなく「ライフスタイル」は再選択可能
  • トラウマは存在しない?アドラー心理学の視点

原因論ではなく「目的論」で考える

アドラー心理学を理解する上で最も重要な概念の一つが「目的論」です。これは、フロイトに代表される「原因論」とは対照的な考え方です。原因論が「過去の原因が現在の結果(行動や感情)を生み出す」と考えるのに対し、目的論は「未来の目的を達成するために、現在の行動や感情を選択する」と考えます。

例えば、会議で発言できない人がいるとします。原因論的に見れば、「過去に人前で失敗した経験があるから、発言できない」と解釈するかもしれません。しかし、アドラー心理学の目的論では、「会議で発言しない」という目的(例えば、注目されたくない、責任を負いたくない、反対意見を言って関係を悪化させたくない等)を達成するために、「発言できない」という状況や、「不安」という感情を自ら作り出している(選択している)と考えます。

この目的論の視点は、「人は変われる」という考え方を強力に後押しします。なぜなら、過去の原因は変えられませんが、未来の目的は自分の意志で変えることができるからです。もし「会議で発言できるようになりたい」という新しい目的を設定すれば、その目的を達成するための行動(例えば、事前に準備する、短い意見から言ってみるなど)を選択できるようになる、というわけです。原因に縛られるのではなく、目的に目を向けることで、私たちは自らの行動や感情、そして未来を変える主体となれるのです。

すべての悩みは対人関係?「課題の分離」の重要性

アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と断言しました。一見、個人的な悩みのように思えること(例えば、自分の容姿や能力に関するコンプレックス)も、突き詰めれば他者との比較や、他者からどう見られるか、といった対人関係の中で生じている、と考えます。この対人関係の悩みを解決し、より良く生きていくための具体的な方法として、アドラー心理学は「課題の分離」を提唱します。

「課題の分離」とは、「これは誰の課題なのか?」を冷静に見極め、自分の課題と他者の課題を明確に分けることです。そして、他者の課題には踏み込まず、自分の課題に集中することを推奨します。例えば、子どもが勉強しないという悩みを持つ親がいるとします。この場合、「勉強するかどうか」は最終的には子どもの課題です。親ができるのは、勉強の重要性を伝えたり、環境を整えたりといった支援(自分の課題)までであり、子どもに勉強を強制することは、子どもの課題への介入になってしまいます。

同様に、他者からの評価や期待に過剰に応えようとすることも、他者の課題(相手がどう評価するか)に踏み込んでいる状態と言えます。「人に嫌われたくない」という悩みも、「相手が自分をどう思うか」は相手の課題であり、自分にはコントロールできません。自分がコントロールできるのは、誠実に行動するなど、自分の課題に集中することだけです。

課題の分離を実践することで、私たちは不必要な対人関係の悩みから解放され、自分がコントロールできることにエネルギーを注げるようになります。これは、「人は変わらない」と他者に対して感じるときにも有効です。相手を変えようとするのは相手の課題への介入であり、徒労に終わることが多いです。それよりも、自分がどう対応するか、どう距離を取るか、といった自分の課題に集中する方が建設的です。この考え方は、変化を促す上での精神的な負担を軽減し、主体的な行動を可能にします。

性格ではなく「ライフスタイル」は再選択可能

一般的に使われる「性格」という言葉は、固定的で変えにくいニュアンスを含んでいます。「あの人は頑固な性格だから」のように、生まれつきや幼少期に形成され、変えるのが難しいもの、と捉えられがちです。しかし、アドラー心理学では「性格」という言葉の代わりに「ライフスタイル」という独自の用語を用います。ライフスタイルとは、その人が世界や自分自身、他者をどのように意味づけているか、という認知の枠組みや思考・行動の傾向全体を指します。日本語では「生活様式」や「人生の様式」と訳されることもあります。

重要なのは、アドラー心理学において、このライフスタイルは生まれつき決まっているものでも、過去によって完全に決定されるものでもなく、自分で(多くは無意識のうちに)選択したものであり、そしていつでも再選択が可能である、と考えられている点です。

例えば、「悲観的な性格」と一般的に言われる人は、アドラー心理学的には「世界は危険な場所であり、自分は無力だ」といったライフスタイルを選択している、と解釈できます。しかし、その人がもし「世界は協力し合える場所であり、自分にもできることがある」という新しいライフスタイルを再選択することを決意すれば、思考や行動のパターンは変わっていく可能性があるのです。

もちろん、長年慣れ親しんだライフスタイルを変えることは容易ではありません。それには勇気と努力が必要です。しかし、「性格だから変わらない」と諦めるのではなく、「ライフスタイルは再選択できる」と考えることで、自己変革への扉が開かれます。「人は変わらない」という考えは、固定的な「性格」という概念に縛られているからかもしれません。アドラー心理学の「ライフスタイル」という視点は、変化の可能性を信じるための重要な基盤となります。

トラウマは存在しない?アドラー心理学の視点

アドラー心理学の中でも特に議論を呼ぶのが、「トラウマの否定」です。一般的にトラウマとは、過去の衝撃的な出来事が原因となって、現在の心身の不調や生きづらさを引き起こしている状態を指します。これは原因論的な考え方に基づいています。

しかし、アドラー心理学の目的論の立場からは、過去の出来事が現在の私たちを直接的に決定することはない、と考えます。アドラーは、過去の出来事そのものが問題なのではなく、その出来事に私たちがどのような「意味づけ」をするかが重要だと主張しました。つまり、同じようなつらい経験をしても、それをバネにして成長する人もいれば、その経験を理由に前に進めなくなる人もいる。その違いは、出来事そのものではなく、その経験からどのような目的(例えば、「自分を守るために関わらない」「同じ過ちを繰り返さないように学ぶ」など)を引き出し、どのような意味づけを選択したかによる、というのです。

したがって、アドラー心理学では、「トラウマによって今の行動が決定されている」とは考えません。むしろ、現在の特定の目的(例えば、課題から逃避したい、特別な扱いを受けたいなど)を達成するために、過去のつらい経験を「トラウマ」として持ち出し、利用している側面がある、と捉えるのです。

これは決して、過去のつらい経験やその影響を軽視するものではありません。その経験がその人のライフスタイル形成に大きな影響を与えたことは認めます。しかし、その経験に縛られ続ける必要はなく、意味づけを変え、新しい目的を選択することで、過去の影響を乗り越えて前に進むことができる、とアドラー心理学は考えます。「トラウマがあるから変われない」のではなく、「変わらない」という目的のためにトラウマを持ち出している可能性に気づくことが、変化への第一歩となるのです。

「変わらない」自分から一歩踏み出すためのアドラー心理学的アプローチ

アドラー心理学は「人は変われる」と説くだけでなく、変化を実現するための具体的な方法も示しています。ここでは、自己受容、他者信頼、勇気づけ、共同体感覚、そして具体的な行動計画という、変化へのステップを解説します。

  • まずは自己受容から始める (アドラー心理学の三原則①)
  • 他者信頼を築く (アドラー心理学の三原則②)
  • 「勇気づけ」で行動を変えるエネルギーを得る
  • 「共同体感覚」を持って他者貢献を目指す (アドラー心理学の三原則③)
  • 具体的な行動計画を立て、小さな成功体験を積む

まずは自己受容から始める (アドラー心理学の三原則①)

変化への第一歩は、意外かもしれませんが、「ありのままの自分を受け入れること」、すなわち「自己受容」から始まります。これは、アドラー心理学が幸福な人生を送るために提唱する三つの柱(自己受容・他者信頼・他者貢献)の一つ目にあたります。自己受容とは、できない自分、欠点のある自分も含めて、そのままの自分を認めることです。自己肯定(「自分はできる!」と無理に思い込もうとすること)とは異なります。

なぜ自己受容が変化のスタートラインなのでしょうか? それは、自分自身を否定している状態では、変化のためのエネルギーが湧いてこないからです。「こんな自分はダメだ」と自己否定ばかりしていると、自信を失い、新しいことに挑戦する意欲も削がれてしまいます。また、理想の自分と現実の自分のギャップに苦しみ、変化へのプレッシャーが過剰にかかってしまうこともあります。

アドラー心理学では、「変えられるもの」と「変えられないもの」を見極めることを重視します。例えば、生まれ持った身体的特徴などは変えられません。しかし、その特徴をどう捉え、どう活かすか、という「意味づけ」は変えられます。自己受容とは、この「変えられないもの」を受け入れた上で、「変えられるもの」に注目し、改善していく勇気を持つことです。

「60点の自分」をダメだと否定するのではなく、「今は60点なんだな」とありのままを認め、そこからどうすれば61点、62点と向上していけるかを考える。この冷静な自己認識と前向きな姿勢が、変化への現実的な一歩を踏み出すための土台となるのです。「人は変わらない」と感じている自分自身に対しても、まずは「そう感じているんだな」と受け入れることから始めてみましょう。

他者信頼を築く (アドラー心理学の三原則②)

自己受容の次に重要となるのが「他者信頼」です。これも幸福のための三つの柱の一つで、他者を「仲間」であると信じることを意味します。ここで言う信頼とは、担保や条件をつけずに、無条件に相手を信じることです。「裏切られるかもしれない」というリスクを引き受けてでも、まずはこちらから信じる姿勢を持つことが求められます。

なぜ他者信頼が変化に必要なのか? それは、私たちの悩みや幸福が対人関係の中にあるからです。他者を敵や競争相手と見なしていると、常に疑心暗鬼になり、警戒し、孤立してしまいます。このような状態では、安心して自分を変えようとしたり、新しい挑戦をしたりすることは困難です。失敗したときに助けてくれる人がいない、成功しても共に喜んでくれる人がいない、と感じてしまうからです。

一方、他者を仲間だと信頼できれば、安心できる「居場所」があると感じられます。困ったときには助けを求められ、成功したときには喜びを分かち合える。このような心理的な安全基地があることで、人は変化への不安を乗り越え、勇気を持って新しい一歩を踏み出すことができるのです。

もちろん、無条件に人を信じることには勇気がいりますし、時には裏切られることもあるかもしれません。しかし、アドラー心理学では、裏切るかどうかは相手の課題であり、自分がコントロールできることではないと考えます(課題の分離)。自分がコントロールできるのは、「信じる」という自分の姿勢だけです。まずはこちらから信頼の姿勢を示すことで、相手との間に良好な関係を築き、変化を支え合う協力的な関係性を育むことができるのです。「人は変わらない」と他者に対して壁を作るのではなく、信頼の橋を架ける試みが、自分自身の変化にも繋がっていきます。

「勇気づけ」で行動を変えるエネルギーを得る

自己受容と他者信頼の土台の上に、変化を具体的に進めるためのエネルギーとなるのが「勇気づけ」です。勇気づけとは、困難を克服する活力を与えることを意味します。アドラー心理学では、人が問題行動を起こしたり、変化できなかったりするのは、「勇気をくじかれている」状態にあるからだと考えます。

勇気づけは、褒めること(賞賛)とは異なります。褒めることは、しばしば「できる人」から「できない人」への縦の関係(上下関係)に基づいた評価であり、「褒められないとやらない」という依存心を生む可能性があります。一方、勇気づけは、横の関係(対等な関係)に基づいて、相手の存在そのものや、努力のプロセス、貢献に注目し、感謝や共感、信頼の言葉を伝えることです。

例えば、子どもが良い点を取ったとき、「すごいね!えらい!」と褒めるのではなく、「頑張ったね、難しい問題も諦めずによく考えたね」「あなたの頑張りを見て、私も嬉しくなったよ、ありがとう」といった言葉が勇気づけになります。これは、結果だけでなくプロセスを認め、相手への感謝や共感を伝えることで、「自分には価値がある」「自分は貢献できている」という感覚(自己価値感)を高める働きがあります。

自分自身を変えたいときにも、この「勇気づけ」は非常に重要です。他人から勇気づけてもらうことも力になりますが、自分で自分を勇気づけること(セルフ・勇気づけ)も大切です。小さな進歩や努力を認め、「よくやっているね」「少しずつだけど前に進んでいるよ」と自分に声をかける。失敗しても、「失敗から学べたね」「次はこうしてみよう」と前向きな言葉をかける。このように自分を勇気づけることで、変化へのモチベーションを維持し、困難に立ち向かうエネルギーを得ることができるのです。

「共同体感覚」を持って他者貢献を目指す (アドラー心理学の三原則③)

アドラー心理学が目指す究極的な目標であり、幸福の核心とされるのが「共同体感覚」です。これは、他者を仲間とみなし、そこに自分の居場所があると感じられること、そして、その共同体(家族、地域、職場、人類全体など、あらゆるレベルの共同体)に対して、自分は貢献できていると感じられることを意味します。自己受容、他者信頼に続く、幸福のための三つ目の柱が「他者貢献」であり、この他者貢献感こそが共同体感覚の核となります。

なぜ他者貢献が変化と結びつくのでしょうか? アドラー心理学では、人は「自分は役に立っている」「誰かのために貢献できている」と感じられた時に、自らの価値を実感できると考えます。この「貢献感」が、生きる意味や幸福感を与え、困難を乗り越える勇気を与えてくれるのです。

「変われない」と感じているとき、私たちはしばしば自己中心的な思考に陥りがちです。「自分はどう見られているか」「自分の利益は何か」といったことに意識が向きすぎている状態です。しかし、意識のベクトルを「他者に何ができるか」「どうすれば共同体に貢献できるか」という方向に向けることで、自己中心性から解放され、新たな視点や行動の可能性が開けます。

他者貢献は、必ずしも大きなことをする必要はありません。挨拶をする、困っている人を助ける、仕事に真剣に取り組む、笑顔で接するなど、身近なところでできる小さな貢献で十分です。重要なのは、行為の大小ではなく、「自分は貢献している」と主観的に感じられることです。この貢献感を得るために行動することが、結果的に自己成長やライフスタイルの変化に繋がっていくのです。「人は変わらない」という停滞感から抜け出すには、他者への関心を向け、貢献を目指すことが有効なアプローチとなります。

具体的な行動計画を立て、小さな成功体験を積む

アドラー心理学の理論を理解し、自己受容や他者信頼、勇気づけの意識を持ったとしても、それだけでは現実はなかなか変わりません。変化を実現するためには、具体的な行動に移すことが不可欠です。そして、その行動を持続させるためには、計画性と成功体験が重要になります。

まず、「変わりたい」という漠然とした思いを、具体的で達成可能な目標に落とし込みましょう。例えば、「もっと社交的になりたい」であれば、「週に一度、新しい人に話しかける」「飲み会で隣の人に質問を一つする」といった、具体的な行動目標を設定します。目標は、最初から高すぎるものを設定せず、少し頑張れば達成できそうな「スモールステップ」にするのがコツです。

次に、その目標を達成するための行動計画を立てます。「いつ」「どこで」「何をするか」を明確にすることで、行動へのハードルが下がります。計画通りに行動できたら、その事実をしっかりと認識し、自分を褒めたり、勇気づけたりしましょう。たとえ小さな一歩であっても、計画を実行できたという「小さな成功体験」が、次の行動への自信とモチベーションに繋がります。

もし計画通りにいかなくても、自分を責める必要はありません。「なぜできなかったのか」を冷静に分析し、計画を修正すれば良いのです。大切なのは、完璧を目指すのではなく、行動し続けること、そしてそのプロセスから学び続けることです。この地道な行動と成功体験の積み重ねが、やがてライフスタイルの変化という大きな結果に繋がっていきます。「人は変わらない」という思い込みも、具体的な行動と小さな成功体験によって、少しずつ打ち破られていくでしょう。

アドラー心理学に対する疑問や批判:「人は変わらない」派の意見

アドラー心理学は多くの人に勇気と希望を与える一方で、その考え方に対して疑問や批判の声も存在します。特に「人は変わらない」と感じる現実とのギャップから、理想論ではないか、過去を軽視しすぎではないか、といった指摘があります。ここでは、そうした疑問や批判、そしてアドラー心理学の限界について考察します。

  • アドラー心理学は理想論すぎる?
  • 過去の影響を軽視しすぎている?
  • すべて自己責任論につながる?
  • アドラー心理学の限界と注意点

アドラー心理学は理想論すぎる?

アドラー心理学の「人はいつでも変われる」「すべての悩みは対人関係」「トラウマは存在しない」といった主張は、現実離れした理想論ではないか、という批判を受けることがあります。特に、深刻な精神疾患を抱えている人や、過酷な環境下で生きている人にとって、「目的を変えれば変われる」「課題を分離すれば解決する」という考え方は、あまりにも単純化されすぎている、あるいは現実の苦しみを無視しているように感じられるかもしれません。

確かに、意志の力だけで全てを変えられるわけではありません。遺伝的な要因や、長年にわたる環境の影響、社会構造的な問題などが、個人の変化を困難にしている現実は存在します。また、ライフスタイルを変えることは、口で言うほど簡単ではなく、多大なエネルギーと時間を要します。簡単に「変われる」と言われても、変われない現実とのギャップに苦しむ人もいるでしょう。

しかし、アドラー心理学は「簡単に変われる」と言っているわけではありません。むしろ、変わるためには「勇気」が必要であり、それは時に困難なプロセスであることを認めています。重要なのは、「変われない」と諦めてしまうのではなく、「変われる可能性」を信じ、そのための具体的な一歩を踏み出すことの重要性を説いている点です。理想論と捉えるか、希望の指針と捉えるかは、受け取る側の解釈にもよる部分がありますが、現実の困難さを認めつつも、変化の可能性を閉ざさないという姿勢が、アドラー心理学の根底にあると言えるでしょう。

過去の影響を軽視しすぎている?

アドラー心理学が「目的論」を重視し、「原因論」や「トラウマ」を否定する立場を取ることから、過去の経験や育った環境の影響を軽視しすぎているのではないか、という批判もよく聞かれます。幼少期の虐待やネグレクト、大きな喪失体験などが、その後の人生に深刻な影響を与えることは、多くの心理学研究や臨床経験が示しています。これらの過去の出来事を単なる「意味づけ」の問題として片付けてしまうのは、当事者の苦しみを矮小化することにならないか、という懸念です。

この点について、アドラー心理学は過去の出来事の影響そのものを完全に否定しているわけではありません。過去の経験が、現在のライフスタイル(世界や自分に対する意味づけのパターン)を形成する上で、重要な要因の一つであることは認めています。しかし、その過去が「現在の全てを決定している」とは考えない、という点がポイントです。

アドラー心理学が強調するのは、過去の出来事にどのような「意味」を与えるかは、現在の自分が選択できる、ということです。過去の経験を「乗り越えられない壁」と意味づけるのか、「学びや成長の糧」と意味づけるのか。その選択によって、未来は変わっていくと考えます。過去の影響を無視するのではなく、過去に縛られずに未来を切り開く主体性を重視する、というのがアドラー心理学の立場です。ただし、非常に深刻なトラウマ体験などに対して、この考え方を単純に適用することには慎重さが必要であり、専門的なケアや他の心理療法的アプローチが必要となる場合も多いでしょう。

すべて自己責任論につながる?

「人は変われる」「自分の人生は自分で選択する」というアドラー心理学のメッセージは、すべてを個人の責任に帰結させてしまう「自己責任論」につながるのではないか、という懸念も指摘されます。もし、自分の状況がすべて自分の選択の結果であるならば、貧困や差別、病気といった困難な状況にある人々に対しても、「それは本人の選択の結果であり、努力が足りないからだ」という見方をしてしまう危険性はないでしょうか。

アドラー心理学の「目的論」や「ライフスタイルの再選択」は、あくまで個人が主体的に人生を切り開くための内面的な力に焦点を当てたものです。社会構造的な問題や、本人の努力だけではどうにもならない外部要因の存在を否定するものではありません。アドラー自身も、社会改良運動に関心を持ち、共同体感覚の重要性を説いています。これは、個人が幸福になるためには、より良い社会環境が必要であるという認識に基づいています。

したがって、アドラー心理学を社会的な問題を無視した単純な自己責任論として解釈するのは誤解です。むしろ、個人が主体性を取り戻し、勇気を持って行動することで、より良い対人関係を築き、ひいては社会全体への貢献(共同体感覚)を目指すことを奨励しています。困難な状況にある人に対して、「自己責任だ」と突き放すのではなく、その人が勇気を取り戻し、主体的に状況を変えていけるように支援する(勇気づけ)ことこそ、アドラー心理学的なアプローチと言えるでしょう。

アドラー心理学の限界と注意点

アドラー心理学は多くの示唆に富む考え方を提供しますが、万能ではありません。その限界と、実践する上での注意点を理解しておくことも重要です。

まず、アドラー心理学は、比較的健康な精神状態にある人が、より良く生きるための「生き方の哲学」や「心理教育」としての側面が強いと言えます。そのため、重度の精神疾患(統合失調症、重度のうつ病、パーソナリティ障害など)を抱えている場合、アドラー心理学の考え方だけでは対応が難しく、専門的な精神医学的治療や、他の心理療法(認知行動療法、精神分析療法など)が必要となるケースがあります。「目的論」や「トラウマの否定」といった考え方が、かえって症状を悪化させたり、本人を追い詰めたりする可能性も考慮しなければなりません。

また、「課題の分離」を冷淡さや無関心と履き違えてしまう危険性もあります。相手の課題に踏み込まないことと、相手に共感したり、支援したりしないことは別です。対等な横の関係を築き、相手を尊重しつつ、必要であれば適切な援助を提供することが大切です。

さらに、アドラー心理学の概念はシンプルですが、その本質を深く理解し、実践することは容易ではありません。表面的な理解にとどまると、前述のような自己責任論に陥ったり、他者への共感を欠いた態度をとってしまったりする可能性があります。書籍を読むだけでなく、研修に参加したり、専門家と対話したりするなど、継続的な学びと実践、そして内省が求められます。

「人は変わらない」という現実と向き合いながらも、アドラー心理学の「変われる可能性」を希望として捉え、その限界も理解した上で、自分なりのペースで実践していくことが、建設的な向き合い方と言えるでしょう。

よくある質問 (FAQ)

アドラー心理学でいう「変わる」とは具体的にどういうことですか?

アドラー心理学でいう「変わる」とは、単に表面的な行動が変わることだけを指すのではありません。より本質的には、物事の捉え方や意味づけの仕方、すなわち「ライフスタイル」が変わることを意味します。例えば、以前は「世界は敵だらけで、自分は無力だ」と感じていた人が、アドラー心理学を学び実践する中で、「世界は協力し合える場所で、自分にも貢献できることがある」と感じられるようになる。これがライフスタイルの変化です。この内面的な変化が結果として、行動や感情、対人関係のパターンにも変化をもたらします。つまり、自己や他者、世界に対する根本的な認識が変わることが、アドラー心理学における「変わる」ことの核心と言えます。

アドラーは何と言っていますか?

アルフレッド・アドラー(1870-1937)はオーストリア出身の精神科医で、ジークムント・フロイト、カール・ユングと並び称される心理学の巨匠の一人です。彼の思想の核心には、「人は自己決定性を持つ存在であり、自らの人生を主体的に選択し、変えていくことができる」という考えがあります。彼は、人間の行動は過去の原因(原因論)ではなく、未来の目的(目的論)によって導かれると考えました。また、「劣等感」は誰もが持つ自然な感情であり、それを克服しようとする努力(優越性の追求)が成長のバネになるとしました。そして、人間の究極的な目標は「共同体感覚」(他者への関心と貢献感)を持つことにあると説き、幸福な人生のためには「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」が不可欠であると主張しました。彼の言葉は、現代においても多くの人々に勇気と示唆を与えています。

「嫌われる勇気」とこの記事の内容は関係ありますか?

はい、大いに関係があります。ベストセラーとなった書籍『嫌われる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎・古賀史健 著)は、アドラー心理学の思想を、哲学者と青年の対話形式で分かりやすく解説した入門書です。本記事で解説している「目的論」「課題の分離」「対人関係の悩み」「共同体感覚」「勇気づけ」「ライフスタイルの再選択」といったアドラー心理学の主要な概念は、『嫌われる勇気』の中でも中心的なテーマとして扱われています。「人は変わらない」という考え方に対して、アドラー心理学がどのように「人は変われる」と主張するのか、その理由と具体的な方法を理解する上で、『嫌われる勇気』は非常に参考になる一冊と言えます。本記事の内容は、同書で語られているアドラー心理学のエッセンスを基に構成されています。

他人の「変わらなさ」に悩んだときはどうすればいいですか?

他人の「変わらなさ」に悩むとき、アドラー心理学の「課題の分離」が役立ちます。まず、「相手が変わるかどうか」は、究極的には相手自身の課題であり、あなたがコントロールできることではありません。相手を変えようと強制したり、過度に期待したりすることは、相手の課題への介入となり、多くの場合、うまくいかず、あなた自身のストレスを増やすだけです。

大切なのは、自分の課題に集中することです。相手の言動に対して、あなたがどう反応するか、どういう態度をとるか、どういう距離感を保つか、これらはあなたの課題です。例えば、相手の言動に傷つくのであれば、そのことを伝える(ただし、相手が受け入れるかは相手の課題)、あるいは物理的・心理的に距離を置く、といった選択肢があります。また、相手の「変わらなさ」の背景にあるかもしれない「目的」を想像してみることも、理解の一助になるかもしれません(ただし、決めつけは禁物です)。相手を変えることにエネルギーを使うのではなく、自分がどうするか、という自分の課題に取り組むことが、悩みから解放されるための鍵となります。

アドラー心理学を学ぶのにおすすめの本はありますか?

アドラー心理学を学ぶための書籍は多数出版されていますが、初心者の方にはまず以下の書籍がおすすめです。

  • 『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎・古賀史健 著):アドラー心理学の入門書として最も有名で、対話形式で非常に分かりやすいです。まずはこちらから読むのが良いでしょう。
  • 『アドラー心理学入門』(岸見一郎 著):『嫌われる勇気』の著者による、より体系的な解説書。アドラー心理学の全体像を掴むのに役立ちます。
  • 『人生の意味の心理学』(アルフレッド・アドラー 著、岸見一郎 訳):アドラー自身の著作に触れたい方向け。やや難解な部分もありますが、アドラーの思想の源流を知ることができます。

これらの書籍を読むことで、「人は変わらない」という考えから、「人は変われる」という希望へと視点を移すきっかけが得られるでしょう。さらに深く学びたい場合は、アドラー心理学関連の講座やワークショップに参加するのも有効です。

目的論とは具体的にどういう考え方ですか?

目的論とは、人間の行動や感情は、過去の原因によって引き起こされるのではなく、未来の何らかの「目的」を達成するために、本人が(多くは無意識的に)選択している、と考える立場です。例えば、「赤面症で人前に出られない」という人がいる場合、原因論では「過去の失敗体験が原因で赤面する」と考えますが、目的論では「人前に出ない(注目されたり、恥をかいたりするのを避ける)という目的を達成するために、赤面という症状を利用している(選択している)」と考えます。

この考え方のポイントは、過去は変えられないが、目的は未来志向であり、自分の意志で変えることができるという点です。もし「人前に出て、自分の意見を伝えたい」という新しい目的を設定すれば、赤面という症状に頼る必要がなくなり、別の行動を選択できるようになる可能性があります。原因ではなく目的に焦点を当てることで、人は過去の呪縛から解放され、未来に向けて主体的に行動できる、というのが目的論の核心的なメッセージです。

アドラー心理学ではトラウマをどう考えますか?

アドラー心理学は、一般的に理解されているような「トラウマ(心的外傷)」の存在を、原因論的な意味合いにおいては否定します。つまり、過去の衝撃的な出来事が、現在の行動や感情を直接的に「決定づけている」とは考えません。アドラー心理学の目的論の立場からは、過去の出来事そのものではなく、その出来事に私たちがどのような「意味づけ」をするかが重要だと考えます。

同じつらい経験をしても、それを理由に引きこもる人もいれば、それをバネに努力する人もいます。この違いは、出来事そのものではなく、その経験からどのような目的を引き出し、どのような意味づけを選択したかによると考えます。アドラー心理学では、現在の特定の目的(例:課題から逃れたい、特別な配慮を得たい)のために、過去のつらい経験を「トラウマ」として持ち出し、利用している側面がある、と捉えることがあります。これは過去の経験の重さを否定するものではなく、過去に縛られずに未来を選択できる可能性を強調する考え方です。

ライフスタイルを変えるのは難しいのでは?

はい、ライフスタイル(世界や自己、他者に対する基本的な意味づけのパターン)を変えることは、一般的に容易ではありません。ライフスタイルは、多くの場合、幼少期に形成され、長年にわたってその人にとって慣れ親しんだ、いわば「思考や行動の癖」のようなものだからです。変化には、これまでの自分をある意味で否定し、新しい未知の領域に踏み出す「勇気」が必要となります。

また、変化しようとすると、一時的に不安定になったり、周囲との摩擦が生じたりすることもあります。現状維持の方が楽で安全だと感じ、「変わらない」ことを選択してしまうことも少なくありません。しかし、アドラー心理学は、ライフスタイルは「再選択可能」であると主張します。時間はかかるかもしれませんが、意識的に自分の思考や行動パターンに気づき、目的論的な視点を持ち、勇気づけを行いながら具体的な行動を積み重ねていくことで、ライフスタイルを望ましい方向へ変えていくことは可能だと考えられています。

共同体感覚とは何ですか?

共同体感覚(ドイツ語で Gemeinschaftsgefühl)とは、アドラー心理学の中心的な概念であり、他者を敵ではなく「仲間」とみなし、その仲間たちの中で自分には「居場所がある」と感じられる感覚のことです。さらに、その共同体(家族、学校、職場、地域社会、国、人類全体、さらには動植物や無生物まで含む広範なもの)に対して、自分は貢献できているという「貢献感」を持つことも含まれます。

アドラーは、この共同体感覚を持つことが、精神的な健康と幸福の鍵であると考えました。自己中心的な関心から抜け出し、他者や共同体全体への関心(Social Interest)を持つことで、人は孤立感や劣等感を乗り越え、人生の課題に建設的に取り組むことができるようになります。共同体感覚は、自己受容、他者信頼、他者貢献という実践を通じて育まれていくものであり、アドラー心理学が目指す究極的な目標とも言えます。

アドラー心理学の三原則とは何ですか?

アドラー心理学において、幸福な人生を送るため、あるいは共同体感覚を育むための具体的な実践目標として挙げられるのが、以下の三つの原則です。

  1. 自己受容 (Self-Acceptance): 「ありのままの自分」を受け入れること。できないことや欠点も含めて、等身大の自分を認める。ただし、諦めるのではなく、「変えられるもの」と「変えられないもの」を見極め、変えられるものについては改善の努力をする勇気を持つこと。
  2. 他者信頼 (Trust in Others): 他者を無条件に「仲間」として信じること。裏切られるリスクを引き受けてでも、まずはこちらから信頼する姿勢を持つこと。これにより、安心できる居場所感や協力的な関係性を築くことができる。
  3. 他者貢献 (Contribution to Others): 共同体(他者)のために、自分にできる貢献をすること。行為の大小ではなく、「自分は役に立っている」という主観的な貢献感が重要であり、これが自己価値感や幸福感につながる。

これら三つは相互に関連し合っており、どれか一つだけを達成すれば良いというものではありません。自己受容ができなければ他者を信頼できず、他者を信頼できなければ貢献も難しくなります。この三つの原則を意識し、実践していくことが、アドラー心理学的な生き方と言えます。

アドラー心理学はうつ病などにも効果がありますか?

アドラー心理学の考え方、特に「勇気づけ」や「共同体感覚」、「目的論」的な視点は、軽度から中等度のうつ病や不安障害などに対して、心理療法的なアプローチの一つとして有効な場合があります。自己否定感や孤立感を和らげ、主体性を取り戻す手助けになる可能性があるからです。実際に、アドラー心理学に基づいたカウンセリングやセラピーも行われています。

しかし、注意が必要なのは、重度のうつ病など、医学的な治療が必要な精神疾患に対して、アドラー心理学だけで対応しようとすることの危険性です。特に、「すべては自己責任」「トラウマは存在しない」といった考え方を、症状に苦しむ本人にそのまま適用することは、かえって本人を追い詰め、状態を悪化させる可能性があります。精神疾患の場合は、まず精神科医などの専門家による診断と治療を受けることが最優先です。その上で、回復のプロセスにおいて、アドラー心理学の考え方を補助的に取り入れることは、本人の状態や相性によっては有効な場合もある、という位置づけで考えるべきでしょう。

まとめ

  • 「人は変わらない」と感じる背景には、過去の経験や原因論的な思考がある。
  • アドラー心理学は「人はいつでも変われる」と主張する。
  • 変わらないのは「変わらない」という目的を本人が選択している可能性がある。
  • 行動や感情は過去の原因ではなく、未来の「目的」によって選択される(目的論)。
  • 悩みの多くは対人関係にあり、「課題の分離」で解決の糸口が見える。
  • 固定的な「性格」ではなく、再選択可能な「ライフスタイル」と捉える。
  • 過去の出来事(トラウマ)も、意味づけを変えれば乗り越えられる可能性がある。
  • 変化の第一歩は「ありのままの自分」を受け入れる「自己受容」。
  • 他者を仲間と信じる「他者信頼」が安心感と変化の土台を作る。
  • 困難を克服する活力となる「勇気づけ」が行動を後押しする。
  • 他者への「貢献感」が自己価値を高め、幸福につながる(共同体感覚)。
  • 具体的な行動計画と「小さな成功体験」の積み重ねが変化を促す。
  • アドラー心理学は理想論や自己責任論と批判されることもある。
  • 過去の影響を軽視するのではなく、過去に縛られない主体性を重視する。
  • 重度の精神疾患等には限界があり、専門的治療が優先されるべき。
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