健康診断の結果で「平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が低い」と指摘され、不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。MCHCは、赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度を示す重要な指標であり、この数値が低いということは、体内で何らかの異変が起きている可能性を示唆しています。本記事では、平均赤血球ヘモグロビン濃度が低い状態について、その意味や基準値、主な原因、現れる症状、そして具体的な改善策までを徹底的に解説します。ご自身の健康状態を正しく理解し、適切な対処を行うための一助となれば幸いです。
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)とは?その意味と基準値

平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)は、血液検査で測定される赤血球恒数の一つであり、赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの濃さをパーセンテージで示す数値です。この数値は、赤血球がどれだけ効率的に酸素を運搬できるかを示す重要な指標となります。MCHCが低いということは、赤血球の色が薄い「低色素性」の状態であることを意味し、全身への酸素供給能力が低下している可能性を示唆しています。この状態は、特に貧血の種類を判別する上で非常に役立つ情報となります。
MCHCが示す「赤血球の色素の濃さ」
MCHCは、赤血球の容積に対するヘモグロビン量の割合を示しています。ヘモグロビンは、赤血球に含まれる赤い色素タンパク質で、肺で酸素と結合し、全身の組織に酸素を運搬する重要な役割を担っています。MCHCが低い場合、赤血球一つ一つに含まれるヘモグロビンの量が少ない、つまり赤血球の色が薄い状態であると判断されます。
この「色素の濃さ」が低下すると、体内の細胞や組織に十分な酸素が供給されなくなり、様々な不調を引き起こす原因となります。特に、鉄欠乏性貧血では、ヘモグロビンの材料である鉄が不足するため、MCHCが低くなる傾向が見られます。
MCHCの基準値と低い場合の判断
MCHCの基準値は、検査機関によって多少異なりますが、一般的には30.2~36.9%程度とされています。 この基準値を下回る場合に「MCHCが低い」と判断されます。MCHCが低いと指摘された場合は、赤血球の酸素運搬能力が低下していることを意味し、貧血の可能性を考慮する必要があります。
ただし、MCHCの数値だけで全てを判断するのではなく、他の血液検査項目と合わせて総合的に評価することが大切です。例えば、ヘモグロビン値や赤血球数、MCV(平均赤血球容積)などの数値も同時に確認することで、より正確な診断につながります。
MCHCと他の血液検査項目との関係
MCHCは、MCV(平均赤血球容積)やMCH(平均赤血球ヘモグロビン量)といった他の赤血球恒数と密接に関連しています。これらの数値は、貧血の種類を分類する上で重要な指標となります。
- MCV(平均赤血球容積): 赤血球1個の平均的な大きさを表します。MCHCが低い場合、MCVも低い「小球性」であることが多く、これは鉄欠乏性貧血に特徴的です。
- MCH(平均赤血球ヘモグロビン量): 赤血球1個に含まれるヘモグロビンの平均量を表します。MCHCが低い場合は、MCHも低い傾向にあります。
これらの数値の組み合わせによって、貧血が「小球性低色素性貧血」「正球性正色素性貧血」「大球性高色素性貧血」のいずれに分類されるかを判断し、原因疾患の特定に役立てます。
平均赤血球ヘモグロビン濃度が低い主な原因

平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が低いと指摘された場合、その背景には様々な原因が考えられます。最も一般的なのは鉄欠乏性貧血ですが、それ以外の疾患が隠れている可能性もあります。原因を正しく理解することは、適切な治療や改善策を見つけるための第一歩となります。
最も一般的な原因は鉄欠乏性貧血
MCHCが低い状態の最も一般的な原因は、鉄欠乏性貧血です。 ヘモグロビンは鉄を材料として作られるため、体内の鉄分が不足すると、十分なヘモグロビンを合成できなくなり、結果として赤血球に含まれるヘモグロビン濃度が低下します。
鉄欠乏性貧血は、以下のような要因で引き起こされることが多いです。
- 鉄分の摂取不足: 食事からの鉄分摂取が不十分な場合。無理なダイエットや偏食も原因となります。
- 鉄分の過剰な損失: 月経過多による出血、胃潰瘍や大腸がんなどの消化管からの慢性的な出血が挙げられます。
- 鉄分の吸収阻害: 胃の切除後や胃酸分泌の低下、特定の薬剤の使用などが鉄の吸収を妨げることがあります。
特に女性は月経により鉄分を失いやすいため、鉄欠乏性貧血になりやすい傾向があります。
その他のMCHCが低くなる可能性のある疾患
鉄欠乏性貧血以外にも、MCHCが低くなる可能性のある疾患がいくつか存在します。これらの疾患は、鉄欠乏性貧血とは異なる治療法が必要となるため、正確な診断が重要です。
- 慢性炎症: 慢性的な炎症性疾患(関節リウマチ、感染症、悪性腫瘍など)がある場合、体内で鉄の利用が阻害され、MCHCが低くなることがあります。これは「慢性疾患に伴う貧血」と呼ばれます。
- 鉄芽球性貧血: ヘモグロビンを作る過程に異常がある貧血で、鉄は十分にあるにもかかわらず、ヘモグロビンにうまく取り込めないためにMCHCが低くなります。
- サラセミア: 遺伝性の疾患で、ヘモグロビンの合成異常によりMCHCが低くなることがあります。
これらの疾患が疑われる場合は、より詳しい検査が必要となります。自己判断せずに、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けることが大切です。
MCHCが低いとどんな病気ですか?
MCHCが低い場合に考えられる病気は、主に鉄欠乏性貧血です。しかし、その背景には、消化器系の病気(胃がん、大腸がん、胃潰瘍など)、婦人科の病気(子宮筋腫による過多月経など)、膠原病などの慢性炎症性疾患が隠れていることがあります。
特に高齢の方や男性でMCHCが低い、または鉄欠乏性貧血を指摘された場合は、胃がんや大腸がんなどの消化管からの出血が原因となっている可能性も考慮し、精密検査を受けることが強くおすすめされます。 貧血は単なる体調不良ではなく、重大な病気のサインである可能性もあるため、軽視せずに医療機関での詳しい検査を受けることが重要です。
平均赤血球ヘモグロビン濃度が低い場合の症状と体への影響

平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が低い状態が続くと、体は酸素不足に陥り、様々な症状が現れることがあります。これらの症状は、日常生活に大きな影響を与えるだけでなく、放置するとさらに深刻な健康問題につながる可能性もあります。ご自身の体の変化に気づき、早めに対処することが大切です。
MCHC低下に伴う貧血の一般的な症状
MCHCが低いことによって引き起こされる症状は、主に貧血の症状として現れます。ヘモグロビンが少ないために全身に酸素が十分に運ばれなくなり、体は酸欠状態になります。 具体的には、以下のような症状が挙げられます。
- 疲労感や倦怠感: 体がだるく、疲れやすいと感じることが多くなります。
- めまいや立ちくらみ: 特に立ち上がった際に、ふらつきやめまいを感じることがあります。
- 息切れや動悸: 少しの運動でも息が上がったり、心臓がドキドキしたりすることがあります。
- 顔色の悪さ(青白い): 血液中のヘモグロビンが少ないため、顔色が悪く見えます。
- 頭痛や集中力の低下: 脳への酸素供給が不足することで、頭痛がしたり、物事に集中しにくくなったりします。
- 爪の異常: 爪がもろくなったり、スプーン状に変形したりすることがあります(スプーン爪)。
これらの症状は、ゆっくりと進行することが多いため、体が慣れてしまい、自覚しにくい場合もあります。 しかし、症状がなくても数値に異常がある場合は、注意が必要です。
MCHCが低いとどうなりますか?
MCHCが低い状態が続くと、体は慢性的な酸素不足に陥ります。これにより、全身の細胞や組織が正常に機能できなくなり、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。例えば、心臓は全身に酸素を届けようとより多くの血液を送り出そうとするため、心臓に負担がかかることがあります。
また、思考力の低下や免疫力の低下など、全身にわたる影響が懸念されます。特に、妊娠中の女性の場合、胎児の発育にも影響を及ぼす可能性があるため、早期の対処が求められます。MCHCの低下は、単なる体調不良ではなく、体の重要な機能が低下しているサインとして捉えるべきです。
放置することのリスク
MCHCが低い状態を放置すると、貧血が進行し、症状が悪化するだけでなく、より深刻な健康リスクにつながる可能性があります。
- 心臓への負担増大: 酸素不足を補うために心臓が過剰に働き、動悸や息切れがさらに強くなることがあります。重症化すると心不全のリスクも高まります。
- 免疫力の低下: 免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなることがあります。
- QOL(生活の質)の低下: 倦怠感や集中力の低下により、仕事や学業、日常生活に支障をきたし、生活の質が著しく低下する可能性があります。
- 基礎疾患の悪化: もしMCHC低下の背景に消化器疾患や婦人科疾患などの病気が隠れている場合、貧血を放置することで、その基礎疾患の発見が遅れ、病状が悪化するリスクがあります。
「ただの貧血」と自己判断せずに、MCHCの異常を指摘された場合は、速やかに医療機関を受診し、原因を特定して適切な治療を受けることが非常に重要です。
平均赤血球ヘモグロビン濃度を改善するための具体的な方法

平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が低いと診断された場合、その原因に応じた適切な改善策を講じることが重要です。食事の見直しや生活習慣の改善、そして必要に応じた医療機関での治療を通じて、MCHCの数値を正常に戻し、健康な体を取り戻すことができます。
食事による改善のコツ
MCHCが低い原因が鉄欠乏性貧血である場合、食事からの鉄分摂取を増やすことが改善の基本となります。鉄分には、動物性食品に多く含まれるヘム鉄と、植物性食品に多く含まれる非ヘム鉄があります。ヘム鉄の方が吸収率が高いため、積極的に取り入れることがおすすめです。
鉄分を多く含む食品の例:
- ヘム鉄: 豚レバー、鶏レバー、牛肉(赤身)、カツオ、マグロ、あさり、牡蠣、卵など
- 非ヘム鉄: ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品(納豆、豆腐)、ごま、プルーンなど
また、ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を促進する働きがあるため、鉄分を多く含む食品と一緒に摂取することが効果的です。 ビタミンCは、野菜や果物、いも類に豊富に含まれています。 さらに、タンパク質もヘモグロビンの材料となるため、肉、魚、卵、大豆製品などをバランス良く摂るように心がけましょう。
食事のコツ:
- 鉄分を多く含む食材を毎日の食事に取り入れる。
- ビタミンCが豊富な野菜や果物と一緒に摂取する。
- タンニンを多く含むコーヒーや紅茶は、鉄の吸収を阻害する可能性があるため、食事中や食後すぐの摂取は避けるのがおすすめです。
鉄分補給とサプリメントの活用
食事だけでは十分な鉄分摂取が難しい場合や、貧血の程度が中程度以上の場合には、鉄剤の服用やサプリメントの活用も検討されます。
鉄剤は、医師の処方に基づいて服用することが重要です。自己判断での過剰摂取は、鉄過剰症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。鉄剤には、胃腸に負担をかける副作用が出ることがあるため、服用方法や量については医師の指示に従いましょう。
市販の鉄サプリメントを利用する際は、製品の表示をよく確認し、適切な量を摂取することが大切です。サプリメントはあくまで食事の補助であり、バランスの取れた食事が基本であることを忘れないようにしましょう。
医療機関での診断と治療の進め方
MCHCが低いと指摘された場合は、必ず医療機関を受診し、正確な診断を受けることが最も重要です。 医師は、血液検査の結果だけでなく、問診や身体診察を通じて、MCHCが低い原因を特定します。
原因に応じた治療法が選択されます。
- 鉄欠乏性貧血の場合: 鉄剤の内服が主な治療となります。数ヶ月間の服用で改善が見られることが多いですが、症状が重い場合や吸収が悪い場合には、鉄剤の注射が検討されることもあります。
- 慢性炎症や他の疾患が原因の場合: 貧血の根本原因となっている疾患の治療が優先されます。例えば、消化管からの出血が原因であれば、その出血源を特定し、止血処置や手術が行われることがあります。
- ビタミンB12や葉酸の欠乏による貧血の場合: それぞれの栄養素を補給する治療が行われます。
自己判断で治療を中断したり、市販薬に頼りすぎたりせず、医師の指示に従って治療を継続することが、MCHCの改善と健康回復への近道です。
平均赤血球ヘモグロビン濃度に関するよくある質問

MCHCが低いと貧血ですか?
MCHCが低い場合、赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度が薄い状態であり、これは貧血の一種である「低色素性貧血」を示唆しています。 特に、鉄欠乏性貧血ではMCHCが低くなることが特徴です。 ただし、貧血の診断はMCHCだけでなく、ヘモグロビン濃度(Hb)や赤血球数(RBC)など、他の血液検査項目と総合的に判断されます。
MCHCが低いと何を食べればいいですか?
MCHCが低い原因が鉄欠乏性貧血である場合、鉄分を多く含む食品を積極的に摂ることがおすすめです。特に、吸収率の高いヘム鉄(肉、魚、卵など)と、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収率が高まる非ヘム鉄(ほうれん草、ひじき、大豆製品など)をバランス良く摂取しましょう。 また、ヘモグロビンの合成に必要なタンパク質や、赤血球の生成を助けるビタミンB群(B12、葉酸)も意識して摂るように心がけてください。
MCHCが低いと治りますか?
MCHCが低い原因が特定され、適切な治療が行われれば、多くの場合、改善が見込まれます。特に鉄欠乏性貧血であれば、鉄剤の服用や食事改善によってMCHCの数値は正常に戻ることが期待できます。 しかし、慢性的な疾患が原因の場合や、治療に時間がかかる場合もあります。自己判断せずに、医師の指示に従って根気強く治療を続けることが大切です。
MCHCとMCVの違いは何ですか?
MCHCとMCVはどちらも赤血球恒数ですが、それぞれ異なる指標を示します。
- MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度): 赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの「濃度」を表します。赤血球の色の濃さを示す指標です。
- MCV(平均赤血球容積): 赤血球1個の平均的な「大きさ」を表します。
これらの数値の組み合わせによって、貧血の種類をより詳細に分類し、原因の特定に役立てます。例えば、MCVもMCHCも低い場合は、鉄欠乏性貧血が強く疑われます。
MCHCが低いと鉄剤は必要ですか?
MCHCが低い原因が鉄欠乏性貧血であると診断された場合、鉄剤の服用が必要となることが多いです。 食事からの鉄分摂取だけでは、不足している鉄分を補うのに時間がかかったり、十分でなかったりする場合があるため、医師の判断で鉄剤が処方されます。 ただし、鉄剤は医師の指示に従って正しく服用することが重要であり、自己判断での服用は避けましょう。
まとめ

- 平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)は、赤血球の色素の濃さを示す指標です。
- MCHCが低いと、赤血球の酸素運搬能力が低下している可能性があります。
- MCHCの基準値は一般的に30.2~36.9%程度です。
- 最も一般的な原因は鉄欠乏性貧血です。
- 慢性炎症や鉄芽球性貧血なども原因となることがあります。
- MCHCが低いと、疲労感、めまい、息切れなどの貧血症状が現れます。
- 放置すると心臓への負担増大など、リスクが高まります。
- 食事ではヘム鉄やビタミンCを積極的に摂りましょう。
- 必要に応じて鉄剤やサプリメントの活用も検討されます。
- 必ず医療機関を受診し、原因を特定して適切な治療を受けましょう。
- MCHCはMCVやMCHと合わせて貧血の種類を判断します。
- MCHCが低い場合、多くは治療で改善が見込まれます。
- 男性や高齢者のMCHC低下は、消化器系の病気のサインの可能性もあります。
- 貧血の症状がなくても、数値異常があれば受診が重要です。
- 医師の指示に従い、自己判断せずに治療を継続しましょう。
