お庭や玄関先で、お尻に大きなハサミを持った黒い虫を見かけて、思わず「ヒッ!」と声を上げてしまった経験はありませんか?その虫の正体は、おそらくハサミムシです。見た目がなんともグロテスクで、いかにも害がありそうな雰囲気から、多くの人に嫌われています。しかし、そのハサミムシ、実は私たちの生活にとってとても役立つ「益虫」としての一面を持っていることをご存知でしたか?本記事では、嫌われ者のハサミムシが本当に害虫なのか、それとも益虫なのか、その驚くべき生態から家での対策まで、徹底的に解説していきます。
ハサミムシは益虫?それとも害虫?結論から解説

庭や家の中で見かけるハサミムシ。その不気味な見た目から「害虫」だと思われがちですが、一概にそうとは言えません。実は、ハサミムシは状況によって益虫にも害虫にもなり得る、非常に興味深い昆虫なのです。まずはその結論から、分かりやすく解説していきましょう。
基本的には「益虫」!その理由とは?
結論から言うと、ハサミムシは多くの場合、人間にとって有益な「益虫」として活躍してくれます。なぜなら、ハサミムシは肉食性が強く、農作物やガーデニングの植物を食い荒らすアブラムシやコナガの幼虫、ヨトウムシといった害虫を好んで捕食してくれるからです。 言わば、お庭のパトロール隊のような存在。化学農薬を使いたくない家庭菜園やガーデニングにおいて、彼らは頼もしい味方となってくれるのです。
実際に、ハサミムシを天敵として利用し、害虫駆除に役立てる研究も進められています。 見た目で判断してすぐに駆除してしまうのは、非常にもったいないことかもしれません。
一方で「害虫」とされるケースも
しかし、ハサミムシが常に益虫かというと、そうではありません。いくつかの側面から「害虫」として扱われることもあります。一つは、その見た目からくる「不快害虫」としての側面です。 家の中に侵入してきた場合、たとえ無害であっても気分の良いものではありません。特に湿気の多いお風呂場や洗面所、キッチンなどで遭遇すると、その衝撃は大きいでしょう。
また、肉食性が強いハサミムシですが、雑食性でもあるため、食べるものがなくなると植物を食べることがあります。 特に、白菜やトウモロコシ、キク科の植物などの柔らかい新芽や花びら、果実を食害するケースが報告されています。 大量発生した場合には、農作物に被害を及ぼす「農業害虫」と見なされることもあるのです。
益虫か害虫か、状況によって変わる二面性
このように、ハサミムシは「害虫を食べてくれる益虫」という顔と、「不快感を与えたり、農作物を食害したりする害虫」という、二つの顔を持っています。庭で数匹見かける程度であれば、植物の守り神として温かく見守ってあげるのが良いでしょう。しかし、家の中に頻繁に侵入してきたり、大切に育てている野菜や花が明らかに食害されたりしている場合は、害虫として対策を考える必要があります。
大切なのは、ハサミムシの生態を正しく理解し、その状況に応じて適切に対応すること。彼らが持つ益虫としての側面を最大限に活かしつつ、害虫としての被害は最小限に抑える。それが、ハサミムシと上手に付き合っていくためのコツと言えるでしょう。
気持ち悪いだけじゃない!ハサミムシのすごい生態

お尻のハサミが特徴的なハサミムシ。そのグロテスクな見た目とは裏腹に、実は非常に興味深い生態を持っています。彼らの暮らしぶりを知ることで、ただの「気持ち悪い虫」から、少し見方が変わるかもしれません。ここでは、ハサミムシの驚くべき生態の秘密に迫ります。
ハサミムシの基本情報(種類、生息地、活動時期)
「ハサミムシ」と一括りに呼ばれていますが、実は世界に約1,900種、日本だけでも20〜40種類ほどが生息しています。 日本でよく見かけるのは、ハマベハサミムシ、ヒゲジロハサミムシ、オオハサミムシなどです。 体長は1cmから3cm程度のものが多く、光沢のある黒褐色をしています。
彼らは基本的に夜行性で、日中は落ち葉や石の下、植木鉢の裏など、暗くて湿った場所を好んで隠れています。 活動が活発になるのは4月から10月頃の暖かい時期。 ジメジメした梅雨の時期などは、特に遭遇する機会が増えるかもしれません。
何を食べるの?肉食性の強い雑食性
ハサミムシの食性は、肉食寄りの雑食性です。 主な獲物は、ダンゴムシやアブラムシ、ガの幼虫といった小さな昆虫たち。 庭の害虫を捕食してくれる益虫としての側面は、この食性によるものです。獲物が少ない環境では、枯れ葉や植物の柔らかい部分、果物などを食べることもあります。 まさに、その場の環境に応じて食事メニューを変える、たくましいハンターなのです。
特徴的なハサミの役割(威嚇、捕食、求愛)
ハサミムシの最大の特徴であるお尻のハサミ(尾鋏:びきょう)は、一体何のためにあるのでしょうか。このハサミは、クワガタの大アゴとは全く異なり、お腹の先にある「尾角(びかく)」という器官が発達したものです。 主な役割は以下の3つです。
- 防御・威嚇: 天敵である鳥や爬虫類に襲われた際に、このハサミを振りかざして威嚇し、身を守ります。
- 捕食: 小さな虫などを捕らえる際に、ハサミで挟んで弱らせ、捕食しやすくします。
- 求愛行動: オスはメスへのアピールや、ライバルのオスとの闘争にもこのハサミを使います。
ちなみに、このハサミの形でオスとメスを見分けることができます。一般的に、オスのハサミは太く、力強く湾曲しているのに対し、メスのハサミは比較的まっすぐで細い形状をしています。 次に見かけた際は、ぜひ観察してみてください。
意外と子育て上手な一面も
ハサミムシの生態で特に驚くべきは、その献身的な子育てです。多くの昆虫は卵を産みっぱなしですが、ハサミムシのメスは産卵後も卵のそばに留まり、外敵から守り、カビが生えないように一つ一つ舐めて世話をします。 卵が孵化して幼虫になった後も、しばらくの間は母親が餌を与え、幼虫を守ります。この習性は「亜社会性」と呼ばれ、昆虫の中では比較的珍しい行動です。見た目からは想像もつかない、深い母性愛を持っているのです。
ハサミムシに毒はある?挟まれたらどうなる?

あの大きくて黒光りするハサミを見ると、「毒があるんじゃないか?」「挟まれたらすごく痛いのでは?」と不安になりますよね。特に小さなお子さんがいるご家庭では、その危険性が気になることでしょう。ここでは、ハサミムシの毒の有無や、万が一挟まれてしまった場合の対処法について解説します。
ハサミムシに毒はないので安心!
まず最も重要なことですが、ハサミムシには毒はありません。 そのため、万が一ハサミで挟まれたとしても、毒によって健康被害が及ぶ心配は全くありません。見た目のインパクトが強いだけで、スズメバチやムカデのような危険な毒を持つ虫とは全く異なります。この事実を知っているだけでも、遭遇した時の恐怖心は少し和らぐのではないでしょうか。
挟む力は?出血することもある?
毒はないと分かっても、次に気になるのは「挟む力」ですよね。ハサミムシのハサミの力は、種類や個体の大きさにもよりますが、それなりに強いです。大人の指の皮膚を挟まれると、チクッとした痛みを感じます。特に大きな個体に挟まれた場合や、お子さんのような皮膚の柔らかい部分を挟まれた場合には、稀に出血を伴うことがあります。
ただし、自ら積極的に人を攻撃してくることはほとんどありません。こちらから手を出したり、捕まえようとしたりしない限り、挟まれる心配は少ないでしょう。あくまでも彼らにとってハサミは、身を守るための最終手段なのです。
挟まれた時の対処法
もしハサミムシに挟まれて出血してしまった場合、心配なのは毒ではなく傷口からの雑菌の侵入です。 ハサミムシは湿った土の中や落ち葉の下など、雑菌の多い環境で生活しています。そのため、挟まれた傷口から細菌が入り込み、化膿してしまう可能性があります。
万が一挟まれてしまったら、慌てずに以下の手順で対処してください。
- 流水で傷口をよく洗い流す: まずは水道水で傷口の汚れや雑菌をきれいに洗い流しましょう。
- 消毒する: 消毒液があれば、傷口を消毒します。
- 清潔に保つ: 絆創膏などで傷口を保護し、清潔な状態を保ちます。
通常はこの程度の処置で問題ありませんが、もし傷口が赤く腫れたり、痛みが続いたりするようなら、皮膚科を受診することをおすすめします。
家の中でハサミムシを見つけたら?正しい対策と予防法

益虫としての側面があるとはいえ、家の中でハサミムシに遭遇するのは避けたいものです。あの黒光りする体と大きなお尻のハサミは、やはり不快に感じてしまいますよね。ここでは、なぜハサミムシが家の中に入ってくるのか、そして見つけた時の駆除方法と、侵入を防ぐための予防策を具体的にご紹介します。
なぜ家の中に入ってくるの?侵入経路
ハサミムシは本来、屋外の湿った場所を好む昆虫です。 それがなぜ家の中に侵入してくるのでしょうか。主な理由は、「エサ」と「快適な隠れ家」を求めてのことです。ハサミムシは夜行性で、夜になるとエサを探して活発に動き回ります。その過程で、家の明かりに引き寄せられたり、偶然隙間から入り込んだりするのです。
主な侵入経路としては、以下のような場所が考えられます。
- 窓や網戸の隙間: 網戸の破れや、サッシとの間にできたわずかな隙間は絶好の侵入ルートです。
- ドアの隙間: 玄関ドアや勝手口のドアの下の隙間。
- 換気扇や通気口: カバーの隙間などから侵入することがあります。
- エアコンの配管穴: 壁を貫通する配管の周りの隙間。
- 植木鉢などと一緒に入る: 屋外に置いていた観葉植物を室内に取り込む際に、土や鉢の裏に隠れていたハサミムシが一緒に侵入するケースもあります。
彼らは暗くて湿ったジメジメした場所が大好きなので、侵入後はキッチンや洗面所、お風呂場、トイレといった水回りで発見されることが多くなります。
家の中で見つけた時の駆除方法
家の中でハサミムシを見つけてしまったら、パニックにならず冷静に対処しましょう。毒はなく、動きもそれほど素早くないので、落ち着けば簡単に対処できます。
- ティッシュなどで捕まえる: 最も手軽な方法です。ティッシュペーパーやキッチンペーパーで掴んで、外に逃がすか、袋に入れて処分します。直接触りたくない場合は、割り箸やピンセットを使うと良いでしょう。
- 掃除機で吸い取る: 掃除機で吸い込んでしまうのも一つの手です。ただし、掃除機の中で生きている可能性もあるので、気になる方は吸い取った後に紙パックごと捨てるなどの対応が必要です。
- 殺虫スプレーを使用する: どうしても触れない、数が多いという場合は、不快害虫用の殺虫スプレーが効果的です。 ゴキブリ用などのスプレーでも代用できます。使用する際は、製品の注意書きをよく読んで正しく使いましょう。
ハサミムシを寄せ付けないための予防策
最も大切なのは、ハサミムシが「住みたくない家」にすることです。以下の予防策を実践して、ハサミムシの侵入を未然に防ぎましょう。
- 家の周りの環境整備: ハサミムシの隠れ家をなくすことが重要です。家の基礎周りに置かれた植木鉢やプランター、落ち葉、枯れ草、石などは、こまめに清掃・整理しましょう。 湿気が溜まらないように、風通しを良くすることも大切です。
- 侵入経路を塞ぐ: 網戸の破れは補修テープで塞ぎ、窓やドアの隙間は隙間テープを貼って物理的に侵入できないようにします。 エアコンの配管穴の隙間は、パテで埋めると効果的です。
- 忌避剤・殺虫剤を撒く: 家の周りや、玄関、窓の下など、侵入されやすい場所に不快害虫用の粉剤や粒剤を帯状に撒いておくと、侵入防止に高い効果が期待できます。
- 室内の湿度管理: ハサミムシは湿気を好むため、特に水回りは換気を心がけ、湿度が高くならないように注意しましょう。 除湿剤の利用も有効です。
これらの対策を徹底することで、ハサミムシが家に侵入してくるリスクを大幅に減らすことができます。
益虫ハサミムシを農業に活かす方法

これまで見てきたように、ハサミムシはアブラムシなどの害虫を捕食してくれる頼もしい益虫です。この性質を積極的に利用し、化学農薬に頼らない農業やガーデニングに活かす動きが注目されています。ここでは、ハサミムシを「生物農薬(天敵製剤)」として活用する方法や、自分の庭や畑で彼らに活躍してもらうためのヒントをご紹介します。
天敵製剤としての利用研究
「天敵製剤」とは、害虫を食べる天敵となる生物を人工的に増やし、農薬のように利用することです。テントウムシやカマキリなどが有名ですが、ハサミムシもその候補として研究が進められています。特に、オオハサミムシという種類は、コナガやヨトウムシといった野菜の重要害虫を効率よく捕食することが知られており、その利用が期待されています。
化学農薬と比べて環境への負荷が少なく、特定の害虫だけを狙い撃ちできるため、安全性の高い農産物を作ることにも繋がります。まだ一般的に販売されているわけではありませんが、将来的には「ハサミムシ剤」のようなものが登場するかもしれません。
庭や畑でハサミムシを増やすには?(注意点も)
自分の庭や畑で、自然にハサミムシに活躍してもらうことも可能です。そのためには、彼らが住みやすい環境を整えてあげることが大切です。
ハサミムシが好む環境づくりのポイント:
- 隠れ家を提供する: 畑の隅に、枯れ葉や刈草、木の板、瓦などを意図的に置いておくと、日中のハサミムシの隠れ家になります。これにより、ハサミムシが畑に定着しやすくなります。
- 湿度を保つ: 乾燥しすぎないように、適度な湿り気のある場所を作ってあげましょう。ただし、過度な湿気は植物の病気の原因にもなるので注意が必要です。
- 農薬の使用を控える: 当然ですが、殺虫剤を使用するとハサミムシも死んでしまいます。できるだけ化学農薬の使用は控え、ハサミムシが活動しやすい環境を維持しましょう。
注意点:
一方で、ハサミムシを増やすことには注意も必要です。前述の通り、ハサミムシは雑食性のため、大量に増えすぎると、柔らかい新芽や果実などを食害する可能性があります。 特に、レタスや白菜、イチゴなどを栽培している場合は、増えすぎないように様子を見ながら調整することが重要です。益虫としてのメリットと、害虫になり得るリスクのバランスを考えることが、上手な活用法の鍵となります。
よくある質問

ハサミムシとクワガタのハサミの違いは何ですか?
見た目は似ていますが、全くの別物です。クワガタのハサミは「大あご」が発達したもので、口の一部です。 一方、ハサミムシのハサミは、お腹の末端にある「尾角(びかく)」という器官が変化したものです。 使われる目的も、クワガタは主にオス同士の縄張り争いやメスの奪い合いに使いますが、ハサミムシは防御や捕食、求愛など多岐にわたります。
ハサミムシの天敵はいますか?
はい、います。ハサミムシの天敵としては、カマキリやクモ、鳥類、爬虫類(トカゲなど)、ムカデなどが挙げられます。 自然界の食物連鎖の中で、彼らもまた捕食される側の生き物なのです。
ハサミムシは飛びますか?
種類によります。多くのハサミムシは翅(はね)を持っていますが、退化して飛べない種類も多いです。 例えば、日本でよく見られるハマベハサミムシやヒゲジロハサミムシは翅がなく飛べません。 一方、エゾハサミムシやキバネハサミムシといった種類は飛ぶことができます。 しかし、飛ぶことができる種類でも、積極的に長距離を飛ぶことは少ないようです。
ハサミムシにスピリチュアルな意味はありますか?
虫の出現にスピリチュアルなメッセージを感じる人もいます。ハサミムシの場合、その特徴的な姿からいくつかの解釈があるようです。例えば、硬いハサミで身を守る姿から「自己防衛」「内面を磨くことの重要性」を、また献身的な子育てをすることから「母性愛」「家族を大切に」といったメッセージを読み取ることもあるようです。 これらは科学的な根拠はありませんが、一つの考え方として興味深いですね。
まとめ

- ハサミムシは基本的に害虫を食べる「益虫」である。
- アブラムシやコナガの幼虫などを捕食してくれる。
- 不快な見た目や農作物への食害から「害虫」ともされる。
- 状況によって益虫にも害虫にもなる二面性を持つ。
- お尻のハサミは威嚇や捕食、求愛などに使われる。
- ハサミムシに毒はなく、挟まれても危険性は低い。
- 挟まれた場合は傷口を洗い、清潔に保つことが大切。
- メスは卵や幼虫の世話をする献身的な子育てをする。
- 暗く湿った場所を好み、夜行性で活動する。
- 家への侵入は窓の隙間やドア下からが多い。
- 対策は家の周りの清掃と侵入経路を塞ぐことが基本。
- 見つけた場合は殺虫剤やティッシュで駆除できる。
- 天敵として害虫駆除に利用する研究も進んでいる。
- 庭に隠れ家を作ると、益虫として定着しやすくなる。
- 増えすぎると植物を食害する可能性もあるため注意が必要。