大切に育てているワタ(綿)の葉や新芽に、緑色や黒色の小さな虫がびっしり…。その正体は、植物の大敵「アブラムシ」かもしれません。繁殖力が非常に強く、あっという間に増えてしまうため、見つけたらすぐに対処することが重要です。本記事では、ワタに発生するアブラムシの駆除方法を、農薬を使わない安全な方法から効果的な薬剤まで、網羅的に解説します。原因や予防策も詳しくご紹介するので、もうアブラムシに悩まされることはありません。
まずは敵を知ろう!ワタアブラムシの生態と被害

効果的な対策を行うためには、まず敵である「ワタアブラムシ」について知ることが大切です。ワタアブラムシはどんな虫で、放置するとどのような被害があるのでしょうか。ここでは、その生態と恐ろしい被害について解説します。
- ワタアブラムシってどんな虫?
- 放置は危険!アブラムシが引き起こす2つの深刻な被害
ワタアブラムシってどんな虫?
ワタアブラムシ(学名: Aphis gossypii)は、カメムシ目アブラムシ科に属する昆虫で、全世界に分布しています。 体長は1mmから2mm程度と非常に小さく、体色は黄色、緑色、暗緑色、黒っぽいものまで様々で、環境によって変化するのが特徴です。 特に、ワタだけでなく、キュウリやナス、ピーマン、キクなど非常に多くの植物に寄生する広食性の害虫として知られています。
ワタアブラムシの最も厄介な点は、その驚異的な繁殖力です。春から秋にかけて、暖かい時期にはメスだけで子どもを産む「単為生殖」を行い、爆発的に増殖します。 卵ではなく直接幼虫を産むため、世代交代のスピードが非常に速く、わずか10日ほどで成虫になり、気づいた時には大群になっていることも少なくありません。
放置は危険!アブラムシが引き起こす2つの深刻な被害
「小さい虫だから」とワタアブラムシを放置すると、ワタの生育に深刻なダメージを与えてしまいます。主な被害は以下の2つです。
1. 吸汁による直接的な被害
アブラムシは、植物の葉や茎、新芽などに口針を突き刺し、栄養分(師管液)を吸って生きています。 大量のアブラムシに寄生されると、ワタは栄養を奪われてしまい、生育が悪くなります。新芽に寄生されると葉が縮れたり変形したりし、最悪の場合、枯れてしまうこともあります。
2. すす病やウイルス病の媒介
アブラムシの被害は吸汁だけではありません。彼らの排泄物(甘露)は糖分を多く含んでおり、これを栄養源として黒いカビが発生することがあります。 これが「すす病」と呼ばれる病気で、葉の表面が黒いすすで覆われたようになり、光合成を妨げて生育をさらに悪化させます。
さらに恐ろしいのが、ウイルス病の媒介です。アブラムシは植物から植物へ移動する際に、口針を介してウイルスを運びます。 一度ウイルス病に感染すると治療法はなく、株を抜き取って処分するしかありません。 このように、アブラムシは直接的な被害だけでなく、厄介な病気を引き起こす原因にもなるのです。
今すぐ試せる!ワタのアブラムシ駆除方法【農薬を使わない編】

「家庭菜園だから、できるだけ農薬は使いたくない」そう考える方は多いでしょう。幸い、ワタアブラムシは身近なものを使って駆除することが可能です。ここでは、農薬を使わない安全で手軽な駆除方法を5つご紹介します。
- ①物理的に取り除く(手、歯ブラシ、粘着テープ)
- ②水で洗い流す
- ③牛乳スプレーで窒息させる
- ④木酢液・竹酢液スプレーで寄せ付けない
- ⑤天敵昆虫(テントウムシなど)を味方につける
①物理的に取り除く(手、歯ブラシ、粘着テープ)
アブラムシの数がまだ少ない初期段階であれば、物理的に取り除くのが最も手軽で確実な方法です。軍手などをはめて指で潰したり、使い古しの歯ブラシでこすり落としたりします。
また、ガムテープやセロハンテープなどの粘着テープを使うのも効果的です。 テープの粘着面をアブラムシに軽く押し付けて、ペタペタと貼り付けて取り除きます。この方法は、葉を傷つけにくく、虫に直接触れたくない方にもおすすめです。ただし、粘着力が強すぎると葉を傷める可能性があるので注意しましょう。
②水で洗い流す
アブラムシは水に弱いため、ホースやスプレーで勢いよく水をかけて洗い流す方法も有効です。 特に葉の裏に潜んでいることが多いので、下から上に向かって水をかけると効果的です。ただし、水の勢いが強すぎると植物を傷つけてしまう可能性があるので、水圧を調整しながら行いましょう。この方法は、すす病の原因となる甘露(排泄物)も一緒に洗い流せるというメリットがあります。
③牛乳スプレーで窒息させる
家庭にある牛乳を使った駆除方法も人気です。牛乳をスプレーボトルに入れ、アブラムシに直接吹きかけます。 牛乳が乾く際に膜を作り、アブラムシの気門(呼吸するための穴)を塞いで窒息死させる仕組みです。
【牛乳スプレーの使い方】
- スプレーボトルに牛乳を原液のまま入れる。
- よく晴れた日の午前中に、アブラムシ全体が濡れるようにまんべんなくスプレーする。
- 牛乳が完全に乾いたら、水で洗い流す。
牛乳を洗い流さずに放置すると、腐敗して悪臭を放ったり、カビが発生したりする原因になるため、駆除後は必ずきれいに洗い流してください。
④木酢液・竹酢液スプレーで寄せ付けない
木酢液や竹酢液は、木炭や竹炭を焼くときに出る煙を液体にしたもので、独特の燻製のような香りがします。 この香りをアブラムシが嫌うため、忌避効果が期待できます。
【木酢液スプレーの使い方】
- 木酢液を製品の表示に従って水で希釈する(一般的には500~1000倍程度)。
- スプレーボトルに入れ、週に1回程度の頻度で植物全体に散布する。
注意点として、木酢液には直接的な殺虫効果はほとんど期待できません。 あくまでアブラムシを寄せ付けにくくするための「予防」として使うのが効果的です。また、濃度が濃すぎると植物に害を与える可能性があるので、必ず規定の希釈倍率を守りましょう。
⑤天敵昆虫(テントウムシなど)を味方につける
自然の力を借りる方法として、アブラムシの天敵を畑や庭に呼ぶ方法があります。アブラムシの天敵には、テントウムシ、ヒラタアブ、クサカゲロウなどがいます。
特にテントウムシは、幼虫も成虫もアブラムシを大好物とし、1匹のナナホシテントウの成虫は1日に100匹ものアブラムシを食べると言われています。 天敵となる昆虫が好むキク科の植物(カモミールなど)やセリ科の植物(ディルなど)を近くに植えておくと、天敵が集まりやすい環境を作ることができます。農薬を使うとこれらの益虫も死んでしまうため、天敵を利用する場合は薬剤の散布は控えましょう。
しつこいアブラムシに!効果的な駆除方法【薬剤(農薬)編】

アブラムシが大量発生してしまい、手作業や自然由来の方法では追いつかない場合は、薬剤(農薬)の使用を検討しましょう。正しく使えば、素早く確実にアブラムシを駆除できます。
- ワタに使えるおすすめの殺虫剤
- 薬剤を使うときの注意点
ワタに使えるおすすめの殺虫剤
家庭園芸用には、様々な種類の殺虫剤が販売されています。ワタのアブラムシに効果的な薬剤を選ぶ際のポイントは、「適用作物」に「わた」が含まれているかを確認することです。ここでは、代表的な薬剤の種類をご紹介します。
スプレータイプ
希釈する必要がなく、購入してすぐに使える手軽さが魅力です。 アブラムシを見つけたら直接スプレーするだけで駆除できます。速効性のあるものや、予防効果が持続するものなど様々な種類があります。
- ベニカXネクストスプレー: 5種類の成分が配合されており、幅広い害虫と病気に効果があります。殺虫効果が長く続くのが特徴です。

粒剤タイプ
土に混ぜたり、株元にばらまいたりして使用するタイプの薬剤です。 成分が根から吸収されて植物全体に行き渡り(浸透移行性)、汁を吸ったアブラムシを駆除します。 効果が長期間持続するため、予防にも適しています。
- 家庭園芸用GFオルトラン粒剤: 浸透移行性で、アブラムシだけでなく幅広い害虫に効果があります。効果の持続期間が長いのが特徴です。

乳剤・水和剤タイプ
水で薄めて噴霧器などで散布するタイプです。広範囲に散布したい場合や、コストを抑えたい場合に適しています。
- トレボン乳剤: 幅広い害虫に速効的な効果があり、人や動物への毒性が低く、樹木にも安心して使用できます。
薬剤を使うときの注意点
薬剤は効果が高い反面、使い方を誤ると植物に害を与えたり、環境に影響を及ぼしたりする可能性があります。以下の点に注意して、正しく使用しましょう。
- ラベルをよく読む: 必ず製品のラベルに記載されている適用作物、使用時期、使用回数、希釈倍率などを確認し、厳守してください。
- 同じ薬剤を使い続けない: 同じ系統の薬剤を連続して使用すると、その薬剤に抵抗性を持つアブラムシ(薬剤抵抗性)が出現し、効きにくくなることがあります。 作用性の異なる複数の薬剤を順番に使う「ローテーション散布」を心がけましょう。
- 散布の時間帯: 日中の高温時を避け、風のない早朝や夕方に散布するのが基本です。
- 安全対策: 散布時はマスクや手袋、保護メガネなどを着用し、薬剤を吸い込んだり、皮膚に付着したりしないように注意してください。
なぜ発生するの?ワタにアブラムシがつく3つの原因

アブラムシの駆除と合わせて、なぜ発生してしまったのか原因を知ることも重要です。原因が分かれば、効果的な予防に繋がります。ワタにアブラムシが発生しやすくなる主な原因は3つあります。
- 原因①:窒素肥料の与えすぎ
- 原因②:風通しが悪い
- 原因③:どこからか飛んでくる
原因①:窒素肥料の与えすぎ
植物の成長に欠かせない肥料ですが、特に「窒素(チッソ)」成分が過剰になると、アブラムシの発生を助長してしまいます。 窒素は植物体内のアミノ酸を増やしますが、このアミノ酸はアブラムシの大好物だからです。 ワタを元気にしようと良かれと思って与えた肥料が、結果的にアブラムシを呼び寄せる原因になっているかもしれません。肥料は適量を守って与えることが大切です。
原因②:風通しが悪い
葉が密集して風通しが悪い場所は、アブラムシにとって絶好の隠れ家となります。 風通しが悪いと湿気がこもりやすく、天敵であるテントウムシなども寄り付きにくくなるため、アブラムシが繁殖しやすい環境になってしまいます。株間を適切にとり、葉が茂りすぎている場合は適度に剪定して、風が通り抜けるようにしてあげましょう。
原因③:どこからか飛んでくる
アブラムシの中には、羽の生えた「有翅虫(ゆうしちゅう)」がいます。 これらは、餌となる植物が少なくなったり、生息密度が高くなったりすると発生し、風に乗って新しい住処を求めて飛来します。 どんなに畑を清潔にしていても、近隣の雑草地などから飛んでくる可能性があるため、完全に侵入を防ぐのは難しいのが実情です。
もう悩まない!明日からできるアブラムシ予防策

アブラムシ対策で最も重要なのは、発生させないための「予防」です。一度大量発生すると駆除が大変になるため、日頃からアブラムシが寄り付きにくい環境を整えておくことが大切です。ここでは、効果的な予防策を3つご紹介します。
- 栽培環境を整える(適切な施肥、剪定)
- 物理的に侵入を防ぐ(防虫ネット、シルバーマルチ)
- コンパニオンプランツを活用する
栽培環境を整える(適切な施肥、剪定)
アブラムシの発生原因でも述べたように、栽培環境の管理は予防の基本です。
まず、窒素過多にならないよう肥料の量を適切に管理しましょう。 カリウムを含む肥料は植物を丈夫にし、害虫への抵抗力を高める効果が期待できます。
次に、定期的な剪定で株の内部まで日が当たり、風通しを良くすることも重要です。 これにより、アブラムシが好む湿った環境を防ぎ、天敵が見つけやすい状況を作ることができます。
物理的に侵入を防ぐ(防虫ネット、シルバーマルチ)
羽のあるアブラムシの飛来を防ぐには、物理的な対策が非常に有効です。
防虫ネットをトンネル状にかけることで、外部からのアブラムシの侵入を大幅に減らすことができます。 アブラムシは非常に小さいため、できるだけ目の細かいネットを選ぶのがポイントです。
また、「シルバーマルチ」やアルミホイルなどを株元に敷く方法も効果的です。 アブラムシはキラキラとした光の反射を嫌う習性があるため、地面に敷くことで寄り付きにくくなります。特に葉の裏に付きやすいアブラムシ対策として有効です。
コンパニオンプランツを活用する
「コンパニオンプランツ」とは、一緒に植えることで互いによい影響を与え合う植物のことです。 特定の香りを放つハーブなどをワタの近くに植えることで、アブラムシを遠ざける効果が期待できます。
【アブラムシ除けに効果的なコンパニオンプランツ】
- ハーブ類: ミント、ローズマリー、タイムなど、香りの強いハーブはアブラムシが嫌います。
- キク科: カモミール、マリーゴールドなどは、アブラムシの天敵であるテントウムシやヒラタアブを呼び寄せる効果があります。
- ネギ類: ニラやチャイブなども、その独特の匂いでアブラムシを遠ざけると言われています。
これらの植物をワタの周りに植えることで、化学薬品に頼らない自然な防虫対策が可能です。
ワタのアブラムシ駆除に関するよくある質問

牛乳スプレーをかけた後、洗い流す必要はありますか?
はい、必ず洗い流してください。 牛乳が乾いてアブラムシを駆除した後は、そのまま放置すると腐敗して悪臭の原因になったり、カビが生えて別の病気を引き起こしたりする可能性があります。 よく晴れた日に作業を行い、牛乳が乾いたことを確認してから、水で丁寧に洗い流しましょう。
木酢液は殺虫効果がありますか?
木酢液に直接的な殺虫効果はほとんど期待できません。 木酢液の主な効果は、その独特の燻製臭による「忌避効果」です。アブラムシが嫌がる臭いで寄せ付けにくくするため、発生前の予防策として定期的に散布するのが効果的な使い方です。
アブラムシと一緒にいるアリも駆除したほうがいいですか?
はい、アリも対策することをおすすめします。アブラムシの排泄物(甘露)は糖分を多く含み、アリの大好物です。 そのため、アリは甘露をもらう代わりに、アブラムシの天敵であるテントウムシなどを追い払い、アブラムシを守るという共生関係にあります。 アリがいるとアブラムシが繁殖しやすくなるため、アリの対策も同時に行うとより効果的です。
すす病になってしまったらどうすればいいですか?
すす病は、アブラムシなどの排泄物にカビが繁殖した状態なので、まずは原因となっているアブラムシを徹底的に駆除することが最も重要です。 すす病で黒くなった部分は、水で濡らした布などで拭き取れば落とすことができます。 被害がひどい葉は、思い切って切り取ってしまうのも一つの方法です。原因の害虫がいなくなれば、すす病がそれ以上広がることはありません。
まとめ

- ワタアブラムシは繁殖力が強く、吸汁被害やすす病を引き起こす。
- 農薬を使わない駆除には、テープでの除去や牛乳スプレーが有効。
- 牛乳スプレー使用後は、腐敗防止のため必ず水で洗い流すこと。
- 木酢液は殺虫効果ではなく、忌避効果を目的として使用する。
- 天敵のテントウムシはアブラムシの有力な捕食者である。
- 大量発生時は、ワタに適用のある市販の薬剤が効果的。
- 薬剤は同じものを連用せず、ローテーション散布を心がける。
- 窒素肥料の与えすぎはアブラムシの発生を助長する。
- 風通しを良くすることで、アブラムシの発生を抑制できる。
- 羽のあるアブラムシは外部から飛来してくる。
- 予防策として防虫ネットやシルバーマルチが非常に有効。
- 光るものを嫌うアブラムシの習性を利用して予防する。
- コンパニオンプランツを植えることで天敵を呼んだり、害虫を遠ざけたりできる。
- アブラムシと共生関係にあるアリも対策の対象となる。
- すす病は、原因となるアブラムシを駆除すれば広がらない。

