足や腕が急に赤く腫れて、熱っぽく痛む…。もしかしたら、それは「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」かもしれません。そんな時、「とりあえず家にある塗り薬で…」と考えていませんか?その自己判断、実はとても危険です。本記事では、蜂窩織炎に対する塗り薬の正しい知識、市販薬のリスク、そして病院で行われる適切な治療法について、分かりやすく解説します。つらい症状を一日でも早く改善するために、ぜひ最後までお読みください。
【結論】蜂窩織炎の治療に自己判断で塗り薬を使うのは危険!まずは皮膚科へ

結論からお伝えすると、蜂窩織炎(ほうかしきえん)を自己判断で市販の塗り薬で治そうとすることは、絶対に避けるべきです。蜂窩織炎は皮膚の深い部分で細菌が繁殖する感染症であり、適切な治療を受けなければ重症化する恐れがあります。 皮膚に赤みや腫れ、熱感、痛みといった症状が現れたら、まずは速やかに皮膚科を受診してください。
この章では、なぜ市販の塗り薬が危険なのか、その理由を詳しく解説します。
- 市販の塗り薬では治らない理由
- 間違った塗り薬が症状を悪化させることも
市販の塗り薬では治らない理由
蜂窩織炎は、皮膚の表面ではなく、その奥深くにある「真皮」から「皮下組織」にかけて細菌が感染することで起こります。 そのため、皮膚の表面に塗るだけの市販薬では、感染が起きている深い部分まで有効成分が届きません。
蜂窩織炎の治療の基本は、原因となっている細菌を体の中から叩くことです。 そのためには、抗菌薬(抗生物質)の飲み薬や点滴によって、血流に乗せて薬剤を全身に行き渡らせる必要があります。 市販の塗り薬には、蜂窩織炎の原因菌に有効な抗菌薬が含まれていなかったり、含まれていても濃度が不十分だったりするため、根本的な治療には繋がらないのです。
間違った塗り薬が症状を悪化させることも
市販薬の中には、湿疹やかぶれに使われるステロイド配合の塗り薬もあります。 しかし、これを細菌感染症である蜂窩織炎に使用すると、免疫の働きを抑えてしまい、かえって細菌の増殖を助長させてしまう危険性があります。
良かれと思って塗った薬が、症状を悪化させ、治療を長引かせる原因になりかねません。また、自己判断で市販薬を使っている間に、適切な治療開始が遅れてしまうことも大きな問題です。蜂窩織炎は進行が早い場合もあり、放置すると入院が必要になったり、壊死性筋膜炎といった命に関わる状態に陥る可能性もゼロではありません。
病院で処方される蜂窩織炎の「塗り薬」の種類と役割

「市販薬がダメなのは分かったけど、病院では塗り薬は処方されないの?」と疑問に思う方もいるでしょう。結論として、蜂窩織炎の治療で塗り薬が処方されることはありますが、あくまで補助的な役割です。 治療の主役は、あくまで飲み薬や点滴による抗菌薬です。
この章では、病院で処方される塗り薬にはどのような種類があり、それぞれがどんな役割を果たすのかを解説します。
- 抗菌薬(抗生物質)の塗り薬【原因菌を叩く】
- ステロイド配合の塗り薬【炎症を抑える】
- 塗り薬はあくまで補助的な治療
抗菌薬(抗生物質)の塗り薬【原因菌を叩く】
蜂窩織炎の原因は、主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌といった細菌です。 そのため、これらの細菌の増殖を抑えるための抗菌薬(抗生物質)が含まれた塗り薬が処方されることがあります。
特に、皮膚の表面に傷があり、そこから細菌が侵入したと考えられる場合(二次感染)や、患部がじゅくじゅくしている場合に、感染の拡大を防ぐ目的で使われます。
ゲンタシン軟膏(ゲンタマイシン)など
代表的な抗菌薬の塗り薬として「ゲンタシン軟膏」があります。 これはゲンタマイシンという抗生物質を含んでおり、細菌による皮膚の感染症に効果を示します。 蜂窩織炎の初期や軽症の場合に、内服薬と併用して補助的に使われることがあります。
ただし、近年はゲンタマイシンが効きにくい耐性菌も増えているため、医師が原因菌の種類や症状を考慮した上で処方を決定します。 自己判断で昔もらった薬などを使うのは絶対にやめましょう。
ステロイド配合の塗り薬【炎症を抑える】
蜂窩織炎では、細菌感染によって皮膚に強い炎症が起こり、赤み、腫れ、痛みといった症状が現れます。このつらい炎症を和らげる目的で、ステロイドと抗菌薬が一緒に配合された塗り薬が処方されることがあります。
ステロイドには強力な抗炎症作用がありますが、前述の通り、単独で使うと感染を悪化させるリスクがあります。そのため、必ず抗菌薬とセットで配合されたものが使われます。
リンデロン-VG軟膏など
代表的な薬には「リンデロン-VG軟膏」があります。 これは、炎症を抑えるステロイド(ベタメタゾン吉草酸エステル)と、抗菌薬(ゲンタマイシン硫酸塩)の両方が含まれています。
細菌感染を伴うか、その恐れがある湿疹や皮膚炎に使われる薬で、蜂窩織炎の強い炎症と細菌増殖の両方を抑えるために選択されることがあります。 ただし、これも医師の診断のもと、適切な期間使用することが非常に重要です。
塗り薬はあくまで補助的な治療
ここまで解説してきたように、蜂窩織炎の治療で塗り薬が使われることはありますが、それはあくまで飲み薬や点滴という中心的な治療をサポートする「補助的な役割」です。
皮膚の深い部分で起きている感染を根本的に治すためには、体の内側から作用する抗菌薬が不可欠です。 塗り薬だけで蜂窩織炎を治すことはできない、ということをしっかりと理解しておきましょう。
蜂窩織炎の本当の主役!基本的な治療法

塗り薬が補助的な役割であるならば、蜂窩織炎の本当の主役となる治療法は何なのでしょうか。それは「抗菌薬の全身投与」と「患部の安静」です。この2つが、つらい症状から回復するための最も重要な柱となります。
この章では、蜂窩織炎の基本的な治療法について詳しく見ていきましょう。
- 抗菌薬(抗生物質)の飲み薬・点滴が治療の中心
- 患部の「安静」「冷却」「挙上」が回復を早める鍵
抗菌薬(抗生物質)の飲み薬・点滴が治療の中心
蜂窩織炎治療の根幹をなすのが、抗菌薬(抗生物質)の投与です。 症状が比較的軽い場合は飲み薬(経口薬)で治療を行いますが、赤みや腫れが急速に広がっている、高熱が出ている、痛みが強いといった重症の場合には、入院して点滴(静脈内注射)で抗菌薬を投与する必要があります。
点滴は、薬剤を直接血管に送り込むため、飲み薬よりも早く、そして確実に効果を発揮させることができます。 処方される抗菌薬の種類は、原因菌として最も可能性が高い黄色ブドウ球菌やレンサ球菌に有効な「セフェム系」や「ペニシリン系」のものが第一選択となることが多いです。 医師は症状の重さや患者さんの状態に合わせて、最適な薬と投与方法を選択します。
患部の「安静」「冷却」「挙上」が回復を早める鍵
薬物療法と並行して非常に重要なのが、患部のケアです。特に「安静」「冷却」「挙上(きょじょう)」の3つは、回復を早めるための大切なポイントです。
安静:患部を動かすと炎症が悪化しやすくなります。特に足に発症した場合、歩き回ったり、長時間立ち仕事をしたりするのは避け、できるだけ安静に過ごすことが重要です。
冷却:患部は熱を持っていることが多く、冷やすことで痛みや不快感が和らぎます。 氷嚢や冷たいタオルなどを使い、心地よい程度に冷やしましょう。
挙上:特に足に発症した場合、心臓より高い位置に保つことで、患部の腫れ(むくみ)が引きやすくなります。 横になるときは、クッションや座布団などを足の下に入れて高くするように心がけてください。
これらのセルフケアを徹底することが、薬の効果を最大限に引き出し、早期回復へと繋がります。
そもそも蜂窩織炎とは?放置は絶対にダメ!

ここまで治療法について解説してきましたが、「そもそも蜂窩織炎ってどんな病気なの?」と改めて疑問に思う方もいるかもしれません。蜂窩織炎は、決して珍しい病気ではなく、誰にでも起こりうる皮膚の感染症です。 しかし、その一方で放置すると非常に危険な状態になる可能性も秘めています。
この章では、蜂窩織炎の基本的な知識と、放置した場合のリスクについて解説します。
- 蜂窩織炎の初期症状セルフチェック
- なぜ起こる?蜂窩織炎の主な原因
- 放置するとどうなる?怖い合併症
蜂窩織炎の初期症状セルフチェック
蜂窩織炎は、体のどの部分にも発症する可能性がありますが、特に足のすねや甲によく見られます。 以下のような症状に気づいたら、蜂窩織炎の可能性があります。早期発見・早期治療が何よりも大切ですので、セルフチェックしてみましょう。
- 皮膚がまだらに赤く腫れている
- 腫れている部分に熱感(熱っぽさ)がある
- 触ったり押したりすると痛みを感じる
- 赤みや腫れが急速に広がっている感じがする
- 症状が体の片側だけに出ている
- 進行すると、水ぶくれができたり、悪寒や発熱、だるさといった全身症状が出てくることもある
これらの症状に一つでも当てはまる場合は、自己判断せず、すぐに医療機関を受診してください。
なぜ起こる?蜂窩織炎の主な原因
蜂窩織炎は、皮膚のバリア機能が低下した際に、小さな傷口から細菌が侵入することで発症します。 原因となる主な細菌は、私たちの皮膚にもともと存在している常在菌である「黄色ブドウ球菌」や「レンサ球菌」です。
具体的な感染の入り口としては、以下のようなものが挙げられます。
- すり傷、切り傷
- 虫刺されや掻き壊した跡
- 水虫(足白癬)による皮膚のめくれや亀裂
- アトピー性皮膚炎による湿疹
- やけど
- 手術の傷跡
また、糖尿病、むくみ(浮腫)、免疫抑制剤の使用などで免疫力が低下している人は、蜂窩織炎を発症しやすく、重症化しやすい傾向があるため特に注意が必要です。
放置するとどうなる?怖い合併症
「ただの皮膚の腫れだろう」と蜂窩織炎を甘く見てはいけません。治療せずに放置すると、感染がさらに広がり、重篤な合併症を引き起こす危険性があります。
代表的な合併症には以下のようなものがあります。
- 菌血症・敗血症: 細菌が血液中に入り込み、全身に広がってしまう状態。高熱や血圧低下などを引き起こし、命に関わる危険な状態です。
- 壊死性筋膜炎: 皮膚のさらに深い部分にある筋膜まで感染が及び、組織が急速に壊死していく非常に危険な病気です。緊急手術が必要となり、死亡率も高いとされています。
- リンパ浮腫: 同じ場所で蜂窩織炎を繰り返すと、リンパ管がダメージを受け、腕や足が慢性的にむくんでしまうことがあります。
蜂窩織炎は自然に治ることはありません。 このような深刻な事態を避けるためにも、疑わしい症状があれば、ためらわずに専門医の診察を受けることが何よりも重要です。
蜂窩織炎の治療に関するよくある質問

蜂窩織炎は何科を受診すればいいですか?
皮膚に赤み、腫れ、熱感、痛みといった症状がある場合、まずは皮膚科を受診するのが最も適切です。 蜂窩織炎は皮膚の病気なので、専門医である皮膚科医が診断・治療を行います。
ただし、蜂窩織炎は一般的な感染症でもあるため、かかりつけの内科や外科、整形外科などでも診断や初期治療が可能な場合があります。 もし夜間や休日などで皮膚科が受診できない場合は、救急外来などで相談するのも一つの方法です。
蜂窩織炎は自然に治りますか?
いいえ、蜂窩織炎は自然に治ることはありません。 皮膚の深い部分で細菌が感染している状態なので、抗菌薬による治療が必須です。 放置すると感染が広がり、症状が悪化するだけでなく、菌血症や壊死性筋膜炎といった重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。 「そのうち治るだろう」と安易に考えず、必ず医療機関を受診してください。
治療に塗り薬を使わないこともありますか?
はい、あります。蜂窩織炎の治療の基本は抗菌薬の飲み薬や点滴であり、塗り薬はあくまで補助的な役割です。
皮膚表面に明らかな傷がなく、患部が乾燥している場合など、医師が塗り薬は不要と判断すれば、飲み薬や点滴だけの治療となることも少なくありません。 治療方針は症状によって異なりますので、医師の指示に従うことが大切です。
治療期間はどのくらいかかりますか?
治療期間は、症状の重さや治療開始のタイミング、原因菌の種類などによって異なりますが、一般的には抗菌薬を5日から14日ほど投与します。
軽症であれば、飲み薬で数日から1週間程度で症状は改善に向かいます。 しかし、重症で入院が必要な場合や、糖尿病などの持病がある場合は、治療が長引くこともあります。症状が良くなったからといって自己判断で薬をやめると再発する可能性があるため、医師に指示された期間、きちんと薬を飲みきることが重要です。
蜂窩織炎は人にうつりますか?
いいえ、蜂窩織炎は人から人にうつる病気ではありません。 蜂窩織炎は、自分の皮膚の傷口から細菌が入って発症するものであり、空気感染や接触感染で他人にうつす心配はありません。ご家族や周りの方に特別な対応をしてもらう必要はないので、安心してください。
まとめ

- 蜂窩織炎に市販の塗り薬を自己判断で使うのは危険。
- 市販薬では皮膚の深い感染部分に効果が届かない。
- 間違った薬(ステロイド単剤など)は症状を悪化させる。
- 蜂窩織炎の治療は、まず皮膚科を受診することが重要。
- 病院では抗菌薬の塗り薬が補助的に処方されることがある。
- ゲンタシン軟膏などが細菌増殖を抑える目的で使われる。
- リンデロン-VGなどステロイド配合薬は炎症を抑える目的。
- 治療の主役は抗菌薬の「飲み薬」または「点滴」。
- 薬物療法と並行し「安静・冷却・挙上」が回復を早める。
- 蜂窩織炎は皮膚の深い部分で起こる細菌感染症。
- 原因は小さな傷からの細菌(黄色ブドウ球菌など)の侵入。
- 放置すると菌血症や壊死性筋膜炎など重症化のリスク。
- 蜂窩織炎は自然治癒せず、抗菌薬での治療が必須。
- 治療期間は重症度によるが、数日から2週間程度が目安。
- 蜂窩織炎は他人にうつることはない。