大切に育てているブドウの枝が、なんだか不自然に膨らんでいる…もしかしたら、それは「ブドウスカシバ」の仕業かもしれません。この害虫はブドウの木に深刻なダメージを与え、最悪の場合、木を枯らしてしまうこともある恐ろしい存在です。この記事では、ブドウスカシバの生態から、具体的な駆除方法、そして二度と発生させないための予防策まで、あなたのブドウ栽培を全力でサポートする情報を詳しく解説します。早期発見と適切な対処で、美味しいブドウを守り抜きましょう。
まずはコレ!ブドウスカシバの駆除方法

ブドウスカシバの被害を見つけたら、迅速な対応が何よりも重要です。放置すると被害がどんどん拡大してしまうため、発見次第、駆除作業に取り掛かりましょう。駆除方法は大きく分けて「物理的な駆除」と「農薬を使った駆除」の2つがあります。それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。
この章では、以下の駆除方法について解説します。
- 見つけたらすぐ実践!物理的な駆除方法
- 効果的に退治!農薬を使った駆除方法
見つけたらすぐ実践!物理的な駆除方法
農薬を使いたくない方や、被害がまだ限定的な場合には、物理的な駆除が有効です。手間はかかりますが、確実性の高い方法と言えるでしょう。
主な物理的駆除方法は2つあります。
被害枝の剪定と焼却
ブドウスカシバの幼虫が潜んでいる枝は、紡錘形に膨らんでいたり、虫糞が出ていたりするのが特徴です。 このような被害枝を見つけたら、思い切って剪定しましょう。剪定した枝は、そのまま放置すると幼虫が別の場所へ移動してしまう可能性があるため、必ずビニール袋に入れて密閉するか、焼却処分してください。 特に休眠期(冬)の剪定は、越冬している幼虫を駆除する絶好の機会です。
針金などを使った幼虫の捕殺
枝の中にいる幼虫を直接退治する方法です。虫糞が出ている食入孔から、太さ1mm程度の柔らかい針金を差し込み、中の幼虫を刺し殺します。 針金の先端を少し曲げておくと、幼虫を引っ掛けやすくなります。 少し残酷に感じるかもしれませんが、ブドウの木全体を守るためには必要な作業です。この方法は、幼虫がまだ浅い部分にいる初期段階で特に効果的です。
効果的に退治!農薬を使った駆除方法
被害が広範囲に及んでいる場合や、物理的な駆除だけでは不安な場合は、農薬の使用を検討しましょう。適切な時期に適切な薬剤を散布することで、高い防除効果が期待できます。
【時期別】農薬散布のベストタイミング
ブドウスカシバの駆除で最も効果的なのは、成虫の産卵期から幼虫のふ化期を狙った薬剤散布です。 具体的には、成虫が発生する5月下旬から6月中旬が重要な防除時期となります。 この時期に散布することで、卵やふ化したばかりの小さな幼虫を効率よく駆除できます。また、幼虫が枝に食入する前の6月下旬から7月上旬も、薬剤散布の好機です。
加温しているハウス栽培の場合は、成虫の発生が露地栽培よりも早まるため注意が必要です。加温開始から約50日後には成虫が羽化し始めるため、それに合わせて防除計画を立てましょう。
おすすめの殺虫剤(パダン、フェニックス、スミチオンなど)
ブドウスカシバに効果のある農薬として、いくつかの種類が報告されています。代表的なものは以下の通りです。
- パダンSG水和剤: 幼虫に対する殺虫活性が高く、食入防止効果も約30日間持続すると報告されています。 ただし、登録は「大粒種ブドウ」に限られるため、デラウェアなどには使用できません。
- フェニックスフロアブル: スカシバ類全般に効果が期待できる薬剤です。
- スミチオン乳剤: 家庭園芸でも広く使われている有機リン系の殺虫剤で、ブドウスカシバにも効果があります。
- ロビンフッド(エアゾール剤): 幼虫が食入した穴に直接ノズルを差し込んで噴射するタイプの殺虫剤です。ピンポイントで薬剤を届けられるため、効率的に駆除できます。
これらの農薬は、ホームセンターや農薬販売店、通販サイトなどで購入可能です。 使用する際は、必ずラベルの記載内容をよく読み、希釈倍率や使用時期、使用回数などの規定を守ってください。
農薬散布の注意点とコツ
農薬の効果を最大限に引き出すためには、いくつかコツがあります。まず、散布前に粗皮を削っておくと、薬剤が樹皮の奥まで浸透しやすくなり、効果が高まります。 散布する際は、被害が出やすい主幹部や枝の分岐部などに、薬剤が十分にかかるように丁寧に散布しましょう。
また、薬剤抵抗性の発達を避けるため、同じ系統の薬剤を連続して使用するのは避けるのが賢明です。 作用機構の異なる薬剤をローテーションで散布することを心がけてください。農薬の使用に不安がある場合は、地域の病害虫防除所やJAの指導員に相談するのも良いでしょう。
ブドウスカシバとは?その生態と被害症状を知ろう

敵を知り、己を知れば百戦殆うからず。効果的な駆除を行うためには、まずブドウスカシバがどのような害虫なのかを正しく理解することが大切です。ここでは、その生態と被害のサインについて詳しく解説します。
この章で解説する内容は以下の通りです。
- ハチにそっくり?ブドウスカシバの成虫と幼虫
- 見逃さないで!ブドウスカシバのライフサイクルと発生時期
- こんな症状は要注意!ブドウスカシバの被害サイン
ハチにそっくり?ブドウスカシバの成虫と幼虫
ブドウスカシバの成虫は、一見するとアシナガバチによく似ています。 体長は約20〜25mmで、紫黒色の体に濃い黄色の帯が2本あり、翅は透明です。 この姿は、天敵から身を守るための擬態(ベイツ型擬態)と考えられています。 もちろん、ハチではないので毒針はありません。
一方、ブドウに直接的な被害を与えるのは幼虫です。老熟すると体長30〜40mmにもなる淡褐色のイモムシで、頭部は赤褐色をしています。 この幼虫がブドウの枝の内部に食入し、中心部の髄(ずい)を食い荒らしてしまうのです。 ちなみに、この幼虫は「ブドウムシ」として知られ、渓流釣りの餌として珍重されることもあります。
見逃さないで!ブドウスカシバのライフサイクルと発生時期
ブドウスカシバは、基本的に年1回の発生です。 そのライフサイクルを把握することが、防除のタイミングを見極める上で非常に重要になります。
- 越冬: 老齢幼虫の姿で、食入した枝の中で冬を越します。
- 蛹化: 春、4月中下旬頃になると、越冬した幼虫が枝の中で蛹になります。
- 羽化・成虫発生: 5月中旬から6月下旬にかけて成虫が羽化します。最盛期は5月中旬から6月上旬です。 羽化する際、蛹の殻が枝から半分ほど飛び出した状態になるのが特徴的です。
- 産卵: 成虫は日中活発に飛び回り、新梢の葉柄の付け根などに1粒ずつ卵を産み付けます。
- ふ化・食入: 卵は約10〜15日でふ化し、幼虫は新梢に食入して内部を食害し始めます。
- 幼虫の成長と移動: 幼虫は成長しながら2〜3回転食し、徐々に枝の根元の方へと移動していきます。
- 越冬準備: 8月下旬頃には1年枝の基部や2年枝に定着し、越冬の準備に入ります。
このサイクルを知っておけば、どの時期に何をすべきかが見えてきます。特に、成虫が発生し産卵する5月下旬〜6月中旬が、駆除の最も重要なタイミングであることを覚えておきましょう。
こんな症状は要注意!ブドウスカシバの被害サイン
ブドウスカシバの被害は、注意深く観察すれば早期に発見することが可能です。以下のようなサインを見逃さないようにしましょう。
- 枝が紡錘形に膨らむ: 幼虫が食入している部分は、紫赤褐色に変色し、ヘビが卵を飲んだように紡錘形に膨らみます。 これは最も分かりやすい被害のサインです。
- 虫糞やヤニの排出: 食入孔からは、糸状につながった虫糞や、茶色いゼリー状の樹液(ヤニ)が排出されます。
- 新梢の生育不良や枯死: 幼虫に食害された新梢は、先端部の生育が止まったり、萎れて枯れたりします。 被害部より先の葉が、季節外れに早く紅葉することもあります。
これらのサインは、ブドウの木が発しているSOSです。日頃からブドウの木の様子をよく観察し、些細な変化にも気づけるようにしておくことが、被害を最小限に食い止めるための第一歩となります。
そもそも発生させない!ブドウスカシバの予防策

一度発生すると駆除が大変なブドウスカシバ。最も理想的なのは、そもそも発生させないことです。ここでは、ブドウスカシバを寄せ付けないための予防策について解説します。日頃の地道な管理が、将来の被害を防ぐことに繋がります。
この章で解説する予防策は以下の通りです。
- 冬の剪定が重要!被害枝の徹底除去
- 周辺環境の整備(ヤマブドウ、エビヅルの管理)
- 予防的な薬剤散布のススメ
- 物理的な侵入防止策(防虫ネットなど)
冬の剪定が重要!被害枝の徹底除去
ブドウスカシバの予防において、冬の休眠期に行う剪定は非常に重要です。 この時期は葉が落ちて枝の状態がよく見えるため、被害箇所を発見しやすいという利点があります。剪定の際には、枝を軽く曲げてみましょう。幼虫が潜んでいる枝は内部が空洞化してもろくなっているため、健康な枝に比べて折れやすくなっています。
少しでも怪しいと感じる膨らみや変色がある枝は、越冬中の幼虫がいる可能性が高いです。これらの被害枝や枯れ枝を徹底的に剪定し、必ず焼却処分することで、翌春の発生源を断つことができます。
周辺環境の整備(ヤマブドウ、エビヅルの管理)
ブドウスカシバは、栽培されているブドウだけでなく、ヤマブドウやエビヅル、ノブドウといった野生のブドウ科植物にも寄生します。 そのため、ブドウ園の周辺にこれらの植物が生えていると、そこが発生源となってブドウスカシバが飛来し、被害が拡大する原因となります。
可能であれば、園の周辺にある野生のブドウ科植物は伐採・除去することが望ましいです。これにより、ブドウスカシバの発生密度を下げ、被害のリスクを低減させることができます。
予防的な薬剤散布のススメ
毎年ブドウスカシバの被害に悩まされている園では、駆除だけでなく予防的な薬剤散布も有効な手段です。成虫が発生し始める前の5月下旬頃に、あらかじめ殺虫剤を散布しておくことで、産卵や幼虫の食入を防ぐ効果が期待できます。
また、冬季に粗皮を削った後、主幹部に薬剤を塗布する方法も効果的です。 この方法は、カイガラムシ類の防除と同時に行うことができ、長期間にわたって効果が持続するとされています。 使用する薬剤や方法は、地域の防除暦などを参考にしてください。
物理的な侵入防止策(防虫ネットなど)
成虫の飛来を物理的に防ぐ方法も有効です。例えば、圃場の周囲や天井を4mm角以下の防虫ネットで覆うことで、成虫の侵入を大幅に減らすことができます。 ネットの設置にはコストと手間がかかりますが、農薬の使用を減らしたい場合には非常に有効な選択肢です。
また、春のうちにブドウの株元の地面を光反射シート(シルバーマルチなど)で覆う方法も、産卵のために飛来したメスの成虫の行動を混乱させ、被害を軽減させる効果が報告されています。 これらの物理的な対策と、剪定や薬剤散布を組み合わせることで、より強固な防除体制を築くことができます。
【要注意】ブドウスカシバと間違いやすい害虫

ブドウの枝幹に被害を与える害虫は、ブドウスカシバだけではありません。よく似た被害をもたらす害虫も存在し、それぞれ生態や防除方法が少しずつ異なります。ここでは、特に間違いやすい「クビアカスカシバ」と「ブドウトラカミキリ」との違いについて解説します。
この章で解説する害虫は以下の通りです。
- クビアカスカシバとの違い
- ブドウトラカミキリとの違い
クビアカスカシバとの違い
クビアカスカシバもブドウスカシバと同じスカシバガ科の仲間で、ブドウの枝幹を食害する点では共通しています。しかし、被害の現れ方に違いがあります。
ブドウスカシバが主に新梢や1〜2年目の若い枝に食入し、枝を膨らませるのに対し、クビアカスカシバは主に主幹部や太い枝の樹皮下を食害します。 被害部からはヤニや虫糞が排出されますが、ブドウスカシバのように枝が紡錘形に膨らむことはあまりありません。 樹勢の低下が著しく、若木の場合は枯死に至ることもある厄介な害虫です。
駆除方法としては、ブドウスカシバと同様に、成虫発生期(6月〜8月)の薬剤散布が基本となります。 粗皮を削ってから薬剤を散布したり、食入孔に直接薬剤を注入したりする方法も有効です。
ブドウトラカミキリとの違い
ブドウトラカミキリはカミキリムシの仲間で、こちらも幼虫がブドウの枝の内部を食害します。 被害を受けた枝が枯れてしまう点もブドウスカシバと似ています。
最大の違いは、ブドウトラカミキリの被害では、食入孔や虫糞、ヤニ(樹液)がほとんど見られないことです。 そのため発見が遅れがちになりますが、被害を受けた枝はブドウスカシバと同様に不自然に膨らんだり、赤紫色に変色したりするので、それが発見の手がかりとなります。 冬の剪定時に、手で折ってみて簡単に折れる枝は、この虫の被害を疑いましょう。
駆除は、冬の剪定時に被害枝を徹底的に除去・処分するのが最も効果的です。 夏(8月〜9月)には成虫に対して薬剤を散布する方法もあります。
ブドウスカシバ駆除に関するよくある質問

ここでは、ブドウスカシバの駆除に関して、多くの方が抱く疑問にお答えします。
ブドウスカシバの幼虫(ブドウムシ)は食べられますか?
ブドウスカシバの幼虫は、通称「ブドウムシ」として知られ、古くから渓流釣りの餌として利用されてきました。 食用として珍重する地域もあるようですが、食用はおすすめできません。特に、農薬を散布しているブドウ園で捕獲した幼虫は、体内に農薬成分が残留している可能性があり危険です。また、寄生虫などのリスクもゼロではありません。
農薬を使わずに駆除する方法はありますか?
はい、あります。本記事の「物理的な駆除方法」で紹介したように、被害枝を剪定して焼却する方法や、針金で幼虫を直接捕殺する方法が有効です。 また、予防策として防虫ネットで成虫の侵入を防いだり、光反射シートを設置したりする方法も農薬を使いません。 これらの方法を組み合わせることで、農薬に頼らずとも被害を抑えることは可能です。
被害にあったブドウの木はもうダメですか?
被害の程度によりますが、早期に発見し、適切に駆除すれば木が枯れるのを防ぐことは十分可能です。 幼虫を駆除した後、食害された部分が大きくても、残った部分から新しい枝が伸びて回復することが多いです。ただし、主幹部などに広範囲の被害を受けて樹勢が著しく弱ってしまった場合は、回復が難しいこともあります。諦めずに、まずは被害枝の除去と幼虫の駆除を徹底しましょう。
スミチオンはブドウスカシバに効きますか?
はい、スミチオン乳剤はブドウスカシバに効果があるとされる農薬の一つです。 家庭園芸でも広く利用されている殺虫剤で、入手しやすいのがメリットです。使用する際は、必ずブドウに登録があることを確認し、ラベルに記載された使用方法(希釈倍率、散布時期など)を厳守してください。
ブドウスカシバの天敵はいますか?
ブドウスカシバの成虫はハチに擬態していますが、鳥などに捕食されることがあります。また、幼虫や蛹の段階では、寄生蜂や寄生バエといった天敵が存在します。しかし、これらの天敵だけでブドウ園のブドウスカシバを完全に抑制するのは難しいのが現状です。天敵の活動を活かすためにも、農薬の使用は必要最小限に留めるなどの配慮が大切になります。
まとめ

- ブドウスカシバはブドウの枝に食入する害虫。
- 被害のサインは枝の膨らみや虫糞の排出。
- 駆除は物理的駆除と農薬散布が基本。
- 物理的駆除は被害枝の剪定・焼却が有効。
- 針金で食入孔から幼虫を直接退治する方法もある。
- 農薬散布は成虫発生期の5月下旬~6月中旬が最適。
- おすすめ農薬はパダン、フェニックス、スミチオンなど。
- 予防には冬の剪定による被害枝の除去が重要。
- 園周辺のヤマブドウなども発生源になるので注意。
- 予防的な薬剤散布や防虫ネットも効果的。
- クビアカスカシバは主幹部、トラカミキリは糞が出ないのが特徴。
- 早期発見・早期対応でブドウの木は守れる。
- 農薬使用時は必ずラベルを確認し規定を守る。
- 被害が広がる前に迅速な行動を心がける。
- 日頃の観察が被害を最小限に抑える鍵。