「患者さんや医師、同僚とのコミュニケーションがうまくいかない…」「自分の意見を伝えられず、いつも我慢してしまう…」看護師の皆さんは、日々多くの人と関わる中で、このような悩みを抱えていませんか?本記事では、そんな悩みを解決する糸口となる「アサーティブコミュニケーション」について、看護の現場に特化して詳しく解説します。アサーティブコミュニケーションを身につけることで、ストレスを軽減し、より質の高い看護を実践できるようになるでしょう。
アサーティブコミュニケーションとは?看護における重要性
アサーティブコミュニケーションとは、自分と相手の双方を尊重しながら、自分の意見や気持ちを正直に、率直に、そして対等に伝えるコミュニケーション方法です。 看護の現場では、患者さんやそのご家族、医師、他の看護師など、様々な立場の人と関わるため、このアサーティブな姿勢が非常に重要になります。
看護師がアサーティブコミュニケーションを実践することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 患者さんとの信頼関係構築
- 医療チーム内での円滑な連携
- 医療安全の向上
- 看護師自身のストレス軽減
- より質の高い看護ケアの提供
しかし、日本の医療現場では、相手に配慮するあまり自分の意見を言えなかったり、逆に強い口調で相手を威圧してしまったりと、アサーティブとは言えないコミュニケーションが見受けられることも少なくありません。 本記事を通して、アサーティブコミュニケーションの具体的な方法を学び、日々の看護実践に活かしていきましょう。
アサーティブではないコミュニケーションの3つのタイプ
アサーティブコミュニケーションをより深く理解するために、まずはアサーティブではないコミュニケーションの典型的な3つのタイプを知っておきましょう。
- アグレッシブ(攻撃的)
- ノンアサーティブ(非主張的)
- 作為的(操作的)
アグレッシブ(攻撃的)なコミュニケーション
アグレッシブタイプは、自分の意見や感情を一方的に相手に押し付け、相手の気持ちや立場を尊重しないコミュニケーションです。 例えば、部下に対して高圧的な態度で指示を出したり、相手の意見を頭ごなしに否定したりするケースがこれにあたります。一見、自分の思い通りに物事を進められているように見えますが、相手に恐怖心や不満を与え、長期的な信頼関係を築くことは困難です。看護の現場では、患者さんや同僚との間に壁を作り、チーム医療の妨げになる可能性があります。
ノンアサーティブ(非主張的)なコミュニケーション
ノンアサーティブタイプは、自分の意見や感情を抑え込み、相手の意見を優先してしまうコミュニケーションです。 言いたいことがあっても「相手に悪いから」「波風を立てたくないから」と我慢してしまいがちです。 その結果、自分の気持ちが満たされず、ストレスを溜め込んでしまうことがあります。 看護の現場では、患者さんの要望を断れなかったり、医師や先輩看護師に意見を言えなかったりすることで、適切なケアが提供できなかったり、自分自身が疲弊してしまったりする可能性があります。
作為的(操作的)なコミュニケーション
作為的タイプは、一見、相手に配慮しているように見せかけながら、遠回しな言い方や皮肉、あるいは相手の罪悪感に訴えかけるような方法で、自分の思い通りに相手をコントロールしようとするコミュニケーションです。 例えば、わざとため息をついて相手に気づかせようとしたり、嫌味を言って相手を不快にさせたりするケースがこれにあたります。このようなコミュニケーションは、相手に不信感を与え、健全な人間関係を築くことを難しくします。看護の現場では、チーム内の雰囲気を悪化させ、円滑な連携を阻害する要因となり得ます。
アサーティブコミュニケーションを実践するための4つの柱
アサーティブコミュニケーションを実践するためには、心の持ち方として4つの柱を意識することが大切です。
- 誠実
- 率直
- 対等
- 自己責任
誠実であること
誠実さとは、自分自身と相手の両方に対して正直であることを意味します。 自分の気持ちに嘘をつかず、相手の気持ちも尊重する姿勢が求められます。意見が対立した場合でも、一方的に自分の意見を押し通したり、逆に自分の意見を押し殺して相手に合わせたりするのではなく、お互いが納得できる着地点を探る努力が大切です。看護の場面では、患者さんの不安な気持ちを受け止めつつ、医療者として伝えるべきことは誠実に伝えるといった姿勢が求められます。
率直であること
率直さとは、自分の考えや気持ちを、飾ることなくありのままに表現することです。 ただし、相手を傷つけたり、不快にさせたりするような言い方は避けなければなりません。主語を「私」にして(アイメッセージ)、「私はこう思う」「私はこう感じている」と伝えることで、相手に威圧感を与えることなく、自分の意見を効果的に伝えることができます。 看護の現場では、曖昧な表現を避け、具体的な言葉で伝えることで、誤解を防ぎ、的確な情報共有につながります。
対等であること
対等さとは、相手の立場や役職、年齢などに関わらず、一人の人間として尊重し、対等な関係を築こうとすることです。 上司や先輩だからといって萎縮したり、逆に部下や後輩だからといって見下したりする態度は、アサーティブなコミュニケーションを妨げます。看護の現場では、医師や他のコメディカルスタッフ、そして患者さんやそのご家族とも、お互いを尊重し合う対等な関係性を築くことが、より良いチーム医療や患者ケアに繋がります。
自己責任を持つこと
自己責任とは、自分の言動とその結果に対して責任を持つことです。 自分の意見を伝えた結果、相手がどのような反応をするか、あるいは状況がどう変化するかは、相手や状況次第であり、全てをコントロールすることはできません。しかし、自分の発言や行動がどのような影響を与える可能性があるかを考慮し、その結果を受け止める覚悟を持つことが大切です。看護の現場では、自分の判断や行動が患者さんの状態に影響を与えることを自覚し、責任感を持って業務に取り組む姿勢が求められます。
看護現場で役立つ!アサーティブコミュニケーションの実践テクニック「DESC法」
アサーティブコミュニケーションを実践する上で非常に有効なテクニックとして「DESC法(デスクほう)」があります。 DESC法は、以下の4つのステップで構成されており、自分の意見を整理し、相手に分かりやすく伝えるのに役立ちます。
- D (Describe):描写する
- E (Express/Explain):表現する・説明する
- S (Specify/Suggest):提案する
- C (Choose/Consequence):選択する・結果を伝える
D (Describe):客観的な事実を描写する
最初のステップは、現在の状況や相手の行動を、評価や批判を交えずに客観的な事実として描写することです。 例えば、「〇〇さんが〇〇と言いました」「〇〇という状況が起きています」のように、具体的な事実のみを伝えます。感情的な表現や主観的な解釈を避けることで、相手は冷静に話を聞き入れる態勢を整えやすくなります。看護の場面では、患者さんの状態や検査データ、医師の指示などを正確に描写することが重要です。
E (Express/Explain):自分の気持ちや考えを表現・説明する
次のステップは、Dで描写した事実に対して、自分がどのように感じているか、あるいは考えているかを率直に表現・説明することです。 ここでは、主語を「私」にしたアイメッセージを用いることが効果的です。「私は(Dの事実に対して)〇〇と感じています」「私は〇〇と考えています」のように伝えます。自分の感情や考えを正直に伝えることで、相手に自分の状況を理解してもらいやすくなります。看護の場面では、患者さんの言動に対して自分が感じたことや、ケアの方針について自分の考えを伝える際に活用できます。
S (Specify/Suggest):具体的な提案をする
3つ目のステップは、問題解決のために、具体的で建設的な提案をすることです。 「〇〇していただけると助かります」「〇〇という方法はいかがでしょうか」のように、相手にしてほしい行動や、代替案を具体的に示します。単に不満を述べたり、相手を批判したりするのではなく、どうすれば状況が改善するのかを一緒に考える姿勢を示すことが大切です。看護の場面では、患者さんへのケア方法の提案や、チームメンバーへの業務改善の提案などに活用できます。
C (Choose/Consequence):相手の反応に応じた選択肢を示す、または結果を伝える
最後のステップは、提案を受け入れてもらえた場合と、受け入れてもらえなかった場合、それぞれの結果(Consequence)を伝えたり、相手に選択肢(Choose)を示したりすることです。 例えば、「もし〇〇していただけるなら、〇〇という良い結果が期待できます。もし難しいようでしたら、〇〇という別の方法も考えられますが、いかがでしょうか」といった形で伝えます。相手に選択の余地を与えることで、一方的な要求という印象を和らげ、協力的な関係を築きやすくなります。看護の場面では、患者さんに治療法の選択肢を提示したり、提案したケアを受け入れてもらえなかった場合の代替案を伝えたりする際に役立ちます。
看護師がアサーティブコミュニケーションを身につけるメリット
看護師がアサーティブコミュニケーションを身につけることで、日々の業務において様々なメリットが得られます。ここでは、代表的なメリットをいくつかご紹介します。
- ストレスの軽減とメンタルヘルスの向上
- チーム医療の質の向上
- 患者さんとのより良い関係構築
- 医療安全への貢献
ストレスの軽減とメンタルヘルスの向上
看護師の仕事は、責任の重さや長時間労働、複雑な人間関係など、多くのストレス要因を抱えています。 アサーティブコミュニケーションを身につけることで、自分の意見や感情を適切に表現できるようになり、言いたいことを我慢してストレスを溜め込むことが少なくなります。 また、相手との間に建設的な対話が生まれることで、誤解や対立を減らし、より円滑な人間関係を築くことができます。 これにより、精神的な負担が軽減され、メンタルヘルスの向上につながります。
チーム医療の質の向上
医療現場では、医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、様々な専門職が連携して患者さんのケアにあたっています。 アサーティブコミュニケーションは、それぞれの専門性を尊重し、対等な立場で意見を交換することを可能にします。 これにより、チーム内での情報共有がスムーズになり、より効果的で質の高い医療を提供できるようになります。また、意見の衝突があった場合でも、建設的な話し合いを通じて、より良い解決策を見出すことができます。
患者さんとのより良い関係構築
患者さんは、病気や怪我に対する不安や恐怖を抱えていることが少なくありません。 看護師がアサーティブな態度で接することで、患者さんは安心感を抱き、自分の気持ちや要望を伝えやすくなります。 また、看護師も患者さんの話を丁寧に聞き、共感し、必要な情報を分かりやすく伝えることで、信頼関係を深めることができます。 このような良好な関係は、患者さんの治療への積極的な参加を促し、より良い治療結果につながる可能性があります。
医療安全への貢献
医療現場におけるコミュニケーションエラーは、医療事故の大きな原因の一つです。 アサーティブコミュニケーションを実践することで、スタッフ間の指示や報告が明確になり、誤解や伝達ミスを防ぐことができます。 また、疑問や懸念がある場合に、遠慮なく意見を言える風通しの良い職場環境は、ヒヤリハット事例の早期発見や、医療事故の未然防止に繋がります。 看護師一人ひとりがアサーティブな姿勢を持つことが、医療安全文化の醸成に不可欠です。
アサーティブコミュニケーションを学ぶためのおすすめの方法
アサーティブコミュニケーションは、意識してトレーニングすることで誰でも身につけることができるスキルです。ここでは、学習に役立つ方法をいくつかご紹介します。
- 書籍やオンライン記事で学ぶ
- 研修やセミナーに参加する
- ロールプレイングで実践練習する
書籍やオンライン記事で学ぶ
アサーティブコミュニケーションに関する書籍や解説記事は数多く出版されています。 看護師向けに特化した内容のものや、具体的な事例を交えて分かりやすく解説しているものなど、自分に合ったものを選んで学習を進めることができます。 アサーティブジャパンなどの専門機関のウェブサイトも参考になるでしょう。 まずは基本的な知識を身につけたいという方におすすめです。
研修やセミナーに参加する
医療機関や看護協会、民間企業などが主催するアサーティブコミュニケーションの研修やセミナーに参加するのも効果的です。 専門の講師から直接指導を受けることで、より深く理解することができますし、他の参加者とのグループワークを通じて実践的なスキルを磨くことも可能です。 職場によっては、院内研修として実施している場合もあるので、確認してみると良いでしょう。
ロールプレイングで実践練習する
知識を身につけるだけでなく、実際に声に出して練習することが重要です。 同僚や友人に協力してもらい、看護現場で起こりがちな場面を想定したロールプレイングを行うことで、アサーティブな表現方法が自然と身についていきます。DESC法などのフレームワークを活用しながら、様々な状況でどのように伝えれば良いかを試行錯誤してみましょう。最初はうまくいかなくても、繰り返し練習することで上達していきます。
よくある質問
ここでは、アサーティブコミュニケーションに関してよく寄せられる質問とその回答をご紹介します。
アサーティブコミュニケーションは、誰に対しても使うべきですか?
はい、アサーティブコミュニケーションは、相手の立場や状況に関わらず、基本的に誰に対しても有効なコミュニケーション方法です。 上司や部下、同僚、患者さん、ご家族など、関わる全ての人に対してアサーティブな態度で接することで、より良い人間関係を築き、円滑なコミュニケーションを図ることができます。ただし、相手や状況によっては、表現方法を調整する必要がある場合もあります。
自分の意見を主張すると、わがままだと思われませんか?
アサーティブコミュニケーションは、単に自分の意見を押し通すことではありません。 相手の意見や感情も尊重した上で、自分の考えを伝える方法です。 誠実かつ率直に、そして対等な立場で伝えることで、相手に「わがまま」という印象を与えるのではなく、「建設的な意見交換」と捉えてもらいやすくなります。伝え方次第で、相手の受け取り方は大きく変わることを覚えておきましょう。
すぐにアサーティブになるのは難しいです。どうすれば良いですか?
アサーティブコミュニケーションは、一朝一夕に身につくものではありません。 まずは、アサーティブコミュニケーションの考え方を理解し、日々のコミュニケーションの中で少しずつ意識することから始めましょう。 最初はうまくいかないこともあるかもしれませんが、諦めずに練習を続けることが大切です。DESC法などの具体的なテクニックを活用したり、信頼できる人にフィードバックをもらったりしながら、徐々にスキルアップを目指しましょう。
アサーティブコミュニケーションとアサーションは同じ意味ですか?
アサーション(Assertion)は「自己主張」や「断言」といった行為そのものを指す名詞です。 一方、アサーティブ(Assertive)は「自己主張する」「断定的な」といった形容詞で、人の性格や状態を表します。 コミュニケーションの文脈では、どちらも「相手を尊重しつつ自己主張する手法」として使われることが多く、ほぼ同義と捉えて問題ありません。 アサーティブコミュニケーションは、アサーションを行うための一つの方法論と理解すると良いでしょう。
アサーティブコミュニケーションの研修はどこで受けられますか?
アサーティブコミュニケーションの研修は、医療機関や看護協会、民間の研修会社などが開催しています。 例えば、インソース社では看護師向けのコミュニケーション研修を提供しており、その中でアサーティブな話し方についても触れられています。 また、メデュケーションのようなオンラインセミナーを提供しているサービスもあります。 勤務先の病院や地域の看護協会、インターネットなどで情報を探してみると良いでしょう。
アサーティブコミュニケーションを学ぶのにおすすめの本はありますか?
アサーティブコミュニケーションに関する書籍は多数出版されています。 看護師向けとしては、日総研出版の「主任看護師 お悩み解決!(思考と行動)」や金子書房の「ナースのためのアサーション」などがあります。 また、アサーティブジャパンが出版している書籍や、マンガで分かりやすく解説された入門書なども手に取りやすいでしょう。 自分のレベルや目的に合った本を選んでみてください。
まとめ
- アサーティブコミュニケーションは看護師にとって不可欠なスキルです。
- 自分と相手を尊重し、正直・率直・対等に伝えることが基本です。
- アグレッシブ、ノンアサーティブ、作為的は避けたい表現です。
- 「誠実」「率直」「対等」「自己責任」の4つの柱を意識しましょう。
- DESC法は実践的なテクニックとして有効です。
- ストレス軽減やチーム医療の質向上に繋がります。
- 患者さんとの信頼関係構築にも役立ちます。
- 医療安全への貢献も期待できます。
- 書籍や研修、ロールプレイングで学ぶことができます。
- 誰に対しても使うべき基本的なコミュニケーション方法です。
- わがままではなく、建設的な意見交換を目指します。
- すぐにできなくても、練習を続けることが大切です。
- アサーションとほぼ同義で使われます。
- 研修は医療機関や看護協会、民間企業などで開催されています。
- 看護師向けや入門者向けなど、様々な書籍があります。