大切に育てている植物に、春になるとどこからともなく現れるアブラムシ。気づいたときにはびっしりと群がっていて、がっかりした経験はありませんか?実は、その春の大発生の根源は、冬の間に産み付けられた「卵」にあるかもしれません。アブラムシの被害を最小限に抑えるには、成虫の駆除だけでなく、越冬する卵の段階で対策を講じることが非常に重要です。本記事では、アブラムシの卵の見つけ方から、効果的な駆除方法、そして今後の発生を防ぐための予防策まで、詳しく解説していきます。
放置は危険!アブラムシの卵がもたらす深刻な被害

冬の間に見過ごされがちなアブラムシの卵ですが、これを放置してしまうと春以降に様々な問題を引き起こします。なぜ卵の段階で駆除することが重要なのか、その理由を具体的に見ていきましょう。
- 春に大発生!驚異の繁殖力
- 植物が弱る直接的な被害
- 病気を広める間接的な被害
春に大発生!驚異の繁殖力
アブラムシの最も恐ろしい点は、その驚異的な繁殖力にあります。 暖かい地域では一年中活動することもありますが、多くの地域では秋に産み付けられた卵が冬を越し、春に孵化します。 春になると、孵化したアブラムシはなんとメスだけで子どもを産む「単為生殖」を行い、爆発的に数を増やしていくのです。 幼虫はわずか10日ほどで成虫になり、またすぐに子どもを産み始めるため、1匹の取り逃がしが、あっという間に数千、数万匹の大群につながる可能性があります。 冬の間に卵を駆除しておくことが、春の悪夢を防ぐための最も効果的な一手と言えるでしょう。
このサイクルを知ると、春先の急な大発生も納得がいきます。卵のうちに対処することが、いかに効率的かが分かりますね。
植物が弱る直接的な被害
アブラムシは植物の茎や葉、特に柔らかい新芽などに口針を突き刺し、養分である師管液を吸って生活しています。 1匹や2匹では大きな影響はありませんが、大群に養分を吸われると植物は深刻なダメージを受けます。栄養を奪われた植物は生育が著しく阻害され、葉が縮れたり、花が咲かなくなったり、最悪の場合は枯れてしまうこともあります。 大切に育てている花や野菜が、アブラムシのせいで元気をなくしてしまうのは、とても悲しいことです。
病気を広める間接的な被害
アブラムシの被害は、吸汁による直接的なものだけではありません。ウイルス病を媒介するという、さらに厄介な問題を引き起こします。 アブラムシがウイルスに感染した植物の汁を吸い、その後で健康な植物に移動して汁を吸うことで、病気を次々と広めてしまうのです。代表的なものに「モザイク病」があり、葉にまだら模様が現れ、一度かかると治療法はありません。
さらに、アブラムシの排泄物である甘い「甘露」は、「すす病」というカビの一種を繁殖させる原因となります。 すす病になると葉や幹が黒いススで覆われたようになり、光合成が妨げられて植物の生育がさらに悪化します。 また、この甘露はアリの大好物でもあるため、アリを呼び寄せてしまう原因にもなります。アリはアブラムシの天敵であるテントウムシなどを追い払ってしまうため、結果的にアブラムシがさらに繁殖しやすい環境を作ってしまうのです。
アブラムシの卵はいつどこに?見つけ方と特徴

効果的に駆除するためには、まず敵であるアブラムシの卵が「いつ」「どこに」産み付けられるのかを知ることが不可欠です。ここでは、卵を見つけるための具体的なポイントを解説します。
- 越冬卵が産み付けられる時期
- 卵を見つけるべき場所
- アブラムシの卵の見た目
越冬卵が産み付けられる時期
アブラムシが冬を越すための卵(越冬卵)を産むのは、主に秋、気温が下がり始める10月から11月頃です。 この時期になると、それまでメスだけで繁殖していたアブラムシの集団にオスが出現し、交尾を行って冬に備えて卵を産みます。 したがって、卵の駆除に最も適した時期は、植物の葉が落ちて枝や幹が見やすくなる晩秋から冬の間、特に12月から2月の休眠期です。
卵を見つけるべき場所
アブラムシは、春に孵化した幼虫がすぐに新芽を食べられるように、戦略的に卵を産み付けます。重点的にチェックすべき場所は以下の通りです。
- 木の幹や枝の分かれ目、付け根
- 冬芽や花芽のすぐそば
- 樹皮の割れ目や隙間
特にバラやウメ、サクラ、ケヤキなどの落葉樹は、冬になると枝だけになるため卵を見つけやすいです。常緑樹の場合も、枝の付け根などを念入りに観察してみてください。
アブラムシの卵の見た目
アブラムシの卵は非常に小さいですが、肉眼で確認することは可能です。特徴は以下の通りです。
- 大きさ:0.5mm程度
- 色:産み付けられた直後は黄色やオレンジ色ですが、時間が経つと光沢のある黒色に変化します。
- 形状:楕円形やラグビーボールのような形をしています。
- 産み付けられ方:1粒ずつではなく、数十個から数百個が塊になって産み付けられていることが多いです。
黒くて光沢のある小さな粒が密集していたら、それはアブラムシの卵である可能性が非常に高いでしょう。見つけ次第、すぐに対処することが重要です。
冬が勝負!アブラムシの卵を駆除する最強の方法

アブラムシの卵を発見したら、春に孵化する前に駆除しましょう。冬の休眠期に行うことで、植物への負担も少なく、効率的に作業を進めることができます。ここでは、卵に効果的な駆除方法を具体的に紹介します。
- 物理的に卵をこすり落とす
- 【農薬】マシン油乳剤で卵を窒息させる
- 【農薬】孵化後を見据えた浸透移行性剤
物理的に卵をこすり落とす
最も手軽で確実な方法が、物理的に卵をこすり落としてしまうことです。薬剤を使いたくない場合や、卵の数が少ない場合に特におすすめです。使い古しの歯ブラシや、木製のヘラ、布などを使って、樹皮を傷つけないように優しくこすり落としましょう。
注意点として、こすり落とした卵をその場に残しておかないことが重要です。 地面に落ちた卵から孵化する可能性は低いですが、念のため集めてビニール袋などに入れて処分するとより安心です。また、卵が産み付けられている枝が細い場合は、その部分を剪定して取り除いてしまうのも良い方法です。
【農薬】マシン油乳剤で卵を窒息させる
広範囲に卵が産み付けられている場合や、物理的な駆除が難しい場合には、薬剤の使用が効果的です。特にアブラムシの越冬卵に対して絶大な効果を発揮するのが「マシン油乳剤」です。
マシン油乳剤とは?
マシン油乳剤は、有効成分であるマシン油が卵の表面を油膜で覆い、呼吸をできなくさせて窒息死させる薬剤です。 殺虫成分で殺すのではなく物理的に作用するため、薬剤抵抗性がつきにくいというメリットがあります。カイガラムシの越冬卵にも効果があるため、冬の庭木の手入れには欠かせない薬剤の一つです。
正しい使い方と散布時期
マシン油乳剤を使用する上で最も重要なのは、必ず植物の「休眠期」に散布することです。 具体的には、落葉樹の葉が完全に落ちた12月~2月頃が適期です。植物が活動している時期に散布すると、油膜が新芽や葉の気孔を塞いでしまい、薬害(生育不良や枯れ)を引き起こす可能性があるため絶対に避けてください。
使用する際は、製品のラベルに記載されている希釈倍率を厳守し、水でよく薄めてから散布します。卵が付着している枝や幹を中心に、全体がしっとりと濡れるように丁寧に散布するのがコツです。
使用上の注意点
- 必ず休眠期に使用し、新芽が出始めたら使用しない。
- 気温が高い日や、風が強い日の散布は避ける。
- 皮膚や目、衣服に付着しないよう、マスク、ゴーグル、手袋などを着用する。
- 自動車や壁などにかかるとシミになることがあるため、周囲に注意して散布する。
代表的な商品には、住友化学園芸の「マシン油乳剤」などがあります。
【農薬】孵化後を見据えた浸透移行性剤
マシン油乳剤は卵に効果的ですが、万が一駆除しきれなかった卵が春に孵化した場合に備えて、もう一手間加えておくと安心です。それが「浸透移行性剤」の使用です。
代表的なものに「オルトラン粒剤」などがあります。 このタイプの薬剤は、株元の土に撒くことで有効成分が根から吸収され、植物全体に行き渡ります。 卵に直接効果はありませんが、孵化した幼虫が植物の汁を吸うと、一緒に薬剤の成分も取り込んで死んでしまいます。 早春、芽が動き出す少し前に土に撒いておくと、春先のアブラムシの被害を効果的に防ぐことができます。
春になってしまったら?アブラムシの成虫・幼虫の駆除方法

冬の卵対策を逃してしまい、春にアブラムシが発生してしまった場合でも、諦める必要はありません。数が少ないうちであれば、様々な方法で対処可能です。ここでは、成虫や幼虫に効果的な駆除方法をご紹介します。
- 【無農薬】家庭でできる自然派駆除
- 【農薬】即効性が期待できる殺虫剤
- 物理的に取り除く
【無農薬】家庭でできる自然派駆除
野菜など口にする植物や、小さなお子様やペットがいるご家庭では、できるだけ農薬を使いたくないものです。身近なものでできる駆除方法をいくつかご紹介します。
- 牛乳スプレー:牛乳を水で薄めずにスプレーし、乾いた後に水で洗い流します。牛乳の膜がアブラムシの気門(呼吸する穴)を塞ぎ、窒息させる効果があります。
- 石鹸水スプレー:食器用洗剤などを数滴水で薄めてスプレーします。牛乳と同様に窒息効果が期待できます。
- 木酢液スプレー:木酢液や竹酢液を規定の倍率に薄めて散布します。殺虫効果は弱いですが、独特の燻製のような香りをアブラムシが嫌うため、忌避効果が期待できます。
これらの方法は、アブラムシの数が少ない初期段階で効果を発揮します。散布後は、植物への影響を避けるためにも、水で洗い流すことを忘れないようにしましょう。
【農薬】即効性が期待できる殺虫剤
アブラムシが大量に発生してしまった場合は、やはり農薬(殺虫剤)の使用が最も手早く確実です。園芸店やホームセンターでは、様々な種類の殺虫スプレーが販売されています。
「ベニカXネクストスプレー」などの商品は、アブラムシだけでなく、他の害虫や病気にも効果があるため、一本持っておくと便利です。 スプレータイプは希釈の手間がなく、見つけたらすぐに使える手軽さが魅力です。葉の裏など、アブラムシが隠れやすい場所にもしっかりと散布しましょう。 野菜に使用する場合は、収穫前日まで使えるかなど、製品のラベルをよく確認して使用してください。
物理的に取り除く
数が少ないうちであれば、原始的な方法も有効です。粘着テープを手に巻き、ペタペタとアブラムシを貼り付けて取り除く方法や、ホースの水流で洗い流す方法があります。 ただし、水圧が強すぎると植物を傷めてしまう可能性があるので注意が必要です。こすり落とす場合は、歯ブラシなどで優しく行いましょう。
もう増やさない!アブラムシを寄せ付けない予防策

駆除と合わせて行いたいのが、そもそもアブラムシを寄せ付けないための環境づくりです。日頃のちょっとした心がけで、アブラムシの発生を大幅に減らすことができます。
- 天敵を味方につける
- コンパニオンプランツを活用する
- キラキラ光るもので寄せ付けない
- 風通しの良い環境を保つ
- 肥料の与えすぎに注意
天敵を味方につける
自然界にはアブラムシを食べてくれる頼もしい味方がいます。その代表格がテントウムシです。成虫も幼虫もアブラムシを大好物としており、たくさんのアブラムシを食べてくれます。 むやみに殺虫剤を使うと、こうした益虫まで殺してしまうことになるので注意が必要です。 他にもヒラタアブの幼虫や寄生バチなども天敵として知られています。
コンパニオンプランツを活用する
特定の植物を一緒に植えることで、害虫を遠ざける効果が期待できる「コンパニオンプランツ」も有効です。アブラムシは、マリーゴールドやミント、カモミール、セージなどのハーブの香りを嫌う傾向があります。 バラや野菜の株元にこれらの植物を植えておくと、アブラムシが寄ってくるのを防ぐ助けになります。
キラキラ光るもので寄せ付けない
アブラムシはキラキラと乱反射する光を嫌う性質があります。 この性質を利用して、株元にシルバーマルチを敷いたり、アルミホイルを細く切って枝に吊るしたりすると、アブラムシが寄り付きにくくなります。 特に野菜を育てる際には効果的な方法です。
風通しの良い環境を保つ
アブラムシは、日当たりが悪く、風通しの悪いジメジメした環境を好みます。 葉が茂りすぎて混み合っている場所は、アブラムシにとって絶好の隠れ家になってしまいます。定期的に剪定を行い、株全体の風通しと日当たりを良く保つことが、アブラムシの発生しにくい環境を作る基本です。
肥料の与えすぎに注意
植物を元気に育てようと良かれと思って与える肥料が、実はアブラムシを呼び寄せている可能性があります。特に、葉や茎の成長を促す「窒素(チッソ)成分」の多い肥料を与えすぎると、植物体内のアミノ酸が増え、それを好むアブラムシが集まりやすくなります。 肥料は規定量を守り、与えすぎないように注意しましょう。
よくある質問

Q. アブラムシの卵に木酢液は効きますか?
A. 木酢液には、卵を直接殺すような殺虫効果はほとんど期待できません。 しかし、アブラムシが嫌う燻製のような匂いがあるため、成虫が卵を産み付けるのをためらわせる忌避効果は期待できます。 卵の駆除というよりは、秋の産卵時期に散布して、産卵を防ぐ「予防」として使うのが良いでしょう。
Q. アブラムシの卵は肉眼で見えますか?
A. はい、見えます。大きさは0.5mm程度と非常に小さいですが、光沢のある黒い粒で、多くは塊になっているため、注意深く観察すれば見つけることは可能です。 特に落葉樹の葉が落ちた冬場は、枝や幹をじっくりと見て探してみてください。
Q. 駆除した卵はどうすればいいですか?
A. 歯ブラシなどでこすり落とした卵は、そのまま地面に放置せず、ビニール袋などに入れて口を縛り、燃えるゴミとして処分するのが最も確実です。剪定した枝に付いている場合も同様に処分しましょう。再び植物に戻らないように、適切に処理することが大切です。
Q. 暖かい地域でも卵を産みますか?
A. 比較的暖かい地域では、アブラムシは卵を産まずに成虫や幼虫の姿のまま冬を越す種類も多くいます。 しかし、種類によっては暖かい地域でも交尾をして越冬卵を産むものもいます。 お住まいの地域に関わらず、冬の間に一度、庭木や鉢植えの植物の枝や幹をチェックしてみることをおすすめします。
まとめ

- アブラムシの卵は秋に産み付けられ、冬を越す。
- 卵を放置すると春に大発生し、植物に深刻な被害をもたらす。
- 卵は光沢のある黒い粒で、木の幹や枝の付け根に多い。
- 冬の休眠期に歯ブラシなどで物理的にこすり落とすのが効果的。
- 薬剤を使うなら、休眠期に「マシン油乳剤」を散布する。
- 春の孵化に備え、「オルトラン粒剤」を土に撒くのも有効。
- 春に発生した成虫には、牛乳スプレーや殺虫剤で対処する。
- 予防には、風通しを良くし、窒素肥料を控えることが基本。
- 天敵のテントウムシを大切にし、コンパニオンプランツも活用する。
- シルバーマルチなどの光るものでアブラムシを寄せ付けない。
- 木酢液は卵の駆除より、成虫の忌避(予防)に効果が期待できる。
- 駆除した卵や枝は、適切に処分して再発を防ぐ。
- アブラムシ対策は、冬の卵駆除が最も重要で効率的。
- 植物の種類や状況に合わせて、最適な駆除・予防方法を選ぶ。
- 日頃から植物をよく観察し、早期発見・早期対処を心がける。