「年を取ると頑固になる」「涙もろくなる」など、私たちは加齢に伴う心理的な変化について、漠然としたイメージを持っています。しかし、具体的にどのような変化が、なぜ起こるのでしょうか？本記事では、加齢に伴う心理的変化の具体的な特徴、その原因、そして私たちがどのように向き合っていくべきか、ポジティブな側面も含めて詳しく解説します。ご自身の変化や、身近な高齢者の方への理解を深める一助となれば幸いです。
加齢に伴う心理的変化とは？主な特徴を知ろう
加齢は、身体的な変化だけでなく、心理面にも様々な変化をもたらします。これらの変化は個人差が大きいものの、一般的に見られる傾向があります。ここでは、主な心理的変化の特徴について見ていきましょう。
- 感情の変化
- 認知機能の変化
- 意欲・関心の変化
- 性格の変化
感情の変化：丸くなる？頑固になる？
加齢に伴う感情の変化は、「感情の複雑化」と表現されることがあります。若い頃のような激しい感情の起伏は少なくなる一方で、些細なことで感動したり、逆に怒りっぽくなったりと、一見矛盾するような変化が見られることがあります。
一般的に、高齢になると経験を通じて感情をコントロールする能力が高まると言われています。 そのため、些細なことでは動じなくなり、精神的に安定し「丸くなった」と感じられることがあります。他者への共感性が高まることもあります。
一方で、「頑固になった」「怒りっぽくなった」と感じられる側面もあります。これは、長年の経験から培われた価値観や考え方を変えることに抵抗を感じたり、身体的な不調や社会的な役割の変化によるストレス、あるいは脳機能の変化などが影響している可能性があります。 また、聴力の低下などにより、コミュニケーションがうまくいかず、イライラしやすくなるケースも考えられます。
さらに、過去の出来事を思い出して懐かしんだり、喪失体験（配偶者や友人との死別、健康や役割の喪失など）から悲しみや寂しさを感じやすくなることも、老年期における感情の特徴と言えるでしょう。
認知機能の変化：記憶力や判断力の低下？
加齢に伴い、認知機能にも変化が現れます。特に、新しい情報を記憶する能力（記銘力）や、複数の情報の中から必要な情報を選び出して処理する能力、素早い判断力（流動性知能）などは、年齢とともに低下する傾向が見られます。 「人の名前が思い出せない」「うっかりミスが増えた」といった経験は、多くの方が感じることでしょう。
しかし、すべての認知機能が低下するわけではありません。長年の経験や学習によって獲得された知識や知恵、言語能力、総合的な判断力（結晶性知能）などは、比較的高齢になっても維持されやすい、あるいは向上することもあります。 例えば、語彙力や、複雑な問題を多角的に捉えて解決策を見出す能力などは、経験とともに豊かになる可能性があります。
注意したいのは、加齢による自然な物忘れと、認知症による記憶障害は異なるということです。認知症の場合は、体験したこと自体を忘れてしまうなど、日常生活に支障をきたすような記憶障害が見られます。物忘れが気になる場合は、専門医に相談することが大切です。
意欲・関心の変化：新しいことへの挑戦意欲は？
加齢に伴い、意欲や関心の対象が変化することがあります。若い頃のように、新しい知識やスキルを積極的に学んだり、未知の分野に挑戦したりする意欲は、低下する傾向が見られるかもしれません。これは、体力的な衰えや、新しい環境への適応に対する不安などが影響している可能性があります。
また、興味や関心の範囲が、より身近な事柄や、内面的な世界に向かう傾向も見られます。例えば、社会的な成功や評価よりも、家族や親しい友人との関係、趣味や自己探求といった、個人的な満足感を重視するようになることがあります。 これは、人生の残り時間を意識し、自分にとって本当に大切なものを選び取ろうとする心理的な働きとも考えられます。
しかし、すべての高齢者の意欲が低下するわけではありません。定年退職後も新しい活動に積極的に参加したり、生涯学習に取り組んだりする方も多くいます。意欲の維持には、健康状態、経済状況、社会的なつながり、個人の性格など、様々な要因が関わっています。
性格の変化：内向的になる？自己中心的になる？
「年を取ると性格が変わる」と言われることがありますが、基本的な性格（パーソナリティ）の核となる部分は、生涯を通じて比較的安定していると考えられています。 しかし、加齢に伴う様々な経験や環境の変化によって、行動パターンや考え方、人との接し方などが変化し、結果として「性格が変わった」ように見えることがあります。
一般的に見られる傾向としては、内向性が強まることが挙げられます。社会的な活動範囲が狭まったり、身体的な制約が増えたりすることで、関心が自分の内面や身近な環境に向かいやすくなるためと考えられます。
また、「自己中心的になった」「頑固になった」と見られることもあります。これは、自分の意見や価値観を強く主張するようになったり、他者の意見に耳を傾けにくくなったりする傾向を指します。背景には、聴力の低下によるコミュニケーション不足、認知機能の変化による状況理解の困難さ、あるいは、これまでの人生で培ってきた自信や自律性を守ろうとする心理が働いている可能性も指摘されています。
一方で、他者への依存性が高まったり、逆に警戒心が強くなったりする変化が見られることもあります。これらの変化は、個人の経験や健康状態、社会的環境などによって多様な現れ方をします。
なぜ加齢によって心理的な変化が起こるのか？その原因
加齢に伴う心理的変化は、単一の原因で起こるわけではありません。生理的・身体的な要因、社会的・環境的な要因、そして心理的な要因が複雑に絡み合って影響しています。これらの原因を理解することで、変化への向き合い方を考えるヒントが得られます。
- 生理的・身体的な要因
- 社会的・環境的な要因
- 心理的な要因
生理的・身体的な要因：脳機能の変化やホルモンバランス
加齢に伴う心理的変化の背景には、避けられない生理的・身体的な変化が存在します。最も大きな要因の一つが、脳機能の変化です。脳の神経細胞は年齢とともに少しずつ減少し、神経伝達物質の働きも変化します。特に、記憶や学習に関わる海馬や、意欲や感情のコントロールに関わる前頭葉の機能低下は、認知機能の変化や感情の不安定さにつながる可能性があります。
また、ホルモンバランスの変化も影響します。例えば、性ホルモン（エストロゲンやテストステロン）の減少は、意欲の低下や気分の落ち込みに関係することがあります。ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌リズムの変化も、睡眠障害や気分の変動に影響を与える可能性があります。
さらに、視力や聴力などの感覚機能の低下は、外部からの情報収集を困難にし、コミュニケーションの障壁となることがあります。これが、孤立感や不安感を強めたり、誤解からくるイライラを引き起こしたりする原因にもなり得ます。慢性的な病気や身体的な痛みも、気分の落ち込みや活動意欲の低下につながる重要な要因です。
社会的・環境的な要因：退職、役割の変化、人間関係の変化
私たちの心理状態は、社会的な役割や周囲の環境によっても大きく左右されます。加齢に伴うライフイベントは、心理面に大きな影響を与える要因となります。
代表的なものが退職です。長年勤めてきた仕事から離れることで、社会的役割や収入、規則正しい生活リズム、同僚との人間関係などを失うことになります。これは、アイデンティティの喪失感や、社会からの孤立感、経済的な不安などを引き起こす可能性があります。
また、子供の独立や、配偶者や親しい友人との死別といった人間関係の変化も、大きな喪失体験となります。特に、長年連れ添った配偶者を亡くすことは、深い悲しみや孤独感をもたらし、生活意欲の低下につながることがあります。 地域社会での役割の変化や、親しい人との別れは、精神的な支えを失うことにもなりかねません。
住み慣れた家からの転居や、身体的な衰えによる活動範囲の縮小なども、環境の変化として心理面に影響を与えます。これらの変化への適応がうまくいかない場合、ストレスや不安感が増大し、心理的な不調につながることがあります。
心理的な要因：死への意識、人生の振り返り
老年期は、人生の最終段階として、自身の死を意識する機会が増える時期でもあります。 死への意識は、不安や恐れを引き起こす一方で、残された時間をどのように生きるか、人生の意味を問い直すきっかけにもなります。
また、これまでの人生を振り返り、達成できたことや後悔していることなどを整理し、統合しようとする心理的な働き（人生回顧）が見られます。 このプロセスを通じて、自分の人生を肯定的に受け入れ、心の平安を得ようとします。心理学者のエリク・エリクソンは、老年期の発達課題を「統合 vs 絶望」と提唱しました。 人生を肯定的に統合できた場合、賢さや受容といった感覚（統合）に至りますが、後悔や未解決の課題が多いと感じる場合、絶望や嫌悪感にとらわれる可能性があるとしています。
過去の成功体験や失敗体験、人間関係などが、現在の心理状態にも影響を与えます。例えば、若い頃に困難を乗り越えた経験は、老年期のストレス対処能力を高める可能性があります。逆に、過去のトラウマや未解決の葛藤が、老年期になって再燃することもあります。
加齢に伴う心理的変化のポジティブな側面
加齢に伴う変化は、ネガティブな側面ばかりではありません。むしろ、年齢を重ねることで得られる豊かさや強みも数多く存在します。ここでは、加齢がもたらすポジティブな心理的側面に着目してみましょう。
- 経験に裏打ちされた知恵（結晶性知能）の向上
- 感情コントロール能力の向上
- 人生の統合と受容
- 次世代への貢献意欲（世代性）
経験に裏打ちされた知恵（結晶性知能）の向上
前述したように、加齢によって低下しやすい認知機能（流動性知能）がある一方で、経験や学習を通じて蓄積される知識や判断力（結晶性知能）は、維持されたり、むしろ向上したりすることがあります。 長い人生経験の中で培われた知識、語彙力、問題解決能力、そして物事を大局的に捉える力は、まさに「年の功」と言えるでしょう。
例えば、複雑な人間関係の機微を理解したり、過去の経験から学び、より適切な判断を下したりする能力は、若い世代にはない強みです。様々な困難を乗り越えてきた経験は、物事を多角的に捉え、本質を見抜く洞察力を育みます。これは「知恵」とも呼ばれ、人生の様々な場面で活かされる貴重な財産となります。
このような結晶性知能の高さは、社会的な場面だけでなく、個人の内面的な豊かさにもつながります。深い知識や理解は、物事への興味関心を維持し、精神的な充足感をもたらしてくれるでしょう。
感情コントロール能力の向上
一般的に、高齢者は若い世代に比べて、感情のコントロールが上手になると言われています。 これは、長年の経験を通じて、自分の感情を客観的に認識し、適切に対処する方法を学んできた結果と考えられます。些細なことで動揺したり、感情的な反応に振り回されたりすることが少なくなり、より冷静かつ穏やかに物事に対応できるようになります。
また、ポジティブな感情を維持しようとする傾向（ポジティビティ効果）も指摘されています。 人生の残り時間が限られていることを意識することで、ネガティブな情報よりもポジティブな情報に注意を向け、心地よい感情を優先しようとする心理が働くと言われています。これにより、主観的な幸福感が高まる可能性があります。
もちろん、個人差はありますが、感情の波に乗りこなし、精神的な安定を保つ能力は、加齢に伴うポジティブな変化の一つと言えるでしょう。
人生の統合と受容
老年期は、これまでの人生を振り返り、その意味を見出し、受け入れていく時期でもあります。 成功体験だけでなく、失敗や後悔も含めて、自分の歩んできた道のりを肯定的に捉え、現在の自分自身を受容することで、心の平安や充足感を得ることができます。これが、エリクソンの言う「統合」の状態です。
人生を統合できた人は、死に対する過度な恐れから解放され、穏やかな心境で残りの人生を過ごすことができると言われています。また、過去の経験から得た知恵や教訓を、現在の生活や人間関係に活かすこともできます。
このプロセスは、必ずしも容易ではありませんが、自分自身の人生を深く理解し、価値を見出すという、非常に意義深い精神的な成熟の過程と言えるでしょう。
次世代への貢献意欲（世代性）
エリクソンは、中年期の発達課題として「世代性 vs 停滞」を挙げていますが、この「世代性（ジェネラティビティ）」、すなわち次の世代を育て、社会に貢献したいという欲求は、老年期においても重要な意味を持ちます。 子育てや仕事を通じて次世代育成に関わってきた経験を持つ人は、退職後も、地域活動やボランティア、孫の世話などを通じて、自分の知識や経験を活かし、社会とのつながりを保とうとすることがあります。
自分の存在が誰かの役に立っている、社会に貢献しているという感覚は、生きがいや自己肯定感につながり、精神的な健康を支える重要な要素となります。また、次世代との交流は、新たな刺激や学びの機会をもたらし、活力を与えてくれるでしょう。
世代性は、単に他者のためだけでなく、自分自身の人生を豊かにし、肯定的に老いるための重要な鍵となると考えられています。
加齢に伴う心理的変化と上手に付き合うためのヒント
加齢に伴う心理的変化は、誰にでも起こりうることです。大切なのは、その変化を理解し、上手に付き合っていくことです。ここでは、ご自身や身近な人が、より良く年齢を重ねていくためのヒントをいくつかご紹介します。
- 変化を受け入れ、肯定的に捉える
- 健康的な生活習慣を維持する
- 社会的なつながりを保つ
- 新しい学びや趣味を見つける
- 必要であれば専門家のサポートを求める
変化を受け入れ、肯定的に捉える
まず大切なのは、加齢による心身の変化を自然なこととして受け入れることです。「昔はできたのに」と過去と比較して落ち込んだり、変化に抗おうとしたりするのではなく、「今の自分にできること」に目を向ける姿勢が重要です。
心理的な変化には、前述したようにポジティブな側面も多くあります。経験から得た知恵や、感情コントロール能力の向上など、年齢を重ねたからこその強みを意識し、肯定的に捉えましょう。物忘れが増えたとしても、「まあ、仕方ないか」とユーモアを持って受け流すくらいの気持ちの余裕も大切です。
変化を否定的に捉えるのではなく、それも自分の一部として受け入れ、今の自分らしい生き方を見つけていくことが、心の安定につながります。
健康的な生活習慣を維持する
心の健康は、体の健康と密接に関係しています。バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠は、脳機能の維持や気分の安定に不可欠です。
特に、ウォーキングなどの有酸素運動は、脳の血流を改善し、認知機能の維持や気分の向上に効果があることが知られています。 無理のない範囲で、体を動かす習慣を取り入れましょう。
また、栄養バランスの取れた食事は、生活習慣病の予防だけでなく、脳の健康維持にも重要です。十分な睡眠は、心身の疲労回復や記憶の定着に役立ちます。規則正しい生活リズムを心がけ、心身ともに健康な状態を保つことが、心理的な安定の基盤となります。
社会的なつながりを保つ
孤立は、高齢者の心身の健康にとって大きなリスクとなります。 家族や友人、地域の人々との交流は、精神的な支えとなり、孤独感を軽減してくれます。積極的に人と関わる機会を持ちましょう。
趣味のサークルやボランティア活動、地域のイベントなどに参加するのも良いでしょう。共通の関心を持つ仲間との交流は、新たな刺激や楽しみをもたらし、生活に張りを与えてくれます。役割を持つことで、自己肯定感や生きがいを感じることもできます。
たとえ外出が難しい場合でも、電話や手紙、オンラインツールなどを活用して、人とのつながりを維持することが大切です。信頼できる人とのコミュニケーションは、心の安定に欠かせません。
新しい学びや趣味を見つける
知的な活動や、興味関心を持てることは、脳の活性化につながり、認知機能の維持に役立ちます。また、新しいことに挑戦する意欲や、趣味を楽しむ時間は、生活に彩りを与え、精神的な充足感をもたらします。
読書、パズル、楽器演奏、絵画、園芸、料理など、自分が楽しいと感じられること、興味を持てることを見つけてみましょう。生涯学習の講座に参加したり、新しいスキルを学んだりするのも良い刺激になります。
大切なのは、結果や成果にこだわるのではなく、プロセスを楽しむことです。好奇心を持ち続け、知的な刺激を求めることが、若々しい心を保つ秘訣と言えるでしょう。
必要であれば専門家のサポートを求める
気分の落ち込みが続く、不安感が強い、意欲が著しく低下している、物忘れがひどく日常生活に支障が出ているなど、心理的な不調が続く場合や、認知症が疑われる場合は、一人で抱え込まずに専門家のサポートを求めることが重要です。
かかりつけ医や、精神科医、心療内科医、臨床心理士などに相談しましょう。早期に適切な診断や治療、カウンセリングを受けることで、症状の改善や進行の抑制につながります。
また、地域の保健センターや地域包括支援センターなどでも、高齢者の心身の健康に関する相談窓口が設けられています。 利用できる社会資源について情報を集め、必要に応じて活用することも検討しましょう。専門家のサポートを得ることは、決して特別なことではありません。
周囲の高齢者の心理的変化への理解と接し方
ご自身の変化だけでなく、身近な高齢者の心理的な変化に戸惑うこともあるかもしれません。家族や地域の一員として、高齢者の方々とより良い関係を築くためには、その心理を理解し、適切な接し方を心がけることが大切です。
- 変化を理解し、共感的に接する
- コミュニケーションを大切にする
- 本人の意思を尊重する
- 過度な心配や干渉は避ける
変化を理解し、共感的に接する
まず大切なのは、加齢に伴う心理的変化は、特別なことではなく、誰にでも起こりうることだと理解することです。「頑固になった」「忘れっぽくなった」といった変化の背景には、脳機能の変化や身体的な不調、社会的な環境の変化など、様々な要因があることを念頭に置きましょう。
変化を一方的に否定したり、責めたりするのではなく、「なぜそのような言動をとるのだろうか」とその背景にある気持ちや状況を想像し、共感的に接する姿勢が重要です。「大変ですね」「お気持ちお察しします」といった、相手の感情に寄り添う言葉かけは、安心感を与えることができます。
高齢者の方々が経験してきた人生や価値観に敬意を払い、その人らしさを尊重する気持ちを持つことが、良好な関係の第一歩となります。
コミュニケーションを大切にする
高齢者とのコミュニケーションにおいては、丁寧で分かりやすい対話を心がけることが大切です。特に、聴力や視力が低下している場合は、ゆっくり、はっきりとした口調で話したり、必要に応じて身振り手振りを加えたりするなどの配慮が必要です。
相手の話を注意深く聞き、最後まで遮らずに耳を傾ける（傾聴）姿勢も重要です。自分の意見を押し付けるのではなく、相手の考えや気持ちを引き出すように、質問を投げかけるのも良いでしょう。昔の話や思い出話に付き合うことも、相手の人生を尊重し、肯定することにつながります。
何気ない日常会話や、感謝の言葉を伝えることも、孤独感を和らげ、精神的な支えとなります。コミュニケーションを通じて、相手に関心を持っていることを伝え続けることが大切です。
本人の意思を尊重する
高齢になったからといって、すべての判断を周りが代わりに行う必要はありません。本人が自分で決定できる事柄については、可能な限りその意思を尊重することが重要です。これは、本人の自尊心や自己効力感を保つ上で非常に大切です。
例えば、日々の服装や食事、趣味活動、外出先など、些細なことでも本人の選択を促し、決定を尊重するようにしましょう。もちろん、安全面などで配慮が必要な場合もありますが、その場合でも、一方的に決めるのではなく、本人とよく話し合い、納得のいく方法を探ることが望ましいです。
本人の意思や選択を尊重することは、その人らしい生き方を支えることにつながります。
過度な心配や干渉は避ける
高齢者の健康や安全を気遣うあまり、過度に心配したり、干渉しすぎたりすることは、かえって本人の自立心を損ない、ストレスを与える可能性があります。「危ないから」「心配だから」と、本人ができることまで制限してしまうのは避けましょう。
本人の能力や意欲を見極め、必要なサポートは提供しつつも、基本的には見守る姿勢が大切です。本人が自分でできること、やりたいことを見つけ、主体的に取り組めるように、さりげなく環境を整えたり、励ましたりする関わり方が望ましいでしょう。
心配な点があれば、一方的に決めつけるのではなく、本人と話し合い、気持ちを確認しながら、適切な距離感を保つように心がけましょう。
よくある質問
高齢になると性格は変わるのですか？
基本的な性格（パーソナリティ）の核は比較的安定していますが、加齢に伴う経験や環境の変化により、行動や考え方が変わり、「性格が変わった」ように見えることがあります。 例えば、内向性が強まったり、頑固に見えたりすることがありますが、これは脳機能の変化、社会的役割の変化、聴力低下などが影響している可能性があります。
老化による精神的な変化は何ですか？
老化による精神的な変化には、感情のコントロール能力の向上や経験に基づく知恵（結晶性知能）の維持・向上といったポジティブな側面と、新しいことの記憶力（記銘力）や素早い判断力（流動性知能）の低下、意欲の変化、感情の複雑化（感動しやすくなる一方、怒りっぽくなるなど）といった側面があります。 また、喪失体験による悲しみや孤独感を感じやすくなることもあります。
高齢者の心理的特徴は？
高齢者の心理的特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 結晶性知能（経験に基づく知識や判断力）は維持・向上しやすい一方、流動性知能（新しいことの記憶や素早い判断）は低下しやすい。
- 感情コントロール能力が向上し、精神的に安定する傾向がある一方、頑固さや怒りっぽさが見られることもある。
- 興味関心が内面や身近な事柄に向かいやすくなる（内向性の高まり）。
- 人生を振り返り、統合しようとする（人生回顧）。
- 配偶者や友人との死別、健康や役割の喪失といった喪失体験を経験しやすい。
- 次世代への貢献意欲（世代性）を持つことがある。
ただし、個人差が大きい点に注意が必要です。
老年期にみられる喪失体験とは？
老年期には、様々な「喪失」を経験することが多くなります。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 心身の健康：病気や体力の衰えによる健康の喪失。
- 社会的役割：退職による仕事や社会的地位の喪失。
- 人間関係：配偶者、兄弟、友人など親しい人との死別による喪失。
- 経済力：退職などによる収入の減少。
- 住み慣れた環境：転居や施設入所による環境の変化。
これらの喪失体験は、悲しみ、孤独感、不安感、意欲低下などを引き起こす可能性があります。
加齢による心理的変化はいつから始まりますか？
加齢による心理的変化が始まる時期は、個人差が非常に大きいため、一概に「何歳から」とは言えません。認知機能の一部（流動性知能など）は比較的若い年代から緩やかに低下し始めると言われていますが 、感情面や性格の変化などは、中年期以降、あるいは老年期（一般的に65歳以上）になってから顕著になることが多いようです。退職や子どもの独立、健康状態の変化など、ライフイベントがきっかけとなることもあります。
認知症と加齢による物忘れの違いは何ですか？
加齢による自然な物忘れは、体験の一部（例：人の名前、約束の詳細）を忘れることがあっても、体験したこと自体は覚えています。ヒントがあれば思い出すこともあります。一方、認知症による記憶障害は、体験したこと自体を忘れてしまい、ヒントがあっても思い出せません。また、物忘れの自覚がないことも多く、時間や場所が分からなくなったり、判断力が低下したりするなど、日常生活に支障をきたす点が大きな違いです。心配な場合は専門医に相談しましょう。
ポジティブに老いるためにはどうすればいいですか？
ポジティブに老いる（サクセスフルエイジング）ためには、以下の点が重要と考えられています。
- 健康維持：バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠。
- 社会参加：家族、友人、地域とのつながりを保ち、孤立しない。
- 知的活動：趣味や学習など、興味関心を持って脳を活性化させる。
- 役割を持つ：ボランティアや地域活動などで、誰かの役に立つ実感を得る。
- 変化への適応：加齢による変化を受け入れ、肯定的に捉える柔軟性を持つ。
- 自己肯定感：自分の人生や存在価値を認め、前向きな気持ちで過ごす。
まとめ
- 加齢に伴い感情、認知、意欲、性格などに変化が見られる。
- 感情は安定する一方、頑固さや涙もろさが出ることも。
- 新しい記憶力は低下しやすいが、経験に基づく知恵は維持・向上。
- 意欲の対象が変化し、内面や身近な関心に向かう傾向。
- 基本的な性格は変わらないが、内向性などが強まることも。
- 変化の原因は脳機能、ホルモン、社会的役割、心理的要因など複合的。
- 生理的要因として脳細胞減少や神経伝達物質の変化がある。
- 社会的要因として退職や死別などの喪失体験が大きい。
- 心理的要因として死への意識や人生の振り返りがある。
- 加齢にはポジティブな側面もあり、経験に基づく知恵が向上する。
- 感情コントロール能力が高まり、精神的に安定しやすい。
- 人生を統合し受容することで心の平安を得られる。
- 次世代への貢献意欲（世代性）が生きがいにつながる。
- 変化を受け入れ肯定的に捉え、健康的な生活習慣を維持することが大切。
- 社会的なつながりを保ち、新しい学びや趣味を持つことも重要。
