数学の方程式で「絶対値」が出てくると、途端に難しく感じてしまう方も多いのではないでしょうか。特に、絶対値記号が2つ含まれる方程式は、どこから手をつけていいか分からず、頭を抱えてしまうこともあります。
しかし、ご安心ください。絶対値を2つ含む方程式には、決まった解き方の手順があります。この手順を理解し、練習を重ねれば、どんな問題も着実に解けるようになります。本記事では、絶対値を2つ含む方程式の基本的な考え方から、具体的な解き方、そしてよくある間違いまで、分かりやすく徹底的に解説していきます。
一緒に苦手意識を乗り越え、自信を持って問題に取り組めるようになりましょう。
絶対値を2つ含む方程式はなぜ難しい?その本質を理解しよう

絶対値を2つ含む方程式が難しく感じられるのは、絶対値記号が「中身の符号によって値が変わる」という特殊な性質を持っているからです。この性質を正しく理解することが、解決への第一歩となります。
絶対値の基本的な定義と意味
まず、絶対値とは何かを改めて確認しましょう。実数xの絶対値|x|は、数直線上で原点(0)からその数xまでの距離を表します。距離なので、負の値になることはありません。例えば、|3|は3、|-3|も3となります。
この定義から、絶対値記号は次のように外すことができます。
- xが0以上のとき(x ≧ 0):|x| = x
- xが0未満のとき(x < 0):|x| = -x
つまり、中身が正または0の場合はそのまま、中身が負の場合はマイナスをつけて外す、ということです。この「マイナスをつけて外す」という点が、多くの人がつまずきやすいポイントです。
絶対値記号を外すための考え方
絶対値記号が1つだけの方程式であれば、「|x| = a」ならば「x = ±a」のように、比較的簡単に解ける場合があります。 しかし、絶対値記号が2つ以上ある場合、それぞれの絶対値の中身が正になるか負になるかによって、記号の外し方が変わってきます。
例えば、|x-1| + |x-3| = 4 のような方程式では、x-1とx-3のそれぞれが正になるか負になるかを考えなければなりません。これが、絶対値を2つ含む方程式の複雑さの理由であり、同時に「場合分け」という解法の必要性を示しています。
解決の鍵は「場合分け」!数直線を使った考え方

絶対値を2つ含む方程式を解くための最も重要なコツは、「場合分け」を正確に行うことです。数直線を使うと、この場合分けの考え方が非常に分かりやすくなります。
絶対値の中身がゼロになる点を特定する
まず、それぞれの絶対値記号の中身がゼロになるxの値を求めます。これらの値が、数直線を区切る「境界線」となるからです。
例えば、|x-1| + |x-3| = 4 の場合、
- x-1 = 0 となるのは x = 1 のとき
- x-3 = 0 となるのは x = 3 のとき
となります。この「1」と「3」が、場合分けの基準となる重要な点です。
数直線で区間を分ける具体的な進め方
絶対値の中身がゼロになる点を特定したら、その点を数直線上にプロットし、数直線をいくつかの区間に分けます。
上記の例では、数直線は以下の3つの区間に分けられます。
- x < 1 の区間
- 1 ≦ x < 3 の区間
- x ≧ 3 の区間
このように区間を分けることで、それぞれの区間内で各絶対値の中身が常に同じ符号になるため、絶対値記号を迷うことなく外せるようになります。この数直線を使った視覚的な整理が、場合分けを正確に進めるための大きな助けとなるでしょう。
絶対値を2つ含む方程式の具体的な解き方手順

ここからは、絶対値を2つ含む方程式を解くための具体的な手順を、ステップバイステップで解説します。この手順通りに進めれば、複雑に見える問題も着実に解くことができます。
- ステップ1:各絶対値記号の中身がゼロになるxの値を求める
- ステップ2:求めた値で数直線を区間に分ける
- ステップ3:各区間で絶対値記号を外し、方程式を解く
- ステップ4:得られた解がその区間の条件を満たすか確認する
ステップ1:各絶対値記号の中身がゼロになるxの値を求める
最初に行うのは、方程式に含まれるすべての絶対値記号の中身が0になるxの値を特定することです。これらの値が、数直線を分割する基準点となります。例えば、|x-a| + |x-b| = c のような方程式であれば、x-a=0からx=a、x-b=0からx=bを求めます。
ステップ2:求めた値で数直線を区間に分ける
ステップ1で求めたxの値を数直線上に小さい順に並べ、その点によって数直線をいくつかの区間に分割します。絶対値記号が2つある場合、通常は3つの区間ができます。例えば、x=1とx=3が基準点であれば、x < 1、1 ≦ x < 3、x ≧ 3 の3つの区間です。
ステップ3:各区間で絶対値記号を外し、方程式を解く
分割した各区間において、絶対値記号の中身が正になるか負になるかを判断し、絶対値記号を外します。
- 中身が正または0の場合:そのまま絶対値記号を外す(例:|x-1| → x-1)
- 中身が負の場合:マイナスをつけて絶対値記号を外す(例:|x-1| → -(x-1) = -x+1)
絶対値記号を外したら、それぞれの区間で通常の方程式として解きます。このとき、計算ミスがないように慎重に進めることが大切です。
ステップ4:得られた解がその区間の条件を満たすか確認する
各区間で方程式を解いて得られた解が、その区間の条件(x < 1 など)を満たしているかを必ず確認します。もし解が区間の条件を満たさない場合、その解はその区間では不適となります。 最後に、各区間で得られた適する解をすべて合わせると、それが元の絶対値を2つ含む方程式の解となります。
例題で実践!絶対値を2つ含む方程式を解いてみよう

具体的な例題を通して、これまでの手順を実践してみましょう。実際に手を動かすことで、理解がより深まります。
例題1: |x-1| + |x-3| = 4 の解き方
この方程式を解いてみましょう。
ステップ1:絶対値の中身がゼロになるxの値を求める
- x-1 = 0 より x = 1
- x-3 = 0 より x = 3
ステップ2:数直線で区間に分ける
数直線は x=1 と x=3 で区切られ、以下の3つの区間ができます。
- x < 1
- 1 ≦ x < 3
- x ≧ 3
ステップ3:各区間で絶対値記号を外し、方程式を解く
(i) x < 1 のとき
この区間では、x-1もx-3も負になります。
-(x-1) – (x-3) = 4
-x + 1 – x + 3 = 4
-2x + 4 = 4
-2x = 0
x = 0
ステップ4:解が区間の条件を満たすか確認する
x = 0 は x < 1 の条件を満たすので、この解は適しています。
(ii) 1 ≦ x < 3 のとき
この区間では、x-1は正または0、x-3は負になります。
(x-1) – (x-3) = 4
x – 1 – x + 3 = 4
2 = 4
これは成り立ちません。よって、この区間には解がありません。
(iii) x ≧ 3 のとき
この区間では、x-1もx-3も正または0になります。
(x-1) + (x-3) = 4
2x – 4 = 4
2x = 8
x = 4
ステップ4:解が区間の条件を満たすか確認する
x = 4 は x ≧ 3 の条件を満たすので、この解は適しています。
結論:(i)と(iii)から得られた解を合わせると、この方程式の解は x = 0, 4 となります。
例題2: |2x+1| – |x-2| = 3 の解き方
この方程式も同様に解いてみましょう。
ステップ1:絶対値の中身がゼロになるxの値を求める
- 2x+1 = 0 より x = -1/2
- x-2 = 0 より x = 2
ステップ2:数直線で区間に分ける
数直線は x=-1/2 と x=2 で区切られ、以下の3つの区間ができます。
- x < -1/2
- -1/2 ≦ x < 2
- x ≧ 2
ステップ3:各区間で絶対値記号を外し、方程式を解く
(i) x < -1/2 のとき
この区間では、2x+1もx-2も負になります。
-(2x+1) – (-(x-2)) = 3
-2x – 1 + x – 2 = 3
-x – 3 = 3
-x = 6
x = -6
ステップ4:解が区間の条件を満たすか確認する
x = -6 は x < -1/2 の条件を満たすので、この解は適しています。
(ii) -1/2 ≦ x < 2 のとき
この区間では、2x+1は正または0、x-2は負になります。
(2x+1) – (-(x-2)) = 3
2x + 1 + x – 2 = 3
3x – 1 = 3
3x = 4
x = 4/3
ステップ4:解が区間の条件を満たすか確認する
x = 4/3 は -1/2 ≦ x < 2 の条件を満たすので、この解は適しています。
(iii) x ≧ 2 のとき
この区間では、2x+1もx-2も正または0になります。
(2x+1) – (x-2) = 3
2x + 1 – x + 2 = 3
x + 3 = 3
x = 0
ステップ4:解が区間の条件を満たすか確認する
x = 0 は x ≧ 2 の条件を満たしません。よって、この解は不適です。
結論:(i)と(ii)から得られた解を合わせると、この方程式の解は x = -6, 4/3 となります。
絶対値を2つ含む方程式を解く上での注意点とよくある間違い

絶対値を2つ含む方程式を解く際には、いくつかの注意点があります。これらを意識することで、ミスを減らし、正確な解を導き出すことができます。
解の吟味を忘れないことの重要性
最も重要な注意点の一つが「解の吟味」です。各区間で方程式を解いて得られたxの値が、その区間の条件(例えば「x < 1」や「1 ≦ x < 3」など)を本当に満たしているかを確認する作業を指します。
もし、ある区間で得られた解がその区間の条件を満たさない場合、その解は元の絶対値方程式の解としては不適となります。この吟味を怠ると、誤った解を導き出してしまう可能性が高まります。計算が終わった後も、必ず条件との整合性を確認する習慣をつけましょう。
計算ミスを防ぐためのコツ
場合分けが多くなると、計算量も増え、符号ミスや移項ミスなどの単純な計算ミスが起こりやすくなります。これを防ぐためのコツをいくつかご紹介します。
- 数直線を丁寧に書く:区間の境界点を明確にし、各区間での絶対値の中身の符号を書き込んでおくと、絶対値記号を外す際のミスが減ります。
- 途中式を省略しない:特に慣れないうちは、面倒に感じても途中式を丁寧に書くことで、どこでミスをしたのかを後から確認しやすくなります。
- 検算を行う:最終的に得られた解を元の絶対値方程式に代入し、等式が成り立つかを確認することで、間違いを発見できます。
これらのコツを実践することで、正確性を高め、自信を持って解答できるようになるでしょう。
よくある質問

- 絶対値記号が3つ以上ある場合はどうすればいいですか?
- 絶対値方程式をグラフで解く方法はありますか?
- 絶対値不等式も同じように場合分けで解けますか?
- 絶対値の計算が苦手です。克服するための練習方法はありますか?
- 絶対値記号の「| |」の意味は何ですか?
絶対値記号が3つ以上ある場合はどうすればいいですか?
絶対値記号が3つ以上ある場合も、基本的な解き方は同じです。 各絶対値記号の中身がゼロになるxの値をすべて求め、それらの値で数直線を区間に分けます。例えば、絶対値記号が3つあれば、通常は4つの区間ができます。それぞれの区間で絶対値記号を外し、方程式を解き、最後に解の吟味を行うという手順で進めます。
絶対値方程式をグラフで解く方法はありますか?
はい、絶対値方程式はグラフを使って視覚的に解くことも可能です。 例えば、|x-1| + |x-3| = 4 の場合、y = |x-1| + |x-3| のグラフと y = 4 のグラフを描き、その交点のx座標が解となります。グラフを描く際も、場合分けの考え方を使って絶対値記号を外し、各区間での関数の式を求めることが必要です。
絶対値不等式も同じように場合分けで解けますか?
はい、絶対値不等式も基本的に同じように場合分けで解くことができます。 絶対値記号の中身がゼロになるxの値を基準に数直線を区間に分け、各区間で絶対値記号を外して不等式を解きます。ただし、方程式と異なり、最終的な解はxの範囲として示されるため、各区間で得られた範囲と区間の条件との共通範囲を求め、それらをすべて統合する必要があります。
絶対値の計算が苦手です。克服するための練習方法はありますか?
絶対値の計算が苦手な場合は、まず絶対値の定義と「場合分け」の考え方をしっかりと理解することが大切です。 その上で、以下の練習方法を試してみてください。
- 基本的な絶対値記号の外し方を反復練習する:|x-a| の外し方を、x-a≧0 と x-a<0 の2つの場合で正確に外せるようにします。
- 絶対値が1つの方程式・不等式から始める:簡単な問題から始めて、自信をつけてから絶対値が2つ以上の問題に進みましょう。
- 数直線を常に活用する:場合分けの区間を視覚的に捉えることで、理解が深まります。
- 例題を丁寧に解き、検算する:解答を見ずに自力で解き、答え合わせだけでなく、なぜその解になるのか、なぜ他の解が不適なのかを理解することが重要です。
焦らず、一つ一つのステップを丁寧にこなすことで、必ず苦手意識を乗り越えられます。
絶対値記号の「| |」の意味は何ですか?
絶対値記号「| |」は、その記号で挟まれた数や式が「原点からの距離」を表すことを意味します。 距離は常に非負の値であるため、絶対値の結果が負になることはありません。例えば、|5|は5、|-5|も5となります。 この記号は、数直線上の位置に関わらず、その「大きさ」や「絶対的な値」を示すために使われます。
まとめ
- 絶対値を2つ含む方程式は、場合分けが解決の鍵となる。
- 絶対値の定義は、数直線上の原点からの距離を表す。
- 絶対値記号は、中身が0以上ならそのまま、負ならマイナスをつけて外す。
- 場合分けは、各絶対値の中身がゼロになるxの値を基準に行う。
- 数直線を使うと、場合分けの区間を視覚的に整理できる。
- 解き方の手順は、「ゼロになる点の特定」「区間分け」「各区間での方程式の解決」「解の吟味」の4ステップ。
- 得られた解が、その区間の条件を満たしているか必ず確認する。
- 計算ミスを防ぐため、途中式を丁寧に書き、検算を心がける。
- 絶対値が3つ以上ある場合や、不等式の場合も基本的な考え方は同じ。
- グラフを用いた解法も存在し、視覚的な理解を助ける。
- 苦手意識を克服するには、基本的な問題から着実に練習を重ねることが大切。
- 絶対値記号「| |」は、原点からの距離を示す記号である。
- 例題を通して実践することで、理解が深まる。
- 焦らず、一つ一つのステップを丁寧にこなすことが成功への道。
- 絶対値方程式は、数学の基礎的ながらも重要な概念。
- 正確な理解と反復練習で、どんな問題も解けるようになる。
