「最近、シャンプーやブラッシング時の抜け毛が急に増えた…」「もしかして、ただの薄毛じゃなくて何か病気なのだろうか?」と不安に感じている男性は少なくありません。その抜け毛、実は内臓の病気が隠れているサインかもしれません。本記事では、男性の抜け毛の原因となる可能性のある内臓の病気について、その特徴やAGAとの違い、何科を受診すべきかを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、不安解消の第一歩としてお役立てください。
もしかして病気?男性の抜け毛が内臓疾患のサインかもしれないケース

男性の抜け毛と聞くと、多くの方がAGA(男性型脱毛症)を思い浮かべるでしょう。しかし、すべての抜け毛がAGAによるものとは限りません。特に、これまでとは違う抜け方をしている場合は注意が必要です。内臓の病気が原因で髪が抜ける場合、AGAとは異なる特徴が見られることがあります。
例えば、急激に抜け毛の量が増えた、髪の毛が全体的に薄くなる「びまん性脱毛」が見られる、円形に脱毛する箇所がある、といった症状は、単なる加齢や遺伝による薄毛とは考えにくいサインです。さらに、抜け毛だけでなく、原因不明の体調不良(倦怠感、発熱、体重の増減など)を伴う場合は、内臓の病気を疑う必要があります。髪は健康のバロメーターとも言われ、体内の異変が髪に現れることは少なくないのです。
この記事の後半では、AGAと内臓疾患による抜け毛の具体的な違いについても詳しく解説しますが、まずは「いつもと違う」と感じたら、自己判断せずに専門家へ相談することを検討しましょう。
髪が抜ける原因となる男性の内臓の病気

抜け毛を引き起こす可能性のある内臓の病気は一つではありません。ここでは、特に男性に関係の深い代表的な病気をいくつかご紹介します。それぞれの病気には、抜け毛以外にも特有の症状がありますので、ご自身の体調と照らし合わせてみてください。
- 甲状腺の病気(甲状腺機能低下症・亢進症)
- 肝臓・腎臓の病気
- 膠原病(こうげんびょう)
- 鉄欠乏性貧血
- 亜鉛欠乏症
- 梅毒
甲状腺の病気(甲状腺機能低下症・亢進症)
甲状腺は、のどぼとけの下にある臓器で、体の新陳代謝を活発にする「甲状腺ホルモン」を分泌しています。このホルモンのバランスが崩れると、髪の毛に大きな影響が出ることがあります。
具体的には、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなる「甲状腺機能低下症(橋本病など)」と、逆に過剰になる「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」の両方で脱毛の症状が現れる可能性があります。 甲状腺ホルモンは、髪の毛の成長サイクル(ヘアサイクル)を正常に保つ働きがあるため、その量が乱れると髪の成長期が短くなり、休止期に入る毛が増えて抜け毛につながるのです。
甲状腺機能低下症では、抜け毛のほかに「異常なだるさ」「むくみ」「寒がり」「体重増加」などの症状が見られます。 一方、甲状腺機能亢進症では、「動悸」「息切れ」「多汗」「体重減少」「眼球突出」などが特徴的な症状です。 これらの症状と共に髪の毛が全体的に薄くなってきたと感じる場合は、内分泌科など専門医のいる医療機関への相談をおすすめします。
肝臓・腎臓の病気
「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓や、老廃物をろ過する腎臓の機能低下も、抜け毛の原因となり得ます。
肝臓は、体に入った栄養素を代謝したり、有害物質を解毒したり、ホルモンのバランスを調整したりと、生命維持に欠かせない多くの役割を担っています。 そのため、肝機能が低下すると、髪の成長に必要な栄養が十分に作られなくなったり、体内に老廃物が溜まって血行が悪化したりします。これにより、頭皮に栄養が届きにくくなり、抜け毛が増えることがあるのです。
また、腎臓の機能が著しく低下する腎不全の状態になると、体内に毒素が溜まる「尿毒症」を引き起こすことがあります。 この状態も、毛髪の成長を妨げる一因となり、脱毛につながる可能性があります。 肝臓や腎臓の病気は、初期症状がほとんどないことが多いですが、「体がだるい」「食欲がない」「むくみ」「黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)」といったサインが見られたら、すぐに内科を受診しましょう。
膠原病(こうげんびょう)
膠原病は、本来なら体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の総称です。 関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などが代表的です。
膠原病によって抜け毛が起こるメカニズムは、免疫細胞が髪の毛を作り出す組織である「毛包」を攻撃してしまうためです。 これにより、髪の毛が抜けてしまいます。特に全身性エリテマトーデス(SLE)では、脱毛はよく見られる症状の一つです。
抜け毛のほかにも、「原因不明の発熱」「関節の痛みや腫れ」「顔や手足の発疹(特に蝶形紅斑)」「全身の倦怠感」などが膠原病のサインとして挙げられます。 これらの症状が複数当てはまる場合は、リウマチ科や膠原病内科などの専門医に相談することが重要です。
鉄欠乏性貧血
貧血というと女性のイメージが強いかもしれませんが、男性でも起こり得ます。特に、血液中の鉄分が不足する「鉄欠乏性貧血」は、抜け毛の直接的な原因となることがあります。
髪の毛は、血液によって運ばれる酸素や栄養素を元に成長します。 鉄分は、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンの主成分であるため、鉄分が不足すると頭皮の毛母細胞まで十分に酸素が届かなくなります。その結果、髪の毛が細くなったり、成長が妨げられて抜けやすくなったりするのです。
鉄欠乏性貧血の主な症状は、抜け毛のほかに「めまい」「立ちくらみ」「動悸・息切れ」「疲れやすさ」「顔色が悪い」などです。食生活の乱れや、胃潰瘍などによる慢性的な出血が原因となることもあります。気になる症状があれば、まずは内科で血液検査を受けてみましょう。
亜鉛欠乏症
亜鉛は、私たちの体に必要な必須ミネラルの一つです。特に、髪の毛にとっては非常に重要な役割を担っています。
髪の主成分は「ケラチン」というタンパク質ですが、このケラチンを合成する過程で亜鉛が必要不可欠です。 そのため、体内の亜鉛が不足すると、新しい髪の毛がうまく作られなくなり、結果として抜け毛や薄毛、髪質の低下につながってしまうのです。
亜鉛不足は、偏った食生活や過度なダイエット、アルコールの多飲などによって引き起こされることがあります。 抜け毛のほかに、「味覚障害(味がわかりにくい)」「爪に白い斑点ができる」「傷が治りにくい」「皮膚炎」などの症状が見られる場合は、亜鉛不足の可能性があります。 亜鉛は牡蠣や赤身の肉、レバーなどに多く含まれていますが、食事での改善が難しい場合はサプリメントの活用も一つの方法です。
梅毒
梅毒は、性感染症の一種ですが、進行すると全身に様々な症状が現れ、その一つとして脱毛が起こることが知られています。
梅毒による脱毛は「梅毒性脱毛症」と呼ばれ、感染から数ヶ月が経過した「第2期梅毒」の症状として現れることがあります。 特徴的なのはその抜け方で、後頭部から側頭部にかけて、虫食い状やまだら状に髪が抜けることが多いです。 全体的に薄くなるびまん性の脱毛が見られることもあります。
脱毛以外にも、バラ疹と呼ばれるピンク色の発疹が全身に現れたり、発熱や倦怠感を伴ったりします。梅毒は放置すると深刻な事態に至る病気ですが、早期に発見し、適切な抗菌薬で治療すれば完治が可能です。 心当たりがある場合や、特徴的な抜け方をしている場合は、ためらわずに泌尿器科や皮膚科を受診してください。
内臓の病気による抜け毛とAGA(男性型脱毛症)との違い

「自分の抜け毛は、病気が原因なのか、それともAGAなのか…」と悩んでいる方のために、両者の違いをまとめました。見分けるためのポイントはいくつかありますが、最終的な診断は医師に委ねることが大切です。
比較項目 | 内臓の病気による抜け毛 | AGA(男性型脱毛症) |
---|---|---|
抜け方の特徴 | 頭部全体が均一に薄くなる(びまん性脱毛)。 まだら状や虫食い状に抜けることもある(梅毒など)。 | 前頭部の生え際が後退する(M字)、頭頂部が薄くなる(O字)など、特定の部位から進行する。 |
進行スピード | 比較的短期間で急激に抜け毛が増えることが多い。 | 数年かけてゆっくりと進行することが多い。 |
抜け毛以外の症状 | 原因となる病気特有の全身症状(発熱、倦怠感、体重変化、発疹など)を伴うことが多い。 | 基本的に全身症状はなく、薄毛・抜け毛以外の自覚症状はほとんどない。 |
髪質 | 髪全体が細く、元気がなくなることがある。 | 薄くなった部分の髪の毛が細く、短いうぶ毛のようになる。 |
原因 | 甲状腺疾患、肝機能障害、膠原病、栄養不足、感染症など多岐にわたる。 | 男性ホルモン(DHT)と遺伝的要因が主な原因。 |
最も大きな違いは、全身症状の有無と抜け方のパターンです。AGAは特定の部位から薄毛が進行するのに対し、内臓疾患の場合は髪全体に影響が出やすい傾向にあります。もし、抜け毛に加えて体調の変化を感じているなら、それは体が発している重要なサインかもしれません。
何科を受診すればいい?症状別の相談先

抜け毛の原因が分からず不安な時、どの病院に行けば良いのか迷ってしまいますよね。症状に応じて適切な診療科を選ぶことが、早期解決への近道です。
まず、抜け毛の悩みで最初に相談する先として一般的なのは「皮膚科」です。皮膚科では、頭皮の状態を診察し、AGAや円形脱毛症、脂漏性皮膚炎など、髪や頭皮自体の病気かどうかを診断してくれます。
しかし、これまでに解説してきたように、抜け毛以外に以下のような症状がある場合は、内臓の病気が隠れている可能性を考えて、それぞれの専門科を受診することも検討しましょう。
- だるさ、体重の増減、むくみ、動悸などがある場合 → 内科、内分泌内科
甲状腺疾患などが疑われるため、血液検査でホルモンの状態を調べてもらうのが良いでしょう。 - 原因不明の発熱、関節痛、発疹などがある場合 → リウマチ・膠原病内科
膠原病の可能性があるため、専門医による詳しい検査が必要です。 - めまい、立ちくらみ、顔色が悪いなど貧血症状がある場合 → 内科
血液検査で鉄分の不足などを確認できます。 - 特徴的なまだら状の脱毛や、性感染症の心当たりがある場合 → 皮膚科、泌尿器科
梅毒などの感染症の検査を行います。
どの科に行けばよいか分からない場合は、まずはかかりつけの内科医に相談するか、皮膚科を受診して、必要であれば適切な専門医を紹介してもらうという方法もあります。大切なのは、自己判断で放置せず、専門家である医師に相談することです。
抜け毛が気になったら…自分でできるセルフチェックと生活習慣の見直し

病院へ行く前に、まずは自分の抜け毛の状態や生活習慣を客観的に見直してみることも大切です。セルフチェックを行うことで、医師に症状を伝える際にも役立ちます。
まずは、1日の抜け毛の本数を意識してみましょう。健康な人でも1日に50本から100本程度の髪は自然に抜けています。 しかし、枕や排水溝に明らかに以前より多くの髪の毛が残っている、200本以上抜けている日が続くといった場合は注意が必要です。 また、抜けた毛の毛根部分を見て、毛根が膨らんでいない、細く尖っているなどの異常がないかもチェックポイントです。
同時に、日々の生活習慣も見直してみましょう。髪の健康は、体全体の健康と密接に関わっています。
- 食生活: 髪の主成分であるタンパク質、その合成を助ける亜鉛、血行を良くするビタミンなどをバランス良く摂取することが基本です。 ファストフードや偏った食事は避け、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
- 睡眠: 髪の成長を促す成長ホルモンは、睡眠中に多く分泌されます。 質の良い睡眠を十分にとることは、健やかな髪を育む上で非常に重要です。
- ストレス: 過度なストレスは自律神経を乱し、血行不良を引き起こして頭皮に悪影響を与えます。 適度な運動や趣味の時間を作るなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
- ヘアケア: 爪を立ててゴシゴシ洗う、洗浄力の強すぎるシャンプーを使うといった行為は頭皮を傷つけ、抜け毛の原因になります。指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように注意しましょう。
これらの生活習慣の改善は、内臓の病気の予防や改善にもつながります。しかし、セルフケアだけで抜け毛が改善しない、あるいは悪化するような場合は、やはり何らかの病気が隠れている可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。
よくある質問

ストレスだけで髪は抜けますか?
はい、過度なストレスは抜け毛の大きな原因の一つになります。 ストレスを感じると自律神経が乱れ、血管が収縮して頭皮の血行が悪くなります。その結果、髪の毛の成長に必要な栄養が届きにくくなり、抜け毛が増えることがあります。 また、ストレスが円形脱毛症の引き金になることも知られています。
抜け毛は内臓の病気が治れば改善しますか?
多くの場合、原因となっている内臓の病気の治療を適切に行うことで、抜け毛の症状は改善に向かいます。 例えば、甲状腺疾患であればホルモンバランスを整える治療、鉄欠乏性貧血であれば鉄剤の補充など、原因に対するアプローチが最も重要です。ただし、髪の毛にはヘアサイクルがあるため、治療を開始してすぐに効果が現れるわけではなく、改善には数ヶ月単位の時間が必要な場合があります。
20代でも内臓の病気で髪が抜けることはありますか?
はい、年齢に関わらず内臓の病気で髪が抜ける可能性はあります。例えば、甲状腺の病気であるバセドウ病や橋本病は20代から40代の女性に多いとされますが、男性でも発症します。 また、膠原病や栄養障害なども若い世代に起こり得ます。若さを理由に「病気のはずがない」と決めつけず、異常を感じたら専門医に相談することが大切です。
肝臓が悪いとどんな抜け毛の症状が出ますか?
肝機能が低下した場合の抜け毛に、特有の決まった抜け方があるわけではありません。しかし、一般的には髪全体が元気をなくし、細くなってボリュームが減る「びまん性脱毛」の傾向が見られることが多いです。肝臓は栄養の代謝や解毒を担う重要な臓器なので、その機能が落ちると髪の成長に必要な栄養が不足したり、血行が悪化したりして、髪全体に影響が及ぶと考えられます。
まとめ

- 男性の急な抜け毛は内臓の病気のサインかもしれない。
- 特に全身の倦怠感や発熱などを伴う場合は注意が必要。
- 抜け毛の原因となる病気には甲状腺疾患や肝臓病などがある。
- 膠原病や梅毒、栄養不足も抜け毛を引き起こす。
- AGAは特定部位から、病気による脱毛は全体的に抜ける傾向。
- 抜け方のスピードが急激な場合は病気の可能性を疑う。
- まずは皮膚科、症状によっては内科や専門医を受診する。
- 甲状腺の異常は内分泌内科が専門。
- 関節痛などがあればリウマチ・膠原病内科へ。
- 自己判断で放置せず、必ず医師に相談することが重要。
- 生活習慣の見直しは髪と体の健康の基本。
- バランスの取れた食事、十分な睡眠を心がける。
- ストレスを溜めないことも抜け毛対策には不可欠。
- 原因疾患の治療を行えば、抜け毛は改善することが多い。
- 不安な場合は一人で悩まず、医療機関を頼ること。