「その件は、私の預かり知らぬところです。」会議や少し硬い場面で、こんな風に言われたら、どんな意味か正確に理解できますか?あるいは、自分で使おうとして「本当にこの使い方で合っているのかな?」と不安になった経験はありませんか?
実は「預かり知らぬ」という表現、多くの人が本来の意味や正しい漢字を誤解して使っている可能性があるのです。
本記事では、「預かり知らぬ」という言葉の本当の意味から、正しい使い方、そしてビジネスシーンで失礼なく意図を伝えるための言い換え表現まで、豊富な例文を交えて徹底的に解説します。この記事を読めば、もう言葉の使い方で迷うことはありません。
実は「預かり知らぬ」は誤用?正しい表現は「与り知らぬ」

まず最も重要なことからお伝えします。私たちが普段「あずかりしらぬ」と聞いたり使ったりする言葉は、「預かり知らぬ」と書くのは実は誤用なのです。ここでは、なぜ間違いなのか、そして本来の正しい表現は何かを詳しく見ていきましょう。
- 「預かり知らぬ」が広まった背景
- 本来の正しい漢字は「与り知らぬ」
- 「与り知らぬ」の基本的な意味
「預かり知らぬ」が広まった背景
「預かり知らぬ」という表記がなぜ広まってしまったのでしょうか。その大きな理由は、「あずかる」という同じ読みの言葉が存在するためです。
一般的に「あずかる」と聞くと、「荷物を預かる」「子供を預かる」といったように、何かを一時的に引き受ける意味の「預かる」を思い浮かべる人が多いでしょう。そのため、「あずかりしらぬ」という音を聞いた時に、自然と「預かり知らぬ」という漢字を当てはめてしまったと考えられます。
しかし、辞書を引いても「預かり知らぬ」という言葉は見つかりません。 これは、本来使われるべき漢字が別にあることを示しています。
本来の正しい漢字は「与り知らぬ」
では、正しい漢字表記は何かというと、「与り知らぬ(あずかりしらぬ)」です。 ここで使われている「与る(あずかる)」という漢字は、「参加する」「関与する」「関係する」といった意味を持っています。
つまり、「与り知る」で「関与していて知っている」という意味になり、その否定形である「与り知らぬ」は、「関与していないので、知らない」という意味になるのです。 「物を預かる」の「預」ではなく、「関与する」の「与」が正しい漢字であると、まずはしっかりと覚えておきましょう。
「与り知らぬ」の基本的な意味
「与り知らぬ」の基本的な意味は、前述の通り「ある事柄に全く関与しておらず、そのため内容について何も知らない」ということです。
この言葉のポイントは、単に「知らない(I don’t know)」という事実を述べているだけではない点にあります。そこには、「自分はその件に関係がない」「責任の範囲外である」という、関与そのものを強く否定するニュアンスが含まれています。 そのため、使い方によっては相手に冷たい印象や、責任逃れをしているような印象を与えてしまう可能性もある、少し強めの表現なのです。
【シーン別】「与り知らぬ(あずかりしらぬ)」の正しい使い方と例文

「与り知らぬ」が「関与していないから知らない」という強い否定のニュアンスを持つことを理解した上で、具体的な使い方を見ていきましょう。ビジネスシーンや日常会話でどのように使われるのか、例文を交えて解説します。
- ビジネスシーンでの使い方と例文
- 日常会話での使い方と例文
- 使う際の注意点:冷たい印象を与えないために
ビジネスシーンでの使い方と例文
ビジネスシーンでは、主に責任の所在や担当範囲を明確にする目的で使われます。自分や自社が関わっていない問題について言及された際に、その事実をはっきりと伝えるために用いられることが多いです。
ただし、やや古風で硬い表現であり、前述の通り突き放したような印象を与える可能性もあるため、使う相手や状況は慎重に選ぶ必要があります。
例文:
- 「そのプロジェクトの決定事項につきましては、当部署は与り知らぬところでございます。」
- 「前任者が行った契約の詳細については、誠に申し訳ございませんが、私は与り知らぬことです。」
- 「A社が起こしたトラブルに関して、弊社は一切与り知らぬことであり、責任を負いかねます。」
- 「私の与り知らぬところで、そのような話が進んでいたとは初耳です。」
- 「その件は私の権限外であり、与り知らぬところでございます。」
日常会話での使い方と例文
日常会話で「与り知らぬ」を使う場面は、ビジネスシーンに比べてかなり限られます。少し大げさに聞こえたり、堅苦しい印象を与えたりする可能性があるためです。 主に、噂話や他人のプライベートな問題など、自分は全く関係ないということを強調したい時に使われることがあります。
例文:
- 「彼らの喧嘩の理由は、私の与り知らぬところだよ。」
- 「隣の家の事情なんて、私には与り知らぬ話だ。」
- 「友人が秘密にしていた計画については、本当に与り知らぬことだったんだ。」
- 「誰がその噂を流したのかは、私の与り知らぬことです。」
- 「私の与り知らぬところで、パーティーの計画が進んでいたらしい。」
使う際の注意点:冷たい印象を与えないために
「与り知らぬ」は、無関係であることを強く主張する言葉です。そのため、使い方を間違えると「無責任だ」「冷たい人だ」という印象を相手に与えかねません。
特に、顧客や上司など、敬意を払うべき相手に使う際は注意が必要です。単に「与り知らぬことです」と突き放すのではなく、「申し訳ございませんが」「恐縮ですが」といったクッション言葉を添えたり、「担当部署に確認いたします」のように代替案を示したりする配慮が求められます。
安易に使うと人間関係に溝を生む可能性もあるため、本当に自分に関わりがなく、それを明確に伝える必要がある場面に限定して使うのが賢明と言えるでしょう。
「与り知らぬ」と似た言葉との違いを徹底比較

「与り知らぬ」には、似たような状況で使われる言葉がいくつかあります。しかし、それぞれニュアンスが微妙に異なります。ここでは、代表的な類語との違いを比較し、適切な言葉を選べるように解説します。
- 「関知しない」とのニュアンスの違い
- 「存じません」「存じ上げません」との使い分け
- 「無関係」「責任を負わない」との違い
「関知しない」とのニュアンスの違い
「関知しない」は、「ある事柄に関わりがなく、その事情を知らない」という意味で、「与り知らぬ」と非常によく似ています。 実際、類義語として挙げられることがほとんどです。
しかし、「関知しない」という言葉には、「知っているかもしれないが、あえて関わらないようにしている」「これ以上関わるつもりはない」という、より積極的な拒絶や意思のニュアンスが含まれることがあります。 一方、「与り知らぬ」は、そもそも「関与の機会がなかったので、結果として知らない」という、事実の状態を述べる意味合いが強いと言えるでしょう。
例えば、「隣人のトラブルには関知しないことにしている」と言えば、自らの意思で距離を置いている感じがしますが、「隣人のトラブルは与り知らぬことだ」と言えば、純粋に関わりがない事実を伝えている印象になります。
「存じません」「存じ上げません」との使い分け
「存じません」と「存じ上げません」は、どちらも「知らない」を丁寧に表現する謙譲語です。 これらは「与り知らぬ」とは明確な違いがあります。
最大の違いは、「関与」のニュアンスが含まれているかどうかです。「存じません」「存じ上げません」は、単に知識として知らないことを丁寧に伝えているだけです。そこには「関わっていないから」という意味合いは必ずしも含まれません。
また、この二つは対象によって使い分けられます。
- 存じません: 物事や情報など、「人」以外のことに対して使います。
- 例:「その商品の詳細については、申し訳ございませんが存じません。」
- 存じ上げません: 社長や取引先の人など、「人」に対して使います。
- 例:「恐れ入りますが、田中様という方は存じ上げません。」
責任の所在を明確にしたい場合は「与り知らぬ」、単に知らないことを丁寧に伝えたい場合は「存じません/存じ上げません」と使い分けるのが適切です。
「無関係」「責任を負わない」との違い
「無関係」や「責任を負わない」は、「与り知らぬ」が持つ意味の一部を切り取った言葉です。
- 無関係: 単に「関係がない」という事実を指します。「与り知らぬ」は、無関係であることに加えて「知らない」という意味まで含みます。
- 責任を負わない: 結果に対する責任がないことを示します。「与り知らぬ」は、責任がないだけでなく、その前提となる「知識や関与自体がない」ことを強調する表現です。
つまり、「与り知らぬ」は、「無関係」であり、かつ「知らない」から、結果として「責任を負わない」という、一連の状況をまとめて表現できる言葉と言えます。より直接的に「関係ありません」「責任は持てません」と言うよりも、少し遠回しで硬い表現になります。
ビジネスで「知らない・関与していない」と伝えたい時の言い換え表現

「与り知らぬ」は、意味は通じるものの、やや古風で強い表現のため、ビジネスシーンでは使いにくいと感じる方も多いでしょう。ここでは、より現代的で丁寧な印象を与える言い換え表現をいくつか紹介します。
- 丁寧さが伝わる「存じ上げません」「承知しておりません」
- 担当外であることを示す「担当外でございます」
- 詳細が不明な場合に使う「分かりかねます」
丁寧さが伝わる「存じ上げません」「承知しておりません」
相手に敬意を払いながら「知らない」と伝えたい場合、最も一般的に使われるのが「存じ上げません」や「承知しておりません」です。
前述の通り、「存じ上げません」は主に人に対して、「存じません」は物事に対して使います。 「承知しておりません」も物事に対して使え、「聞いていないので、知らない」というニュアンスを丁寧に表現できます。
例文:
- (担当者について聞かれ)「申し訳ございません、山田という者は存じ上げません。」
- (会議での決定事項について聞かれ)「恐れ入りますが、その件については承知しておりません。」
これらの表現は、「与り知らぬ」のように関与を強く否定するニュアンスはないため、相手に柔らかい印象を与えます。
担当外であることを示す「担当外でございます」
「与り知らぬ」が使われる背景には、「それは自分の仕事の範囲ではない」という意図がある場合が多いです。その意図をより直接的かつ丁寧に伝えるのが「担当外でございます」という表現です。
単に「知らない」と答えるのではなく、「自分は担当ではないので詳しくない」という理由を明確にすることで、相手も納得しやすくなります。さらに、「担当の者に確認いたします」と付け加えることで、より親切で責任感のある対応を示すことができます。
例文:
- 「そのご質問につきましては、あいにく担当外でございますので、担当部署にお繋ぎいたします。」
- 「誠に申し訳ございませんが、その件は私の担当外でございますので、分かりかねます。」
詳細が不明な場合に使う「分かりかねます」
「分かりかねます」は、「知りたい、答えたい気持ちはあるが、情報が不足していたり、専門外であったりするため、答えることが難しい」というニュアンスを伝える丁寧な表現です。
「分かりません」と断定するよりも、相手の要望に応えられないことを申し訳なく思う気持ちを示すことができます。「与り知らぬ」が持つ突き放したような印象を和らげ、誠実な対応を印象づけたい場合に非常に有効です。
例文:
- 「お問い合わせいただいた件の詳細につきましては、現時点では分かりかねます。」
- 「ご指摘の点については、私の一存では分かりかねますので、一度持ち帰らせていただけますでしょうか。」
「預かり知らぬ」に関するよくある質問

「預かり知らぬ」の読み方は?
「預かり知らぬ」および、正しい表記である「与り知らぬ」は、どちらも「あずかりしらぬ」と読みます。 古語の「知らぬ(しらぬ)」が使われている形です。
「預かり知らぬ」は敬語として使えますか?
「与り知らぬ」は、それ自体が特定の敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)に分類されるわけではありません。しかし、改まった場面で使われる硬い表現であるため、丁寧な言葉遣いの一環として使われることがあります。ただし、前述の通り、相手に冷たい印象や無責任な印象を与える可能性があるため、目上の方に使う際は「申し訳ございませんが」などのクッション言葉を添える配慮が必要です。より丁寧な表現としては「存じ上げません」「承知しておりません」などを使う方が無難です。
「私の預かり知らぬところで」とはどういう意味ですか?
「私の与り知らぬところで」という形でよく使われます。 これは、「私が全く関与しておらず、何も知らない間に」という意味です。自分抜きで何かが決定されたり、物事が進んだりしたことに対する不快感や驚きを示す文脈で使われることが多い表現です。「いつの間にか、そんなことになっていたなんて」というニュアンスです。
「預かり知らぬ」の対義語はありますか?
「与り知らぬ」が「関与しておらず、知らない」という意味なので、その反対は「関与していて、知っている」となります。これを一言で表す言葉としては「与り知る(あずかりしる)」が該当します。また、文脈によっては「承知している」「関与している」「承知の上」などが対義語的な表現として使えます。
まとめ

- 「預かり知らぬ」は誤用で、正しくは「与り知らぬ」と書く。
- 「与り知らぬ」は「関与しておらず、知らない」という意味。
- 単に知らないだけでなく、無関係であるという強い否定のニュアンスを持つ。
- ビジネスでは責任の所在を明確にする際に使われることがある。
- 使い方によっては冷たく無責任な印象を与えるため注意が必要。
- 「関知しない」は、より積極的な拒絶の意思を含むことがある。
- 「存じません」「存じ上げません」は、単に知らないことを丁寧に言う言葉。
- ビジネスでは「承知しておりません」が丁寧な言い換えとして使える。
- 「担当外でございます」は、責任の範囲外であることを明確に伝える表現。
- 「分かりかねます」は、答えられないことを申し訳なく思う気持ちを示す。
- 読み方は「あずかりしらぬ」。
- 「私の与り知らぬところで」は「私が知らない間に」という意味。
- 対義語は「与り知る」や「承知している」など。
- 言葉の正しい意味を理解し、状況に応じて使い分けることが大切。
- 迷った際は、より丁寧で誤解の少ない言い換え表現を選ぶのが無難。