大切に育てているトマトやナス、きゅうりなどの野菜、そしてガーデニングの草花に、白い小さな虫がふわふわと飛んでいるのを見かけたことはありませんか？ もしかしたら、それはオンシツコナジラミかもしれません。この害虫は繁殖力が非常に強く、あっという間に増えて植物を弱らせてしまう厄介な存在です。この記事では、そんなオンシツコナジラミの効果的な駆除方法、特に農薬の選び方と使い方を詳しく解説します。農薬に頼らない方法も併せて紹介するので、あなたの状況に合った対策がきっと見つかります。
オンシツコナジラミの被害に悩んでいませんか？まずは敵を知ろう
効果的な対策を行うためには、まず敵であるオンシツコナジラミについて正しく知ることが重要です。その生態や被害の状況を把握し、適切な対策へと繋げましょう。
本章では、以下の内容について解説します。
- オンシツコナジラミってどんな虫？生態と特徴
- 放置は危険！オンシツコナジラミが引き起こす深刻な被害
- オンシツコナジラミが発生しやすい植物と時期
オンシツコナジラミってどんな虫？生態と特徴
オンシツコナジラミは、カメムシ目コナジラミ科に属する体長1mm～2mmほどの小さな昆虫です。 その名の通り、温室などの施設栽培で多く発生しますが、家庭菜園やベランダでも十分に発生する可能性があります。成虫は白い翅（はね）を持ち、植物の周りを弱々しく飛び回ります。
この虫の厄介な点は、その驚異的な繁殖力にあります。雌の成虫は1匹で100～200個もの卵を葉の裏に産み付け、好適な条件下（気温20～25℃）では、卵から成虫になるまで約3週間と非常に短いサイクルで世代交代を繰り返します。 そのため、発見が遅れるとあっという間に大発生してしまうのです。
卵から孵化した幼虫は、葉の裏に定着して植物の汁を吸い始めます。幼虫や蛹の期間は葉の裏でじっとしているため、見つけにくいのが特徴です。
放置は危険！オンシツコナジラミが引き起こす深刻な被害
オンシツコナジラミによる被害は、単に植物の見た目が悪くなるだけではありません。放置すると、植物の生育に深刻な影響を及ぼし、最悪の場合枯れてしまうこともあります。
吸汁による直接被害
成虫・幼虫ともに植物の葉裏に寄生し、師管液を吸汁します。 これにより、植物は栄養分を奪われ、生育が悪くなります。被害が進むと、葉緑素が抜けて白いかすり状の斑点が現れ、やがて葉全体が黄色くなって枯れてしまいます。
すす病による間接被害
オンシツコナジラミは、吸汁しながら「甘露（かんろ）」と呼ばれる甘い排泄物を出します。この甘露を栄養源として、空気中のカビの一種である「すす病菌」が繁殖します。 すす病が発生すると、葉や果実の表面が黒いすすで覆われたようになり、見た目が悪くなるだけでなく、光合成が妨げられて植物の生育がさらに悪化するという二重の被害をもたらします。 特にトマトなどの果実がすすで汚れれば、商品価値は大きく損なわれます。
オンシツコナジラミが発生しやすい植物と時期
オンシツコナジラミは非常に食性が広く、多くの植物に寄生します。特に被害を受けやすいのは、以下のような植物です。
- 野菜類: トマト、ナス、キュウリ、メロン、カボチャ、インゲンなど
- 花き類: ポインセチア、ハイビスカス、フクシア、ランタナ、キク、トルコギキョウなど
発生時期は、主に春と秋です。 特に気温が20℃前後になる過ごしやすい季節に活動が活発になります。 温室や室内など、冬でも暖かい環境では一年中発生する可能性があるので注意が必要です。
【目的別】オンシツコナジラミにおすすめの農薬（殺虫剤）10選
オンシツコナジラミの駆除には、やはり農薬の使用が効果的です。しかし、一言で農薬と言っても様々な種類があり、どれを選べば良いか迷ってしまいますよね。ここでは、家庭菜園で手軽に使えるものから、プロの農家が使用する専門的なものまで、目的別に分けておすすめの農薬を紹介します。
本章で紹介する農薬は以下の通りです。
- 家庭菜園でも使いやすい！おすすめ農薬5選
- プロの農家向け！効果の高い専門農薬5選
家庭菜園でも使いやすい！おすすめ農薬5選
まずは、家庭菜園やガーデニングで使いやすい、比較的手に入りやすい農薬を紹介します。スプレータイプや粒剤など、手軽に使えるものが中心です。
| 製品名 | 販売会社 | 特徴 |
|---|---|---|
| ベニカXネクストスプレー | 住友化学園芸 | 5種類の成分配合で、害虫と病気に幅広く効く。速効性と持続性を両立。 |
| オルトランDX粒剤 | 住友化学園芸 | 株元にまくだけで効果が持続する浸透移行性殺虫剤。アブラムシなども同時に防除。 |
| アーリーセーフ | 住友化学園芸 | ヤシ油由来の天然成分で、有機JAS規格（オーガニック栽培）でも使用可能。うどんこ病にも効果あり。 |
| 粘着くん液剤 | OATアグリオ | でんぷん由来の成分で、害虫を物理的に窒息させる。薬剤抵抗性がつきにくい。 |
| フーモン® | 日本化薬 | 食品添加物をベースにした気門封鎖剤。薬剤抵抗性コナジラミにも有効。 |
これらの農薬は、ホームセンターや園芸店で比較的手に入りやすいです。特にスプレータイプは希釈の手間がなく、見つけ次第すぐに使えるので、1本備えておくと安心です。粒剤は効果の持続性が魅力で、植え付け時に混ぜ込むことで予防効果が期待できます。
プロの農家向け！効果の高い専門農薬5選
次に、より専門的で効果の高い農薬を紹介します。これらは主に農業資材店などで取り扱われており、使用には正しい知識が必要です。薬剤抵抗性の管理も考慮した選定が重要になります。
| 製品名 | 販売会社 | 特徴 |
|---|---|---|
| モスピラン顆粒水溶剤 | 日本曹達 | 浸透移行性に優れ、効果が長持ちする。コナジラミ類に高い効果を示す。 |
| コルト顆粒水和剤 | 日本農薬 | 新しい作用機作を持ち、既存の薬剤に抵抗性を持つコナジラミにも有効。天敵への影響が少ない。 |
| ディアナSC | FMC Japan | 微生物由来の成分で、人や動物への安全性が高い。幅広い害虫に効果あり。 |
| ベリマークSC | FMC Japan | 育苗期の灌注処理で、定植後長期間にわたりコナジラミなどの害虫を防除する。 |
| ウララDF | OATアグリオ | 速効性に優れ、吸汁を素早く阻害する。アブラムシ類にも高い効果を示す。 |
プロ向けの農薬は、作用機作がそれぞれ異なるため、後述する「農薬ローテーション」を組む上で重要な選択肢となります。使用する際は、必ずラベルをよく読み、対象作物や使用時期、希釈倍率などを守って正しく使用してください。
農薬の効果を最大化する！正しい使い方と散布のコツ
せっかく農薬を使うなら、その効果を最大限に引き出したいものです。ここでは、農薬散布の基本的なルールから、オンシツコナジラミに特化した散布のコツまでを解説します。
この章のポイントは以下の通りです。
- 散布前に必ず確認！農薬使用の基本ルール
- 葉裏を狙え！オンシツコナジラミに農薬を効かせる散布方法
- 散布のタイミングが重要！効果的な時期と時間帯
散布前に必ず確認！農薬使用の基本ルール
農薬は、正しく使えば非常に有効な資材ですが、使い方を誤ると効果がなかったり、作物に悪影響を及ぼしたり、人の健康や環境に害を与える可能性があります。使用前には、必ず以下の点を確認しましょう。
- ラベルの熟読: 農薬のラベルには、対象作物、適用害虫、希釈倍率、使用時期、使用回数、収穫前日数など、重要な情報が記載されています。必ず隅々まで読み、記載事項を厳守してください。
- 適切な保護具の着用: 農薬散布の際は、マスク、ゴーグル、手袋、長袖・長ズボンの作業着などを着用し、農薬が皮膚に付着したり、吸い込んだりしないようにしましょう。
- 風のない日を選ぶ: 風が強い日に散布すると、農薬が飛散して自分にかかったり、近隣の作物や住宅に影響を与えたりする可能性があります。風のない、穏やかな日の朝夕に行うのが基本です。
葉裏を狙え！オンシツコナジラミに農薬を効かせる散布方法
オンシツコナジラミの駆除で最も重要なポイントは、「葉の裏にしっかり薬液をかけること」です。オンシツコナジラミは、卵、幼虫、蛹のほとんどの期間を葉の裏で過ごします。 そのため、植物の上からシャワーのように散布するだけでは、肝心の害虫に薬液が届かず、十分な効果が得られません。
噴霧器のノズルを上向きにして、一枚一枚の葉をめくり上げるようなイメージで、葉の裏側まで薬液がしたたるほどたっぷりと散布しましょう。特に、新しく展開してくる若い葉は成虫が好んで産卵する場所なので、念入りに散布することが大切です。
散布のタイミングが重要！効果的な時期と時間帯
農薬散布は、タイミングも非常に重要です。最も効果的なのは、発生初期です。 オンシツコナジラミは繁殖力が旺盛なため、数が増えてからでは駆除が非常に困難になります。日頃から植物をよく観察し、白い虫が飛び始めたらすぐに対処することが、被害を最小限に食い止めるコツです。
散布する時間帯は、早朝か夕方の涼しい時間帯が適しています。日中の高温時に散布すると、薬液がすぐに蒸発して効果が落ちるだけでなく、薬害（植物へのダメージ）が出やすくなるためです。また、活動が鈍る朝夕の方が、成虫にも薬液を当てやすくなります。
農薬が効かない？薬剤抵抗性オンシツコナジラミの対策
「何度も農薬をまいているのに、一向にオンシツコナジラミが減らない…」そんな経験はありませんか？それは、農薬が効きにくい「薬剤抵抗性」を持ったオンシツコナジラミが発生しているのかもしれません。
この章では、薬剤抵抗性の問題とその対策について掘り下げていきます。
- なぜ農薬が効かなくなるのか？薬剤抵抗性の仕組み
- 【重要】農薬ローテーションの考え方と具体例
なぜ農薬が効かなくなるのか？薬剤抵抗性の仕組み
薬剤抵抗性とは、特定の農薬に対して害虫が抵抗力を持ち、その農薬が効きにくくなる現象のことです。 オンシツコナジラミは、世代交代が早く繁殖力が強いため、特に薬剤抵抗性が発達しやすい害虫として知られています。
同じ系統の農薬を連続して使用すると、その農薬に強い個体だけが生き残ります。そして、その生き残った個体同士が交配して子孫を残すことで、次第にその農薬が効かない集団へと変化していってしまうのです。これが薬剤抵抗性が発達する仕組みです。宮城県など、地域によっては特定の薬剤に対する感受性の低下が報告されています。
【重要】農薬ローテーションの考え方と具体例
薬剤抵抗性の発達を防ぐために最も重要な対策が、「農薬のローテーション散布」です。これは、作用性の異なる複数の農薬を順番に使うことで、特定の農薬に強い個体だけが生き残るのを防ぐ方法です。
作用性の異なる農薬を組み合わせる
農薬には、それぞれ「作用性」があり、害虫の神経に作用するもの、エネルギー代謝を阻害するもの、脱皮を阻害するものなど、効き方が異なります。この作用性は「IRACコード」という番号で分類されています。ローテーションを組む際は、このIRACコードが異なる農薬を選ぶことが基本となります。
例えば、「モスピラン（IRACコード: 4A）」を使った後は、次は「コルト（IRACコード: 9B）」や「ディアナSC（IRACコード: 5）」といった、異なるグループの農薬を使用します。同じ商品名でなくても、有効成分が同じであれば同じグループなので注意が必要です。
ローテーション散布の計画例
以下に、家庭菜園を想定したローテーション散布の計画例を示します。
- 1回目: ベニカXネクストスプレー（速効性のある薬剤で初期密度を下げる）
- 2回目 (7-10日後): 粘着くん液剤（物理的に作用する薬剤で、抵抗性発達のリスクが低い）
- 3回目 (7-10日後): アーリーセーフ（天然由来成分の薬剤を挟む）
このように、異なるタイプの薬剤を組み合わせることで、抵抗性の発達を効果的に抑制することができます。プロの農家は、より多くの種類の農薬を計画的に使用して、抵抗性管理を徹底しています。
農薬だけに頼らない！総合的なオンシツコナジラミ防除法
オンシツコナJラミの防除は、農薬だけに頼るのではなく、様々な方法を組み合わせた「総合的病害虫管理（IPM）」の考え方が非常に重要です。ここでは、農薬以外の有効な防除方法を紹介します。
この章で紹介する方法は以下の通りです。
- 物理的防除で侵入と発生を防ぐ
- 天敵を利用する生物的防除
- 発生しにくい環境を作る耕種的防除
物理的防除で侵入と発生を防ぐ
物理的な方法で、オンシツコナジラミの侵入を防いだり、捕殺したりする方法です。化学農薬を使いたくない場合に有効です。
黄色粘着シートで捕殺
オンシツコナジラミの成虫は、黄色に誘引される習性があります。 この習性を利用したのが、黄色の粘着シート（粘着トラップ）です。植物の近くに吊るしておくだけで、飛来した成虫を捕獲することができます。発生状況のモニタリングにも役立ち、早期発見に繋がります。 ただし、成虫しか捕獲できないため、これだけで根絶するのは難しいですが、農薬散布と組み合わせることで効果を高めることができます。
防虫ネットで侵入阻止
プランター栽培や畑では、目の細かい防虫ネットで植物全体を覆うことで、外部からの成虫の侵入を物理的に防ぐことができます。 ネットの目合いは0.4mm以下のものが推奨されています。 苗を植え付けた直後からネットをかけておくのが最も効果的です。
天敵を利用する生物的防除
オンシツコナジラミには天敵となる昆虫がいます。これらの天敵を農薬として利用する方法を「生物的防除」と呼びます。
オンシツツヤコバチ製剤
オンシツツヤコバチは、オンシツコナジラミの幼虫に卵を産み付ける寄生蜂です。 卵からかえったハチの幼虫は、コナジラミの幼虫を食べて成長します。この天敵を利用した「エンストリップ」や「ツヤトップ」といった生物農薬が市販されています。 JAS法に適合し、農薬散布回数にカウントされないため、有機栽培でも使用できます。
タバコカスミカメ製剤
タバコカスミカメは、コナジラミ類の卵や幼虫を捕食する天敵です。 近年、この天敵を利用した「バコトップ」という製剤も利用できるようになり、トマト栽培などで効果を上げています。
天敵製剤は、害虫の発生初期に放飼することで高い効果を発揮します。 ただし、天敵に影響のある化学農薬は使えなくなるため、使用する際は注意が必要です。
発生しにくい環境を作る耕種的防除
日頃の栽培管理の中で、害虫が発生しにくい環境を整えることも重要な対策です。
雑草の管理
ハウスの周りや畑の雑草は、オンシツコナジラミの隠れ家や発生源となります。 定期的に除草を行い、害虫が住み着く場所をなくしましょう。
健全な苗の選定
新しい苗を購入する際は、葉の裏までよく確認し、オンシツコナジラミの成虫や幼虫、卵が付着していないかチェックしましょう。 知らないうちに、害虫を自分の畑や庭に持ち込んでしまうケースは少なくありません。
よくある質問
Q. オンシツコナジラミの卵に効く農薬はありますか？
A. オンシツコナジラミの卵は薬剤が効きにくいステージです。しかし、一部の農薬は卵にも効果があるとされています。例えば、宮城県の試験では、クロチアニジン水溶剤やスピネトラム水和剤などが卵に対して比較的高い効果を示したという報告があります。 ただし、成虫や幼虫に比べると効果は限定的な場合が多いため、孵化してくる幼虫をターゲットに、定期的な農薬散布を繰り返すことが基本となります。
Q. 農薬を使わずに駆除する方法はありますか？
A. はい、あります。農薬を使いたくない場合は、まず物理的防除と耕種的防除を徹底しましょう。黄色粘着シートで成虫を捕獲し、防虫ネットで侵入を防ぎます。 また、発生初期であれば、被害の出た葉を取り除いたり、牛乳スプレーを試したりする方法もあります。天敵製剤の利用も有効な手段です。
Q. 牛乳スプレーは本当に効果がありますか？
A. 牛乳を水で1:1に薄めてスプレーする方法は、一定の効果が期待できると言われています。 牛乳が乾く際に膜を作り、コナジラミの気門（呼吸する穴）を塞いで窒息させるという仕組みです。 ただし、効果は一時的で、散布後に牛乳を洗い流さないと悪臭やカビの原因になるため注意が必要です。 薬剤に比べると効果は穏やかなので、発生ごく初期の対策と考えるのが良いでしょう。
Q. オンシツコナジラミとタバココナジラミの違いは何ですか？
A. オンシツコナジラミとタバココナジラミは非常によく似た害虫ですが、いくつかの違いがあります。見分けるポイントは、静止した時の翅のたたみ方です。オンシツコナジラミは翅を屋根のように水平に近くたたむのに対し、タバココナジラミは体に対して45度以上の角度で立てるようにたたみます。 また、タバココナジラミはトマト黄化葉巻病などのより深刻なウイルス病を媒介することで知られています。
まとめ
- オンシツコナジラミは繁殖力が非常に強い害虫です。
- 吸汁被害と、すす病による間接被害を引き起こします。
- トマト、ナス、キュウリなどの野菜や多くの花き類に発生します。
- 家庭菜園ではスプレータイプの農薬が手軽で便利です。
- プロは作用性の異なる農薬を計画的に使用します。
- 農薬散布の基本は「葉の裏」にたっぷりかけることです。
- 発生初期の防除が最も効果的です。
- 同じ農薬の連用は「薬剤抵抗性」を発達させます。
- 作用性の異なる農薬を順番に使うローテーション散布が重要です。
- 黄色粘着シートは成虫の捕獲と発生調査に有効です。
- 防虫ネットは物理的に侵入を防ぎます。
- オンシツツヤコバチなどの天敵を利用する生物的防除もあります。
- 雑草管理や健全な苗の選択など、日頃の管理が大切です。
- 農薬だけに頼らず、様々な方法を組み合わせることが成功のコツです。
- 困ったときは、農薬のラベルをよく読み、正しく使用しましょう。
