「帰責事由」という言葉を耳にしたことはありますか?日常生活ではあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、契約や法律に関する場面では非常に重要な意味を持つ専門用語です。特に、何らかのトラブルが発生した際に、誰に責任があるのかを判断する上で欠かせません。本記事では、「帰責事由」の正しい読み方から、その法律上の意味、そして2020年の民法改正でどのように考え方が変わったのかまで、わかりやすく解説します。
この言葉の理解を深めることで、もしもの時に役立つ知識を身につけましょう。
「帰責事由」の正しい読み方と基本的な意味

「帰責事由」という言葉は、法律や契約書などで頻繁に登場しますが、その読み方や正確な意味を知らない方も少なくありません。まずは、この重要な用語の読み方と、その基本的な意味について理解を深めていきましょう。
「帰責事由」は「きせきじゆう」と読む
「帰責事由」は、「きせきじゆう」と読みます。この言葉は、単に「きせき」と略されることもありますが、正式には「きせきじゆう」と発音するのが適切です。法律用語は難解に感じられることが多いですが、まずは正しい読み方を覚えることが、その内容を理解するための第一歩となります。この読み方を覚えておけば、専門家との会話や書類の確認もスムーズに進められるでしょう。
「責めに帰すべき事由」との関係と意味
「帰責事由」は、しばしば「責めに帰すべき事由(せめにきすべきじゆう)」という長い表現を略したものです。どちらも同じ意味で使われ、ある事態や結果に対して、誰かに責任を負わせるべき理由や原因を指します。具体的には、その人の故意(わざと行ったこと)や過失(不注意によるミス)など、責任を問える事情があることを意味します。
この「責めに帰すべき事由」という表現は、民法の条文にも登場する正式な用語であり、その重要性がうかがえます。
法律上の「帰責事由」が指す「故意」と「過失」
法律上の「帰責事由」を理解する上で、特に重要なのが「故意(こい)」と「過失(かしつ)」という概念です。「故意」とは、ある結果が発生することを認識しながら、あえてその行為を行うことを指します。例えば、約束の期日までに商品を届けないと知りながら、意図的に発送しなかった場合などがこれに該当します。
一方、「過失」とは、注意を払えば結果を防げたにもかかわらず、不注意によって結果を発生させてしまうことです。例えば、確認を怠ったために誤った商品を発送してしまった場合などが挙げられます。これらの故意や過失、または信義則上これらと同視すべき事由が「帰責事由」の主な内容となります。
「帰責事由」が問題となる主な場面と具体例

「帰責事由」という言葉は、特に民法における契約関係や損害賠償の場面で頻繁に登場します。ここでは、どのような状況で「帰責事由」が問題となり、具体的にどのようなケースが考えられるのかを詳しく見ていきましょう。
債務不履行における「帰責事由」
債務不履行とは、契約の内容通りに義務が果たされない状態を指します。例えば、売買契約で商品を期日までに引き渡さない、代金を支払わないといったケースです。この債務不履行が発生した場合、債権者(被害を受けた側)は債務者(義務を怠った側)に対して損害賠償を請求できますが、その際に債務者に「帰責事由」があるかどうかが問われます。
つまり、債務者が故意に義務を果たさなかったり、不注意によって義務を果たせなかったりした場合に、損害賠償責任が発生するのが原則です。 例えば、注文された商品を誤って別の顧客に送ってしまい、期日までに正しい商品を届けられなかった場合、運送業者の過失による帰責事由が認められる可能性があります。
契約不適合責任と「帰責事由」
契約不適合責任は、売買契約などで引き渡された目的物が、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しない場合に売主が負う責任です。この場合、買主は売主に対して、修補や代替物の引渡し、代金減額などを請求できます。しかし、その不適合が買主自身の「帰責事由」によるものであるときは、買主はこれらの請求ができません。
例えば、買主が誤った使い方をしたために商品が故障した場合、その故障は買主の帰責事由によるものと判断され、売主は契約不適合責任を負わないことになります。
危険負担における「帰責事由」の役割
危険負担とは、双務契約(売買契約のように双方が義務を負う契約)において、契約成立後に当事者のどちらの責任でもない事由(例えば自然災害など)によって、一方の債務が履行できなくなった場合に、そのリスクをどちらが負担するかという問題です。民法では、原則として、当事者双方の「責めに帰することができない事由」によって債務が履行できなくなった場合、債権者は反対給付の履行を拒むことができるとされています。
しかし、債権者の「帰責事由」によって債務が履行できなくなった場合は、債権者は反対給付の履行を拒むことができません。 例えば、買主が指定した倉庫で保管中に、買主の不注意で商品が滅失した場合、買主は代金の支払いを拒めないことになります。
契約解除と「帰責事由」
契約解除は、契約関係を将来に向かって消滅させることです。債務不履行があった場合、債権者は契約を解除できるのが一般的ですが、ここでも「帰責事由」が関係してきます。特に、2020年の民法改正により、債務者の「帰責事由」がなくても契約解除ができるようになった一方で、債務不履行が債権者の「帰責事由」によるものであるときは、債権者は契約を解除できないという規定が新設されました。
これは、自らの責任で契約不履行を招いた者が、そのことを理由に契約から逃れることを防ぐための措置です。例えば、債権者が必要な情報提供を怠ったために債務者が契約を履行できなかった場合、債権者はその契約を解除できない可能性があります。
民法改正で変わった「帰責事由」の考え方

2020年4月1日に施行された改正民法(債権法)は、「帰責事由」の考え方にも大きな影響を与えました。特に、損害賠償請求と契約解除の場面で、その判断基準や要件が変更されています。ここでは、改正民法が「帰責事由」にどのような変化をもたらしたのかを詳しく見ていきましょう。
損害賠償請求における「帰責事由」の判断基準
改正民法第415条第1項ただし書きでは、債務不履行による損害賠償請求について、「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と規定されました。これは、従来の「故意・過失」という厳格な判断基準に加え、「契約の内容や取引上の社会通念」といったより広い視点から「帰責事由」の有無を判断することを意味します。
例えば、予期せぬパンデミックによってサプライチェーンが寸断され、商品の供給が不可能になった場合など、個別の契約状況や業界の慣習を考慮して、債務者に責任を問えないと判断される可能性が出てきました。
契約解除における債務者の「帰責事由」要件の変更
改正民法では、債務不履行による契約解除の要件から、原則として債務者の「帰責事由」が不要となりました。これは、債務不履行という客観的な事実があれば、債権者は契約を解除できるという考え方に基づいています。 以前は、債務者に故意や過失がなければ解除できないというケースもありましたが、改正後は、例えば債務者が病気で倒れてしまい、契約を履行できなくなった場合でも、債権者は契約を解除できることになります。
これにより、債権者の解除権行使がより容易になったと言えるでしょう。
債権者の「帰責事由」による解除の制限
一方で、改正民法第543条では、債務の不履行が債権者の「責めに帰すべき事由」によるものであるときは、債権者は契約の解除をすることができないと定められました。 これは、債権者自身が原因を作っておきながら、そのことを理由に契約を解除することは許されないという公平性の観点からの規定です。
例えば、債権者が商品の受け取りを拒否し続けた結果、債務者が商品を保管できなくなり、契約が履行不能になった場合、債権者はその契約を解除することはできません。この規定は、契約関係における当事者間のバランスを保つために重要な役割を果たします。
「帰責事由がない」と判断されるケースとは

「帰責事由」は、責任を負うべき理由があることを指しますが、その反対に「帰責事由がない」と判断されるケースも存在します。これは、債務者が責任を免れるための重要な要素となります。どのような状況がこれに該当するのか、そしてその立証責任は誰にあるのかを理解することは、法律トラブルを避ける上で役立ちます。
不可抗力など責任を問えない事由
「帰責事由がない」と判断される典型的なケースは、「不可抗力(ふかこうりょく)」と呼ばれる事由です。不可抗力とは、通常の注意を払っても避けることができないような、予見不可能かつ回避不可能な事態を指します。例えば、地震や台風といった大規模な自然災害、戦争、テロ、あるいはパンデミックによる物流の停止などがこれに該当します。
これらの事由によって契約の履行が不可能になった場合、債務者には「帰責事由がない」と判断され、債務不履行による損害賠償責任などを免れることがあります。ただし、不可抗力と認められるかどうかは、個別の状況や契約内容によって判断が分かれるため、注意が必要です。
「帰責事由」の立証責任について
債務不履行が発生した場合、原則として、債務者が自らに「帰責事由がない」ことを立証しなければなりません。これを「立証責任(りっしょうせきにん)」と言います。 つまり、債務者は、契約を履行できなかった原因が、自身の故意や過失、または信義則上これらと同視すべき事由によるものではないことを、具体的な証拠を挙げて証明する必要があります。
例えば、自然災害によって商品が滅失したことを理由に責任を免れたいのであれば、その災害の発生や、それによって商品の滅失が避けられなかったことを示す資料などを提出することになります。この立証責任は、債務者にとって大きな負担となる場合があるため、日頃から契約内容の管理や証拠の保全が重要となります。
よくある質問

「帰責事由」に関して、多くの方が疑問に感じる点をまとめました。ここでは、よくある質問とその回答を通じて、さらに理解を深めていきましょう。
- 「帰責性」という言葉も同じ意味で使われますか?
- 「帰責事由」はどのような法律で定められていますか?
- 「帰責事由」は契約書にどのように記載されますか?
- 「帰責事由」がない場合、損害賠償は請求できませんか?
- 「帰責事由」と「過失責任の原則」は関係がありますか?
「帰責性」という言葉も同じ意味で使われますか?
はい、「帰責性(きせきせい)」という言葉も、「帰責事由」とほぼ同じ意味で使われます。「帰責性」は、ある事態や結果について、誰かに責任を帰すことができる性質や状態を指す言葉です。 「帰責事由」が責任を帰す「理由」や「原因」に焦点を当てるのに対し、「帰責性」は責任を帰すことができる「性質」や「有無」を指すニュアンスがあります。
しかし、実務上はほとんど区別なく用いられることが多いです。
「帰責事由」はどのような法律で定められていますか?
「帰責事由」は、主に民法において定められています。特に、債務不履行に関する民法第415条、契約解除に関する民法第543条、危険負担に関する民法第536条などでその概念が用いられています。 これらの条文は、契約関係における当事者間の権利義務や責任の範囲を定める上で、非常に重要な役割を果たしています。
「帰責事由」は契約書にどのように記載されますか?
契約書では、「帰責事由」という言葉が直接使われることもありますが、より具体的に「甲または乙の責めに帰すべき事由により」「当事者の故意または過失により」といった形で記載されることが多いです。また、損害賠償責任の範囲や契約解除の条件として、この「帰責事由」の有無が明記されるのが一般的です。
契約書に記載されることで、万が一のトラブルの際に、誰がどのような責任を負うのかが明確になります。
「帰責事由」がない場合、損害賠償は請求できませんか?
原則として、債務不履行による損害賠償請求には、債務者に「帰責事由」があることが必要です。 したがって、債務者に「帰責事由がない」と判断された場合、債権者は損害賠償を請求できないことになります。ただし、契約の内容によっては、帰責事由の有無にかかわらず損害賠償責任が発生する旨が定められている場合もありますので、個別の契約内容を確認することが重要です。
「帰責事由」と「過失責任の原則」は関係がありますか?
はい、「帰責事由」と「過失責任の原則」は密接に関係しています。「過失責任の原則」とは、故意または過失がなければ損害賠償責任を負わないという民法の基本的な考え方です。 「帰責事由」は、この過失責任の原則に基づいて、債務者に故意や過失がある場合に責任を負わせるべき理由として機能します。
民法改正により、その判断基準が柔軟になったとはいえ、この原則が根底にあることに変わりはありません。
まとめ
- 「帰責事由」は「きせきじゆう」と読みます。
- 「責めに帰すべき事由」の略語であり、同じ意味で使われます。
- ある事態に対し、誰かに責任を負わせるべき理由や原因を指します。
- 主な内容は「故意(こい)」と「過失(かしつ)」です。
- 債務不履行における損害賠償請求の要件となります。
- 契約不適合責任において、買主の帰責事由は請求を制限します。
- 危険負担では、債権者の帰責事由が反対給付の履行拒絶を制限します。
- 契約解除の要件は民法改正で変更されました。
- 改正民法では、損害賠償の判断基準が「契約や社会通念」も考慮します。
- 契約解除は、原則として債務者の帰責事由が不要になりました。
- 債権者の帰責事由による債務不履行では、債権者は解除できません。
- 「帰責事由がない」ケースとして、不可抗力があります。
- 「帰責事由がない」ことの立証責任は債務者にあります。
- 「帰責性」も「帰責事由」とほぼ同じ意味で使われます。
- 「過失責任の原則」と深く関連する法律用語です。
