大切なご家族が精神的な不不調を抱え、自傷他害のおそれがある状況に直面したとき、どのように対応すれば良いのか、途方に暮れてしまう方も少なくありません。特に「措置入院」という言葉を聞くと、その強制的な響きから不安を感じる方もいるでしょう。しかし、措置入院はご本人と周囲の安全を守り、適切な医療につなげるための大切な制度です。
本記事では、措置入院の具体的な流れと、その中で保健所が果たす重要な役割について、分かりやすく解説します。
措置入院とは?その目的と法的根拠を理解する

措置入院は、精神疾患を持つ方が自傷他害のおそれがある場合に、ご本人や周囲の安全を守るために行われる入院形態です。精神保健福祉法に基づき、都道府県知事の権限で決定されます。この制度は、ご本人の意思にかかわらず、社会的な安全を確保しつつ、必要な医療を提供することを目的としています。
精神保健福祉法に基づく措置入院の定義
措置入院は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第29条に定められています。この法律では、「精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認める」場合に、都道府県知事の権限により入院が行われると定義されています。
「自身を傷つける」とは、自分の生命や身体を害する行為を指し、「他人に害を及ぼす」とは、他人の生命、身体、自由、貞操、名誉、財産等に害を及ぼすことを指します。 このように、措置入院は厳格な要件のもとで運用される、最も強制力の強い入院形態の一つです。
措置入院の対象となる具体的なケース
措置入院の対象となるのは、精神疾患にかかっており、以下の条件を満たす方々です。一つ目は、自傷他害のおそれがある場合です。これは、自殺を試みたり、他人に暴力を振るったり、器物を損壊したりする可能性が高いと判断されるケースを指します。 二つ目は、医療及び保護の必要性がある場合です。
適切な治療や保護を受けなければ、病状が悪化し、自傷他害のおそれがさらに高まる可能性が高いと判断される状況です。 これらの条件は、2名以上の精神保健指定医の診察によって判断され、その意見が一致することが必要です。
保健所が関わる措置入院の具体的な流れと進め方

措置入院の進め方は、多くの場合、保健所への相談や通報から始まります。地域住民の精神的健康を守る役割を担う保健所は、この進め方において非常に重要な役割を果たします。保健所は、通報や相談を受け、状況の把握から精神保健指定医の診察手配、そして都道府県知事への報告まで、一連の進め方を調整する中心的な機関です。
措置入院の相談・通報から始まる第一歩
措置入院が必要かもしれないと感じた場合、最初の一歩は保健所や地域の精神保健福祉センターへの相談です。家族や関係者、あるいは警察官が、精神障害のために自傷他害のおそれがある人を発見した場合、保健所などを通じて都道府県知事に通報する義務があります。 この通報や相談を受け、保健所の職員(精神保健福祉士など)が、状況を詳しく聞き取り、今後の対応について助言を行います。
この段階で、ご本人の状況やこれまでの経緯、家族の困りごとなどを丁寧に伝えることが、適切な支援につながるコツです。
保健所による調査と精神保健指定医の診察
通報や相談を受けた都道府県知事(または保健所)は、調査の必要があると認めるときは、その指定する指定医に診察をさせなければなりません。 保健所の職員は、通報内容や事前調査の結果に基づき、ご本人の状況を確認します。その上で、精神保健指定医による診察が必要と判断された場合、2名以上の精神保健指定医がご本人を診察します。
この診察では、精神障害の有無、そして自傷他害のおそれがあるかどうかが慎重に判断されます。精神保健指定医は、精神科医療において強制入院や行動制限の判断を行う権限を持つ専門医であり、患者の人権にも十分に配慮した医療を行う資質を備えています。 診察の結果、2名以上の精神保健指定医が一致して「自傷他害のおそれがある」と判断した場合に、措置入院の要件が満たされます。
都道府県知事等による措置入院の決定
2名以上の精神保健指定医の診察結果が一致し、自傷他害のおそれがあると判断された場合、最終的に都道府県知事(または政令指定都市の市長)が措置入院の決定を行います。 この決定は、ご本人の意思にかかわらず行われる行政処分であり、その責任は都道府県知事にあります。決定に際しては、「措置入院決定のお知らせ」という書面を用いて、都道府県職員がご本人および通報を行った家族等に入院について告知します。
このように、措置入院は個人の自由を大きく制限するものであるため、その進め方は厳格な法的根拠に基づき、慎重に進められます。
精神科病院への入院と治療の開始
措置入院が決定されると、ご本人は都道府県知事が指定する精神科病院に入院します。入院後は、精神保健指定医や看護師、精神保健福祉士などの専門職が連携し、ご本人の病状に応じた適切な治療とケアが提供されます。 治療には、薬物療法や精神療法、リハビリテーションなどが含まれ、ご本人の回復を支援します。入院中も、ご本人の権利は保護されており、退院請求や処遇改善請求を行うことも可能です。
措置入院は、あくまでご本人と周囲の安全を確保し、治療を通して社会復帰を目指すための手段であることを理解することが大切です。
措置入院と他の入院形態との違いを比較する

精神科の入院には、措置入院以外にもいくつかの種類があります。それぞれの違いを理解することは、適切な支援を考える上で非常に大切です。ご本人の意思や病状、家族の状況によって、最適な入院形態は異なります。ここでは、主な入院形態である任意入院、医療保護入院、そして緊急措置入院との違いを詳しく見ていきましょう。
任意入院との比較:本人の意思が尊重される入院
任意入院は、精神疾患の治療が必要な方が、ご自身の意思で入院に同意して行う入院形態です。 医師の診察を受け、ご本人と医師との間で入院治療の合意が得られた後、手続きが進められます。ご本人が退院を希望すれば、原則としていつでも退院が可能です。 任意入院は、ご本人の意思が尊重されるため、最も望ましい入院形態とされています。
これに対し、措置入院はご本人の同意なしに、都道府県知事の権限で強制的に行われる点が大きく異なります。
医療保護入院との比較:家族の同意が必要な入院
医療保護入院は、精神障害のために医療と保護が必要であると判断され、ご本人が入院に同意できない場合に、家族等(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人または保佐人)の同意を得て行われる入院形態です。 精神保健指定医1名の診察により入院の必要性が判断されることが要件となります。 措置入院との主な違いは、ご本人の同意は不要であるものの、家族等の同意が必要となる点です。
また、自傷他害のおそれがなくても、医療と保護の必要性があれば医療保護入院の対象となります。 令和6年度より、医療保護入院の入院期間の上限が3ヶ月(条件によって6ヶ月)と定められました。
緊急措置入院とは?迅速な対応が求められるケース
緊急措置入院は、自傷他害のおそれが著しく、急速な対応が必要な場合に、措置入院の正規の手続きを直ちにとることが難しい状況で行われる入院形態です。 精神保健指定医1名の診察で足り、都道府県知事の命令により72時間以内に限り入院が可能です。 これは、ご本人や周囲の安全を緊急に確保するための制度であり、72時間を超えて入院を継続する場合は、措置入院や医療保護入院などの他の入院形態に切り替える必要があります。
措置入院と同様に強制力のある入院ですが、その緊急性と期間の短さに特徴があります。
措置入院に関するよくある質問

措置入院は、ご本人やご家族にとって非常にデリケートな問題であり、多くの疑問や不安が伴います。ここでは、措置入院に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- 措置入院の費用は誰が負担するのですか?
- 措置入院の期間はどのくらいですか?
- 措置入院を拒否することはできますか?
- 家族が措置入院を求められた場合、どうすれば良いですか?
- 退院後の支援はありますか?
- 保健所に相談するとどうなりますか?
- 措置入院の基準は?
- 措置入院の家族の同意は必要ですか?
措置入院の費用は誰が負担するのですか?
措置入院にかかる費用は、原則として公費負担となります。 これは、措置入院が行政の権限と責任において行われるためです。具体的には、医療費と食事代の自己負担分は行政が公費として支払います。 ただし、ご本人の健康保険が適用され、その上で自己負担分が公費の対象となります。 また、一定の所得以上の方や、扶養義務者の所得によっては、一部自己負担が生じる場合もあります。
生活保護を受給している場合は、費用徴収は行われません。
措置入院の期間はどのくらいですか?
措置入院の期間には、法律で定められた明確な上限はありません。 ご本人の病状や治療の進行状況によって異なりますが、通常は数週間から数ヶ月程度が目安とされています。 症状が安定し、自傷他害のおそれがなくなったと判断されれば、措置は解除され、退院となります。 その後、そのまま退院する場合と、任意入院や医療保護入院に切り替えて入院を継続する場合があります。
入院中は定期的に審査が行われ、入院継続の必要性が検討されます。
措置入院を拒否することはできますか?
措置入院は、精神保健指定医2名の診察により自傷他害のおそれがあると判断され、都道府県知事の決定によって行われる強制的な入院形態であるため、ご本人が拒否することはできません。 これは、ご本人と周囲の安全を確保し、必要な医療につなげるための制度だからです。もし、措置入院の判断に納得できない場合は、退院請求や処遇改善請求を行うことができます。
家族が措置入院を求められた場合、どうすれば良いですか?
家族が措置入院を求められた場合、まずは冷静に状況を把握することが大切です。保健所や精神科病院の担当者から、措置入院の理由や今後の進め方について詳しく説明を受けましょう。ご家族は、ご本人の状況に関する情報提供や、退院後の生活環境に関する相談など、様々な面でサポートを行うことができます。 家族自身の心身の負担も大きいため、地域の相談窓口や精神保健福祉センターに相談し、支援を受けることも重要です。
退院後の支援はありますか?
措置入院から退院した後も、ご本人が地域で安心して生活できるよう、様々な支援が提供されます。 精神科病院では、退院後の生活環境に関する相談や指導を行う「退院後生活環境相談員」が選任されます。 また、ご本人やご家族からの求めがあれば、地域生活に移行できるよう相談援助を行う地域援助事業者の紹介も行われます。
自立支援医療や精神障害者保健福祉手帳、障害年金、就労支援など、利用できる制度は多岐にわたります。地域の相談窓口やデイケア、グループホームなども活用し、継続的な支援を受けることが、社会復帰への大切な一歩となります。
保健所に相談するとどうなりますか?
保健所に相談すると、まず精神保健福祉士などの専門職員が、ご本人の状況やご家族の困りごとについて詳しく聞き取りを行います。その上で、措置入院の必要性があるかどうかの判断や、今後の対応について具体的な助言をしてくれます。必要に応じて、精神保健指定医による診察の手配や、他の適切な支援機関の紹介なども行われます。
保健所は、地域における精神保健福祉の拠点として、様々な相談に対応しています。
措置入院の基準は?
措置入院の基準は、精神保健福祉法第29条に定められています。具体的には、「精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある」と認められることです。 この「自傷他害のおそれ」は、2名以上の精神保健指定医の診察によって判断され、両者の意見が一致することが必須です。
措置入院の家族の同意は必要ですか?
措置入院は、ご本人の同意はもちろん、家族の同意も必要ありません。 これは、ご本人と周囲の安全を確保するという、社会的な要請に基づいて都道府県知事の権限で行われる強制的な入院形態だからです。ただし、家族は通報や情報提供、退院後の支援計画への協力など、様々な形で関わることが期待されます。
まとめ
- 措置入院は、精神疾患により自傷他害のおそれがある場合に適用される。
- 精神保健福祉法に基づき、都道府県知事の権限で決定される。
- ご本人や家族の同意は不要で、強制力のある入院形態である。
- 保健所は、相談・通報の受付から調査、診察手配まで重要な役割を担う。
- 2名以上の精神保健指定医による診察で、自傷他害のおそれが判断される。
- 診察結果の一致により、都道府県知事が措置入院を決定する。
- 入院後は、指定された精神科病院で適切な治療が提供される。
- 任意入院は本人の同意、医療保護入院は家族の同意が必要な入院である。
- 緊急措置入院は、72時間以内の緊急対応が必要な場合に適用される。
- 措置入院の費用は原則公費負担だが、所得により自己負担が生じる場合がある。
- 措置入院の期間に明確な上限はなく、病状により異なる。
- 退院後も、保健所や病院による継続的な支援が受けられる。
- 退院後生活環境相談員が、社会復帰に向けた相談や指導を行う。
- 自立支援医療や障害年金など、利用できる支援制度は多岐にわたる。
- 措置入院は、ご本人と周囲の安全を守り、適切な医療につなげるための制度である。
