水稲栽培において、厄介な雑草であるノビエの防除に欠かせない除草剤「クリンチャーEW」。その効果を最大限に引き出すためには、適切な展着剤の併用が重要です。しかし、数多くの展着剤の中からどれを選べば良いのか、どのように使えば良いのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
本記事では、クリンチャーEWの効果をさらに高めるための展着剤の選び方から、おすすめの製品、そして正しい混用方法や散布のコツまで、詳しく解説します。大切な稲を守り、豊かな収穫へとつなげるために、ぜひ参考にしてください。
クリンチャーEWの効果を最大化する展着剤の重要性

水稲栽培で安定した収穫を目指す上で、雑草対策は避けて通れない課題です。特に「ノビエ」は水稲と競合し、収量に大きな影響を与えるため、効果的な除草が求められます。ここで活躍するのが除草剤「クリンチャーEW」ですが、その真価を引き出すには展着剤の存在が不可欠です。
クリンチャーEWとは?その強力な除草効果
クリンチャーEWは、水稲の主要な雑草であるノビエに特化した茎葉処理型の除草剤です。発芽後から6葉期までのノビエに対して高い効果を発揮し、スルホニルウレア系除草剤に抵抗性を持つノビエにも有効とされています。イネに対する安全性が高く、移植水稲だけでなく、直播水稲や育苗箱でも使用できる汎用性の高さも特長です。
散布後7日から10日ほどで効果が完了し、ノビエの黄化や褐変を経て枯死させます。また、散布後の降雨や土質の違いによる効果への影響が少ない点も、農家の方々にとって大きなメリットと言えるでしょう。
なぜ展着剤が必要なのか?農薬効果を高める役割
クリンチャーEWのような茎葉処理型除草剤は、雑草の葉に付着し、そこから吸収されて効果を発揮します。しかし、雑草の葉の表面は水を弾きやすい性質を持つため、農薬が均一に付着しにくく、流れ落ちてしまうことがあります。ここで展着剤が重要な役割を担います。展着剤は、農薬の散布液に加えることで、液体の表面張力を低下させ、葉面への濡れ性や付着性を大幅に向上させるのです。
これにより、農薬が雑草の葉にしっかりと広がり、均一に付着することで、除草成分が効率よく吸収され、本来の薬効を十分に発揮できるようになります。
展着剤がもたらす具体的なメリット
展着剤を使用することで、クリンチャーEWの除草効果はさらに高まります。具体的なメリットとしては、まず農薬の付着性が向上し、散布ムラが減少することが挙げられます。これにより、狙った雑草に確実に農薬が届き、取りこぼしを減らせます。次に、薬液が葉面に均一に広がることで、除草成分の吸収が促進され、効果の発現が早まることも期待できます。
さらに、雨による農薬の流亡を軽減する効果も持ち合わせているため、散布後の天候に左右されにくくなり、安定した除草効果を維持しやすくなります。これらのメリットは、結果として除草作業の効率を高め、より確実な雑草防除へとつながるでしょう。
クリンチャーEWに最適な展着剤の選び方

クリンチャーEWの効果を最大限に引き出すためには、数ある展着剤の中から適切なものを選ぶことが大切です。展着剤には様々な種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。ここでは、展着剤の種類と、クリンチャーEWとの相性を考慮した選び方のコツ、そして避けるべき展着剤について解説します。
展着剤の種類とそれぞれの特徴
展着剤は、その機能によって大きく「一般展着剤」「機能性展着剤(アジュバント)」「固着剤」の3つに分けられます。
- 非イオン系展着剤(一般展着剤)
最も一般的なタイプで、散布液の表面張力を下げ、農薬が植物の葉に均一に付着しやすくなるのが特長です。薬害のリスクが比較的低く、幅広い農薬に使用できます。 - シリコーン系展着剤(機能性展着剤)
非常に高い濡れ性と浸透性を持つのが特長です。薬液が葉の表面に素早く広がり、植物組織への浸透を促進するため、特に浸透移行性の農薬や、水を弾きやすい作物への使用に適しています。 - 機能性展着剤(アジュバント)
一般展着剤よりも積極的に農薬の効果を高める目的で開発された展着剤です。付着性や浸透性を高めるだけでなく、農薬の安定性を向上させたり、耐雨性を高めたりする効果を持つものもあります。除草剤専用に開発されたものもあります。
クリンチャーEWは茎葉処理型の除草剤であり、雑草の葉からの吸収が重要となるため、付着性や浸透性を高める展着剤が適しています。
クリンチャーEWとの相性を考慮した選び方のコツ
クリンチャーEWは、その製品ラベルにも「展着剤を加用してください」と明記されている通り、展着剤との併用が推奨されています。 クリンチャーEWは乳剤タイプであり、雑草の茎葉から速やかに吸収されることで効果を発揮します。そのため、薬液が葉面にしっかりと付着し、均一に広がることを助ける展着剤を選ぶのがコツです。
具体的には、非イオン系展着剤や、より高い濡れ性と浸透性を期待できるシリコーン系展着剤、または除草剤との相性を考慮して開発された機能性展着剤がおすすめです。特に、葉の表面が水を弾きやすいノビエに対しては、薬液がしっかりと密着し、浸透を助けるタイプの展着剤を選ぶことで、クリンチャーEWの除草効果を最大限に引き出すことができるでしょう。
避けるべき展着剤や注意点
展着剤の中には、特定の農薬との混用で薬害を引き起こす可能性があるものや、効果が低下するものもあります。特に、除草剤専用ではない機能性展着剤や、極端に高濃度で使用する展着剤は、薬害のリスクを高めることがあるため注意が必要です。
クリンチャーEWを使用する際は、必ず製品ラベルに記載されている注意事項を確認し、推奨されていない展着剤との混用は避けるようにしましょう。また、初めて使用する展着剤の場合は、少量で試すなどして、作物への影響がないか確認することも大切です。一般的に、展着剤の希釈倍率は、一般展着剤で5000倍以上、機能性展着剤で1000~3000倍程度が目安とされていますが、高濃度での使用は薬害につながる可能性があるため、必ず製品の指示に従ってください。
クリンチャーEWにおすすめの展着剤3選

クリンチャーEWの除草効果をさらに高めるために、特におすすめしたい展着剤を3つご紹介します。それぞれの特長と効果的な使い方を知り、ご自身の栽培状況に合った展着剤を選んでみてください。
おすすめ展着剤1: 「アプローチBI」の特長と効果的な使い方
「アプローチBI」は、農薬の効果を安定させ、いっそう確実にするための機能性展着剤です。植物表面を濡らす効果に加え、薬剤をしみこませる効果があるのが特長です。これにより、農薬が作用を及ぼす部分に素早く的確に到達し、薬効を安定させることが期待できます。
クリンチャーEWとの併用では、ノビエの葉への付着性を高めつつ、除草成分の浸透を助けることで、より確実な除草効果へとつながるでしょう。使用方法は、散布液10Lあたり10ml~50mlを添加するのが目安です。混用順序は、水にアプローチBIを加えてから、乳剤、液剤、水和剤の順に混ぜるのが良いとされています。
ただし、作物の幼苗期や高温時など、薬害の生じやすい条件での使用は避けるように注意が必要です。
おすすめ展着剤2: 「まくぴか」の特長と効果的な使い方
「まくぴか」は、日本初のシリコーン系展着剤として知られています。散布液の「濡れ性(湿展性)」を大幅に改善する効果があり、水を弾きやすい作物への付着性を大きく向上させます。薬液が均一に付着するため、水和剤散布時などに目立つ作物の汚れを軽減できるのもメリットです。
クリンチャーEWと「まくぴか」を併用することで、ノビエの葉に薬液がムラなく広がり、除草成分が効率よく吸収されることが期待できます。特に、葉の表面に細かい毛があるなど、薬液が付着しにくい雑草に対しては、その効果を実感しやすいでしょう。希釈倍率は3000倍から10000倍が推奨されていますが、使用する農薬のラベルをよく確認し、適切な濃度で使うことが大切です。
おすすめ展着剤3: 「スカッシュ」の特長と効果的な使い方
「スカッシュ」は、優れた濡れ性を有する機能性展着剤です。油溶性の食品添加物を主成分としており、特に殺虫剤やダニ剤への加用で薬効を安定・向上させることが期待されています。農薬を溶かし込み、「しみこむ力」をつけることで、農薬の効果を高めるのが特長です。
クリンチャーEWと「スカッシュ」を組み合わせることで、除草成分がノビエの葉にしっかりと付着し、浸透性を高めることで、より安定した除草効果が期待できます。特に、薬液が乾きやすい環境下での散布や、薬効を確実にしたい場合に有効です。使用方法は、散布液10Lあたり10mlを添加するのが目安です。 ただし、一部の農薬との混用で薬害を生じる恐れがあるため、必ず製品ラベルの注意事項を確認してから使用しましょう。
クリンチャーEWと展着剤の正しい混用方法と散布のコツ

クリンチャーEWと展着剤を効果的に使うためには、正しい混用方法と散布のコツを知ることが不可欠です。適切な手順を踏むことで、農薬の効果を最大限に引き出し、薬害のリスクを減らすことができます。
適切な希釈倍率と混和の手順
クリンチャーEWは、通常10アールあたり100mlを25~100Lの水で希釈して散布します。展着剤を加用する際は、まず規定量の水にクリンチャーEWを加え、よくかき混ぜて均一な状態にします。その後、展着剤を規定の希釈倍率で加え、さらにしっかりと混和してください。展着剤は最後に加えることで、薬液全体に均一に行き渡りやすくなります。
展着剤の希釈倍率は製品によって異なりますが、一般展着剤は5000倍~10000倍、機能性展着剤は1000倍~3000倍が目安です。必ず各展着剤の製品ラベルを確認し、指示された希釈倍率を守ることが大切です。希釈した液は保存せず、使用する当日に調製し、使い切るようにしましょう。
効果的な散布時期と方法
クリンチャーEWの散布時期は、移植水稲では移植後20日からノビエ6葉期まで、直播水稲では播種後10日からノビエ5葉期までが適期とされています。 ノビエの葉齢が適期を過ぎると効果が劣る場合があるため、時期を失しないように散布することが重要です。
散布方法は、雑草の茎葉全体、特に株元によく付着するように均一に散布するのがコツです。湛水散布または落水散布が可能ですが、湛水条件で散布する際は、水の出入りを止めて湛水のまま均一に散布し、少なくとも3~4日間は通常の湛水状態(水深3~5cm程度)を保ち、散布後7日間は落水やかけ流しをしないように注意してください。
無人航空機による散布も可能ですが、その場合は希釈水量や葉齢の規定が異なる場合があるため、必ずラベルを確認しましょう。
薬害を防ぐための注意点
農薬と展着剤を混用する際には、薬害を防ぐための注意が必要です。まず、散布液は必ず使用当日に調製し、保存しないようにしてください。 また、作物の幼苗期や高温時など、一般的に薬害の生じやすい条件での使用は避けるべきです。
クリンチャーEWはイネに対する安全性が高いですが、とうもろこし、食用びえ、ソルガムなどのイネ科作物やキャベツの生育を阻害する恐れがあるため、これらの作物が栽培されている隣接田で使用する際は、飛散しないよう十分注意が必要です。 散布器具や容器は使用後によく洗浄し、洗浄廃液は河川や用水路に流さず、適切に処理しましょう。
不明な点があれば、病害虫防除所などの関係機関に相談し、指導を受けることが大切です。
よくある質問

クリンチャーEWと展着剤に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。疑問を解消し、より安心して農薬を使用するための参考にしてください。
- クリンチャーEWはどんな雑草に効果がありますか?
- 展着剤を使わないとどうなりますか?
- 展着剤の代わりに家庭用洗剤を使っても良いですか?
- クリンチャーEWと他の農薬を混ぜても大丈夫ですか?
- 展着剤はどれくらいの量を使えば良いですか?
クリンチャーEWはどんな雑草に効果がありますか?
クリンチャーEWは、主に水稲のノビエに高い効果を発揮する除草剤です。ノビエのほか、キシュウスズメノヒエやアゼガヤといったイネ科雑草にも有効とされています。 ただし、広葉雑草には効果がないため、広葉雑草が混在する圃場では、それらに有効な他の除草剤と組み合わせて使用することが推奨されます。
展着剤を使わないとどうなりますか?
展着剤を使わずにクリンチャーEWを散布すると、薬液が雑草の葉に均一に付着しにくくなり、弾かれて流れ落ちてしまう可能性が高まります。その結果、除草成分が十分に吸収されず、クリンチャーEW本来の除草効果が十分に発揮されないことがあります。特に、葉の表面が水を弾きやすいノビエに対しては、効果が不安定になる原因となります。
展着剤の代わりに家庭用洗剤を使っても良いですか?
家庭用洗剤を展着剤の代わりに使うことは、絶対に避けてください。家庭用洗剤は農薬用に開発されたものではなく、植物への薬害を引き起こしたり、農薬の成分を変質させたりする可能性があります。また、環境への影響も考慮されていません。必ず農薬用に認可された展着剤を使用するようにしましょう。
クリンチャーEWと他の農薬を混ぜても大丈夫ですか?
クリンチャーEWと他の農薬を混用する際は、必ずそれぞれの製品ラベルに記載されている混用に関する注意事項を確認してください。農薬によっては混用できないものや、混用すると薬害が発生したり、効果が低下したりする場合があります。特に、除草剤と殺虫剤・殺菌剤を混用する場合は、慎重な確認が必要です。不明な場合は、農薬販売店や病害虫防除所などの専門機関に相談することをおすすめします。
展着剤はどれくらいの量を使えば良いですか?
展着剤の使用量は、製品の種類や目的によって異なります。一般的には、散布液10Lあたり数mlから数十mlを添加するのが目安です。例えば、一般的な非イオン系展着剤では5000倍~10000倍、機能性展着剤では1000倍~3000倍程度の希釈倍率が推奨されています。 必ず使用する展着剤の製品ラベルを確認し、指示された希釈倍率を守って使用してください。
過剰な使用は薬害につながる可能性があるため、注意が必要です。
まとめ
- クリンチャーEWは水稲のノビエに特化した除草剤です。
- 展着剤はクリンチャーEWの除草効果を最大化します。
- 展着剤は薬液の付着性、濡れ性、浸透性を高めます。
- 展着剤は雨による農薬の流亡を軽減するメリットがあります。
- 展着剤には非イオン系、シリコーン系、機能性展着剤があります。
- クリンチャーEWには付着性・浸透性を高める展着剤が適しています。
- 「アプローチBI」は薬効を安定させ浸透を助ける機能性展着剤です。
- 「まくぴか」は高い濡れ性で薬液の均一な付着を促すシリコーン系展着剤です。
- 「スカッシュ」は濡れ性と浸透性を高め薬効を安定させる機能性展着剤です。
- 展着剤の希釈倍率は製品ラベルの指示を厳守しましょう。
- 散布液は使用当日に調製し、使い切るのが基本です。
- クリンチャーEWの散布適期はノビエの葉齢に注意が必要です。
- 雑草の茎葉全体、特に株元に均一に散布するコツが大切です。
- 家庭用洗剤を展着剤の代わりに使うのは避けてください。
- 他の農薬との混用は必ずラベルで確認し、不明点は専門機関に相談しましょう。
