お子さんが突然の熱とともに痙攣を起こす「熱性痙攣」。初めて目の当たりにすると、親御さんは大きな不安に襲われることでしょう。特に「何歳くらいまで起こるの?」「うちの子はもう大丈夫?」といった年齢に関する疑問は尽きないものです。本記事では、熱性痙攣が発症しやすい年齢や終息する時期、そして万が一の際に落ち着いて対応するための具体的な方法について、詳しく解説します。
お子さんの健やかな成長を見守るために、正しい知識を身につけていきましょう。
熱性痙攣とは?年齢別の特徴と発症しやすい時期

熱性痙攣は、乳幼児期に発熱に伴って起こる痙攣発作で、多くのお子さんが経験する比較的よくある症状です。しかし、その特徴や発症しやすい年齢を知ることで、いざという時に冷静に対応する助けになります。
熱性痙攣の基本的な知識と症状
熱性痙攣は、主に生後6ヶ月から5歳くらいまでの子どもが、38℃以上の急な発熱に伴い、意識障害や痙攣を引き起こす病気です。日本では小児のおよそ8%に見られるとされており、決して珍しいことではありません。
主な症状としては、突然意識を失い、目が一点を見つめたり、白目をむいたりすることがあります。手足や体が硬く突っ張ったり、ガクガクと震えたりすることもあります。呼吸が不十分になり、唇が紫色になる(チアノーゼ)ことや、嘔吐、失禁を伴うケースも少なくありません。 ほとんどの熱性痙攣は2~3分で自然に治まりますが、中には20~30分と長く続く「痙攣重積症」と呼ばれる状態になることもあります。
痙攣が治まった後は、しばらくぼーっとしたり、眠ったりすることが多いですが、意識は徐々に回復していきます。
熱性痙攣が発症しやすい年齢層とピーク
熱性痙攣は、生後6ヶ月から5歳頃までの乳幼児期に多く見られます。特に発症のピークは1歳から2歳頃とされており、この時期のお子さんを持つ親御さんは特に注意が必要です。 脳の発達が未熟な乳幼児期は、急激な体温の変化に対して脳の神経細胞が過敏に反応しやすいため、熱性痙攣が起こりやすいと考えられています。 発熱の原因としては、突発性発疹、夏風邪(ヘルパンギーナや手足口病など)、インフルエンザなど、急に高熱を出すウイルス感染症が多いですが、高熱を伴う全ての疾患が痙攣のきっかけになり得ます。
何歳まで注意が必要?熱性痙攣の終息年齢
熱性痙攣は、子どもの成長とともに自然に起こらなくなることがほとんどです。一般的には、6歳前後でほとんど見られなくなると言われています。 しかし、稀に8~9歳になっても発症するケースも報告されています。 年齢が上がるにつれて発症率は低下していくため、小学校に入学する頃には心配が少なくなるでしょう。ただし、熱性痙攣を一度経験したお子さんの約30~40%は再発すると言われています。
特に初回発作が1歳未満であったり、発熱から痙攣までの時間が短い場合、家族に熱性痙攣の既往がある場合などは、再発のリスクがやや高まる傾向があります。 成長とともに脳が成熟することで、熱に対する反応も安定し、痙攣を起こしにくくなるのです。
熱性痙攣が起きた時の適切な対処法と受診の目安

お子さんが熱性痙攣を起こした際、親御さんは動揺してしまうものですが、落ち着いて適切な対処をすることが何よりも大切です。ここでは、痙攣中の具体的な対応から、医療機関を受診する目安までを解説します。
痙攣中の具体的な対応と安全確保のコツ
お子さんが熱性痙攣を起こしたら、まずは親御さん自身が深呼吸をして落ち着くことが重要です。 その後、以下の点に注意して対応しましょう。
- 安全な場所に寝かせる:お子さんを平らで安全な場所に寝かせ、周囲に危険なものがないか確認し、取り除きます。
- 呼吸を楽にする:衣服の胸元を緩め、首元を締め付けないようにしましょう。
- 顔を横向きにする:嘔吐した場合に吐物が気道に詰まらないよう、顔や体を横向きに寝かせます。
- 口の中に物を入れない:舌を噛むことはほとんどなく、無理に口の中に指や物を入れると、かえって窒息の原因になったり、口の中を傷つけたりする危険があります。
- 体を揺すらない・押さえつけない:痙攣を止めようと体を揺すったり、押さえつけたりすることは避けましょう。
- 痙攣の様子を観察する:痙攣が始まった時刻と、どのくらい続いたかを計りましょう。また、全身の痙攣か、体の一部だけか、目の動き(白目をむいているか、左右に偏っているかなど)も観察し、可能であれば動画で記録しておくと、後で医師に伝える際に役立ちます。
これらの観察内容は、医療機関を受診した際に医師が診断を下す上で非常に重要な情報となります。
痙攣後の観察と医療機関受診のタイミング
痙攣が治まった後も、お子さんの様子を注意深く観察することが大切です。ほとんどの熱性痙攣は自然に治まり、意識も回復しますが、以下のような場合は医療機関を受診しましょう。
- 初めての熱性痙攣:短時間で治まったとしても、初めての熱性痙攣の場合は、念のため医療機関を受診することをおすすめします。
- 意識の回復が悪い:痙攣が止まった後も、呼びかけに反応しない、ぼーっとしている時間が長い、顔色や呼吸状態が悪いなど、意識の回復が悪い場合はすぐに受診が必要です。
- 痙攣を繰り返す:一度の発熱で24時間以内に痙攣を繰り返す場合は、「複雑型熱性痙攣」の可能性があり、注意が必要です。
- 痙攣後に麻痺が見られる:痙攣が治まった後に、手足の一部が動かせないなどの麻痺が見られる場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
日中であればかかりつけ医を、夜間や休日であれば救急外来を受診してください。
救急車を呼ぶべき緊急性の高いケース
熱性痙攣の多くは予後が良好ですが、中には緊急性の高いケースも存在します。以下のいずれかに当てはまる場合は、ためらわずに救急車を呼びましょう。
- 痙攣が5分以上続く場合:5分以上痙攣が続く場合は「痙攣重積状態」の可能性があり、速やかな処置が必要です。
- 痙攣が止まっても意識が戻らない場合:痙攣が治まった後も、意識がはっきりしない、呼びかけに反応しない場合は、他の重篤な病気の可能性も考慮されます。
- 短時間に痙攣を繰り返す場合:一度の発熱で短時間のうちに痙攣を2回以上繰り返す場合も、緊急性が高いと判断されます。
- 6ヶ月未満の乳児の場合:生後6ヶ月未満の乳児が痙攣を起こした場合は、熱性痙攣以外の病気の可能性も考慮されるため、慎重な対応が必要です。
- 痙攣の様子が左右非対称、または体の一部だけの場合:全身ではなく、体の一部だけが痙攣している、あるいは左右で痙攣の仕方が異なる場合は、複雑型熱性痙攣や他の脳の病気の可能性も考えられます。
これらの状況では、迅速な医療的介入が必要となるため、迷わず救急車を要請してください。
熱性痙攣の再発予防と日頃からできること

熱性痙攣は一度経験すると、再発する可能性もあります。再発への不安を軽減し、お子さんを健やかに見守るために、予防策や日頃からできることを知っておきましょう。
再発のリスクと予防のための選択肢
熱性痙攣を一度経験したお子さんのうち、約30~40%が再発すると言われています。 特に再発しやすいとされる要因には、初回発作が1歳未満であったこと、発熱から痙攣までの時間が1時間以内と短いこと、38℃以下の比較的低い熱で痙攣を起こしたこと、そして家族に熱性痙攣の既往があることなどが挙げられます。 これらのリスク因子がある場合や、痙攣が長時間続く「複雑型熱性痙攣」を経験したお子さんに対しては、医師の判断で予防薬が処方されることがあります。
一般的に用いられるのは「ジアゼパム坐剤(ダイアップ)」で、発熱の初期(37.5℃~38℃以上)に使うことで、痙攣を予防する効果が期待できます。 ただし、ダイアップには眠気やふらつきなどの副作用があるため、医師の指示に従い、用法・用量を守って使用することが大切です。 また、解熱剤は発熱による不快感を和らげる効果はありますが、熱性痙攣の予防効果はないとされています。
家庭でできる発熱時の見守りのコツ
熱性痙攣の再発を完全に防ぐことは難しいですが、発熱時に家庭でできる見守りのコツを実践することで、親御さんの不安を軽減し、お子さんの安全を守ることにつながります。
- 体温をこまめにチェックする:発熱が始まったら、体温をこまめに測り、急激な体温上昇がないか注意しましょう。
- 安静を保つ:お子さんが発熱しているときは、無理に活動させず、安静に過ごさせることが大切です。
- 水分補給を促す:脱水は体調悪化につながるため、こまめな水分補給を心がけましょう。
- 衣類や寝具を調整する:熱がこもらないよう、薄着にしたり、寝具を調整したりして、快適な環境を整えてあげてください。
- 痙攣のサインに注意する:発熱から24時間以内は特に注意が必要です。 痙攣の前兆はほとんどありませんが、お子さんの様子に異変がないか、常に意識して見守りましょう。
これらのコツを実践することで、万が一痙攣が起きた際にも、早期に気づき、落ち着いて対応できる可能性が高まります。
医師との連携で不安を乗り越える
熱性痙攣は、多くの場合予後が良好な病気ですが、親御さんにとっては大きな心配事です。再発への不安や、てんかんへの移行の可能性など、疑問や心配なことがあれば、かかりつけの小児科医に相談することが大切です。 医師は、お子さんのこれまでの経過や発作の状況、家族歴などを総合的に判断し、適切なアドバイスや治療方針を提案してくれます。
例えば、再発予防薬の使用の要否や、脳波検査の必要性などについて、専門的な見地から説明を受けることができるでしょう。 予防接種のタイミングについても、熱性痙攣の既往がある場合は医師と相談して決めることが推奨されます。 医師との信頼関係を築き、疑問を解消しながら、お子さんの成長をサポートしていきましょう。
よくある質問

熱性痙攣に関して、親御さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
熱性痙攣は遺伝するのでしょうか?
熱性痙攣には遺伝的な要因が関係していると考えられています。親や兄弟姉妹に熱性痙攣の既往がある場合、お子さんも熱性痙攣を起こしやすい傾向があることが複数の研究から明らかになっています。 ただし、遺伝的な素因がなくても発症することはあります。
熱性痙攣とてんかんの違いは何ですか?
熱性痙攣は、発熱が引き金となって起こる一時的な痙攣発作であり、脳の未熟性が関係しています。一方、てんかんは、発熱とは関係なく、脳の慢性的な病気によって繰り返し痙攣発作を起こす病気です。 熱性痙攣を起こした子どもの3~5%が将来てんかんに移行するという報告もありますが、ほとんどの熱性痙攣はてんかんには移行せず、予後も良好です。
熱性痙攣で脳に影響はありますか?
単純型熱性痙攣の場合、脳障害や知能低下を起こすことはないとされています。 ほとんどの熱性痙攣は一過性のものであり、後遺症を残すことは稀です。 ただし、痙攣が長時間続く「痙攣重積状態」や、複雑型熱性痙攣の場合は、より詳しい検査が必要となることがあります。
熱性痙攣の時に解熱剤は使っても良いですか?
熱性痙攣を起こしたことがある子どもでも、発熱による苦痛や不快感を軽減するために解熱剤を使用することは問題ありません。 しかし、解熱剤の使用が熱性痙攣の再発を予防する効果はないとされています。 解熱剤を使用する際は、医師や薬剤師の指示に従い、適切な用法・用量を守りましょう。
熱性痙攣の予防薬はありますか?
熱性痙攣の再発予防のために、ジアゼパム坐剤(ダイアップ)が使用されることがあります。 これは、発熱の初期に使うことで痙攣を予防する効果が期待できる薬です。ただし、全てのお子さんに予防薬が必要なわけではなく、再発のリスクが高い場合などに医師の判断で処方されます。 予防薬の使用については、必ず医師と相談し、指示に従ってください。
まとめ
- 熱性痙攣は生後6ヶ月から5歳頃までの乳幼児に多く見られる発熱に伴う痙攣です。
- 発症のピークは1歳から2歳頃です。
- ほとんどの場合、6歳前後で自然に起こらなくなります。
- 急激な体温上昇が原因の一つとされています。
- 遺伝的な要因も関係していると考えられています。
- 痙攣が起きたら、まず落ち着いて安全を確保し、呼吸を楽にする体位をとらせましょう。
- 口の中に物を入れたり、体を揺すったり押さえつけたりしてはいけません。
- 痙攣の持続時間や様子を観察し、医師に伝えられるように記録しましょう。
- 初めての痙攣や意識の回復が悪い場合は医療機関を受診しましょう。
- 痙攣が5分以上続く、短時間に繰り返す場合は救急車を呼びましょう。
- 再発のリスクがある場合は、医師の判断で予防薬(ダイアップ坐剤)が処方されることがあります。
- 解熱剤は痙攣の予防効果はありませんが、発熱時の不快感軽減には使えます。
- 熱性痙攣の多くは予後が良好で、脳に影響を残すことは稀です。
- てんかんとは異なり、発熱が原因の一時的な発作です。
- 不安な点はかかりつけ医に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。
