個人事業主として家族に給与を支払っている方にとって、年末調整は毎年避けて通れない大切な手続きです。特に「専従者給与」として月8万円を支払っている場合、その書き方や必要な書類について疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。本記事では、専従者給与を受け取る家族の年末調整について、具体的な書類の記入方法から、知っておきたい税務上のポイントまで、分かりやすく解説します。
この解説を参考に、年末調整をスムーズに進めましょう。
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専従者給与とは？年末調整との関係を理解する
専従者給与とは、個人事業主が家族に支払う給与のことで、適切に手続きを行えば事業の経費として認められる制度です。この制度を理解することは、年末調整を正しく行うための第一歩となります。
青色事業専従者給与の基本
青色事業専従者給与とは、青色申告を行っている個人事業主が、生計を共にする配偶者や15歳以上の親族に支払う給与のことです。この給与は、所定の要件を満たし、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することで、事業の必要経費として全額算入できます。これにより、事業主の所得税や住民税の負担を軽減できるのが大きな特徴です。
家族への給与を経費にできるため、世帯全体の税負担を最適化する上で重要な制度と言えるでしょう。
ただし、専従者として認められるには、その家族が年間を通じて6ヶ月以上、その事業に専ら従事している必要があります。また、給与額は、その仕事内容や他の従業員の給与水準と比較して、妥当な金額であることが求められます。不相当に高額な給与は経費として認められない可能性があるため、注意が必要です。この制度は、家族経営の事業において、税制上のメリットを享受するための大切な仕組みなのです。
専従者給与のメリットと注意点
専従者給与の最大のメリットは、事業主の所得を分散させ、世帯全体の所得税や住民税の節税につながる点です。事業主の所得税率が高い場合、家族に給与を支払うことで、課税所得を減らし、税率を下げられる可能性があります。また、専従者給与を受け取る家族も、給与所得者として基礎控除などの所得控除を受けられます。
しかし、注意点もあります。専従者給与を受け取る家族は、事業主の配偶者控除や扶養控除の対象外となります。そのため、専従者給与の金額によっては、控除を受けられなくなることで、かえって世帯全体の税負担が増えてしまうケースも考えられます。給与額を設定する際には、配偶者控除や扶養控除の金額と比較し、どちらが世帯にとって有利になるかを慎重に検討することが大切です。
また、給与額が労務の対価として相当であると認められない場合、税務署から否認されるリスクもあるため、客観的な根拠に基づいた金額設定が求められます。
月8万円の専従者給与が持つ税務上の意味
月8万円の専従者給与は、年間で96万円（8万円 × 12ヶ月）となります。この金額は、所得税の課税対象となる最低ラインである「年収103万円の壁」を下回ります。そのため、専従者給与のみを受け取っている場合、所得税はかからないことがほとんどです。また、毎月の給与が8万8,000円未満であれば、源泉徴収義務が生じないため、通常は源泉所得税が天引きされることはありません。
この「源泉徴収なし」という点は、給与計算の手間を軽減できるメリットがあります。
しかし、所得税がかからなくても、給与所得者であることに変わりはありません。事業主は、専従者給与を受け取る家族の年末調整を行う義務があります。年末調整を通じて、その年の正確な所得税額を確定させる必要があるのです。また、住民税については、所得税とは異なる基準で課税されるため、年収96万円であっても住民税が発生する可能性があります。
これらの税務上の特性を理解し、適切な手続きを進めることが重要です。
専従者給与の年末調整で必要な書類と記入の進め方
月8万円の専従者給与を受け取る家族の年末調整は、特定の書類を正確に記入することが求められます。ここでは、主要な書類の書き方について詳しく見ていきましょう。
「給与所得者の扶養控除等（異動）申告書」の書き方
「給与所得者の扶養控除等（異動）申告書」は、年末調整を受ける全ての給与所得者が提出する重要な書類です。専従者給与を受け取る家族も、この書類を勤務先である個人事業主へ提出する必要があります。この申告書には、氏名、住所、生年月日などの基本情報のほか、配偶者や扶養親族に関する情報を記入する欄があります。
月8万円の専従者給与を受け取っている場合、その家族は事業主の扶養控除の対象外となるため、事業主側の「扶養控除等申告書」には、その家族を扶養親族として記載することはできません。一方、専従者本人が提出する申告書では、もし専従者自身に扶養親族がいる場合は、その情報を記載します。特に「源泉控除対象配偶者」や「控除対象扶養親族」の欄は、専従者給与を受け取っていることで適用外となるため、慎重に確認し、誤って記載しないようにしましょう。
具体的には、氏名や個人番号、生年月日、住所、世帯主の氏名と続柄を正確に記入します。専従者本人が世帯主でない場合は、世帯主の氏名と本人との続柄を記載します。この書類は、翌年の給与計算にも影響するため、毎年正確に提出することが求められます。
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の書き方
この書類は、基礎控除、配偶者控除（または配偶者特別控除）、所得金額調整控除の3つの控除をまとめて申告できるものです。専従者給与を受け取る家族も、基礎控除の適用を受けるためにこの書類を提出します。
まず、「給与所得者の基礎控除申告書」の欄に、その年の給与収入の見積額と、それに基づく所得金額の見積額を記入します。月8万円の専従者給与の場合、年間収入は96万円です。給与所得の計算方法に従って、所得金額を算出します。年収96万円であれば、給与所得控除額を差し引いた後の所得金額は、基礎控除額（48万円）を下回るため、所得税はかからない計算になります。
次に、「給与所得者の配偶者控除等申告書」の欄ですが、専従者給与を受け取っている家族は、事業主の配偶者控除の対象外となるため、この欄は記入しません。もし専従者自身に配偶者がいる場合は、その配偶者の情報を記入することになります。最後に、「所得金額調整控除申告書」は、特定の条件に該当する場合のみ記入するため、該当しない場合は空欄で問題ありません。
その他の年末調整書類について
専従者給与を受け取る家族が、生命保険や地震保険に加入している場合、またはiDeCoなどの個人型確定拠出年金に加入している場合は、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出することで、保険料控除や小規模企業共済等掛金控除を受けられます。これらの控除は、所得税額をさらに軽減する効果があるため、該当する場合は忘れずに申告しましょう。
また、住宅ローン控除の適用を受けている場合は、「給与所得者の（特定増改築等）住宅借入金等特別控除申告書」を提出します。ただし、住宅ローン控除の初年度は年末調整では手続きできず、確定申告が必要です。これらの書類は、保険会社や金融機関から送付される控除証明書に基づいて記入します。証明書の内容を正確に転記し、添付して提出することが重要です。
年末調整の書類は複数ありますが、自分に該当するものを確認し、一つずつ丁寧に記入を進めることが、間違いなく手続きを完了させるコツです。
専従者給与の年末調整でよくある疑問を解決！
専従者給与の年末調整に関して、多くの方が抱く疑問について、具体的な回答をまとめました。これらの情報を参考に、不明点を解消しましょう。
- 専従者給与の金額はいくらまでが妥当ですか？
- 専従者給与を受け取ると扶養から外れますか？
- 年末調整を忘れてしまった場合はどうすれば良いですか？
- 専従者給与の届出書は毎年提出が必要ですか？
- 専従者給与の源泉徴収は必要ですか？
専従者給与の金額はいくらまでが妥当ですか？
専従者給与の金額に法律上の明確な上限はありません。しかし、「労務の対価として相当であると認められる金額」であることが条件です。これは、その家族が従事する仕事内容や労働時間、同業同職種の一般的な賃金水準などを考慮して判断されます。例えば、専門性の高い業務であれば高額な給与も認められやすいですが、一般的な事務作業であれば、あまりに高額な給与は否認される可能性があります。
税務署は、給与額が不当に高くないか、他の従業員とのバランスは取れているかなどを確認します。そのため、給与額を決定する際には、客観的な根拠に基づいて設定し、必要に応じてその根拠を説明できるよう準備しておくことが重要です。一般的には、月8万円から15万円程度に抑えるのが無難とされていますが、これはあくまで目安であり、個々の事業の実態に合わせて判断する必要があります。
専従者給与を受け取ると扶養から外れますか？
はい、専従者給与を受け取る家族は、事業主の所得税法上の扶養から外れます。具体的には、配偶者控除や扶養控除の対象にはなりません。これは、専従者給与が事業の必要経費として認められる代わりに、その家族が独立した給与所得者として扱われるためです。そのため、専従者給与を支払うことで得られる節税効果と、配偶者控除や扶養控除が適用されなくなることによる税負担の増加を比較検討することが重要です。
例えば、配偶者控除の最大額は38万円ですが、専従者給与として年間38万円を超える金額を支払うことで、世帯全体の税負担が軽減される場合があります。しかし、給与額が低い場合は、配偶者控除を受けた方が有利になることもあります。この比較検討は、世帯全体の税金を最適化するための大切なステップです。社会保険上の扶養（健康保険や年金）については、所得税法上の扶養とは異なる基準で判断されるため、別途確認が必要です。
年末調整を忘れてしまった場合はどうすれば良いですか？
もし年末調整を忘れてしまった場合でも、税金を精算する方法はあります。その場合は、専従者給与を受け取った本人が、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行うことで、所得税の精算が可能です。確定申告では、源泉徴収票などの必要書類を添付し、所得税額を計算して申告します。確定申告を行うことで、払いすぎた税金があれば還付を受けられますし、不足している税金があれば納付することになります。
ただし、確定申告の手続きは年末調整よりも複雑になる傾向があります。そのため、できる限り年末調整の期限内に書類を提出することが望ましいです。もし年末調整を忘れてしまったことに気づいたら、速やかに確定申告の準備を始めましょう。不明な点があれば、税務署や税理士に相談することをおすすめします。
専従者給与の届出書は毎年提出が必要ですか？
「青色事業専従者給与に関する届出書」は、原則として毎年提出する必要はありません。一度提出すれば、給与の金額や従事者の人数などに変更がなければ、継続して適用されます。しかし、給与額の増減や、新たに専従者が加わる、あるいは専従者が事業から外れるといった変更があった場合には、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を税務署に提出する必要があります。
この変更届出書を提出せずに給与額を変更した場合、変更後の給与が経費として認められない可能性があるため、注意が必要です。変更届出書の提出期限は、原則として変更があった日から2ヶ月以内とされています。変更が生じた際には、速やかに手続きを行い、税務上の不利益を避けるようにしましょう。届出書の内容を常に最新の状態に保つことが、制度を適切に利用するための大切な進め方です。
専従者給与の源泉徴収は必要ですか？
専従者給与も、一般的な従業員の給与と同様に源泉徴収の対象となります。ただし、毎月の給与額が8万8,000円未満の場合、所得税の源泉徴収は不要です。月8万円の専従者給与であれば、この基準を下回るため、通常は源泉徴収を行う必要はありません。源泉徴収が不要な場合でも、事業主は年末調整を行う義務があります。
もし、専従者給与が月8万8,000円以上になる場合は、源泉徴収税額表に基づいて所得税を天引きし、翌月10日までに税務署へ納付する必要があります。源泉徴収の手間を軽減したい場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、年2回にまとめて納付することも可能です。この特例は、給与の支給人員が常時10名未満の場合に適用されます。
専従者給与の金額に応じて、源泉徴収の要否や納付方法を確認し、適切な対応を取りましょう。
専従者給与を最大限に活用するためのコツ
専従者給与は、個人事業主にとって大きな節税効果をもたらす可能性があります。そのメリットを最大限に引き出すためのコツをご紹介します。
適切な給与額の設定方法
専従者給与の金額は、世帯全体の税負担を考慮して慎重に設定することが重要です。単に高額に設定すれば良いというわけではありません。まず、専従者が行う業務内容や労働時間を具体的に評価し、それに見合った妥当な金額を算出します。同業同職種の求人情報や賃金水準を参考にすることで、客観的な根拠に基づいた給与額を設定できます。
次に、事業主自身の所得税率と、専従者給与を受け取る家族の所得税率を比較検討します。所得を分散させることで、累進課税制度のもとで世帯全体の税負担を軽減できる可能性があります。また、専従者給与を支払うことで配偶者控除や扶養控除が受けられなくなる点を考慮し、どちらが有利になるかをシミュレーションすることも大切です。
事業税の課税ライン（年間所得290万円以下で非課税）も意識し、事業主の利益がそのラインを下回るように給与額を調整することも、節税につながるコツの一つです。
届出書の提出期限と変更手続き
「青色事業専従者給与に関する届出書」は、給与を必要経費に算入しようとする年の3月15日までに提出する必要があります。この期限を過ぎてしまうと、その年の専従者給与は経費として認められなくなるため、十分な注意が必要です。特に、新たに事業を開始した場合や、年の途中で専従者が加わった場合は、開業日または専従者が加わった日から2ヶ月以内という特例の期限が設けられています。
一度提出した届出書の内容（給与額や専従者の人数など）に変更が生じた場合は、速やかに「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を提出しましょう。この手続きを怠ると、変更後の給与が経費として認められないリスクがあります。届出書の提出は、e-Tax、税務署への持参、または郵送のいずれかの方法で行えます。計画的に手続きを進め、税務上のトラブルを未然に防ぐことが、専従者給与を有効活用するための大切な進め方です。
確定申告との関係
専従者給与を受け取る家族は、通常、事業主が年末調整を行うため、本人が確定申告をする必要はありません。しかし、専従者給与以外に他の所得がある場合（例えば、パートやアルバイトなどの副業収入がある場合）は、確定申告が必要になることがあります。複数の勤務先から給与を受け取っている場合は、全ての収入を合算して正確な所得税額を計算するために、本人が確定申告を行う必要があります。
また、医療費控除や寄附金控除、雑損控除など、年末調整では申告できない所得控除を受けたい場合も、確定申告が必要です。専従者給与を受け取る家族が確定申告を行う際には、事業主から発行される源泉徴収票が必要となります。自身の所得状況や受けたい控除の種類を確認し、年末調整で完結できるのか、それとも確定申告が必要なのかを判断しましょう。
適切な手続きを行うことで、税金の過不足を解消し、正確な納税ができます。
まとめ
- 専従者給与は個人事業主が家族に支払う給与で、経費計上により節税効果があります。
- 青色事業専従者給与の適用には、生計一の親族で15歳以上、事業専従などの要件があります。
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必須です。
- 届出書の提出期限は原則3月15日、新規開業等は2ヶ月以内です。
- 月8万円の専従者給与は年間96万円で、所得税の課税ライン103万円を下回ります。
- 月8万円の給与は源泉徴収税額表の8万8千円未満のため、源泉徴収は不要です。
- 専従者給与を受け取る家族も年末調整の対象となります。
- 年末調整では「扶養控除等申告書」と「基礎控除申告書」などの提出が必要です。
- 専従者給与を受け取ると、事業主の配偶者控除や扶養控除は適用されません。
- 給与額は仕事内容や同業他社の水準を参考に、妥当な金額を設定しましょう。
- 給与額の変更時は「変更届出書」の提出が必要です。
- 年末調整を忘れた場合は、本人が確定申告を行うことで精算できます。
- 専従者給与以外の所得がある場合や特定の控除を受けたい場合は確定申告が必要です。
- 世帯全体の税負担を考慮し、専従者給与のメリットを最大限に活かしましょう。
- 不明な点は税務署や税理士に相談するのがおすすめです。
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