戦国時代、和歌山県に存在した一大勢力「根来寺」が、豊臣秀吉による紀州攻めによって焼き討ちされた出来事は、日本の歴史において重要な転換点の一つです。なぜこの強力な寺院が秀吉の標的となり、どのような経緯で焼き討ちに至ったのでしょうか。本記事では、根来寺焼き討ちの背景から、その後の影響、そして現在の根来寺の姿までを詳しく解説します。
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根来寺焼き討ちの背景｜強大な力を持つ寺院の台頭
根来寺は、平安時代末期に高野山の僧である覚鑁（かくばん）上人によって開創された新義真言宗の総本山です。元々は高野山内に創建された「大伝法院」が起源ですが、高野山内の対立により、覚鑁一門は現在の和歌山県岩出市根来の地に移り、根来寺として発展しました。室町時代から戦国時代にかけて、根来寺は98の院、2,700もの僧坊、そして70万石ともいわれる広大な寺領を持つ一大勢力へと成長します。
根来寺とは？信仰と武力を兼ね備えた一大勢力
根来寺は単なる信仰の場にとどまらず、強力な武力を持つ僧兵集団「根来衆」を擁していました。根来衆は、戦国時代に紀伊国北部の一帯に居住した僧兵たちの集団で、その数は8,000人から1万人に達したとも言われています。 彼らは傭兵集団としても活躍し、戦国諸侯は金銭を支払って彼らを雇い入れました。 根来寺は、寺院でありながら要塞のような堅固な構造を持っていたと伝えられています。
鉄砲の先進地としての根来寺の役割
根来寺の軍事力を特徴づけるのが、その優れた鉄砲技術です。1543年に日本に鉄砲が伝来すると、根来寺の僧である杉の坊算長（津田監物）が自ら種子島に渡り、鉄砲と火薬の製法を学び、根来の地に持ち帰りました。 そして、根来坂本に住む堺の鍛冶師、芝辻清右衛門に同じものを製作させたのが、本州で最初の国産鉄砲と言われています。
根来衆は鉄砲で武装し、数千挺もの鉄砲を保有する鉄砲隊を創設しました。 我が国最古の砲術である津田流も、津田監物をもって創始者とされています。 この先進的な鉄砲技術と強力な鉄砲隊は、根来寺を戦国時代における非常に影響力のある勢力へと押し上げました。
織田信長との対立と反秀吉勢力との連携
根来寺は、織田信長が天下統一を進める中で、その勢力拡大の障害となる存在でした。特に、信長と対立していた石山本願寺を支援する雑賀衆と連携し、信長包囲網の一角を担っていました。 雑賀衆もまた、根来衆と同様に鉄砲を主力とする傭兵集団であり、その兵力は8,000丁もの鉄砲を保有していたと言われています。 根来衆と雑賀衆は、時に協力し、時に複雑な関係性を持ちながらも、信長や秀吉といった中央権力に抵抗する姿勢を見せていました。
信長が紀州攻めを行った際も、根来衆は織田方に味方することもありましたが、信長亡き後、秀吉が台頭すると雑賀衆と結び、秀吉に敵対する動きを見せました。
豊臣秀吉の紀州攻めと根来寺焼き討ちの経緯
織田信長の後を継ぎ、天下統一を目指す豊臣秀吉にとって、紀伊国は無視できない存在でした。特に、強力な武力を持つ根来寺や雑賀衆は、秀吉の天下統一の大きな障害と見なされました。
天下統一を目指す秀吉の戦略と紀州の重要性
天正13年（1585年）3月、秀吉は小牧・長久手の戦いで徳川家康と和睦した後、紀伊国の鎮圧を決意し、約10万の大軍を動員して紀州攻めを開始しました。 紀州は、大阪の背後に位置し、海運の要衝でもあったため、秀吉にとって戦略的に非常に重要な地域でした。 秀吉は、根来寺や雑賀衆が家康と結んで抵抗したことを重く見て、これらの勢力を徹底的に排除する方針を固めます。
秀吉の紀州攻めは、単なる地方制圧戦ではなく、武装宗教勢力に対する見せしめや牽制といった政治的な意味合いも強く持っていました。
根来寺焼き討ちの具体的な進め方と被害
秀吉軍は、天正13年（1585年）3月21日に大坂城を出陣し、和泉の前衛城砦群をわずか3日間で攻略しました。 根来寺は、衆徒が各地の前線に出払っていたこともあり、秀吉軍の進攻に対してほとんど抵抗を行わなかったとされています。 しかし、同年3月23日には根来寺が兵火にあい、大塔や大師堂など数棟の建物を残して、伽藍のほとんどが焼失しました。
焼き討ちの原因については、秀吉による放火、寺衆による自焼、兵士による放火など諸説ありますが、定かではありません。 焼け残った国宝の大塔には、当時の火縄銃の弾痕が今でもはっきりと残されており、戦乱の激しさを物語っています。 秀吉は、焼け残った大伝法堂を解体して京都の天正寺の本堂にするために持ち去ったとも伝えられています。
根来寺焼き討ちが歴史に与えた影響とその後
根来寺の焼き討ちは、単に一つの寺院が焼失しただけでなく、紀伊国全体の歴史、ひいては日本の戦国時代の終焉に大きな影響を与えました。中世的な自治機構を保ってきた紀伊国は、秀吉政権の統治下へと組み込まれていくこととなります。
根来寺の衰退と復興への道のり
焼き討ちによって根来寺は壊滅的な被害を受け、その勢力は一時的に衰退しました。しかし、江戸時代に入ると、紀州徳川家の外護を受けて主要な伽藍が復興されていきます。 大門は1850年（嘉永3年）に、大伝法堂は1827年（文政10年）に再建されました。 これらの復興は、近世における根来寺の再興を象徴する出来事であり、多くの大規模建造物が整備されました。
現在、根来寺は新義真言宗の総本山として、覚鑁上人の法灯を守り続けています。
根来衆や雑賀衆の行方と戦国時代の終焉
根来寺の焼き討ちと紀州攻めによって、根来衆や雑賀衆といった強力な鉄砲傭兵集団は大きな打撃を受け、その組織的な活動は終焉を迎えました。 多くの鉄砲衆は散逸し、新たな主君に仕える者もいれば、故郷を離れて各地に流れていった者もいます。 秀吉は紀伊一国を弟の羽柴秀長に所領として与え、藤堂高虎を普請奉行として和歌山城を築城させ、紀伊支配の拠点としました。
この紀州攻めは、秀吉の天下統一事業の重要な一環であり、武装宗教勢力や在地勢力を中央権力に従わせるという、戦国時代の終結に向けた大きな一歩となりました。
現在の根来寺｜歴史を伝える名刹の見どころ
戦国時代の激しい兵火を乗り越え、再建された根来寺は、現在もその広大な敷地と多くの文化財で訪れる人々を魅了しています。歴史の重みを感じさせる建造物や、四季折々の美しい自然が楽しめます。
焼き討ちを乗り越えた国宝・重要文化財
根来寺には、焼き討ちの兵火を免れた貴重な建造物がいくつか残されています。中でも、国宝に指定されている「大塔（多宝塔）」は、天文16年（1547年）に建立された日本最大の木造大塔であり、その威容は圧巻です。 大塔内部には、真言密教の教義を形にした三尊（大日如来・金剛薩埵・尊勝仏頂）が安置されており、厳かな雰囲気に包まれています。
また、明徳2年（1391年）頃に建立された「大師堂」も兵火を免れ、重要文化財に指定されています。 その他にも、大伝法堂、大門、不動堂、行者堂、聖天堂などが重要文化財に指定されており、近世の復興の中で整備された大規模な建造物群は、当時の建築技術や意匠を知る上で貴重な資料です。
根来寺を訪れる際のコツと周辺情報
根来寺は、和歌山県岩出市に位置し、大阪市内から車で約60分とアクセスしやすい場所にあります。 拝観時間は、夏期（4月～10月）は9:10～16:30、冬期（11月～3月）は9:10～16:00です。 入山料は大人（中学生以上）500円、小人は無料です。 境内は広大で、約350万平方メートルもの敷地を有し、四季折々の美しい自然が楽しめます。
特に春には約7,000本の桜が咲き誇り、「日本さくら名所100選」にも選ばれるほどの桜の名所として知られています。 秋には紅葉も美しく、歴史的な建造物と自然が織りなす景観は、訪れる人々を魅了します。 国から名勝に指定された庭園も必見です。 根来寺を訪れる際は、時間に余裕を持って散策し、歴史と自然をじっくりと味わうのがおすすめです。
よくある質問
- 根来寺を焼き討ちしたのは誰ですか？
- 根来寺の焼き討ちはいつですか？
- 根来寺の焼き討ちで何が起こりましたか？
- 根来寺はなぜ焼き討ちされたのですか？
- 根来寺の焼き討ち後どうなりましたか？
- 根来寺の現在の様子は？
- 根来衆とは何ですか？
- 雑賀衆と根来衆の関係は？
根来寺を焼き討ちしたのは誰ですか？
根来寺を焼き討ちしたのは、豊臣秀吉です。
根来寺の焼き討ちはいつですか？
根来寺の焼き討ちは、天正13年（1585年）3月23日に行われました。
根来寺の焼き討ちで何が起こりましたか？
根来寺の焼き討ちにより、大塔や大師堂など数棟の建物を残して、伽藍のほとんどが焼失しました。多くの僧兵が討たれるか逃亡し、根来寺の勢力は一時的に衰退しました。
根来寺はなぜ焼き討ちされたのですか？
根来寺は、強力な僧兵集団「根来衆」を擁し、鉄砲の生産・運用に長けていました。織田信長と敵対し、秀吉の天下統一に抵抗したため、秀吉の天下統一の障害と見なされ、紀州攻めの一環として焼き討ちされました。
根来寺の焼き討ち後どうなりましたか？
根来寺は一時的に衰退しましたが、江戸時代に入ると紀州徳川家の支援を受けて主要な伽藍が再建されました。現在も新義真言宗の総本山として、多くの文化財を有し、参拝者や観光客が訪れる名刹となっています。
根来寺の現在の様子は？
現在の根来寺は、国宝の大塔をはじめとする多くの文化財が残り、広大な境内は国の史跡に指定されています。 春には桜、秋には紅葉が美しい観光名所として知られ、四季折々の自然と歴史的な建造物が調和した景観が楽しめます。
根来衆とは何ですか？
根来衆とは、戦国時代に紀伊国北部の根来寺を中心とする一帯に居住した僧兵たちの集団です。雑賀衆と同様に鉄砲で武装し、傭兵集団としても活躍しました。
雑賀衆と根来衆の関係は？
雑賀衆と根来衆は、紀伊国北部に位置し、共に鉄砲を主力とする強力な傭兵集団でした。 互いに人的交流も盛んで、雑賀衆の有力者が根来寺に塔頭を建てるなど、複雑ながらも密接な関係性を持っていました。 織田信長や豊臣秀吉といった中央権力に対して、時に協力し、時に異なる立場を取ることもありました。
まとめ
- 根来寺は平安時代末期に覚鑁上人によって開創された新義真言宗の総本山である。
- 戦国時代には広大な寺領と強力な僧兵集団「根来衆」を擁する一大勢力だった。
- 根来衆は津田監物によって伝来した鉄砲技術をいち早く導入し、優れた鉄砲隊を形成した。
- 根来寺は織田信長と対立し、雑賀衆と共に反信長・反秀吉勢力の一角を担った。
- 豊臣秀吉は天下統一を目指し、天正13年（1585年）に紀州攻めを開始した。
- 紀州攻めは、根来寺や雑賀衆といった武装勢力を排除する目的があった。
- 同年3月23日、秀吉軍によって根来寺は焼き討ちされ、伽藍の大部分が焼失した。
- 焼き討ちの原因については諸説あるが、秀吉の天下統一戦略の一環であった。
- 国宝の大塔など一部の建物は兵火を免れ、現在も当時の弾痕が残る。
- 焼き討ち後、根来寺の勢力は一時衰退したが、江戸時代に紀州徳川家の支援で復興した。
- 現在の根来寺は、国宝の大塔や重要文化財の建造物を有する歴史ある寺院である。
- 広大な境内は国の史跡に指定され、四季折々の美しい自然が楽しめる。
- 特に春の桜は「日本さくら名所100選」に選ばれるほどの見どころである。
- 根来寺焼き討ちは、戦国時代の終焉と中央集権化の進展を象徴する出来事だった。
- 歴史と自然が調和した現在の根来寺は、訪れる人々に多くの感動を与える。
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