ネラトンカテーテルは、医療現場で広く使われる重要な医療器具です。特に、導尿や吸引などの処置において、その「太さ」の選択は患者さんの快適さや処置の成功に大きく影響します。しかし、「どのくらいの太さが適切なのか」「Fr(フレンチ)単位とは何なのか」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ネラトンカテーテルの太さに関する基礎知識から、目的や性別に応じた適切なサイズの選び方までを徹底的に解説します。患者さんの負担を最小限に抑え、安全で効果的な処置を行うための大切な情報をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。
ネラトンカテーテルとは?その基本的な役割と重要性

ネラトンカテーテルは、医療現場で多岐にわたる目的で使用される柔軟な管状の医療器具です。その基本的な役割と、なぜその太さが重要になるのかを理解することは、安全な使用のために欠かせません。
ネラトンカテーテルの定義と主な使用目的
ネラトンカテーテルは、ゴム製やシリコーン樹脂製で、先端が丸く鋭くない形状が特徴の医療用カテーテルです。フランスの医師オーギュスト・ネラトンにその名が由来しています。主に一時的な導尿(尿を体外へ排出する処置)に用いられますが、採尿や膀胱洗浄にも使用されます。
また、尿路系だけでなく、気管内や口腔、鼻腔、咽頭部などの分泌物吸引、さらには直腸内の内容物排出や造影剤注入といった幅広い用途で活用されています。 その柔軟性と先端の安全性から、さまざまな体腔への挿入に適しているのが大きな利点です。
なぜカテーテルの「太さ」が重要なのか
ネラトンカテーテルの太さの選択は、処置の成功と患者さんの安全、そして快適さに直結する非常に重要な要素です。不適切な太さのカテーテルを使用すると、さまざまな問題が生じる可能性があります。
例えば、細すぎるカテーテルでは十分な量の尿や分泌物を排出・吸引できないことがあり、処置の目的を達成できません。逆に、太すぎるカテーテルは尿道や粘膜を傷つけ、痛みや不快感、さらには尿道損傷や感染症のリスクを高めてしまう恐れがあります。 患者さんの体格、性別、使用目的、病態などを考慮し、最も効果的かつ負担の少ない太さを選ぶことが求められます。
ネラトンカテーテルの太さを表す「Fr(フレンチ)」単位を理解する

ネラトンカテーテルの太さを選ぶ上で、最も基本となるのが「Fr(フレンチ)」という単位です。この単位の仕組みと、それが実際のミリメートル径にどのように換算されるのかを理解することは、適切なカテーテル選びの第一歩となります。
Fr(フレンチ)単位とは?ミリメートルへの換算方法
カテーテルの太さを表す国際的な単位として、Fr(フレンチ)が広く用いられています。このFrは、カテーテルの外径を示すもので、1Frは1/3ミリメートル(約0.33mm)に相当します。
つまり、Frの数値が大きくなるほど、カテーテルの外径は太くなります。例えば、12Frのカテーテルであれば約4.0mm、18Frであれば約6.0mmの太さとなります。この換算方法を知っておくと、製品の仕様を確認する際や、異なるメーカーのカテーテルを比較する際に役立ちます。
以下に主要なFr単位とミリメートル径の換算表を示します。
| Fr(フレンチ) | 外径(mm) |
|---|---|
| 6Fr | 約2.0mm |
| 8Fr | 約2.7mm |
| 10Fr | 約3.3mm |
| 12Fr | 約4.0mm |
| 14Fr | 約4.7mm |
| 16Fr | 約5.3mm |
| 18Fr | 約6.0mm |
| 20Fr | 約6.7mm |
サイズが大きくなるほど太くなるFr単位の基本
Fr単位は、カテーテルの外径を直接的に示すため、数値が大きくなればなるほどカテーテルは太くなります。このシンプルな関係性を理解しておくことが、カテーテル選択の基本です。
例えば、導尿を行う際に、より多くの尿を短時間で排出したい場合は太めのカテーテルが適しているように思えるかもしれません。しかし、太いカテーテルは尿道への刺激が大きく、痛みや損傷のリスクが高まります。 逆に、細いカテーテルは挿入時の苦痛が少ないものの、排液に時間がかかったり、詰まりやすくなったりする可能性もあります。
そのため、単に「太い方が良い」「細い方が良い」と判断するのではなく、患者さんの状態や処置の目的を総合的に考慮し、最適なFrサイズを選ぶことが求められます。
目的別・性別で変わるネラトンカテーテルの適切な太さの選び方

ネラトンカテーテルの太さ選びは、一律ではありません。使用する目的や患者さんの性別、年齢、体格、病態によって最適なサイズが異なります。ここでは、具体的な状況に応じた太さの選び方について詳しく見ていきましょう。
成人の導尿における一般的な太さの目安
成人の導尿では、一般的に12Frから18Frの範囲のカテーテルが用いられることが多いです。 この範囲内で、患者さんの状態や尿道の状況に合わせて最適な太さを選択します。
男性の場合の太さの選び方
男性の尿道は女性に比べて長く、また前立腺肥大などにより尿道が狭くなっている場合もあります。そのため、一般的には12Fr~18Frの範囲で、尿の排出がスムーズに行え、かつ患者さんに過度な負担をかけない太さを選びます。 尿道の抵抗が強い場合は、より細いカテーテルから試すこともあります。
また、テルモなどのメーカーからは、男性向けに硬めの素材で長いタイプ(約28cm)のネラトンカテーテルも提供されています。
女性の場合の太さの選び方
女性の尿道は男性に比べて短く、直線的です。そのため、男性よりも細いカテーテルが選択されることが多く、一般的には10Fr~14Fr程度が目安となります。 尿道への刺激を最小限に抑えるため、柔らかい素材で短いタイプ(約15cm)のネラトンカテーテルが女性向けとして多く提供されています。 細いカテーテルでも十分に導尿が可能であれば、患者さんの不快感を軽減するために細いものを選ぶのが良いでしょう。
小児や特別な状況での太さの考慮点
小児の場合、尿道が非常に細いため、成人よりもさらに細いカテーテル(例:6Fr~10Fr)が選択されます。小児の体格や年齢に応じて、慎重に太さを選ぶ必要があります。また、尿道狭窄や膀胱頸部硬化症など、特定の病態を持つ患者さんでは、尿道の状態に合わせて通常よりも細いカテーテルや、先端が特殊な形状(例:チーマンカテーテル)のものが選ばれることもあります。
常に患者さんの状態を最優先し、無理な挿入は避けることが大切です。
導尿以外の目的(吸引・洗浄など)での太さの選び方
ネラトンカテーテルは導尿以外にも、口腔内や気管内の分泌物吸引、膀胱洗浄、直腸内容物の排出など、様々な目的で使われます。これらの場合も、目的と部位に応じて適切な太さを選ぶことが重要です。
例えば、分泌物吸引では、吸引する分泌物の粘稠度や吸引部位の広さによって太さを調整します。粘稠な分泌物や大量の吸引が必要な場合は、ある程度の太さ(例:12Fr~18Fr)が必要になることもあります。しかし、気道粘膜を傷つけないよう、吸引圧とカテーテルの太さのバランスを考慮することが不可欠です。
膀胱洗浄や直腸内容物の排出では、液体の注入・排出がスムーズに行える太さを選びつつ、粘膜への刺激を避けるようにします。
ネラトンカテーテルの太さ選びで注意すべきポイント
ネラトンカテーテルの太さ選びは、単にFr単位を覚えるだけでなく、実際の使用における注意点を理解することが重要です。患者さんの安全と快適性を確保するために、以下のポイントに留意しましょう。
細すぎるカテーテルと太すぎるカテーテルのリスク
カテーテルの太さ選びを誤ると、様々なリスクが生じます。
- 細すぎるカテーテルのリスク:
- 尿や分泌物の排出・吸引が不十分になり、処置の目的を達成できない可能性があります。
- 排液に時間がかかり、患者さんの負担が増えることがあります。
- カテーテルが詰まりやすくなり、再挿入が必要になる場合があります。
- 太すぎるカテーテルのリスク:
- 尿道や粘膜を傷つけ、出血や炎症を引き起こす可能性があります。
- 患者さんに強い痛みや不快感を与え、精神的な負担が大きくなります。
- 尿道損傷や尿路感染症のリスクが高まります。
これらのリスクを避けるためにも、常に「尿の排出が得られる範囲で最も細いもの」を選ぶという原則を忘れないようにしましょう。
患者さんの苦痛を最小限にするためのコツ
カテーテル挿入時の患者さんの苦痛を和らげるためには、太さ選びだけでなく、いくつかのコツがあります。
- 潤滑剤の適切な使用: カテーテル先端に十分な潤滑剤(キシロカインゼリーなど)を塗布することで、摩擦を減らし、スムーズな挿入を促します。
- ゆっくりと優しく挿入する: 急いで挿入すると、尿道や粘膜を傷つける原因になります。患者さんの呼吸に合わせて、ゆっくりと慎重に進めることが大切です。
- 患者さんの体位を整える: 男性では陰茎を真上に持ち上げて尿道を直線に保つ、女性では両足を軽く曲げて開くなど、挿入しやすい体位をとることで、抵抗を減らせます。
- 声かけとリラックス: 処置中に患者さんに声かけを行い、不安を和らげ、リラックスしてもらうことも重要です。
これらのコツを実践することで、患者さんの身体的・精神的負担を大きく軽減できます。
素材や先端形状が太さ選びに与える影響
ネラトンカテーテルの太さだけでなく、素材や先端形状も選択に影響を与えます。
- 素材:
- 天然ゴム製: 一般的で柔軟性がありますが、ラテックスアレルギーのリスクがあります。
- シリコーン樹脂製: 粘膜への刺激が少なく、柔軟性に優れています。撥水性があり、薬剤や血液の付着を抑制するため、比較的長時間の使用にも適しているとされます。
- PVC(ポリ塩化ビニル)製: 熱感性があり、体温で柔軟になる特徴があります。男性向けには硬めの素材、女性向けにはソフトな素材が提供されることもあります。
- 先端形状:
- 先端閉鎖2孔式: 先端が丸く、側面に2つの孔があるタイプで、組織損傷を防ぎつつスムーズなドレナージが可能です。導尿で最も一般的に使われます。
- 先端開口式: 先端が開いており、吸引やガイドワイヤー使用時に適しています。
- 先端開口2孔式: 先端と側孔の両方から吸引できるため、より効率的な吸引が可能です。
これらの特性を理解し、太さと合わせて最適な素材と先端形状を選ぶことで、より安全で効果的な処置が可能になります。
ネラトンカテーテルに関するよくある質問

ネラトンカテーテルについて、多くの方が抱く疑問にお答えします。
- ネラトンカテーテルはどのような種類がありますか?
- 自己導尿でカテーテルを挿入する際の痛みはありますか?
- カテーテルの再利用はできますか?
- 適切な太さのカテーテルを選ぶにはどうすれば良いですか?
- ネラトンカテーテルとフォーリーカテーテルの違いは何ですか?
ネラトンカテーテルはどのような種類がありますか?
ネラトンカテーテルには、主に素材と先端形状による種類があります。素材では、天然ゴム製、シリコーン樹脂製、PVC(ポリ塩化ビニル)製などがあり、それぞれ柔軟性や刺激性が異なります。 先端形状には、先端が閉鎖されて側面に1つまたは2つの孔があるタイプ、先端が開口しているタイプ、先端と側孔の両方が開いているタイプなどがあり、使用目的(導尿、吸引、洗浄など)に応じて使い分けられます。
自己導尿でカテーテルを挿入する際の痛みはありますか?
自己導尿の際にカテーテルを挿入する際、多少の不快感や痛みを感じることはあります。特に初めて行う場合や、尿道が炎症を起こしている場合、不適切な太さのカテーテルを使用している場合に痛みを感じやすいです。 痛みを最小限に抑えるためには、適切な太さのカテーテルを選び、潤滑剤を十分に塗布し、ゆっくりと優しく挿入することが大切です。
また、リラックスして深呼吸することも痛みの軽減につながります。
カテーテルの再利用はできますか?
ネラトンカテーテルは、原則として「再使用禁止」の医療機器です。 1回の使用で廃棄し、洗浄や再滅菌は行いません。これは、交差感染のリスクを防ぎ、異物残留などの心配なく安全に使用するためです。 自己導尿の場合でも、清潔なカテーテルを毎回使用することが、尿路感染症の予防に非常に重要となります。
適切な太さのカテーテルを選ぶにはどうすれば良いですか?
適切な太さのカテーテルを選ぶには、まず使用目的(導尿、吸引など)、患者さんの性別、年齢、体格、そして尿道や体腔の状態を考慮します。一般的に、成人の導尿では12Fr~18Frが目安ですが、男性は長めのタイプ、女性は短めのタイプが適しています。 最も重要なのは、尿や分泌物がスムーズに排出・吸引でき、かつ患者さんの苦痛や組織損傷のリスクが最小限に抑えられる「最も細いサイズ」を選ぶことです。
迷う場合は、必ず医師や看護師などの医療従事者に相談し、指示に従うようにしてください。
ネラトンカテーテルとフォーリーカテーテルの違いは何ですか?
ネラトンカテーテルとフォーリーカテーテルは、どちらも尿道に挿入して尿を排出するカテーテルですが、主な違いはその使用目的と構造にあります。ネラトンカテーテルは、一時的な導尿や採尿、膀胱洗浄などに用いられる「間欠的(一時的)カテーテル」です。 一方、フォーリーカテーテルは、先端にバルーン(風船)が付いており、膀胱内でバルーンを膨らませることでカテーテルを膀胱内に「留置」し、持続的に尿を排出するために使用されます。
つまり、ネラトンは挿入後すぐに抜去するのに対し、フォーリーは一定期間留置しておくためのカテーテルです。
まとめ
- ネラトンカテーテルは導尿や吸引など多目的に使われる医療器具です。
- カテーテルの太さはFr(フレンチ)単位で表され、1Frは約0.33mmです。
- Frの数値が大きいほどカテーテルは太くなります。
- 太さ選びは患者さんの快適さ、処置の成功、合併症予防に重要です。
- 成人導尿の一般的な太さは12Fr~18Frが目安です。
- 男性は長め、女性は短めのカテーテルが適しています。
- 小児や特定の病態ではより細いカテーテルを選びます。
- 導尿以外の目的でも、部位や分泌物の状態に応じて太さを調整します。
- 細すぎるカテーテルは排液不十分、太すぎるカテーテルは損傷のリスクがあります。
- 潤滑剤の適切な使用やゆっくりとした挿入で苦痛を減らせます。
- カテーテルの素材や先端形状も選択の重要な要素です。
- ネラトンカテーテルは再利用できません。
- 自己導尿時の痛みは潤滑剤やリラックスで軽減可能です。
- ネラトンカテーテルは一時的、フォーリーカテーテルは留置用です。
- 適切な太さ選びには医療従事者への相談が不可欠です。
