65歳を迎え、年金生活に入ると、介護保険料の支払い方法や確定申告との関係について疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。特に、年金からの天引き(特別徴収)が始まると、「確定申告は必要なのか」「控除は受けられるのか」といった不安を感じるかもしれません。本記事では、65歳以上の介護保険料が年金から天引きされる仕組みと、確定申告における社会保険料控除のポイントを分かりやすく解説します。
安心して老後を過ごすための大切な知識を一緒に確認していきましょう。
65歳以上の介護保険料、年金天引きの基本を知ろう

65歳以上になると、介護保険料の支払い方法が変わることがあります。ここでは、介護保険料の基本的な仕組みと、年金からの天引き(特別徴収)について詳しく見ていきましょう。
介護保険料の特別徴収(年金天引き)とは?
介護保険料の特別徴収とは、65歳以上の第1号被保険者の介護保険料が、支給される年金から自動的に差し引かれる納付方法のことです。これは、納付手続きの簡便化と、市区町村の徴収事務の負担軽減を目的としています。年金から天引きされるため、個別に金融機関などで納める手間が省けるのが特徴です。
特別徴収の対象となるのは、原則として年額18万円以上の公的年金を受給している方です。年金支給の際に、あらかじめ介護保険料が差し引かれて支給されます。
特別徴収の対象となる年金と条件
特別徴収の対象となる年金は、老齢基礎年金、厚生年金などの老齢(退職)年金のほか、遺族年金や障害年金も含まれます。ただし、老齢福祉年金からは天引きされません。
主な条件は、年金の年額が18万円(月額1万5千円)以上であることです。この金額に満たない場合は、特別徴収の対象外となり、後述する普通徴収で納めることになります。
特別徴収の開始時期と流れ
特別徴収は、通常、65歳になった年や他の市区町村から転入した場合はすぐに始まるわけではありません。事務手続きに時間がかかるため、概ね半年から1年程度は納付書や口座振替による普通徴収で納めることになります。その後、準備が整い次第、自動的に特別徴収に切り替わります。
特別徴収は年6回、偶数月の年金支給時に行われます。4月、6月、8月の徴収を「仮徴収」、10月、12月、2月の徴収を「本徴収」と呼び、各月の徴収額は前年度の保険料や当該年度の年額保険料に基づいて調整されます。
年金天引きされた介護保険料と確定申告の関係

年金から介護保険料が天引きされている場合、確定申告が必要なのかどうかは多くの方が抱える疑問です。ここでは、その関係性について詳しく解説します。
原則として確定申告は不要な理由
年金から介護保険料が天引き(特別徴収)されている場合、原則として確定申告は不要です。これは、年金支払機関(日本年金機構など)が、年金から差し引いた介護保険料の情報を税務署に通知するためです。すでに社会保険料控除が適用された状態で年金が支給されているため、改めて確定申告で控除を申告する必要がないのです。
公的年金等の源泉徴収票には、年金から天引きされた社会保険料の額が記載されており、この情報に基づいて所得税や住民税が計算されます。
確定申告が必要になるケースとは?(社会保険料控除)
原則として確定申告は不要ですが、以下のようなケースでは確定申告が必要になったり、確定申告をすることで税金が還付されたりする可能性があります。
- 普通徴収で介護保険料を納付した場合:年金からの天引きではなく、納付書や口座振替で介護保険料を納付している場合は、確定申告で社会保険料控除を申告できます。
- 生計を一にする親族の介護保険料を支払った場合:年金受給者本人の介護保険料は特別徴収で控除されますが、生計を一にする配偶者やその他の親族の介護保険料(普通徴収分)を支払った場合は、その支払った方が社会保険料控除として申告できます。
- 医療費控除などを申告する場合:高額な医療費を支払った場合など、医療費控除を申告する際に、社会保険料控除も合わせて申告することで、税負担を軽減できる可能性があります。
- 年度途中で介護保険料が増額され、普通徴収で納付した場合:年度の途中で保険料が増額になった場合、増額分は普通徴収となることがあります。この普通徴収分は確定申告で控除対象となります。
これらのケースに該当する場合は、確定申告を検討すると良いでしょう。
控除証明書(公的年金等の源泉徴収票)の確認方法
年金から介護保険料が天引きされている場合、社会保険料の納付額は、毎年1月頃に日本年金機構などから送付される「公的年金等の源泉徴収票」で確認できます。この源泉徴収票に「社会保険料の額」として記載されています。
ただし、遺族年金や障害年金から天引きされている場合は、源泉徴収票が送付されないことがあります。その際は、お住まいの市区町村の介護保険課に問い合わせて、納付額を確認する書類を発行してもらう必要があります。
普通徴収で納付している場合は、領収書や口座振替の通帳記帳などで確認できます。
確定申告で介護保険料を控除する方法

確定申告で介護保険料を控除することで、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。ここでは、その具体的な方法について解説します。
社会保険料控除の対象となる介護保険料
公的介護保険の保険料は、全額が社会保険料控除の対象となります。社会保険料控除は所得控除の一つであり、1月1日から12月31日までの1年間に支払った全額を所得金額から差し引くことができます。
ただし、年金から天引き(特別徴収)された介護保険料は、年金受給者本人の所得からのみ控除できます。生計を一にする配偶者や親族の年金から天引きされた介護保険料を、本人の所得から控除することはできません。
一方、普通徴収(納付書や口座振替)で支払った介護保険料は、支払った方の所得から控除できます。例えば、世帯主が家族の介護保険料をまとめて支払った場合、世帯主の社会保険料控除として申告可能です。
確定申告書への記載方法
確定申告書には、社会保険料控除の欄に、1月1日から12月31日までに支払った介護保険料の合計額を記入します。
年金天引き分は「公的年金等の源泉徴収票」に記載された社会保険料の額を、普通徴収分は領収書や口座振替の記録などで確認した合計額を記入します。確定申告の際に、介護保険料の領収書や納付証明書類を添付する必要はありません。
複数の方法で納付している場合は、それぞれの納付額を合計して申告します。また、年内に市区町村をまたいで住所異動し、複数の市町村に介護保険料を納めた場合も、それぞれの納付額の合計を申告します。
還付申告で税金が戻ってくる可能性
確定申告は、所得税の過払い分を取り戻す「還付申告」にも利用できます。例えば、年金収入以外に医療費控除の対象となる医療費を多く支払った場合や、災害などで所得が減少した場合など、確定申告をすることで納めすぎた税金が還付される可能性があります。
介護保険料の社会保険料控除も、所得控除の一つとして所得税額の計算に影響します。もし、年末調整で控除しきれなかった社会保険料がある場合や、普通徴収で支払った介護保険料を申告していない場合は、還付申告を検討してみましょう。
介護保険料に関するよくある疑問と解決策

介護保険料については、多くの方がさまざまな疑問を抱えています。ここでは、よくある質問とその解決策をまとめました。
年金からの天引きを止めたい場合は?
65歳以上の方の介護保険料の支払い方法は、特別徴収が優先とされており、原則としてご自身の希望で普通徴収に変更することはできません。
ただし、年金額が年額18万円未満になった場合や、年金の支払いが一時的に停止された場合など、特定の状況では自動的に普通徴収に切り替わることがあります。 もし年金からの天引きが停止された場合は、市区町村から送付される納付書で支払うことになります。
介護保険料が年金から天引きされないケースは?
年金が年額18万円未満の場合のほか、以下のようなケースでは介護保険料が年金から天引きされず、普通徴収となります。
- 65歳になったばかりの年度や、他の市区町村から転入した年度。
- 年度の途中で所得段階の区分が変更になった場合。
- 年金の再裁定などにより年金の種類や金額が変更された場合。
- 年金の支払いが停止(一部停止)になった場合。
- 年金を担保に借り入れをしている場合。
- 遺族年金や障害年金のみを受給している場合で、源泉徴収票が送付されないケース。
これらの場合、市区町村から送付される納付書や口座振替で納めることになります。
夫婦で介護保険料の控除を受けるには?
夫婦それぞれが65歳以上で年金から介護保険料が天引きされている場合、それぞれの年金から天引きされた介護保険料は、それぞれの年金受給者本人の社会保険料控除の対象となります。
もし、夫婦の一方がもう一方の介護保険料を普通徴収で支払っている場合は、実際に支払った方が社会保険料控除として申告できます。例えば、夫が妻の介護保険料を口座振替で支払っている場合、夫の確定申告で控除を受けられます。
介護保険料の金額はどのように決まる?
65歳以上の第1号被保険者の介護保険料は、お住まいの市区町村ごとに定められた「基準額」と、本人や世帯の所得状況によって決まります。
基準額は、各市区町村が3年ごとに見直しを行い、介護サービスに要する費用などから算定されます。その基準額に、所得に応じた負担割合を掛けて個々の保険料額が決定されます。所得段階は9段階が標準的ですが、市区町村によってはさらに細かく設定されている場合もあります。
全国平均では、2021~2023年度の65歳以上の第1号被保険者の基準額は月額平均6,014円でした。 令和6年度~令和8年度の基準額の全国平均は月額6,225円です。
介護保険料の納付書が届いたけど、どうすればいい?
年金から天引きされるはずなのに納付書が届いた場合、いくつかの理由が考えられます。
- 65歳になったばかりで、まだ特別徴収への切り替え手続きが完了していない。
- 他の市区町村から転入してきたばかりで、手続きが完了していない。
- 年金額が年額18万円未満のため、特別徴収の対象外となっている。
- 年度の途中で所得段階が変更になり、増額分が普通徴収となった。
納付書が届いた場合は、その納付書で期日までに介護保険料を納める必要があります。不明な点があれば、お住まいの市区町村の介護保険課に問い合わせて確認しましょう。
まとめ
- 65歳以上の介護保険料は、原則として年金から天引きされる「特別徴収」で納めます。
- 年金からの天引きは、年額18万円以上の公的年金受給者が対象です。
- 年金天引きの場合、原則として確定申告は不要です。
- 介護保険料は全額が社会保険料控除の対象となります。
- 年金天引き分は「公的年金等の源泉徴収票」で確認できます。
- 普通徴収で納めた場合や、生計を一にする親族の分を支払った場合は確定申告で控除可能です。
- 確定申告の際、介護保険料の証明書類の添付は不要です。
- 65歳になったばかりや転入時は、一時的に普通徴収になることがあります。
- 年金からの天引きは、ご自身の希望で停止することはできません。
- 介護保険料の金額は、市区町村と所得状況によって異なります。
- 遺族年金や障害年金からの天引きでは、源泉徴収票が送付されない場合があります。
- 不明な点があれば、お住まいの市区町村の介護保険課に相談しましょう。
- 還付申告で税金が戻ってくる可能性もあります。
- 介護保険料は社会全体で介護を支える大切な財源です。
- 40歳以上は全員が介護保険に加入する義務があります。
